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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「美しい星」(著:三島 由紀夫)

2012-10-23 22:58:25 | 【書物】1点集中型
 核とか放射能とか、キーワード的な部分からだと思うんだけど本屋で面出しされていて、久しく読んでない(けど基本的には好きな)三島作品だしと思って借りてみた。
 あらすじに「SF的技法を駆使して」とあったので、三島のSFってどんな感じだろうと思って読み始めたが、終わってみたらSFじゃなくて見事に「三島」だった。

 自らを地球外の惑星から来た「宇宙人」だと認識する大杉一家が、地球の人間たちを愛し、破滅から救わんと欲する。一家の娘・暁子が出会う、自分も宇宙人だと名乗る青年。さらには人間を滅ぼさんとする「宇宙人」羽黒真澄一派の登場。
 大杉一家の家長・重一郎と羽黒一派の対決は、議論のようで平行線。でも壮絶なまでの緊迫感。欠点だらけの人間。平和の本質。紙一重にある平和と終末。「生きていること自体の絶望」。しかしそれでも人間が持っていると重一郎が信じる「美しい気まぐれ」
 絶望し、ついには地球を後にすることになっても、それでも穏やかな心で、彼らは人間の未来を信じている。そこには、三島が文章として紡ぎ続けていた「美」が、ひとつの思想という形をとって語られているように思われる。

 暁子の「処女懐胎」が事実としてどうだったのかも実際には明らかにならないし、「宇宙人」の根拠も普通に考えれば非常に薄弱なんだけれども、読んでると問題はそんなところにはないのだということがすごくよくわかる。「SF的技法」は確かに存在するけれども、SFとしてのリアリティなど問題にならないということが、問答無用で納得できるのである。それが、前述のように「SFじゃなくて『三島』だ」と感じた所以である。
 その意味で、解説がこれまたいちいち頷ける内容だった。読みながらなんとなく感じたことを全部まとめてもらった感じ。なるほどね、ドストエフスキー。うん。そう言われると、納得ついでにまた「罪と罰」あたり読み返そうかなという気になってしまう。(笑)