オレオレ詐欺の被害が、今年に入って大阪府で急増しているということだ。
5月末までの被害件数が、すでに去年の件数(37件)を上回る54件で、
被害額に至っては、前年同期比の76倍にも上る約1億5,250万円だという。
大阪のおばちゃんはしっかりものだからオレオレ詐欺にはひっかかりにくい…
…というのがこれまでの定説で、東京などに比べて被害が少なかったそうだ。
それがなぜこれだけ増えてきたのか…?
大阪府警では、府内にある複数の高校の卒業生名簿の流出をその理由に挙げる。
今年の手口はほとんど「息子かたり」だという。
特定の高校の卒業生の息子をもつ60歳以上の母親を狙い、
「会社の金を使い込んだ、助けて」とか、
「交際女性の中絶費用が必要なんで」
というようなウソの電話をかけてくるらしい。
高校の卒業名簿といえば、わが家にも分厚いのが何冊かある。
長男は隣接市にある、いわゆる進学校と言われる公立高校の出身だけど、
800ページ以上もある「高校同窓会会員名簿」というのが何回か送られてきた。
本棚にあったその本を、改めて引っ張り出して、パラパラとページを繰った。
ぎっしりと細かい字が並んでいる。
卒業生の氏名、住所、電話番号、勤務先、最終学歴などの項目があり、
勤務先と最終学歴欄は空白が多いが、氏名、住所、電話番号は全部載っている。
本の末尾には、氏名索引までついているので、すぐに人物を検索できる。
僕もいつか本棚を整理した時、こんな卒業名簿などもう要らぬのでは…
と、他の不要な雑誌・書籍と一緒に資源ごみに出そうと思ったことがある。
しかし、考えてみればこれだけの個人情報が詰め込まれているのである。
うかつにごみなどに出して、流出したらきわめて危険だと思い、
そのまま、未だに本棚の隅に置いている状態だ。
大阪のオレオレ詐欺が増えた理由がそれだと新聞で知り、
ごみに出さなくて良かったと、改めて胸をなでおろした。
…で、そういうときに…わが家でこんなことがあった。
先月の出来事である。
ある日。 夕食を終えた頃、電話が鳴った。
妻が出ると、電話の相手は、
「あ、僕…。〇〇やけど」と言った。
〇〇というのは、長男の名前だ。
ちなみに、長男はわが家に同居している。
仕事の関係上、帰宅はいつも遅い。
少し声が違うな? と思いながら、妻が「なに…?」 と聞くと、
「あのな、…風邪を引いてん」 と相手が言ったそうである。
「ふ~ん。それがどうしたん?」 と妻がそっけなく言うと、
相手は 「あっ…」 とつぶやいて、電話を切った、ということだ。
「誰から電話やったん?」
と僕が妻に聞くと、そう、説明してくれた。
「けったいな電話やなぁ」と僕は首をかしげた。
後刻、長男の〇〇が帰ってきた。
妻が 「きょう、電話してきた?」 と聞くと、
「えっ、電話なんかしてへんよ」 と目を丸くしていた。
やっぱり…
誰かが長男の名をかたって電話をかけてきたわけだ。
「オレオレ詐欺ちがうか?」
と、僕が言うと、妻も長男も、ふ~ん、そうかなぁ…と疑わしい目をした。
「オレオレ詐欺が、風邪引いてん、みたいなこと言う?」
「風邪引いたから、風邪薬のお金ちょうだい、っていうわけ?」
「そんなん、何百円か何千円やがな。詐欺にならんわ」
「いや違う。まず風邪引いたと言って、声が違うのをごまかして…」
「それから本題に入るということかな~?」
「それなら、なんで、あっ、と言うて電話を切るわけ?」
「わけ、わからんなぁ」
次に出た推測は、
「間違い電話だったんと違うの?」 という説だ。
「でも、〇〇やけど、と名前を言ったよ」 と妻。
「たまたま、同じ名前で、たまたま電話を掛け間違えて…」
「それで…?」
「それがどないしたん、と冷たく言われて、これはおかんと違うわ…」
「そんな偶然が重なるって、あるんかいな」
「あっ、と言って電話を切ったのは、間違ったことがわかったから違う?」
…と、僕たち親子3人は、あ~でもない、こ~でもないと、
さまざまに推理し合いながら、夜のひと時を過ごしたのである。
となりの部屋では、モミィがスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
真相は、わからないままである。
ともあれ…
卒業生名簿があるご家庭では、その扱いは慎重に…