蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

傷だらけの店長

2013年09月07日 | 本の感想
傷だらけの店長(伊達雅彦 新潮文庫)

私の勤める場所の近くに大手チェーンの書店があった。
小型店くらいの規模だったが、ある時から、本の整理がとても悪くなって、店全体が乱雑な感じになってしまった。
きつめのパーマをかけた長髪の店長らしき人がいつもため息つきながら、本の出し入れをしていた。
原因は、わからなかったが、本屋さんも大変なんだなあ、と思った。
もっとも、店長が変わったら途端に(むしろ普通の店より)きれいな店になったので、元の店長の手際が悪いだけだったのかもしれない。

本書は、チェーン店なんだけど大型ナショナルチェーンほどの規模はない書店の店長の経験(というか、主にボヤキ)を書いた本。
人手不足で、開店前数時間前に店にはいり、終電ぎりぎりまで頑張ってもまだ仕事は終わらない。2日続けて休めることはめったになく、休みの日も店から電話がかかってくる。そのくせ、給料は同級生がびっくりするほど安い。
でも、そんな忙しい日々はむしろ幸せな時期だった。最寄りの駅のそばに大型書店がオープンして売り上げは激減。やがて閉店を余儀なくされてしまう・・・みたいな読んでて気の毒になるというか、暗い気持ちになる内容だった。

問題提起のつもりで辛いエピソードを集めたのかもしれないが、書店員のやりがいとか、喜びを語る部分(そういう体験もたくさんありそうな様子は伺われたので)を増やしてほしかった。

本屋さんって昔から薄利の商売として有名なんだけど、一方、出版社とか卸の会社は給料が高いことで知られているのは、なんでなんだろう?
流通構造の問題なのか、過当競争(実際、私自身もそうなんだけど、今のように電子書籍とかアマゾ○が一般的になるまでは、「いつかは書店をやってみたい」とぼんやり思っていた本好きの人って多いんじゃなかろうか)なのか・・・どうも、本書を読んでいると(書店を守っているはずの)再販制がむしろ大きな原因のような気がした。
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キアズマ

2013年09月07日 | 本の感想
キアズマ(近藤史恵 新潮社)

ロードレースとは縁もゆかりもなかった主人公(岸田)は、ちょっとしたきっかけから入学したばかりの大学の自転車部へ入ることになる。
その部のエースは櫻井という1年上の上級生だが、もともと柔道で鍛えていた主人公はみるみるうちに頭角をあらわし、レースで櫻井を上回る成績をあげる。しかし、主人公には、柔道をしていた時代に同級生が負傷してしまったことに責任を感じているというトラウマがあって・・・という話。

チームオッジを中心としたプロチームの話の続編だと思って読みだしたら、全く違う話でとまどった(ちょっとだけオッジのメンバーが登場する場面もある)。また、これまでのシリーズでは多少なりともあったミステリ的要素は全くなくなった。

ストーリー展開がやや安易な感じもしたが、主人公が過去の嫌な思い出からロードレースを止めたいと言いだすが、櫻井のレースへの情熱に影響されて考え直して再び自転車に取り組むことにしたあたりは、爽やかな感じで良かった。

どう見ても続編がありそうな終わり方なのだが、次はプロになった岸田の話がいいかな。
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夢売るふたり

2013年09月07日 | 映画の感想
夢売るふたり

居酒屋を経営していた主人公(阿部サダヲ)は、営業中の不注意から火事を起こし、店を失ってしまう。
自暴自棄になって店の常連客とことに及ぶ。常連客は、ちょうど不倫中の上司が死んで手切れ金を渡されたところで、もらいたくもない金だからと、主人公に店の再建のために使ってくれと差し出す。これをきっかけにして、主人公の妻(松たか子)は、結婚詐欺で開業資金を蓄えることを思い付き、カモを探しては、主人公を接近させる・・・という話。

詐欺がうまくいきすぎて、主人公がカモに同情し罪悪感を持つようになり、そうこうするうちに正体がバレて・・・という展開は、ややありきたりで、結末もまとめすぎのような気がした。
「ゆれる」とか「ディアドクター」のような、映画全体に漂う緊迫感みたいなものがなかったのが残念。

阿部さんは、役者らしい演技で、素人目にはうまいなあ、と思えるけれど、達者すぎてちょっとイヤミかも、とも感じてしまった。
対照的に最後の方にちょこっと探偵役で登場する鶴瓶さんは、いつもTVで見る鶴瓶さんで演技しているように見えないのに、なぜか、とてもリアルな探偵に見えてしまうのが不思議。
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