電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『万両ノ雪~居眠り磐音江戸双紙(23)』を読む

2009年06月14日 06時13分41秒 | -佐伯泰英
墓参を終え、博多道草を経て江戸へ旅立った坂崎磐音とおこんの道中にどんな事件が起こるのだろうと興味津津の、佐伯泰英『居眠り磐音江戸双紙』シリーズ第23巻『万両ノ雪』は、笹塚孫一の胸に刺さるトゲのお話から始まりました。

第1章「明和八年のおかげ参り」。南町奉行所の知恵者同心・笹塚孫一のもとに、6年前に島送りになった男の島抜けの報せが届きます。その事件は、真相に肉迫しながら今一歩の決め手を欠き、胸に今も刺さるトゲのようなものでした。
第2章「安永六年の島抜け」。唯一の目撃証人お香は、犯人と目される万両の親分にほのかな思慕を寄せています。大胆不敵、用意周到な島抜けの経緯もさることながら、品川柳次郎が椎葉お有との仲を両家公認のものとした帰途に、笹塚孫一暗殺を阻止するくだりも、緊迫感があります。
第3章「子安稲荷の謎」。内藤新宿の子安稲荷を舞台に、万両の大次郎一味と、笹塚孫一、木下一郎太、品川柳次郎らが対決しますが、どうにも分が悪い。と思ったら、意外な逆転劇!なるほど、そう来たか(^o^)/
第4章「元日の道場破り」。万両の大次郎の隠し金も発見し、笹塚孫一の胸に刺さった昔のトゲも抜き取ることができ、磐音は南町奉行所で風呂をもらい、新年の衣装もあらためます。今津屋に挨拶した後に、おこんさんとともに佐々木道場を訪ねると、二人のために離れ家が新築されておりました。なんともふがいない道場破りの一件は、犬と茶碗の狂言回しでしたか。
第5章「跡取り披露」。長屋を引き払った磐音は、おこんとともに速水左近宅を訪ねます。おこんが養女として入る速水家は、なかなか家族関係も良好のもよう。磐音はさらに関前藩江戸屋敷に旧主実高を訪ね、佐々木玲圓の養子となることを告げます。この実高・お代夫婦は、小藩の領主としての経営手腕はともかく、人柄としてはまったく「いい人」ですね~。これが旧主への別れの挨拶という形でしょうか。さて、佐々木道場正月の具足開きにおいて、玲圓は磐音が後継として養子に入ったことを宣言、今津屋ではお佐紀が無事に男児を出産。正月らしい目出度さです。

いささか長い著者あとがきは、なかなか興味深いものです。闘牛と時代小説の関係。人畜無害の当方、闘牛に血が騒ぐことはりませんし、闘争シーンに手に汗握ることもありません。むしろ、作者が繰り出す物語の展開の先を予想し、当たった、外れたと一喜一憂している状態です。これがたいそう面白いものです(^o^)/

テレビドラマ「陽炎の辻3」のほうは、どうやら磐音クンが佐々木玲圓の養子になり、道場の後を継ぐことと、町娘おこんの身分の差を主たる葛藤として展開している模様。確かに、封建的身分制度が厳然としてあった江戸時代では重大な問題ですが、原作では、今津屋さんがあっさりと「武家へ養女に入る」という解決策を示して(*)くれます。ドラマでは、今津屋さんがタイミング良く解決策を示してはくれないようです。このあたりは、脚本や演出次第、ということでしょうか。

(*):佐伯泰英『梅雨ノ蝶~居眠り磐音江戸双紙(19)』を読む~電網郊外散歩道より

コメント (6)    この記事についてブログを書く
« さあ、週末だ。サクランボの... | トップ | 週末はサクランボ「佐藤錦」... »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Aki_1031)
2009-06-15 00:35:55
笹塚様大活躍の巻(笑)読破おめでとうございます!
原作では玲圓センセへの養子に絡むおこんちゃん問題は
あっけなく解決されたのですが、
ドラマではこれでもかと言わんばかりに引っ張りすぎていて
原作既読組としては、やりすぎでは?と思ってしまいます(苦笑)。
もっと家基さまネタに時間を費やして欲しいのに~!
返信する
Aki_1031 さん、 (narkejp)
2009-06-15 06:24:52
コメントありがとうございます。ドラマのほうは、原作の第19巻あたりをさらっと流しているようですね。そのわりに、「おこんちゃんの身分問題」をしつこく引っ張っていますが、たぶん磐音とおこんの婚礼を山場に見立てたシリーズ構成にしているのかもしれません。それはそれで、視聴率ねらいの作戦としてはよろしいのかも(^o^)/
家基さんネタをあまり入れると、「陽炎の辻4」を作るハメになりそうなので、敬遠しているのでは(^o^)/
原作読破組といたしましては、そこはやはり原作の再読でしょう(^o^)/
返信する
Unknown (なつ)
2009-06-15 12:54:34
この巻のあたりから発売とともに購入するようになりました。(それまでは古本屋をはしごして集めていました)感想がネタバレになりそうなことと、感動が薄くなってきた(苦笑)ため感想も簡単になって・・

プレマップでの後編予告では、関前に帰る磐音・おこんもあるようです。
話の筋にちょっと難があるドラマ版ですが、映像で見たいシーンをいくつか再現してくれそうで楽しみです。
返信する
なつ さん、 (narkejp)
2009-06-15 20:05:19
コメントありがとうございます。長いあとがきを読むと、体調を崩した時期があったようです。おそらく、休養しながら今後のストーリー展開の方向を再構成したのでしょう。例えば白山という犬の登場が、なにか後から重要な役割が出てくるのかな、と推測しています。
関前墓参の船旅は、映像向きですね。それは見てみたい気がします(^o^)/
返信する
Unknown (キョースケ)
2009-06-16 17:15:46
笹塚様が主役の巻頭に、シリーズを間違えたか、これは番外編かと、最初は頭をひねりながら読んでいましたが、ああいう形で主役を登場させるとは、なかなか上手く作り上げたものです。最初に戻って再度読み直したりしましたよ(^^)

さて、おこんの「身分違い」の悩みですが、あっさりし過ぎだった原作と違って、私はおこんの揺れる心情を丁寧に描いているドラマのほうが好感がもてます。一生の問題ですし、結婚は2人だけの問題でもありませんから。特にこの時代では「家」というものの重みは相当だったろうと思います。
むしろ、おこんとしては磐音が養子になんか行かず、フラフラしていてくれたほうがまだ気楽だったかもしれないですね。
返信する
キョースケ さん、 (narkejp)
2009-06-16 21:12:17
コメントありがとうございます。海路と異なり、陸路ではいくらでも難敵を登場させることも可能なので、波乱万丈の二人道中になるのかな、と思ったら、なんのことはない、あっさり肩すかしでした(^o^)/
でも、うまく主役を再登場させたものですね。
おこんさんの身分問題は、原作では今津屋さんの一言であっさりと解決するところに、幕府も一目おく両替商行司の貫禄を感じますが、ドラマでは解決策を示唆するわけでもなく、普通の金持ちの商人のような感じになってしまいますね。そのへん、脇役を上手に描くことでドラマ全体がしまってくる面があると思いますね~。
返信する

コメントを投稿

-佐伯泰英」カテゴリの最新記事