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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「E=mc^2――世界一有名な方程式の『伝記』」(著:デイヴィッド・ボダニス)

2012-10-21 23:31:40 | 【書物】1点集中型
 訳は伊藤 文英、高橋 知子、吉田 三知世の3氏による(エントリタイトルの文字制限に引っかかって入らなかった)。

 タイトルの通り、「E=mc^2」つまり「質量はエネルギーと等価である」という式を巡る歴史の物語。記号を含めてたったの5文字でしかないこの式の、その文字一つひとつの成り立ちから始まり、この式を導き出すアインシュタイン、そしてマンハッタン計画を巡る米独の攻防、さらには太陽、その先の宇宙まで――と、「E=mc^2」の影響が及ぶ最大規模のところまで余すところなく語られている。物理学に関する話もとても平易に書かれてあり、文系でも大丈夫(笑)。
 科学が進歩する限り、原子核と「E=mc^2」の結びつきに、科学者はどうしたって気づかないわけにはいかなかっただろう。「ドイツには原爆が作れないとわかっていたら……」というアインシュタインの述懐はだから、彼が本来、踏み越えてはならない一線を踏み越えるつもりでは毛頭なかったことを明確に示している。

 これも含めて、解説・池内氏の「科学の知見が未来を左右しかねない現代にあって、科学が社会にどのように使われる(使われそう)かを見定め、それによる効能と弊害を真摯に判断し、必要な場合には警告を発する、そのような科学者であるべきではないだろうか」という意見は、非常に当を得ているものだと思う。科学は諸刃の剣になる可能性も孕んでいるということを、恐れるだけでは進歩はない。だが、忘れてもいけない。アインシュタインはまさにその視点を持ったがゆえにアメリカ政府に進言をしたのだし、その結果に対して終生、悔恨を抱くことになったのであろうから。

 ひとつの式を丁寧に紐解くことで生み出された、多種多様の物語。読み終えてしまうのがもったいないなーと思える面白さだった。「サイモン・シン絶賛!」の煽り文句(by早川書房)もうなずける。人物解説や文献など巻末附録も充実していて、特に文献の説明を読んでいくると、ここからまた新しく、読んでみたいと思ったものがいくつか出てきた(もちろん、自分で読めるのは邦訳されているものに限るが……)。「注」の15章最後の一文でチェルノブイリに触れてあるのが、今となっては切ないけど……単行本は2005年に出たものだから、仕方ないんだけども。
 それにしても、やっぱハヤカワの科学系シリーズ好きだなぁ。次はどれを読もうかなぁ。