蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

敵討

2017年12月24日 | 本の感想
敵討(吉村昭 新潮社)

天保期の松山藩:熊倉伝十郎が叔父の伝兵衛の仇討を10年以上の歳月を経て果たす話と、幕末の秋月藩の重臣:臼井亘理が藩内の抗争の中で守旧派の干城隊に自宅を襲われ妻とともに斬殺され、その息子の六郎が明治期に至って父母を殺害した一ノ瀬直久(当時は明治の司法高官になっていた)を仇射ちする話の2編からなる。

敵討と聞くとかっこいいイメージだが、実際には・・・(以下引用)
「敵討ちは、一般には美風とされているが、悲惨な所業ともいえる。敵にめぐり会えるのは極めて稀で、討手は、あてもなく敵を求めて歩きまわらなければならず、それはいつ果てるともない。(中略)討手が物乞い同然となり、飢えて行き倒れになる者も多いという。中には、あてもない探索の旅に気持ちがくじけ、絶望して両刀を売り払い、市井の中に身を埋もれさせる例もある」

敵討は私的制裁ではあるが、本書によると江戸期には届出制になっていて、敵討を果たすと届出書との検証が行われて敵討だと認められれば、罪に問われなかったという。明治期に実行した六郎も罪を問われて収監されるが、のちに恩赦により釈放されている。

江戸期のシステムは案外よくできているなあ、と歴史ものを読むと感心することがあるが、この敵討の仕組みもよく整備され、かつ運用されているなあ、と思った。

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