電網郊外散歩道

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童門冬ニ『小説 上杉鷹山』(上)を読む

2006年04月27日 21時01分06秒 | 読書
職場の同僚の子息がこの春に米沢興譲館高校に入学したという。入学式での校長の式辞が、上杉鷹山が細井平州を招き、藩校・興譲館を再興した場面を紹介し、「少し難しい話だったかもしれない。だが、若い人には少し難しい位でちょうど良い。難しいことに挑戦してほしい」とむすんだとのことだった。米沢の人の中には、上杉鷹山公は今も心の中に生きていると言うことだろう。

上杉鷹山は、幕藩時代の君主としては異色の存在だろう。若い頃、内村鑑三が『代表的日本人』の中で取り上げているのを読み、この地味な君主に興味を持った。その後、老父が学陽書房刊の本書を購入し読んでいるのを見て、私も借りて読んでみた。ビジネス書によくあるような美化した表現は気になったが、上杉鷹山という人間が実際に生きた偉さ・面白さは充分に感じられた。

上巻では、日向高鍋藩から養子に入った上杉治憲(はるのり)が、財政危機の米沢上杉藩の家臣団の中で、主流から外れた冷飯組のうちこれはと思った者を抜擢し、江戸屋敷から財政改革を始める。奥女中をばっさり整理し、虚飾を排し勤倹節約につとめる中で、国許である米沢藩を変えて行こうとする。改革の志に賛同する者もいるが、抵抗する者もいる。抵抗勢力のクーデター未遂事件までが描かれる。

物語があまりにも鷹山公を美化し過ぎではないか、という気もしないではない。だが、米沢市のあちこちにある史跡には、鷹山公の事績が今も残っている。「伝国の辞」の思想的ルーツは中国にあるとはいえ、

一、国家は先祖より子孫へ伝候国家にして我私すべき物にはこれ無く候
一、人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこれ無く候
一、国家人民の為に立たる君にて君の為に立たる国家人民にはこれ無く候
右三条御遺念有るまじく候事

という遺訓を、フランス革命に先立つこと二世代前の1785年に、世子・治広に残したという事実は打ち消すことができない。Wikipediaの記述(*)は、このへんの評価を客観的に述べていると思う。
(*):Wikipedia に見る「上杉鷹山」の記事

写真は、童門冬ニ『小説 上杉鷹山』と文春文庫の藤沢周平『漆の実の実る国』。どちらも上杉鷹山を描いているが、本書の方が偉人伝ふうの傾向が強い。
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2 コメント

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上杉鷹山 (望 岳人)
2006-04-27 22:17:30
こんばんは。昨年読んだ時の記事からトラックバックさせてもらいました。童門冬二氏の著作は、ビジネス書的に読まれることが多いようですね。この人の文庫本のシリーズで、二宮尊徳、直江兼続を主人公にしたものをその後読みました。
望 岳人 さん、 (narkejp)
2006-04-28 07:17:17
コメント、トラックバックをありがとうございます。今下巻を読んでいますが、藤沢周平のとらえ方との違いも興味深く感じられます。

>この人の文庫本のシリーズで、二宮尊徳、直江兼続を主人公にした

そうですか、すでに文庫になっているのですね。直江兼続は藤沢周平も『密謀』という作品で描いており、これも面白かった。童門氏が近江商人をどんなふうに描いているのか、ちょっと興味がもたれます。

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