電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

自動車の排ガス浄化技術のこと

2015年10月04日 06時05分52秒 | 散歩外出ドライブ
1970年の夏、東京で光化学スモッグの被害が大きく報道されて以来、自動車の排ガスの問題が大きくクローズアップされ始めました。米国ではマスキー法で厳しい規制が示され、米ビッグ3は「技術的に対応不可能」と逃げ腰だったけれど、日本のホンダがCVCCエンジンで技術的に対応可能であることを示し、怒涛のような日本車のブームが起こります。

ガソリンエンジンの排ガス規制の焦点になったのは、窒素酸化物NOxでした。常温では反応しない空気中の窒素N2と酸素O2が、燃料が高温で燃焼するときに反応してNO2などの窒素酸化物NOxを生成し、光化学スモッグの原因となっていました。一酸化炭素COが発生しないように完全燃焼させれば窒素酸化物NOxが生じてしまうというジレンマでした。

ガソリンエンジンにおけるこのジレンマを解決したのは、要するに排ガス循環EGR(Exhaust Gas Recirculation)と三元触媒による排ガス浄化の組み合わせによる対策でした。いわば、理論空燃比に近い状態で完全燃焼させ、生じてしまうNOxは触媒で窒素N2と酸素O2に戻してしまう、という方法です。

しかし、ディーゼルエンジンについては、技術的な対応が難しく、排ガス対策がずっと遅れておりました。今回のフォルクスワーゲン社の排ガス不正は、パワーを下げてしまう排気ガス循環:EGRについて、テスト時は還流を実行し、実走行時には止めてしまうという不正なプログラムを導入していた、というものです。これは、これまでの排ガス規制の歴史と考え方を根本から否定するもので、素人目にも言語道断の愚策です。報道によれば、フォルクスワーゲン社では2005~2006年頃に導入が決定されたとのこと。はたして誰がどのような経緯でそのような決断を行ったのか、フォルクスワーゲン社に「半沢直樹」はいなかったということでしょうが、真相が興味深いところです。また、不正なソフトを開発提供したボッシュ社の、テスト用であり製品化はしないようにと警告を行っていたとする言い分も、なんだか今さらの言い逃れにしか見えません。



では、日本国内で最もディーゼルエンジンに熱心なマツダ社の場合は?
メーカーもコメントを出している(*1)ようですが、自分自身、新型デミオ・ディーゼルに乗っていますので、特別に興味があります。いろいろ調べてみたら(*2,*3)、どうやら次のようなことらしい。

  • VWのディーゼルエンジンは、高圧縮比で効率的に燃焼し、発生するNOxの量はEGRでコントロールしながら、最終的には触媒で対処するという考え方に見せかけた。実際はEGRを止めて走る。
  • マツダのクリーン・ディーゼルエンジンの場合は、低圧縮比でEGRが必須。VWの不正のようにEGRを止めることはできない。生じるNOxの量はごく少なく、後処理は不要。PMはフィルタで処理する。

ということで、そもそも原理と思想が正反対です。幸いに今回の不正のようなことは原理的にできないようです。フォルクスワーゲンの問題が世界の経済に与える影響は心配ですが、自分の乗っている車が今回の不正プログラムとは無縁であることがはっきりと納得できました。まずは良かった(^o^)/




原油精製の過程で、軽油は一定の割合で必ず生じます。これを燃料とするディーゼルエンジン車は、排ガス対策を必須としながらも、一定の比率であった方が良いと考えています。日本の場合は、軽油中の硫黄分がごく少なくなるように精製処理されており、触媒の寿命が長いのだそうです。一方、米国の軽油は硫黄分が多く含まれ、触媒が早く劣化して短寿命であるという問題もあるようです。完成形に近づいているガソリンエンジンと比較して、ディーゼルエンジンはまだまだ開発途上にあるとのこと。技術的な改善とともにこうした周辺的な整備が、意外に重要な気がします。

(*1):マツダの排出ガス規制への適合対応について~マツダの公式発表:2015年9月29日
(*2):VWディーゼル排ガス問題:マツダの「不正ない」公式見解を検証する~BLOGOSの記事
(*3):Story of Diesel~「クリーンディーゼル」は日本だけの呼び方~清水和夫


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2 コメント

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件のプログラム (pfaelzerwein)
2015-10-04 18:16:47
NOxを落とせば出力だけでなくて、ディーゼルに求められるトルクも落ちるということで、最終的には規制と市場の妥協点を探すことになります。所詮規制基準は、有無ではなし、大小の問題ですから。

件のプログラムは今後ともVWは上手に使っていくということのようですが、NOxの規制至上にCO2総量規制から逆戻りするということはEUの環境政策からして直ぐには起こらないかと思います。

個人的にはディーゼル車は嫌いですが、植物燃料などを使えるので今後ともオットーよりも生きながらえると思います。日本で灯油ストーブを未だに使っているのと同じです。

精油のその質の国別を調べました。着火値が大分異なるようで、米国は以前の500ppmから15ppmへと落とせたようです。それに比べると、欧州は使用形態も冬季の燃料も異なるので10ppmが限界値ということで、50ppmが現行規制値です。恐らく日本の硫黄値は米国準拠なのでしょう。
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pfaelzerwein さん、 (narkejp)
2015-10-05 06:14:49
コメントありがとうございます。技術的な課題を解決したから新製品が出るのではなく、どうやら経営的な要請から製品として出してしまった、というのが真相のようですね。さて、今後どうなるのか、継続して注目しております。
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