life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「神去なあなあ日常」(著:三浦 しをん)

2012-10-18 23:41:22 | 【書物】1点集中型
 いつでも読めると思って、却っていつまで経っても手を出さない作家さんは数多いが(笑)、三浦しをん作品もそのひとつかもしれない。結局今のところ「風が強く吹いている」しか読んでいないのだ……(でもこの作品は大好きである。収納の都合上文庫を待ったが、表紙は単行本の方が断然好き)。「舟を編む」もいつか必ず読みたいもののひとつなんだけど、図書館は膨大な待ち人数だし、文庫になったら買って読みます。だからまだだいぶ先(笑)。
 それがなぜ今回あっさり手に取ったかと言えば、表紙が気に入ったから(笑)。あと、徳間文庫だというだけで、意味もなくなんかいつもと違う感じがしたので。←?

 自然とじかに向き合うことになる第一次産業のうち、農業や漁業に比べると表に出てきにくいと思われる林業を題材にしているところが三浦氏らしい。ただ、帯に「お仕事小説」とは書いてあるんだけど、解説の角幡氏曰く「単なる林業小説とは思えなかった」と。これには同感。
 確かに、山を守り、育てていく仕事の実際は、こうして知ることがなければ全く想像もつかない。その意味では「仕事」を描いていることは事実なので、「お仕事小説」と言えばその通りだが、この物語の本質はそういったことの啓蒙だけにあるのではないと思う(もちろん、三浦氏の作品がそういう「押しつけ」の雰囲気とは縁遠いから、というのもあるが)。

 というのも、なんせタイトルが「神去なあなあ日常」である。ここに描かれているのは「日常」なのだ。「神去村」という日本のどこかの山村にあるローカルな暮らしだったり、自然への敬意のかたちだったり。だから林業は主題でもありながら、村の日常を描く道具の一つでもある。
 そこそこの都会でモノに囲まれた生活からは違う次元にありながら、でもふと出会うとそれが科学的だろうが非科学的であろうが「そういうこともある」と納得できるようなものが、人が生きている場所には必ずある。と、言うなればそんなようなことなんじゃないかなーと。つまり、都会育ちの主人公・勇気の目はそのまま、物語を読む自分の視点でもあるわけだ。
 来月、続編も刊行予定とのことなので、それは今度こそ図書館で押さえておきたいところである。つーか「舟を編む」は早く文庫におりてくれないものか(笑)。