老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

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「彼女は頭が悪いから」

2018-08-20 11:46:13 | 社会問題
姫野カオルコ作「彼女は頭が悪いから」を読みました。

これはフイクションです。数年前に東大生が集団で女子大生に強制猥褻行為を働いた事件を基に描かれています。

物語の中で被害に合った神立美咲は、家族、親戚同士も仲が良い、善き家庭で育った普通の女子大生でした。長女として母親の手伝いもして、弟妹の面倒も見る。人を疑わない無防備な所はあるにしても、両親を人前では「父母」と言える知性も持ち合わせていました。

東大生の竹内つばさは、広尾で育ち、頭も良く容姿共に恵まれたエリート一族の若者でした。

その二人が出会った半年後に事件は起きました。事件はほんの数時間の出来事だったのですが、つばさと美咲二人の生育歴、家庭環境も含めて数年前から積み重なってきたのです。

東大というブランド、学歴にフィルターをかけて惑わされる人々、憧れる人々、屈折した思いを抱く人々。東大というブランドを一番意識しているのは彼ら自身なのです。

私は偏差値の高い大学に通う人とその人間性は何も関係無いと思っていたはずでした。私は本当に学歴というフイルターを意識していなかったのだろうか。人は考えながら話す言葉よりも無意識の内に出た言葉の方が、内なる感情や意識しない価値観が出るものだと気付かされました。

我が子が逮捕されそうになった時、その「有能な才媛」である母親達は自分の息子だけは守ろうと必死に動きます。その頭の中の「あんなバカ女のせいで優秀な息子に傷が付いたら大変!!」という思いは、見事に被害者の女子大生をバカにする息子達の姿と重なります。この親達少しデフォルメされているような気もしますが。

そしてもっとやりきれないのは、彼等が「彼女は頭が悪いから」自分達の性欲の対象にもしなかった事です。こんな頭の悪いオンナとは性行為すらしたくないと、ただひたすらその身体を弄び嘲笑いバカにしたのです。恐ろしく残酷な方法で。子どもが蛙のお腹に空気を入れて何処まで膨らむか試すように。

彼女に心があり壊れてしまう事など思いもよらなかったのです。つばさは最初に美咲に出会った時、その表情を可愛いと思い暖かな恋心を抱いたときもあったのに。

自分より偏差値の低い大学生を馬鹿にして嘲笑するのが楽しみなんて、心が壊れているのです。そしてその情報を興味本位で拡散して彼女を嘲笑い、罵倒するネット住民も。加害者の心の底をのぞいたら「東大」というブランド以外は何も無い空っぽな彼等がいたのです。

ネットで彼女を罵倒する人々に、事実関係を確認しながら、「この事件についてはもう少し詳しい事が分かってから発言されても遅くはないのではないでしょうか」と投稿した日芸の学生。

加害者の母親が「示談」にしたいと申し立てた時、「被害者と同じ状態になっても示談にしたいと言えるか」と迫った大学の先生も、美咲を思い人の心の苦しみや悲しみに寄りそう人達だったのです。

自分が生きたい人生を模索し始めたつばさの兄の生き方、つばさと同じ進学校で、自分が憧れる文豪が出た私大に進学した女子大生。

「竹内くんは東大だからねすごいね。そう思うよ、自分がそう思うのもいいと思うよ」だけどやり過ぎだよと、彼女の言葉は続くのです。「竹内君には東洋大の私が何を言っても答えないよね」と言いながら、栄養士になり食堂で働く彼女は仕事に戻って行くのです。

本当の賢さとは何だろうと考えさせられた物語でした。

「護憲+コラム」より
パンドラ

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