電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第203回定期演奏会「ペテルブルクの栄光」を聴く

2010年03月14日 07時02分35秒 | -オーケストラ
週末の土曜日、確定申告の書類をようやく完成・提出し、税務署から県民会館へまわりました。ホールではすでにプレ・コンサート・トークが始まっており、指揮者の広上淳一さんと第1ヴァイオリンの城さんと本日のソリスト高木和弘さんの三人が話をしていました。話題は、父娘関係について。広上さんは、まだお子さんが小学生なのだそうで、仕事で休日に家にいないものだから、父娘関係が「微妙」なのだそうな。「大きくなると修復できるものですか?」と城さんに質問すると、「はい、自分も同じ仕事をするようになって、お父さんも苦労してたんだなぁ、と。」
広上さん、今度は高木さんに振ります。高木さん「グラズノフの協奏曲は、実は初めて。京都まで行って、師匠の森先生に見ていただいたり、せいいっぱいやりました。アラもあるかもしれないけど、聴いてください」とのこと。広上さん、「今、彼はいい演奏してますよ~」とのことです。ずいぶんラフな服装の広上さん、最後に「ちゃんと着替えて来ますから」と客席の笑いをとっていました。

本日のプログラムは、

(1) グリンカ 「カプリッチョ・ブリルランテ(ホタ・アラゴネーサ)」
(2) グラズノフ 「ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82」
(3) リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」作品35
指揮:広上淳一、独奏ヴァイオリン:高木和弘

の3曲。「ペテルブルグの栄光」というテーマのとおり、ロシア音楽を集めたプログラムになっています。

ステージ上には、左から右へ第1Vn、第2Vn、チェロ、ヴィオラが並び、その横にコントラバスが4本。中央部奥の方へ、ピッコロ、フルート、オーボエ、その奥にクラリネットとファゴット、さらにその奥へ金管楽器群が並びますが、やや大ぶりのバス・トロンボーンとチューバが目立ちます。左手には、手前からハープ、各種パーカッション、奥にティンパニが配置。コンサートマスター席には、犬伏亜里さんが座りますが、客演奏者の方も入っているようで、いつもとは顔ぶれがやや違うところもあるようでした。

さて、最初はグリンカの「カプリッチョ・ブリルランテ(ホタ・アラゴネーサ)」から。アラゴン風ホタ舞曲による輝かしい奇想曲、といった意味でしょうか。寒かったのか、出だしの金管がやや不安でしたが、弦楽が入るころから調子が出てきます。広上さんの指揮ぶりも、見ていると棒の振り分け方がおもしろく、実に楽しそうです。シンバルも加わって、最後は賑々しく終わります。LPやCD等を含めて、今回、初めて聴きました。レコード盤歴は長くとも、意外にこういう小曲は親しむ機会が少ないのかもしれません。

チューニングのあと、本日のソリスト・高木和弘さんと指揮者の広上さんが登場。グラズノフのヴァイオリン協奏曲です。1904年の作といいますから、文字通り20世紀初頭の作品。前半は、旋律が美しく、オーケストラの響きも叙情的なものです。カデンツァは素晴らしかった。聴衆がしーんとして、聴きほれているのがわかりました。後半は、帝政ロシアの盛装した正規兵の登場みたいにオーケストラが入ってくると、活発なリズム、技巧的なパッセージも頻出し、現代性は後退するかわりに、伝統に直結したものを感じます。なるほど、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番も、この伝統の上にあるのだな、と納得。

拍手に応えて、高木さんもちょっと迷ったふうでしたが、アンコール。なんと、ヴァイオリン一本でシューベルトの「魔王」を。うーん、初めて聴きました。思わず絶句!
長さ的にも重さ的にも、ちょっとアンコールの曲ではなくて、正直リサイタルの曲目のような気もいたしますが、でも当日の客としては、なんだか得したような気分です(^o^)/

休憩時間にロビーで熱いコーヒーをいただき、後半のプログラムは、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」です。この曲の背景(*)については、以前にも記事として取り上げたことがありますが、今回は高木和弘さんがコンサートマスター席に座ります。隣の犬伏さんとニコニコ話をしている高木さん、本日も大活躍ですね。

第1楽章:「海とシンドバッドの船」、チューバ、バス・トロンボーンの威力を感じさせる開始です。冒頭のヴァイオリンとハープの旋律が聞こえてくるだけで、もう気分はアラビアンナイトの世界。広上さんの指揮は、寄せては返す海の波のような堂々たるテンポで、オーケストラの響きは澄んでおり、健気で清純なシェエラザード姫のようです。決して脂粉の香りぷんぷんの妖艶な女性ではありません(^o^)/
第2楽章:「カランダール王子の物語」。再びヴァイオリン・ソロとハープから。高橋さんのファゴットがお見事!この旋律が、けっこう好きなんですよ~。オーボエ、ヴァイオリンと受け継がれ、やがて金管の進軍ラッパ(?)が聞こえてきます。弦のピツィカートの中で、見事なクラリネット・ソロ。ゆっくりした進軍ラッパが次第に速度を増してきます。弦のピツィカートの中で、ファゴットとピッコロ&フルートの鋭い音の対比。フルートにも、女性の客演奏者が入っているようです。高木さんのヴァイオリンからホルンへ、そしてチェロへと旋律は受け継がれ、曲は大きく盛り上がって終わります。
第3楽章:「若い王子と王女」。ああ、いい音色です。山響の弦の魅力です。コントラバスとチェロのパートが、気持ちよさそう。ヴィオラも加わり、フルートの名技の中でヴァイオリンも参加し、波が寄せてくるように奏されます。小太鼓とトライアングルをバックに、リズミカルな曲調に変わると、少しだけヴィヴラートをかけた高木さんのヴァイオリンとハープの対話が再現され、洒落て終わります。そうですね、高木さんのシェエラザード姫は、手練手管の年増タイプではなく、少女から大人の女性に移ろうとする頃のような、健気でチャーミングな印象かも(^o^)/
第4楽章:「バグダッドの祭、海、青銅の騎士のある岩にての難破、終曲」。オーケストラがフルに活躍。色彩的な管弦楽の世界です。鳴り物も要所で活躍。作曲者は、軍楽で頻繁に使われたためか、小太鼓が好きのようですね。指揮者は全休止を効果的に使い、テンポをはやめて興奮と緊張感を高める手法を取っていると見ました。バスドラムの低音がズズンと腹に響き、大岩にくだける波や雷鳴、難破を表しているのでしょう。やがて、シェエラザード姫と王の和解が成ります。めでたしめでたし。拍手、拍手です!

なかなか拍手が止まない中、指揮者の広上さん、ソロを担当したクラリネット、ファゴット、オーボエ、フルート、ホルン、トロンボーン、トランペット、ハープ、チェロ、そしてヴァイオリン(高木さん)を立たせて、拍手を受けさせます。その後、オーケストラ全員を起立させ、努力を讃えます。で、広上さんご自身は?「ボクは帰っていっぱいやって寝るよ!」というようなポーズを見せて、聴衆の笑いの中で退場していきました。ああ良かった、楽しかった!いい音楽を聴きました。広上さんには、ぜひまた登場していただきたいものです。

写真は、ファン交流会でインタビューに答えている様子。なにせテーマが「ペテルブルクの栄光」ですから、すごい完全防寒スタイルでも寒い寒いを連発していましたね。そうかなぁ、当方はだいぶ暖かくなってきたと感じているんですけれど(^o^)/



(*):リムスキー=コルサコフ「シェエラザード」を聴く~「電網郊外散歩道」
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