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偏愛と放浪の記録

「新しい生物学の教科書」(著:池田 清彦)

2012-10-11 23:10:36 | 【書物】1点集中型
 完全文系の自分でも、物理系の本もものによっては楽しく読めることが最近わかってきたので、じゃあ今度は生物もということでトライした。表紙のクラゲがけっこうステキ。

 「現代生物学の最先端を手っ取り早く知りたい」人にはお勧めであるという著者の言葉には、当然というべきか「生物学の知識をある程度お持ちで」という前提があるので、高校での生物の内容なんて(もしかしたら中学理科ですらも)ほとんど忘れてしまっている私には、やっぱり2日で理解するのは無理であった(笑)。
 かように、自分のようなど素人にとっては決して簡単な内容ではないんだけど、でも全くちんぷんかんぷんかと言えばそうでもない。そもそも高校の検定教科書の記述を現代生物学の知見を踏まえて検証するという形なので(だから、これなら頑張ってでも読めるかもと思ったわけだし)、「こんな話あったかも」くらいのイメージならなんとなく浮かぶようなネタが多い。各章の「まとめ」はむしろ本文よりわかりやすい気がするので、「まとめ」を読んでから各章本文に戻って読むのも良いかも。

 ひとりの研究者が個人の研究の成果としての論文なり著書なりをものするのと違って、検定教科書ってやっぱり「大人の事情」が相当絡んでしまうんだろうなーとは思う。生物に限らず。
 ただ、教科書を使って児童生徒が何をするかと言えば、この段階(高校まで)では学問というより学習だと思う。だから「間違った知識をつけさせるわけにいかない」という配慮から生まれるものだとすればそういう、ある意味当たり障りのない、専門家から見て主張が若干ぼやけている部分が出てくるのも致し方ない部分はあるのかもしれない。

 まあ、著者が疑問視する点は、検定教科書が「間違っていても誰も責任を取らない制度」に則って作成されているという現実の方なので、責任を取れないようなものを作って教えたってしょうがないんじゃないのか、ということなんだろう。例の領土の話なんかも、よその国は(正当性はともかく)主張そのものは国の見解として教育に取り込んでいる形になっているようではあるし。それを鵜呑みにするか、その一歩先に自ら踏み込んで、多角的な情報を得ようとする学問を行うかは、個々人の話だけど。

 「学校」という場から遠ざかって久しい今だからこそ、教科書に書かれた内容をそのまま頭に入れるのではない読み方もできる。というか、それができるようになってなかったら、学問する意味はないんじゃないかと思う。本書は、そういう考え方が形になったものと言えるような気がする。
 自然科学は嫌いな世界ではないので、もっと理解できると面白いことにいっぱい出会えると思う。これよりさらに生物学初心者向けの本が見つけられたら、ぜひ読みたい……。