【1】 前提
わたしは、「悲惨な退却戦を戦わざるを得ない安倍後の日本!(インパール作戦の二の舞)」でヘーゲルの弁証法的思考について書いた。
最後の【合】に達するためには、ドイツ語で言うアウフヘーベン(止揚)という次元を高める事が必要で、それは螺旋階段を上るような思考過程の緻密さと飛躍が求められると書いた。
先々週から先週にかけてのコロナ患者の増加と「GO TO キャンペーン」の失速。お盆の帰省を巡る自治体と政府の亀裂。専門家委員会による科学的エビデンスを欠いた新たな数値入りの『緊急事態』を判断する指標の発表。いずれも、アウフヘーベン(止揚)という論理的思考過程を経ていないお粗末な大騒ぎにしか見えない。
理由は明白。安倍政権にコロナ・パンデミックにどう対処するかという明確な『グランドデザイン』が描かれていないため、「GO TO トラベル」キャンペーンをどう実施するか、というガイドラインの根本が理解されていない。要するに、科学的合理的思考を放棄して、政治的思惑に振り回された結果だろう。
その為、コロナ撲滅【正】 vs. 経済の復活【反】という図式でしか問題解決の過程を描けないため、不毛な論議しか生まれていない。「羽鳥のモーニングショー」とBS・TBSの「報道1930」以外の多くのメディアは、コロナ撲滅【正】 vs. 経済の復活【反】の図式に絡めとられているため、本質的な論議に踏み込めていない。
問題(危機管理)の本質は明白。コロナ撲滅(国民の命を大切にする)。これに尽きる。命を大切にすることは、政治の要諦。それを毅然として明確に国民に示すことが、国民の【安心】を担保する。この大前提を揺るがしてはならない。
↓
◎全ての政策、人員、予算、組織、法制度をコロナ撲滅に向けて総動員する。
◎経済の復活=(「GO TO トラベル」など)も、コロナを撲滅する政策の一つという明確な位置づけが必要。「悲惨な退却戦を戦わざるを得ない安倍後の日本!(インパール作戦の二の舞)」でも書いたが、コロナ撲滅を前面に打ち出すための一つの手段としての「GO TO トラベル」という位置づけを行わないから、現在のような中途半端な状況に陥るのである。
【2】 コロナをどう理解するか
この問題は深い医学的・科学的知見が必要。最低限、この問題を語る時は、サイエンスとして語らなければならない。間違っても、非科学的な政治的思惑や政治的偏見で語ってはならない。
では、今回のコロナをどう考えたら良いのか。
多くの評論家や感染学者、医者などがこの問題を語っているが、その中で最も科学的で論理的、しかも自らも医者として現場に出かけ、PCR検査なども自ら行う現場の実践者としても活躍している東大先端研究所名誉教授児玉龍彦氏の議論が一番説得力がある。
【児玉氏の理論】
彼が参考人として国会で語った議論を集約すると以下のようになる。
彼が東大先端研で5月に無作為で抽出した1、000人に行った「抗体検査」の結果、7人に「抗体」が見つかった。つまり、0.7%の人間に抗体があると推測できる。
この0.7%という数値を東京都の人口1,398万人に当てはめると、東京では既に9万人に感染歴があることになる。これは5月の東京都が公表している累積感染者数の18倍にのぼる。
それでも、日本での100万人当たりの死者数は、アメリカの48分の1、スペインの83分の1。これはなぜか。
コロナの死者数が少ないのは、東アジアの特徴。日本の100万人あたりの死者数が7人なのに対し、中国は3人、韓国は5人にとどまる。台湾にいたっては0.3人。
日本人を含め東アジアに住む人々はこれまでに繰り返し中国南部を震源とする新型コロナと非常に似通ったウイルスに起因する「風邪」を経験してきた。そのおかげでわれわれの血液中には新型コロナに似通ったウイルスに対する免疫を持つT細胞ができている可能性が高いことがわかってきた。
それは新型コロナウイルスそのものに対する獲得免疫ではないため、免疫効果は完全無欠とまではいかないが、ある程度までのウイルス量への暴露であれば発症を防げるし、運悪く感染してしまっても重症化に至らずに済んでいる可能性が高いというのだ。
児玉氏も日本や東アジアで死者が少なかった理由として、この説を支持する。彼は、日本での第一次・第二次感染での感染者数・死者数が意外と少なかったのは、この【交差免疫】のせいだろうと推測している。
※交差免疫 “過去の風邪”の免疫記憶が新型コロナから世界を救う?
千葉丈=国立感染症研究所客員研究員、東京理科大学名誉教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/06/18/07102/
だが、新型コロナウイルスはRNAウイルスなので、高速で変異を繰り返すこともわかっている。ある程度の免疫があるからといって用心を怠ると、変異したウイルスによって痛い目に遭わされる可能性が高い。
実は、ここからが、児玉名誉教授が国会で行った証言の肝になる。
※https://www.youtube.com/watch?v=_nD742yj8eo
7/16 参院・予算委員会
彼が東大先端研で行ったコロナウイルスの【ゲノム解析】から、現在東京で猛威を振るっているコロナは、2月、第一次の武漢型、3月、第二次の米・欧州型とは違った新しい型に変異していると言う。児玉氏は、それを東京埼玉型と名付けているようだが、名前はどうあれ、彼の分析を国立感染研も後追いしたようだ。
本日(8/11)の羽鳥のモーニングショ―でも国立感染研究所の解析を取り上げていた。つまり、ウイルスの変異を常に解析していないと、対策がピント外れになると言う事である。
※「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html
※ゲノム解析
ゲノムとは、ある生物の持つ遺伝情報全体を表している概念です。その実体は細胞内にあるDNA分子であり、DNA上には4種類の塩基(A,T,G,C)が並んでいてこの配列(AAGCTGCA....のような並び)の中に遺伝子や遺伝子の発現を制御する情報などが含まれています。RNAやタンパク質はこの情報に基づいて作られ、それらが働いて細胞を作り上げ、生命活動を行います。ゲノムはいわば生命の設計図のようなものです。
ゲノム解析とは、まず細胞に含まれる全DNAの配列を決め、この設計図を解読することから始まりますが、大事なのはこの配列に含まれる情報を引き出して、生命活動に携わる機能を一度にすべて明らかにすることです。そして、その目的は、それらの働きを総合的に調べ、生物のもつ"生きる仕組み"を理解することです。
https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_25.php
児玉名誉教授に言わせると、日本は2月の武漢型、3月の米・欧州型ウイルスでは、交差免疫が幸いして、死者数・感染者数とも、米国や欧州、ブラジルなどより少数で済んだ。児玉名誉教授流の比喩で言えば、森(日本国民)が湿っていた。その為、他所(外国)から火の粉が飛んできても、ボヤで済んだという。
ところが、今回の感染拡大は、根本的に違う。ゲノム配列を見れば、明らかにこれまでとは違う【日本型】=(東京埼玉型)ともいえるウイルスに変異している。つまり、日本の森の中から火が燃え始めているという。
こうなると、多少の森の湿りなど役には立たない。視覚的に言うならば、米国やオーストラリアで起きた森林火災を想起すれば良い。
※https://www.youtube.com/watch?v=a4KueiBG9z4
児玉名誉教授が国会で声を震わせて、「来月は目を覆わんばかりの惨状になる」と危機感をあらわにして訴えたのも上記の理由からである。
では、何故新しいウイルス(東京埼玉型)に変異したのか。第一次・第二次感染の時から問題になった【PCB検査】の少なさが仇になったと考えられる。
児玉名誉教授に言わせれば、第二次感染が収束し始めた頃、市中にはまだ多くの感染者が存在していたはず。(抗体検査から推測すれば、約9万人。)その多くが無症状な感染者と考えられ、彼らが感染源となって、新たな感染者を生み出してきていた、と考えられる。
PCR検査数を第一次・第二次感染が下火になった時こそ積極的に行うべきだった、と彼は言う。グラフが右肩下がりになった時こそ、検査数を増やし、陽性者の発見と保護(隔離)をすべきだったと言う。
◎この種の予見性・先見性こそが専門家に求められるもので、それを受けた政治の実践力が危機管理の要諦である。
しかし、現実はそうはならなかった。そのため、これらの感染者を多く生み出す場所=(感染集積所)⇒【エピセンター】が生まれ、ウイルスが自立的に活動。そこを中心にして広がっていった、と考えられる。
児玉名誉教授の理論では、ウイルス防御の要諦は、この【エピセンター】を特定し、そこを中心にして、徹底的な【PCR検査】を行うしかない、と言う事になる。彼の言う【PCR検査】は、現在の日本の【PCR検査】とは決定的に違う。彼の想定しているのは、中国が武漢や北京で行った【PCR検査】。韓国が当初新興宗教関係者に行った徹底した【PCR検査】を想定している。
新宿の歓楽街がエピセンターになっているのなら、新宿歌舞伎町全域のPCR検査を実施する。(その前提として、歌舞伎町の封鎖なども視野に入れている。)そこで陽性者を明確にし、彼らを保護(隔離)して、感染拡大を防御するという方法である。
彼が想定しているのは、武漢ウイルス封じ込めの先頭に立った中国の中心人物であるSARSの英雄鐘南山医師の方法であろう。
※中国専門家チームを率いる「SARSの英雄」医師、鐘南山とは何者か(NEWSWEEK)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92734.php
児玉名誉教授は、最初から政府や専門家委員会のコロナ対処法に異議を申し立てていた。彼らの対策は、100年前のスペイン風邪の対策とほとんど変化していない、と断じていた。
児玉名誉教授から言わせれば、21世紀の現在、精密医療の考え方で対処する事が十分可能だと断じる。先のエピセンターの方法論に見られるように、ピンポイントで対象を絞った対策を講じるやり方である。
ところが、いまだにマスを対象にした【三密】だの【ステイホーム】のような大雑把な施策で対応してきたため、多大な経済的・社会的損失を被った。そもそも「感染者」を特定し、「感染者」と「非感染者」を引き離す政策なら意味があるが、「非感染者」同士を引き離す政策に何の意味もない、と断じる。
児玉名誉教授の提唱する【エピセンター】を特定し、ピンポイントで新宿なら新宿と言う【面】を制圧する方法とは全く相いれない方法論を取っているのが、安倍政権といわゆる専門家会議。
だから、児玉名誉教授は、先日出された専門家会議の4段階の数字入りの指標など全く評価しない。そんな数字に一喜一憂するより、【エピセンター】を確定し、【PCR検査】を徹底する具体的実践を重視している。
【3】 世田谷方式
残念ながら、児玉名誉教授の方法論は、現在の政府・東京都・厚生省や専門家委員会などの主流の方法論とは相いれない。
そんな彼の方法論を具体的に実践しようとしているのが、世田谷区で、その方式を世田谷方式と呼ばれる。区長の保坂展人氏が積極的に児玉名誉教授とタッグを組んで実践しようとしている。わたしは、これに期待している。
※政治が動く時だ PCR検査の世田谷モデル
https://www.youtube.com/watch?v=bDq61Dd_WqA
児玉名誉教授自身も【具体的成果】を出すことによって、科学的正しさを証明する、と語っている。
似たような方式が長崎市でも行われようとしている。長崎方式は長崎大学を中心とし県医師会が長崎市とPCR検査を行う集合契約を結ぶというやり方で、PCR検査をするために、結ばなければならない面倒な契約(これがPCR検査の数が増えない大きな要因)を集団で一括して結び、PCR検査をやりやすくしようという狙い。
※九州医事研究会ニュース
PCR集合契約(長崎県・長崎大学病院・長崎県医師会・長崎市・佐世保市)
2020年8月3日2020年8月4日 九州医事研究会
これだけの大規模集合契約は日本初
https://qmir.wordpress.com/2020/08/03/pcr%E9%9B%86%E5%90%88%E5%A5%91%E7%B4%84%EF%BC%88%E9%95%B7%E5%B4%8E%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%83%BB%E9%95%B7%E5%B4%8E%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%97%85%E9%99%A2%E3%83%BB%E9%95%B7%E5%B4%8E%E7%9C%8C%E5%8C%BB/
政府や厚生省や専門家が信頼できない現状では、このように、地方自治体が自立して頑張る以外方法はない。
何度も言うようだが、今や日本の統治能力は、地に落ち、ほとんど信頼するに足りないが、日本の現場力と国民の民度はまだまだ信頼できる。最後は、そこに期待する以外ないと思われる。
【4】 太平洋戦争の反省に基づく危機管理の要諦とは
昭和史研究家保阪正康氏が太平洋戦争時の指導者たちの最大の欠陥を以下のように簡潔にまとめている。
◎ 主観的願望を客観的事実にすり替える。
これは何を意味するか
(1)敵を実態として把握していない。⇒総力戦研究所が出した結論を無視。
・具体的事例:
保阪氏がインタビューした東条英機の秘書の話として、東条が巣鴨プリズンに入っていた時、20歳くらいの米軍兵士に米国の民主主義のレクチャーを受け、米国の民主主義を評価していたそうだ。
⇒戦争が終わってから、戦う相手の政治方式を知るようでどうする、と言う話。
(2)敵を知って、対抗する手段(戦略・戦術)を考えていない。
(3)自国の対抗しうる国力・戦備はどうなっているか、を科学的数値として把握していない。
(4)開戦理由を国民に納得させ、経過を正確に情報開示しているか。全くできていない。
(5)戦いの終結のメドを伝える。
安倍政権下で起きている様々な出来事を総括してみると、公文書を改竄する、統計数値を変える、公文書を残さない、など、真に向き合わなければならない「不都合な真実」に一貫して目を背け続けている。極端に言うと、自分たちに都合の悪い真実や事実は、《全て無いものにする⇒隠蔽する。消してしまう》ことが政治だと考えている。これこそ、保阪正康氏の指摘する【主観的願望を客観的事実にすり替える】手口そのままである。
メディアが政府批判を強めると、必ず政権の擁護者が現れ、「炎上」と言う形で批判を封じ込める。最も良い例が、コロナ禍が騒がれ始めた当初、TVで積極的に発言していた大谷クリニックの大谷医師に対して、SNSなどで批判するだけでなく、クリニックに批判電話を集中し、医療それ自体が困難になるほど妨害行為が行われた。
大谷医師はそれ以降TVに出ていない。戦前にも同じことがもっと壮大な規模で繰り広げられた。(いわゆる隣組を通じた言論封殺)
https://search.yahoo.co.jp/image/search?rkf=2&ei=UTF-8&gdr=1&p=%E9%9A%A3%E7%B5%84%E3%81%A8%E8%A8%80%E8%AB%96%E5%B0%81%E6%AE%BA
しかし、コロナ問題は、政権維持の問題、イデオロギーの問題ではなく、国民一人一人の命と健康にかかわる重大問題。真実を探求しようとする科学者、医学者、医療従事者、多くの国民の意志を抑えてはならない。それら全てをイデオロギーの違いに解消しようとするやり方は、反国民的と言わざるを得ない。
保阪氏の指摘する戦前指導者の5つの問題点を、現在のコロナ禍に対する政府指導者、与党関係者、官邸官僚、厚生官僚、経産省官僚、専門家と称する御用学者などの言動に当てはめると、ほとんど全て当てはまる。
8月15日も近づいている。わたしたちは、もう一度、太平洋戦争の教訓を拳拳服膺して、現在の政治のありようを刮目してみておかねばならない。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水
わたしは、「悲惨な退却戦を戦わざるを得ない安倍後の日本!(インパール作戦の二の舞)」でヘーゲルの弁証法的思考について書いた。
最後の【合】に達するためには、ドイツ語で言うアウフヘーベン(止揚)という次元を高める事が必要で、それは螺旋階段を上るような思考過程の緻密さと飛躍が求められると書いた。
先々週から先週にかけてのコロナ患者の増加と「GO TO キャンペーン」の失速。お盆の帰省を巡る自治体と政府の亀裂。専門家委員会による科学的エビデンスを欠いた新たな数値入りの『緊急事態』を判断する指標の発表。いずれも、アウフヘーベン(止揚)という論理的思考過程を経ていないお粗末な大騒ぎにしか見えない。
理由は明白。安倍政権にコロナ・パンデミックにどう対処するかという明確な『グランドデザイン』が描かれていないため、「GO TO トラベル」キャンペーンをどう実施するか、というガイドラインの根本が理解されていない。要するに、科学的合理的思考を放棄して、政治的思惑に振り回された結果だろう。
その為、コロナ撲滅【正】 vs. 経済の復活【反】という図式でしか問題解決の過程を描けないため、不毛な論議しか生まれていない。「羽鳥のモーニングショー」とBS・TBSの「報道1930」以外の多くのメディアは、コロナ撲滅【正】 vs. 経済の復活【反】の図式に絡めとられているため、本質的な論議に踏み込めていない。
問題(危機管理)の本質は明白。コロナ撲滅(国民の命を大切にする)。これに尽きる。命を大切にすることは、政治の要諦。それを毅然として明確に国民に示すことが、国民の【安心】を担保する。この大前提を揺るがしてはならない。
↓
◎全ての政策、人員、予算、組織、法制度をコロナ撲滅に向けて総動員する。
◎経済の復活=(「GO TO トラベル」など)も、コロナを撲滅する政策の一つという明確な位置づけが必要。「悲惨な退却戦を戦わざるを得ない安倍後の日本!(インパール作戦の二の舞)」でも書いたが、コロナ撲滅を前面に打ち出すための一つの手段としての「GO TO トラベル」という位置づけを行わないから、現在のような中途半端な状況に陥るのである。
【2】 コロナをどう理解するか
この問題は深い医学的・科学的知見が必要。最低限、この問題を語る時は、サイエンスとして語らなければならない。間違っても、非科学的な政治的思惑や政治的偏見で語ってはならない。
では、今回のコロナをどう考えたら良いのか。
多くの評論家や感染学者、医者などがこの問題を語っているが、その中で最も科学的で論理的、しかも自らも医者として現場に出かけ、PCR検査なども自ら行う現場の実践者としても活躍している東大先端研究所名誉教授児玉龍彦氏の議論が一番説得力がある。
【児玉氏の理論】
彼が参考人として国会で語った議論を集約すると以下のようになる。
彼が東大先端研で5月に無作為で抽出した1、000人に行った「抗体検査」の結果、7人に「抗体」が見つかった。つまり、0.7%の人間に抗体があると推測できる。
この0.7%という数値を東京都の人口1,398万人に当てはめると、東京では既に9万人に感染歴があることになる。これは5月の東京都が公表している累積感染者数の18倍にのぼる。
それでも、日本での100万人当たりの死者数は、アメリカの48分の1、スペインの83分の1。これはなぜか。
コロナの死者数が少ないのは、東アジアの特徴。日本の100万人あたりの死者数が7人なのに対し、中国は3人、韓国は5人にとどまる。台湾にいたっては0.3人。
日本人を含め東アジアに住む人々はこれまでに繰り返し中国南部を震源とする新型コロナと非常に似通ったウイルスに起因する「風邪」を経験してきた。そのおかげでわれわれの血液中には新型コロナに似通ったウイルスに対する免疫を持つT細胞ができている可能性が高いことがわかってきた。
それは新型コロナウイルスそのものに対する獲得免疫ではないため、免疫効果は完全無欠とまではいかないが、ある程度までのウイルス量への暴露であれば発症を防げるし、運悪く感染してしまっても重症化に至らずに済んでいる可能性が高いというのだ。
児玉氏も日本や東アジアで死者が少なかった理由として、この説を支持する。彼は、日本での第一次・第二次感染での感染者数・死者数が意外と少なかったのは、この【交差免疫】のせいだろうと推測している。
※交差免疫 “過去の風邪”の免疫記憶が新型コロナから世界を救う?
千葉丈=国立感染症研究所客員研究員、東京理科大学名誉教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/06/18/07102/
だが、新型コロナウイルスはRNAウイルスなので、高速で変異を繰り返すこともわかっている。ある程度の免疫があるからといって用心を怠ると、変異したウイルスによって痛い目に遭わされる可能性が高い。
実は、ここからが、児玉名誉教授が国会で行った証言の肝になる。
※https://www.youtube.com/watch?v=_nD742yj8eo
7/16 参院・予算委員会
彼が東大先端研で行ったコロナウイルスの【ゲノム解析】から、現在東京で猛威を振るっているコロナは、2月、第一次の武漢型、3月、第二次の米・欧州型とは違った新しい型に変異していると言う。児玉氏は、それを東京埼玉型と名付けているようだが、名前はどうあれ、彼の分析を国立感染研も後追いしたようだ。
本日(8/11)の羽鳥のモーニングショ―でも国立感染研究所の解析を取り上げていた。つまり、ウイルスの変異を常に解析していないと、対策がピント外れになると言う事である。
※「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html
※ゲノム解析
ゲノムとは、ある生物の持つ遺伝情報全体を表している概念です。その実体は細胞内にあるDNA分子であり、DNA上には4種類の塩基(A,T,G,C)が並んでいてこの配列(AAGCTGCA....のような並び)の中に遺伝子や遺伝子の発現を制御する情報などが含まれています。RNAやタンパク質はこの情報に基づいて作られ、それらが働いて細胞を作り上げ、生命活動を行います。ゲノムはいわば生命の設計図のようなものです。
ゲノム解析とは、まず細胞に含まれる全DNAの配列を決め、この設計図を解読することから始まりますが、大事なのはこの配列に含まれる情報を引き出して、生命活動に携わる機能を一度にすべて明らかにすることです。そして、その目的は、それらの働きを総合的に調べ、生物のもつ"生きる仕組み"を理解することです。
https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_25.php
児玉名誉教授に言わせると、日本は2月の武漢型、3月の米・欧州型ウイルスでは、交差免疫が幸いして、死者数・感染者数とも、米国や欧州、ブラジルなどより少数で済んだ。児玉名誉教授流の比喩で言えば、森(日本国民)が湿っていた。その為、他所(外国)から火の粉が飛んできても、ボヤで済んだという。
ところが、今回の感染拡大は、根本的に違う。ゲノム配列を見れば、明らかにこれまでとは違う【日本型】=(東京埼玉型)ともいえるウイルスに変異している。つまり、日本の森の中から火が燃え始めているという。
こうなると、多少の森の湿りなど役には立たない。視覚的に言うならば、米国やオーストラリアで起きた森林火災を想起すれば良い。
※https://www.youtube.com/watch?v=a4KueiBG9z4
児玉名誉教授が国会で声を震わせて、「来月は目を覆わんばかりの惨状になる」と危機感をあらわにして訴えたのも上記の理由からである。
では、何故新しいウイルス(東京埼玉型)に変異したのか。第一次・第二次感染の時から問題になった【PCB検査】の少なさが仇になったと考えられる。
児玉名誉教授に言わせれば、第二次感染が収束し始めた頃、市中にはまだ多くの感染者が存在していたはず。(抗体検査から推測すれば、約9万人。)その多くが無症状な感染者と考えられ、彼らが感染源となって、新たな感染者を生み出してきていた、と考えられる。
PCR検査数を第一次・第二次感染が下火になった時こそ積極的に行うべきだった、と彼は言う。グラフが右肩下がりになった時こそ、検査数を増やし、陽性者の発見と保護(隔離)をすべきだったと言う。
◎この種の予見性・先見性こそが専門家に求められるもので、それを受けた政治の実践力が危機管理の要諦である。
しかし、現実はそうはならなかった。そのため、これらの感染者を多く生み出す場所=(感染集積所)⇒【エピセンター】が生まれ、ウイルスが自立的に活動。そこを中心にして広がっていった、と考えられる。
児玉名誉教授の理論では、ウイルス防御の要諦は、この【エピセンター】を特定し、そこを中心にして、徹底的な【PCR検査】を行うしかない、と言う事になる。彼の言う【PCR検査】は、現在の日本の【PCR検査】とは決定的に違う。彼の想定しているのは、中国が武漢や北京で行った【PCR検査】。韓国が当初新興宗教関係者に行った徹底した【PCR検査】を想定している。
新宿の歓楽街がエピセンターになっているのなら、新宿歌舞伎町全域のPCR検査を実施する。(その前提として、歌舞伎町の封鎖なども視野に入れている。)そこで陽性者を明確にし、彼らを保護(隔離)して、感染拡大を防御するという方法である。
彼が想定しているのは、武漢ウイルス封じ込めの先頭に立った中国の中心人物であるSARSの英雄鐘南山医師の方法であろう。
※中国専門家チームを率いる「SARSの英雄」医師、鐘南山とは何者か(NEWSWEEK)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92734.php
児玉名誉教授は、最初から政府や専門家委員会のコロナ対処法に異議を申し立てていた。彼らの対策は、100年前のスペイン風邪の対策とほとんど変化していない、と断じていた。
児玉名誉教授から言わせれば、21世紀の現在、精密医療の考え方で対処する事が十分可能だと断じる。先のエピセンターの方法論に見られるように、ピンポイントで対象を絞った対策を講じるやり方である。
ところが、いまだにマスを対象にした【三密】だの【ステイホーム】のような大雑把な施策で対応してきたため、多大な経済的・社会的損失を被った。そもそも「感染者」を特定し、「感染者」と「非感染者」を引き離す政策なら意味があるが、「非感染者」同士を引き離す政策に何の意味もない、と断じる。
児玉名誉教授の提唱する【エピセンター】を特定し、ピンポイントで新宿なら新宿と言う【面】を制圧する方法とは全く相いれない方法論を取っているのが、安倍政権といわゆる専門家会議。
だから、児玉名誉教授は、先日出された専門家会議の4段階の数字入りの指標など全く評価しない。そんな数字に一喜一憂するより、【エピセンター】を確定し、【PCR検査】を徹底する具体的実践を重視している。
【3】 世田谷方式
残念ながら、児玉名誉教授の方法論は、現在の政府・東京都・厚生省や専門家委員会などの主流の方法論とは相いれない。
そんな彼の方法論を具体的に実践しようとしているのが、世田谷区で、その方式を世田谷方式と呼ばれる。区長の保坂展人氏が積極的に児玉名誉教授とタッグを組んで実践しようとしている。わたしは、これに期待している。
※政治が動く時だ PCR検査の世田谷モデル
https://www.youtube.com/watch?v=bDq61Dd_WqA
児玉名誉教授自身も【具体的成果】を出すことによって、科学的正しさを証明する、と語っている。
似たような方式が長崎市でも行われようとしている。長崎方式は長崎大学を中心とし県医師会が長崎市とPCR検査を行う集合契約を結ぶというやり方で、PCR検査をするために、結ばなければならない面倒な契約(これがPCR検査の数が増えない大きな要因)を集団で一括して結び、PCR検査をやりやすくしようという狙い。
※九州医事研究会ニュース
PCR集合契約(長崎県・長崎大学病院・長崎県医師会・長崎市・佐世保市)
2020年8月3日2020年8月4日 九州医事研究会
これだけの大規模集合契約は日本初
https://qmir.wordpress.com/2020/08/03/pcr%E9%9B%86%E5%90%88%E5%A5%91%E7%B4%84%EF%BC%88%E9%95%B7%E5%B4%8E%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%83%BB%E9%95%B7%E5%B4%8E%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%97%85%E9%99%A2%E3%83%BB%E9%95%B7%E5%B4%8E%E7%9C%8C%E5%8C%BB/
政府や厚生省や専門家が信頼できない現状では、このように、地方自治体が自立して頑張る以外方法はない。
何度も言うようだが、今や日本の統治能力は、地に落ち、ほとんど信頼するに足りないが、日本の現場力と国民の民度はまだまだ信頼できる。最後は、そこに期待する以外ないと思われる。
【4】 太平洋戦争の反省に基づく危機管理の要諦とは
昭和史研究家保阪正康氏が太平洋戦争時の指導者たちの最大の欠陥を以下のように簡潔にまとめている。
◎ 主観的願望を客観的事実にすり替える。
これは何を意味するか
(1)敵を実態として把握していない。⇒総力戦研究所が出した結論を無視。
・具体的事例:
保阪氏がインタビューした東条英機の秘書の話として、東条が巣鴨プリズンに入っていた時、20歳くらいの米軍兵士に米国の民主主義のレクチャーを受け、米国の民主主義を評価していたそうだ。
⇒戦争が終わってから、戦う相手の政治方式を知るようでどうする、と言う話。
(2)敵を知って、対抗する手段(戦略・戦術)を考えていない。
(3)自国の対抗しうる国力・戦備はどうなっているか、を科学的数値として把握していない。
(4)開戦理由を国民に納得させ、経過を正確に情報開示しているか。全くできていない。
(5)戦いの終結のメドを伝える。
安倍政権下で起きている様々な出来事を総括してみると、公文書を改竄する、統計数値を変える、公文書を残さない、など、真に向き合わなければならない「不都合な真実」に一貫して目を背け続けている。極端に言うと、自分たちに都合の悪い真実や事実は、《全て無いものにする⇒隠蔽する。消してしまう》ことが政治だと考えている。これこそ、保阪正康氏の指摘する【主観的願望を客観的事実にすり替える】手口そのままである。
メディアが政府批判を強めると、必ず政権の擁護者が現れ、「炎上」と言う形で批判を封じ込める。最も良い例が、コロナ禍が騒がれ始めた当初、TVで積極的に発言していた大谷クリニックの大谷医師に対して、SNSなどで批判するだけでなく、クリニックに批判電話を集中し、医療それ自体が困難になるほど妨害行為が行われた。
大谷医師はそれ以降TVに出ていない。戦前にも同じことがもっと壮大な規模で繰り広げられた。(いわゆる隣組を通じた言論封殺)
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しかし、コロナ問題は、政権維持の問題、イデオロギーの問題ではなく、国民一人一人の命と健康にかかわる重大問題。真実を探求しようとする科学者、医学者、医療従事者、多くの国民の意志を抑えてはならない。それら全てをイデオロギーの違いに解消しようとするやり方は、反国民的と言わざるを得ない。
保阪氏の指摘する戦前指導者の5つの問題点を、現在のコロナ禍に対する政府指導者、与党関係者、官邸官僚、厚生官僚、経産省官僚、専門家と称する御用学者などの言動に当てはめると、ほとんど全て当てはまる。
8月15日も近づいている。わたしたちは、もう一度、太平洋戦争の教訓を拳拳服膺して、現在の政治のありようを刮目してみておかねばならない。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
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