スーパーの食料品売り場のレジのことである。
レジがある程度混雑している時、どの列に並ぶか…?
並ぶお客の人数の多いところもあれば、やや少ないところもある。
この選択は、なかなかむつかしい。
一目見て、お客が少ないと思って並ぶと、前のお客さんのたちのカゴの中が、どれも満杯で、一人にかかる時間が長い時がある。
隣のレジのほうが、並んでいるお客が多かったはずなのに、一人ひとりの品物が少なくて、スムースに前へ前へと進んでいる。それを横目で見てがっかりする自分がみじめである。特に急いでいる時など、その思いが強い。
だから、単にお客が多いか少ないかだけでは簡単に決められない要素が、レジの行列には存在する。
海外、たとえばグアムのスーパーで「エクスプレスレジ」というのを見たことがある。買った品数の少ない人専用のレジである。牛乳1本だけとかお菓子2個だけとか買う人は、そのレジでてっとり早く支払いを済ませることができる。グアムやハワイのスーパーに入ると、カゴも特大だし、お客の買う量の多さにびっくりしてしまうが、まあ、そんなところだから、そういうシステムも必要なのだろう。日本では、あまり見かけない。
ヤマほど買い込む人も、1個だけ買う人も、条件は同じである。だから、買い物が少ない場合には、よけいにレジの列が気になる。
他よりお客の列が長くても、そこだけレジ係が2人いる場合がある。そんなときは停滞なくお客は流れて行くし、一方では、レジ係が1人でも、手の遅い人もいれば、てきぱき打ち込んでどんどんお客をさばいて行く人もいる。通い慣れたスーパーなら、誰が手が早くて誰が普通で、誰が動作がのろい…ということは、把握しておいたほうがいい。
僕は近所のジャスコ藤井寺店食料品売り場に毎日のように行くので、レジの女性(中には男もいるが)に関しては、どの人たちが優秀でどの人たちがイマイチか…などの能力はほとんどわかっているのだ。しかも、仕事が速くて感じが良くておまけに美人である○○さんのファンでもある(名札、ついてるんだもんね)。混んでいても、わざわざその人のレジに並んだりして。あはは。
でも、ひどいレジ係になると、大混雑しているのに、知り合いの客が来たら、その客と雑談をしながらレジを打っている人がいる。口を動かすより先に、もっと速く手を動かせよ、と思う。
そんなある日のこと。
僕は例によっていつものスーパーで、8ヵ所くらいあるレジのどこに並ぼうかと探し、1人だけしかいない場所を見つけ、そこに並んだ。
前のお客は30代に見える女性だった。ちょうど支払いの時である。
買い上げ額が1,998円とレジ画面に出ていたのが、後ろの僕にも見えた。
女性客は財布からお金を取り出そうとしている。
カードではなく、現金払いみたいだ。それは、いい。しかし…
ふつう、1,998円なら、千円札2枚を出すだろう。
まぁ、たまった小銭を使ういい機会だからと、お釣りのないようにお金を出すのも、むろん自由である。でも、ふつう…ふつうですよ、こういう場合は2,000円を出しませんか? 後ろにお客も並んでいることだしね。いや、でも、お客さんだからね。どんな払い方でも勝手だから、誰も文句は言えないのはわかっていますけど…。
じっと見ていると、不思議なことにその女性は、まず8円…つまり1円玉を8枚、それも財布から1枚ずつ確認するようにつまみ出して、レジの皿にポツン、ポツンと置いていったのである。その次に10円玉を9枚、それも財布の中を覗き、1枚ずつつまみ出してレジの皿に置く。そうして次に、100円玉をまた9枚、同じように財布の中をかき回しながら、ゆっくり確認しつつ、1枚ずつつまみ出して皿に置くのである。
周囲のレジでは僕より遅く来たお客たちが、どんどん会計を済ませていく。
「えらいとこに並んだなぁ…」と、思わず舌打ちする。
特にその日は、僕は事情があって急いでいたのである。
こんな時に限って…。
僕の時間間隔では、その間、5分近くかかっていたように思う。
いつの間にか、僕の後ろにも数人のお客が並び始めているが、いっこうに前に進まないので、みんな眉をしかめながらレジのほうを眺めている。
レジの店員さんも、チラチラとこちら側に、申し訳なさそうに目を走らせる。
1円玉を8枚…。
10円玉を9枚…。
100円玉を10枚…。
最後に女性は、千円札を1枚取り出して、レジ皿に置いた。
しめて1,998円である。
やれやれ…。
女性は、係員に対して一言も発することなく、後ろに並んでいるお客たちに対しても、一向に意に介しないふうで、レジを離れて行った。
ふ~ん。ええ度胸やなぁ。
気の小さい僕などは、こういう人がむしろ羨ましい。
…と考えながら、自分の番が来たとき、「あっ、そうか」と思って、もう一度、先の女性の顔を見た。何となく、雰囲気が日本人と違う。
1998円をお釣りなしで支払うとき、日本人であれば1,000円札から出すだろう。次に100円単位、そして10円単位で…と。
つまり、大きいほうから出す。
しかし、外国ではは小さいほうから出すところも多いようである。そういえば、僕自身も旅行中、それで面食らったこともあった。
この女性は日本人ではなかったのだ。
中国人だろうか…。たぶん、そうだろう。
そう思ったら、いまの女性の、理解しにくかった行為の意味も解ける。
日本の通貨を1円、10円、100円と1枚ずつ確認する、というのも、まだこちらの生活に完全に慣れていなかったのだろう。そうか、だったら仕方ないかぁ…? と、思わなければしようがない。
それにしても、国による習慣の違い、人の気質の違いとは恐ろしい。
つくづくそう思った。
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しかし、中国と言えば、尖閣諸島沖で日本の巡視船にぶつかってきた中国漁船の船長を逮捕し、勾留延長をしたことに対して、あの中国当局の傲慢な態度と、国民の異様なまでの激昂ぶりは何だろうか…?
悪いのはそっちじゃないか、何をえらそうに言ってるんだ、
…と、報道に接するたび、不快感が募る。
報道では、日本政府は、漁船のほうが巡視船にぶつかってきたビデオが残っているから大丈夫…みたいなことを言っているようだが、そんなもの見せても、中国は「日本が勝手に映像を捏造したのだ」と言うに決まっている。まったく、どうしようもない国である。
スーパーのレジとは、なんの関係もありませんけどね。