電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ヤナーチェク「タラス・ブーリバ」を聴く

2007年06月03日 15時16分01秒 | -オーケストラ
娘と孫が来ていますので、早朝からスピーカで音楽を、というわけにはいきません。携帯音楽CDプレイヤーで、ヤナーチェクの「タラス・ブーリバ」を聴きました。孫が昼寝をしている午後に、デザートを食べながら聴き、本稿を書くためにまた聴いて確認し、という具合で、何度も聴きました。

演奏は、ラファエル・クーベリック指揮のバイエルン放送交響楽団。1970年にミュンヘンで録音された、ドイツ・グラモフォン原盤のユニヴァーサル盤(UCCG-3961)で、「シンフォニエッタ」や、ヤナーチェク紹介に功績のあったルドルフ・フィルクシュニーのピアノで「コンチェルティーノ」等が併録されています。

第1曲、アンドレイの死。コサック軍の隊長タラスの次男アンドレイは、包囲した町に、かつてキエフで恋仲だったポーランド貴族の娘がいることを知ります。地下道を通って餓死寸前の恋人を救い、余儀なくコサック軍に敵対する立場に。しかし、父ブーリバの命に従い、馬から降りて銃殺される、というお話。
全体に重厚で悲劇的な曲想ですが、美しい調べもあり、とても第一次大戦の頃の作品とは思えません。
第2曲、オスタップの死。騎馬戦に敗れて捕らえられた長男オスタップは、ワルシャワの刑場に引かれて行き、処刑されようとしています。苦しみの果てに父を呼ぶ声に、群集にまぎれていたブーリバが「ここにいるぞ!」と叫んだとき、息子の首がはねられます。
始まりは刑場に引かれて行く重いリズム。その後に続くマズルカ等の舞曲は、勝利にわくポーランド軍の踊りが表されているのでしょうか。
第3曲、予言とタラス・ブーリバの死
二人の息子の弔い合戦にのぞんだブーリバも、奮戦むなしくとらえられ、火刑に処せられます。ポーランド軍の歓喜の中で、タラス・ブーリバはロシア人民の不滅を予言し、昇天します。
悲劇的に高揚する音楽、オルガンも加わる中で、ティンパニのリズムが炸裂します。実にアジテイティブな要素を持った音楽です。演奏会場ならばともかく、興奮する群集の中ではあまり聞きたくない音楽かもしれません(^_^;)>poripori

ヤナーチェクは、オーストリア・ハンガリー帝国の支配に対して反発し、汎スラブ主義に近い立場から民族主義に共感し、ロシアびいきの面もあった(*)のだそうで、この曲もゴーゴリの原作「隊長ブーリバ」をもとにしたものです。作曲者自身、30代半ばで自分の息子を失う経験をしており、心情的に共感するところもあったのかもしれません。しかしこの頃は、まさかそのロシアが、戦車で祖国を蹂躙するとは思いもよらなかったでしょう。第一次大戦の最中の時期に、祖国独立の思いを重ねて書かれ、新生チェコスロヴァキア共和国軍に捧げられました。初演は、戦争が終結して三年後の1921年、ブルノ国民劇場オーケストラにより、とあります。

以前、ヤナーチェクの音楽は素晴らしいが、本人はずいぶんヘンな人だ、という記事(*2)を書きましたが、どうしても息子がほしいヤナーチェクの一念は、失った息子に対する思いもあったのでしょうか。

あいにくほかの演奏を知りませんが、クーベリックの演奏は、重厚で悲劇的で、迫力と美しさとを兼ね備えた名演だと思います。録音も充分に鮮明で、楽しめるものだと感じますが、今日はスピーカで音量を上げて聞くのは我慢、我慢。

■クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団
I=8'16" II=5'04" III=8'58" total=22'18"

(*):狂詩曲「タラス・ブーリバ」
(*2):ヤナーチェク「シンフォニエッタ」を聞く


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