角川の時代小説文庫で、高田郁著『花だより〜みをつくし料理帖・特別巻』を読みました。同シリーズは前に全巻を一冊ずつ読み(*1)、また全巻一気読みを楽しむなど愛読しておりますが、特別巻が出ているとは知らなかったのです。ときどきコメントをいただく「こに」さんのブログ(*2)で目にして、先日いきつけの書店で見つけ購入、果樹園で枯損木を償却する合間に、サクランボの木漏れ日の中で読み終えたものです。
第1話:「花だより〜愛し浅蜊佃煮」。澪と源斎先生が大阪に行ってしまった後の、江戸「つる家」店主・種市の空虚感。そこに自称大阪の易者が見立てた運勢が大打撃となり、東海道を歩いて澪に会いに行くことになります。土産に作った浅蜊の佃煮は、結局は戯作者の清右衛門と版元の坂村堂に食べられてしまいます。まあ、私もぎっくり腰は経験がありますので、仕方がないと思いますね〜。
第2話:「涼風あり〜その名は岡太夫」。御膳奉行・小野寺数馬に嫁いだ奥方の乙緒(いつを)もかなり風変わりな人ですが、お相手の小野寺数馬も同様に風変わりであるだけでなく、忍耐強く理解力のある人で、まずは良かった。恋は情熱ですが、愛は理解と忍耐です。惚れた晴れたでは立ち行かないものが、年月を経て現れてきますので。
第3話:「秋燕〜明日の唐汁」。吉原の妓楼「翁屋」で「あさひ太夫」として過ごした過去を持つ野江は、オーダーメードの眼鏡屋さんを営んでおりました。淡路屋の再建から三年以内に、男名前の店主にする掟があり、番頭の辰蔵を婿に迎えてはという恩人のすすめはありましたが、野江はなくなった又次が忘れられません。あさひ太夫と又次にはどんな因縁があったのか、本編では描かれなかった経緯が明かされますが、思わずホロリのお話です。泣けてきます。
ただなあ、とてもいい話なのですが、女性である作者が描く男性像はどうも「陰のある不良っぽい喧嘩も強い男」>「誠実だが腕力は弱い優しい男」という傾向があるようです。うーむ、野球の「ハンカチ王子」は「男の子への無言の圧力の構造」をあらわにした(*3)ためにインパクトがあったのでは。又次と辰蔵の対比は、どうもこの類型にあてはまってしまうようで、作劇術のうちとはいえ、いささか残念な面もあります。
第4話:「月の船を漕ぐ〜病知らず」。大阪でのコレラの流行になすすべもなく患者を助けることができなかった夫・源斎先生の無力感・絶望感を支えることができない妻・澪の苦悩のお話です。流行性の疫病に対して漢方医が無力であったことは、「仁〜JIN〜」の南方先生の登場まではいたし方ないことではありますが(^o^)/、そうか、味噌汁の味噌の味が決め手でしたか。たしかに、同郷の夫と妻は多少の好みの相違はあれど基本的な美味しさの基準はよく似ていることが多いものです。年を取ると、食の好みの類似性というのは大事な要素の一つ。まあ、そういう味覚に飼いならされただけという説も一部にはありますが(^o^)/
いずれにしろ、長く続いたシリーズの後日談や明らかになっていなかった秘密が明かされる、ファンにはたいへん嬉しい一冊でした。高田郁さん、ありがとう!
(*1):高田郁『みをつくし料理帖』シリーズ
『八朔の雪』、『花散らしの雨』、『想い雲』、『今朝の春』、『小夜しぐれ』、『心星ひとつ』、『夏天の虹』、『残月』、『美雪晴れ』、『天の梯』
(*2): ブログ「読書と映画とガーデニング」
(*3): 男の子とハンカチ、あるいは非言語的メッセージ〜「電網郊外散歩道」2006年8月
第1話:「花だより〜愛し浅蜊佃煮」。澪と源斎先生が大阪に行ってしまった後の、江戸「つる家」店主・種市の空虚感。そこに自称大阪の易者が見立てた運勢が大打撃となり、東海道を歩いて澪に会いに行くことになります。土産に作った浅蜊の佃煮は、結局は戯作者の清右衛門と版元の坂村堂に食べられてしまいます。まあ、私もぎっくり腰は経験がありますので、仕方がないと思いますね〜。
第2話:「涼風あり〜その名は岡太夫」。御膳奉行・小野寺数馬に嫁いだ奥方の乙緒(いつを)もかなり風変わりな人ですが、お相手の小野寺数馬も同様に風変わりであるだけでなく、忍耐強く理解力のある人で、まずは良かった。恋は情熱ですが、愛は理解と忍耐です。惚れた晴れたでは立ち行かないものが、年月を経て現れてきますので。
第3話:「秋燕〜明日の唐汁」。吉原の妓楼「翁屋」で「あさひ太夫」として過ごした過去を持つ野江は、オーダーメードの眼鏡屋さんを営んでおりました。淡路屋の再建から三年以内に、男名前の店主にする掟があり、番頭の辰蔵を婿に迎えてはという恩人のすすめはありましたが、野江はなくなった又次が忘れられません。あさひ太夫と又次にはどんな因縁があったのか、本編では描かれなかった経緯が明かされますが、思わずホロリのお話です。泣けてきます。
ただなあ、とてもいい話なのですが、女性である作者が描く男性像はどうも「陰のある不良っぽい喧嘩も強い男」>「誠実だが腕力は弱い優しい男」という傾向があるようです。うーむ、野球の「ハンカチ王子」は「男の子への無言の圧力の構造」をあらわにした(*3)ためにインパクトがあったのでは。又次と辰蔵の対比は、どうもこの類型にあてはまってしまうようで、作劇術のうちとはいえ、いささか残念な面もあります。
第4話:「月の船を漕ぐ〜病知らず」。大阪でのコレラの流行になすすべもなく患者を助けることができなかった夫・源斎先生の無力感・絶望感を支えることができない妻・澪の苦悩のお話です。流行性の疫病に対して漢方医が無力であったことは、「仁〜JIN〜」の南方先生の登場まではいたし方ないことではありますが(^o^)/、そうか、味噌汁の味噌の味が決め手でしたか。たしかに、同郷の夫と妻は多少の好みの相違はあれど基本的な美味しさの基準はよく似ていることが多いものです。年を取ると、食の好みの類似性というのは大事な要素の一つ。まあ、そういう味覚に飼いならされただけという説も一部にはありますが(^o^)/
いずれにしろ、長く続いたシリーズの後日談や明らかになっていなかった秘密が明かされる、ファンにはたいへん嬉しい一冊でした。高田郁さん、ありがとう!
(*1):高田郁『みをつくし料理帖』シリーズ
『八朔の雪』、『花散らしの雨』、『想い雲』、『今朝の春』、『小夜しぐれ』、『心星ひとつ』、『夏天の虹』、『残月』、『美雪晴れ』、『天の梯』
(*2): ブログ「読書と映画とガーデニング」
(*3): 男の子とハンカチ、あるいは非言語的メッセージ〜「電網郊外散歩道」2006年8月
野江と又次、それに摂津屋との関係は、ほんとに因縁でしたね。そこで辰蔵さんがビビったら話にならないわけで、勇気ある判断、良きかな。
ハンカチ王子が引退するのだとか、甲子園をわかせたのはそんなに前だったかと、思わず遠い目になりました。
本当にこれで御終い。ありがとうございました、です。
>「陰のある不良っぽい喧嘩も強い男」>「誠実だが腕力は弱い優しい男」
確かに。現実は逆ですけどね(*^^)v
磐音は誠実で優しくて腕力もあり喧嘩も強い、最高ですよね(笑)
そういえばかのハンカチ王子は引退とか。
彼の良さはサッパリ分かりませんが彼なりの苦労はあったのでしょうね。
https://blog.goo.ne.jp/mikawinny/e/3ae2a34b14740bd916806fa9140364a8