音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ 次回のアナリーゼ講座は、シューベルトです ■

2007-12-24 16:08:16 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2007/2/2(金)

★1月28日のブラームス・アナリーゼ講座が終わり、ホッとしてます。

シューマン、ブラームスと続き、次回は・・・といいますと、

やはり、「シューベルト」に立ち戻らなければなりません。

(開催日などは、決まり次第、お知らせいたします)


★学生の時、音楽の友社の「不滅の大作曲家」シリーズで、伝記本を読んでいました。

お小遣いが足りなく、どうしても欲しい「ヴェーベルン」だけは購入しましたが、

他の作曲家については、図書館で読みました。

急にこのシリーズの「シューベルト」を読みたくなり、探しましたが、もちろん絶版でした。

いまの日本は、欲しい本は無理をしてでもその場で購入しないと、必要なときには店頭にありません。

出版社が売りたいものだけ、本屋さんに並んでいるのが現状です。

その本の内容が良いものか悪いものかは、全く別のことです。


★この「不滅の大作曲家」シリーズは、海外のまっとうな著作の翻訳版ですが、

最近は、日本人が書いた伝記本の販売を優先させるためか、翻訳本はかなり少ないようです。

ジェット機で世界中を飛び回る、人気だけのピアニストが録音するCDは、巷に溢れているのに、

絶頂期のケンプが、1950~60年代に録音した、珠玉の名盤が手に入らないのと、同じ構造です。


★早咲きの梅の香りに誘われ、夜の散歩をいたしました。

我が家の近くの古本屋さんで、見つけました。

「不滅の大作曲家」シリーズの「シューベルト」(ジョゼ・ブリュイール著、島田尚一訳)を。

昭和46年の発行で、当時の定価560円の本ですが、古本屋さんで「500円」でした。

ご縁というものはあるものですね。

暗香梅の夜道、“探していた本が見つかった”、いそいそ、うきうき帰宅しました。

★早速、開いてみますと、この本の前の持ち主の書き込みが、巻末に。

一点一画崩すこともなく几帳面な字ですが、すこし斜めに傾き、どこか味のある字。

しかも、懐かしい青インキで書かれてありました。

≪フラウとやすしは、子供会から平磯へ潮ひがり。

よく晴れた日曜の午后、

「チャイコフスキー」というロシア映画の感激から、

さめやらぬまま、南町のつる屋でこれを求めた。

レジは清潔な青年だった。16.5.’71≫


★一遍の美しい詩になっています。

「フラウ」・・・、妻でも家内でもワイフでもない「フラウ」、愛情がにじみ出ています。

「よく晴れた日曜の午后」、旧い字体の「午后」がいいですね。

この「午后」という字の存在で、ゆったりと時間が流れ、

生きている幸せを、かみしめているかのような空気まで漂ってきます。

母子の潮ひがり、美しい音楽、いい映画、感じのいい清潔な青年、

昭和のほほえましい家庭が彷彿とします。

巻末「作品目録」のなかで、≪作品96「さすらい人の夜の歌」(ゲーテ)≫に、

赤インキで線が引いてありました。

お好きな曲だったのかもしれません。

あるいは、ゲーテを愛していらっしゃた方かもしれませんね。


★≪16.5.’71≫ 昭和46年5月16日、36年ほど前、陽光まぶしい新緑の五月だったことでしょう。

「平磯」海岸は、神戸の須磨近くと、茨城県のひたちなか市にあるそうです。

さて、どちらの平磯だったのでしょう。

「つる屋」という本屋さんをPCで検索しました。

見当たりませんでした、もう廃業されてしまったのでしょうか。

それとも、インターネットの世界とは無縁に、細々と営業されているのでしょうか。


★「焼肉屋」さんと「旅館」に、この名前が、たくさんありました。

伊勢街道の 旅籠屋「つる屋」、 大磯駅 徒歩3分 「つる屋旅館」、

七輪・備長炭・松阪牛、伊勢佐木町の「つる屋」 、

「三味線つる屋」、名古屋・本山、 楽器、 三味線製造直売・張替え・修理お気軽にどうぞ。

つる屋精肉店(居酒屋) 秋田市川反の4丁目橋を渡って・・比内地鶏の串焼き1本150円。

つかの間ですが、神戸、伊勢、名古屋、秋田と“小旅行”を楽しませていただきました。

≪レジは清潔な青年だった≫すがすがしい青年とどんな会話を交わしたのでしょうか。

書物を愛し、本に詳しく、いい本をお客さまに売ることに喜びを感じていた方だったのでしょう。


★私も小さい頃、この映画を見ました。

主役チャイコフスキーをイノケンティ・スモクトノフスキーが名演、

チャイコフスキーの恋人役・デジレを名バレリーナのプリセツカヤ。

彼女が踊る白鳥と黒鳥。

軽薄な俗物貴族たちの集まるサロンで、デジレが黒いドレスですっくと立ち上がり、

チャイコフスキーの名歌曲「さわがしい舞踏会で」を、歌う姿は忘れられません。

一点の隙もない名バレリーナの立ち姿です。

(歌は吹き替えでしたが)


★チャイコフスキーの最晩年は、ペテルブルグでコレラが蔓延しており、

映画では、チャイコフスキーもそれで亡くなったかのように暗示しています。

コレラによる死者のたくさんのお棺を、荷車で運ぶシーンで、映画は終わります。

そのお棺が、私の長年愛用するのメトロノームの形に、よく似ていたのを覚えています。

数年前、「千石・300人劇場」で、この映画が再演され、見に行きました。

その劇場もいまは閉館されました。


★ベージュ色のこのメトロノームは、ドイツのタクテル(Taktell)製、ネジ巻き式。

芯のある音で、音楽的に聴こえるため、日本製のようにイライラしません。

正確にリズムを刻み、学生時代から使い続けていますが、全く壊れません。

当時、高価だったのを覚えていますが、結局、長持ちするのでお得ですね。


★梅に誘われての夜散歩、古書店でいい本にめぐり合い、

本に書き込まれた美しい「詩」、それを通して、音楽を、美しいものを、家族を愛する方との遭遇。

人生とは本当に出遭いですね。

これは、シューベルトからの“早春の贈物”かもしれませんね。



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