2021年7月の日本語能力試験が中止になったミンスク会場。中止を2月に決めました。
日本文化情報センター日本語教室の生徒は大いに落胆し、不満の声が次々と上がりました。
特に昨年受験料を払っていた生徒は、ベラルーシ実施委員会から「2021年7月にミンスクでレベルも変えず、受験するなら、一旦支払った受験料をそのまま振替扱いにしていいですよ。」と言われたので、そのまま実施委員会の口座に預けっぱなしになっていたのです。ところが「やっぱり今年も試験はしないから、今お金を返す。」と言われ、今その返金作業が続いています。しかし、この一年でベラルーシルーブルの価値が下がっていますので、大変損なことになってしまいました。全く気の毒です。
2年連続日本語能力試験を受験できないと、認定証がもらえず、その認定証がないと日本の大学へ入学、留学、日本での就職にも支障が出てくるベラルーシ人もいるので、その人たちの人生が大きく変わったことになります。特に国費留学は年齢制限があるので、簡単に中止を決めた当地の実行委員会の決定はひどいものです。
気の毒なので、日本文化情報センターが独自に「私たちのテスト」という日本語能力試験にそっくりな模試を作成し、合格者には和紙に印刷した合格証を渡すことにしました。詳しくは
こちらです。
これといって大きな経費がかかるものではありませんが、チロ基金がスポンサーということで、チロ基金の名前を冠した日本語能力認定試験にしたいと考えています。もっともこの合格証を持っていても、日本への留学や就職に有利になるわけではありませんが。
すでにベラルーシにおける日本語教育のために寄付金を出してくださった日本の方、その寄付金で日本語能力試験対策用教科書を購入していたにも関わらず、日本語能力試験が2年連続中止になり、大変心苦しく感じております。
「私たちのテスト」実施に向けて現在準備中です。予定としては5月23日にN3レベルの試験実施、5月30日には合格証授与式を行います。また9月5日にN4レベルとN5レベルの試験を実施します。この結果により9月から始まる新学年度のクラス分けを行います。
このように日本語能力試験の代わりに「私たちのテスト」を行うことにより、日本語教室生徒の心のなぐさめになるかと思ったのですが、一部の生徒はやはり我慢できないようで、今年の7月、ロシア(モスクワあるいはペテルブルグ)へ自費で越境受験に行くと言い出しました。未成年の生徒の場合は外国なので保護者が同伴しなくてはいけませんし、コロナのせいでベラルーシ・ロシア間の交通機関も激減していますが、夏場は全て元どおりになると、楽観的に予測をして、来週ロシアに申し込み手続きしようとしている生徒が複数名います。
私自身かつて、ベラルーシ国内に試験会場がなく、自分の生徒や子供を連れて、ロシアやウクライナ、ポーランドにまで越境受験に行っていた頃を思い出し、涙が出てきます。
今年の夏、越境受験する生徒たちにはコロナウイルス(特に変異種)に感染するリスクがあるのですが、自費で外国へ行こうとしているので、私としては止めることができません。
さらに、「2020年7月の日本語能力試験が世界的に中止になったのは理解できるし、致し方ないが、ミンスクは12月の試験会場として選ばれていないので、2021年7月まで中止になると、2年連続試験に受けられないのはひどすぎる、2022年に2021年7月の分の代替実施を主催者に訴える。」
と生徒とその保護者が言い出しました。
2022年7月はミンスクですでに予定されているので、通常の実施、さらに言い換えれば代替の形で、2022年12月も試験を実施して、減ってしまった受験機会を今度はその分増やしてほしい、ということです。
日本語能力試験を実施している国際交流基金にこのことを訴える署名運動が、とうとう始まりました。
念のために申し上げておきますが、署名を集めろと教師である私が生徒にけしかけているのではありません。あくまでベラルーシ人日本語学習者の中から自然発生した要求です。
生徒の一人が代表になって、請願書を作成しています。あくまでベラルーシ国内で日本語を勉強しているベラルーシ人が、ベラルーシでの日本語能力試験受験機会を増やしてほしいと訴えている、という状況です。
毎年ベラルーシでは、およそ180人が日本語能力試験を受験していますが、署名の数も少なかったら意味がないので、最低でも150人分、もちろん多ければ多いほどいいですよ、と私から生徒代表に言っておきましたが、果たしてどれぐらいの署名が集まるか予測はつきません。
もし数多く集まったら、公的に国際交流基金の窓口に郵送で提出するそうです。そのときの郵送費はチロ基金から支援するつもりでいます。このような形で、ベラルーシ人日本語学習者を支えたいと考えています。チロ基金協力者の皆様のご理解をお願いいたします。
署名を集めている生徒の姿を見て、ベラルーシ人も変わった・・・という印象を強く受けました。以前なら、試験が中止になったと聞いても、仕方がない、現実を受け入れなきゃ・・・とすぐあきらめ、何もしないベラルーシ人がほとんどでした。これが国民性なのかなあと感じていました。(日本民族もおとなしいですけどね。長いものには巻かれろ、といったところでしょうか。)
ところが、今のベラルーシ人は、はっきりと自分の意見を口にするようになりました。集団の力で何とか状況を動かそうと働きかけるようになりました。これも昨年から続く反政府デモ活動に参加したり、間近に見聞きするようになった影響だと思います。
ベラルーシ人の意識は変わりました。簡単にあきらめないようになり、現実を変えようと立ち上がる気概のある人が増えました。
私の予想ですが、署名は多く集まると思います。
生徒たちの署名運動についてはまた改めてご報告いたします。
ちなみにベラルーシ以外の国で、同じく日本語能力試験の実施が1年1回だけで、それが7月で、国内の会場が一箇所だけ、しかも2021年の試験実施を早々に諦め、中止した国があるかと調べました。
それはスウェーデンでした。スウェーデンの日本語学習者はどんな気持ちでいるのか・・・と思いましたが、よく考えたら、スウェーデンもベラルーシも、緊急事態宣言もロックダウンも行動の制限といった政策をまるで打ち出していない国なんですよね。
スウェーデンは個人の自由の権利優先、ベラルーシは経済優先で、コロナ対策を特にしていない国という共通点があるのですが、行動の制限もないのに、日本語能力試験は中止すると現地の実行委員会は早々に決めてしまうって・・・悲しいですね。日本語学習者側の気持ちも少しは考えてほしいです。