老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

農業問題を通して世界の潮流を考える(1)今年は国連「家族農業の10年」の6年目

2024-06-16 21:03:46 | 社会問題
世界農業の流れの特徴は、世界の種子メジャーや肥料メジャーが国際金融機関・慈善家と協働し、各国政府を差配し支配する構造が明らかに見えてしまう所にあると考えている。

この構造に異議を唱えているのが、La Via CampesinaやAFSA(the Alliance for Food Sovereignty in Africa)等が掲げるアグロエコロジーの理念が世界の農業と食糧安保と自治権に必要なものであり、その担い手である小規模農家を支援する体制の確立が重要だという指摘である。

こういった対立構造は勿論農業だけではない。原発含めてエネルギーの分野でも、国際金融の世界でも、G7でもCOPでも国連そのものの構造にも深く影を落としていると思う。

このせめぎ合いの両者の考え方は、一方はMultilaterarism(各国市民が選挙権を行使し選んだ各国の政府が参集し、世界に関わる課題の解決策を追求する方式)が機能してきた世界の考え方であり、もう一方はMultistakeholderism(世界に関わる難題がMultilaterarismでは解決困難と称して多国籍企業の参入を認め、打開策を腕力で図ろうとの方式)が差配し支配する世界の考え方であろう。

multilaterarismには、市民が選挙権を通じて世界の課題解決に介在しているという構造が曲がりなりにもあるのに対し、multistakeholderismでは多国籍企業体の力が前面に出て、市民力の介入力が大幅に低下している構造になっている所が問題と思っている。

いわゆる「世界市民の家」を想定した際、多国籍企業体に「庇を貸して母屋を取られた」の表現がピッタリな状況が今の世界を覆っており、農業含めていろいろな分野で市民が閉塞感を感じる大きな要因となっていると感じている。

話を広げ過ぎることは避けたいので、敢えて農業の問題のみに話題を絞って現在の閉塞感の原因の問題を考える際に必要な情報を提供していきたいと思っております。

概ね話題の中心は、世界の種子や肥料の多国籍メジャーらが国際金融機関・慈善家らと協働し、各国政府を差配し支配する構造の紹介と、この世界構造に異議を唱えるLa Via CampesinaやAFSA等が掲げるアグロエコロジーの推進を中心とする自給自足的考えも含んだ食糧自治権の確立と小規模農家の存在意義を訴える活動の紹介になると思います。

では第一回目として、国連の主導する「家族農業の10年」運動の紹介から始めます。

1つ目の情報は「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」の「家族農業の10年とは」です。

2017年12月20日、今後の世界の農業の方向性を左右する出来事があり、即ち国連本会議で2019年~2028年を「家族農業の10年」とする議案が全会一致で成立したことです。

コスタリカが代表となり、日本を含む104カ国が共同提案国となっていたこの運動は、2014年の国際家族農業年を10年間延長し、家族農業を国連加盟国の農業政策の中心に位置付けることを求める国連の啓発活動というものです。

「労働力の過半を家族労働でまかなう農業漁業」と定義される家族農業は、FAOの調べで世界の農業経営組織の90%を占め、食糧生産規模的には80%を担っている。耕地規模を見ると、1ha未満が73%、2ha未満で括ると85%を占めている。

これまで、先進国・途上国を問わず、小規模・家族農業の役割は過小評価され、充分な政策的支援が行われてこなかった。「時代遅れ」「非効率」「儲からない」と評価され、政策的に支援すべきは「効率的」で「儲かる」「近代的企業農業」とされてきたが、ここにきて農業の効率性を測る尺度自体が変化している。農業の効率性は、労働生産性のみで測れるものではないとされ、土地生産性は大規模経営よりも小規模経営で高いことが知られている。

また今、重要視されているのがエネルギーの効率性であり、化石燃料への依存度の高い外部投入資源(合成肥料や農薬、そして機械利用の土壌掘り起こしや灌漑設備等)を多量に使用する大規模経営農業よりも、それら外部投入資源への依存度の低い小規模・家族農業の隠れた効率性が注目されて来ているのである。

また、経済・社会・環境的に持続可能な農業として推進されている「アグロエコロジー」の実践においても、もっとも優位性を発揮するのが小規模・家族農業だと評価されています。そのため、国連の持続可能な開発目標(SDGs)(2016~2030年)の実現において、小規模・家族農業は中心的役割を果たすことが期待されている。

FAO事務局長は2013年に「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近い存在はない」「国や地域の開発において、家族農業を中心とした計画を実行する必要がある」と述べている。

この様に小規模・家族農業の活性化なくして食料の安定供給、貧困・飢餓の撲滅、農村地域資源管理や持続可能な社会の構築は不可能だということを、遅ればせながら国際社会が認識するようになり、政策の舵をいま大きく切っている。日本においても、政策の方向性を再検討する時です。

以上、この「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンFFPJ(Family Farming Platform Japan)」の立場は、中立的な感じがする、国連の「家族農業の10年」の理念を忠実になぞった情報の伝え方を感じます。

農水省も建前上は、同じ考え方で国連の「家族農業の10年」運動を準備怠りなく、見つめているでしょうが、具体的な行動は国内パワーバランスを見極め、現状は腰を引いて模様眺めといったスタンスと感じます。そしてもう一つの重要な、この運動の動因となって欲しいものが我々市民の動きでしょう。

残念ながら今年が、コスタリカらが求める「家族農業の10年」運動の第6年目という認識さえ、持っているかどうかが疑われる状況が日本社会の現状ではないかと感じています。

次に紹介するのは「家族農業の10年とは?日本への影響や家族農業のメリット・デメリット」 Minorasu.basf.co.jp , 2022年2月27日付けの情報です。

日本は農業後継者不足を理由に、大規模化や法人化を国の方針とし、進んでいる。国際的には農業の効率性・生産性向上が重視されるなか、従来の家族経営農業の価値も見直されてきており、今回国連が「家族農業の10年」を採択(2017年)している。

「家族農業の10年」の概要と、日本への影響を紹介する。

1.「家族農業の10年」とは?

世界的に家族農業の意義を見直す動きが出ている。この象徴が、2017年国連総会本会議で採択された2019年から2028年までの10年を「家族農業の10年」とする動きである。

この国際運動には先触れがあり、2011年の「国際家族農業年」に関する国連総会の採決であり、2014年に施行され、各種運動が展開された。

今回の「家族農業の10年」は、この「国際家族農業年」を実質的に延長したものである。

(家族農業の定義)
“労働力の半分以上を家族で賄っている農林漁業”を指している。耕地面積の大小や法人化の有無は定義上関係がない。ただし、国連では家族農業と小規模農業をほぼ同義語と把握しており、基本的には「家族農業・小規模農業」として包括的に使われている。

家族農業・小規模農業と対峙する存在が、資本的なつながりで構成された組織の「企業的農業」。営利目的で従業員を雇いビジネス展開する場合が「企業的農業」で、それ以外が「家族農業・小規模農業」と捉えられる。

(農家への影響)
家族農業・小規模農業推進のため、国連は2019年に「家族農業の強化を実現できる政策環境の構築」「家族農業における男女平等と農村のリーダーシップ促進」などからなる世界行動計画の7つの柱を策定した。

2020年にはそれぞれの加盟国が「国内行動計画」を作る段階となっていたが、コロナ禍の影響で遅れが生じており、日本も具体策案はまとまっていない。そのため現状では、国連決議が直ちに日本の農家に影響を与える可能性は低いと言える。

日本はこれまで効率化を重視し、企業化や大規模化を政府が推進してきたが、今後国連の掲げる「家族農業の10年」運動の推移により、最終年の2028年までの間に政策転換の可能性はあると言える。

2.家族農業が重要視される理由
家族農業は、世界では90%を占める農業経営基盤なのである。
【全体に占める家族農業の割合は、米国で98.7%、EUで96.2%、日本で97.6%(農水省、『国連、家族農業の10年』の情報)】

世界で進行する自由主義経済の影響から、農業の効率化(作付・農薬散布等の作業の効率化)のため大規模化が世界的規模で推進されて来ているが、その上で実際にはFAOの調査によると、家族農業が世界全体に占める割合が、数の点でおよそ90%にのぼり、生産量の点でもおよそ80%を占めるとされる。

人口増加により将来食糧不足が懸念される現状で、世界全体の大部分を占める家族農業を守ることが、持続可能な社会作りに重要な施策だと考えられているのである。

途上国では、多くの人が貧困・飢餓に苦しんでいる。そして、その多くが食の安全を求め農林水産業に従事している。従って、国連は家族農業を守ることが多くの人々を救う方策と考えていると言える。

また、家族農業では人手不足が起こりやすいことから、女性も男性と同じくらい重要な働き手と期待される。即ち女性なしでは家族農業は成り立たないとして、家族農業の推進は女性の社会的地位向上にも貢献が大きいとされ、期待されているのである。

家族農業はSDGsとも密接に関連している。SDGsの17の目標のうち、貧困撲滅・ジェンダー平等・雇用促進などの目標に関係している。

自然と共生して食糧を生みだす家族農業は、そのほかにも気候変動やエネルギー、イノベーションなどSDGsの掲げる多くの目標達成に関連している。

3.日本の家族農業の現状
農水省データによると、日本の農業事業者総数は、2015年137.7万、2022年107.5万。
内訳は、
会社法人組織:2015年1.66万(1.2%)、2022年2.0万(1.9%)
農事組合法人:2015年0.6万(0.5%)、2022年0.7万(0.7%)
各種団体法人:2015年0.3万(0.2%)、2022年0.2万(0.2%)
その他法人:2015年0.09万(0.1%)、2022年0.13万(0.1%)
法人組織合計:2015年2.7万(2.0%)、2022年3.07万(2.9%)
個人経営体:2015年134万(97.3%)、2022年103.7万(96.4%)

日本で農業を営む人の大半は家族農業である。しかし、経営難や高齢化の進行で離農が今も続いている。そして僅かながらも作業の効率化が図りやすい法人経営体が増加している。

4.家族農業のメリット
同じ品種を大きい圃場で栽培するほど生産コストが低減することから、大規模経営はスケールメリットを得られる。しかし多品目栽培をおこなう場合には向かない。

家族農業の小規模栽培はコスト面では、大規模栽培に劣るものの、様々な品種を植えても管理がしやすいというメリットがあり、病害や台風など自然災害を受けた際起こる可能性のある一度に全滅というリスクを回避できる可能性があり、大きなメリットと言える。

また、大規模経営は収穫量が膨大なため、流通網の分散化が難しい。一方小規模家族農家は付加価値の高い作物を栽培して消費者などの取引先と直接交渉することで、販売価格を高く維持することも目指せるというメリットがある。

そのほかにも、土地生産性やエネルギー効率は大規模経営より小規模経営の方が高いとの報告もある(「Handbook of Agricultural Economics」vol.4,chapter65FarmSize,NORTH HOLLAND)。

5.家族農業のデメリット
労働生産性の改善が難しいことによる労働時間の増加がデメリットとして挙げられる。

即ち、家族農業ではいくら生産性を向上させても、人手の点から栽培できる面積に限界がある。耕地面積が小さいことから、労働生産性は向上しにくく、その結果労働時間は長くなりがちである。

付加価値を高める努力と、機械化などによる生産性の向上をどう取り入れていけるかが、考えどころとなるだろう。

今後も家族農業が重視される可能性はあるが、高齢化や後継者不足の進展もあり、日本では農業の大規模化・法人化が避けられない方向であろう。

家族農業も小規模の意義やメリットを踏まえつつ、大規模化の検討も視野に入れることが求められるのではないか、と考える。

以上が2つ目の記事の情報です。

この最後の総括的文章『家族農業も小規模の意義やメリットを踏まえつつ、大規模化の検討も視野に入れることが求められるだろう』や『付加価値を高める努力と、機械化などによる生産性の向上をどう取り入れていけるかが、考えどころとなるだろう』との説明、そして文中に散見される色々な条件(例えば『日本は農業後継者不足を理由に大規模化や法人化を国の方針とし、進んでいる』『国際的には農業の効率性・生産性向上が重視される』)を含めての話の進め方に気になる点が多く感じる書き方なのである。

そしてFFPJでは、ハッキリと意義を紹介しているアグロエコロジーについては、その言葉さえいっさい伝えようとしていないのである。

実は、この情報の出所がBASF(典型的な国際的農薬メジャー)であることから敢えて紹介したのですが、国連の『家族農業の10年』運動という世界から提起された日本の農業の転換点にもなり得る状況を前にして、都合のよい方向へ世の流れを導いていこうとする動きが良く行われるところであり、このBASF情報がその一例ではないか、と紹介したものです。

BASF の認識は一面的であり、後継者不足課題は、若者らの新規参入の一つのチャンスであり、新たな雇用創出に繋がるチャンスとの考え方も出来るだろう。

そして、国連の主導する「家族農業の10年」運動と連動する形で、日本の小規模農家や家族経営農家がLa Via CampesinaやAFSA的アグロエコロジー的世界観と横のつながりを深めていく機会が拡大していくことになれば、そしてその結果、アグロエコロジー的世界観が日本の市民の間に根付いていくことを期待したいものである。
次回に続いていきます。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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