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電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

アンサンブル・ピノ第1回定期演奏会

2007年05月20日 21時59分00秒 | -室内楽
山形に、また新しく室内楽アンサンブルの定期演奏会が誕生しました。これまで、山形弦楽四重奏団の定期演奏会でプレコンサートを開いてきた「アンサンブル・ピノ」の、記念すべき第1回目の定期演奏会。会場は、大正期の旧県庁・旧県会議事堂を復元した、いつもの文翔館議場ホールです。

プログラムは、

(1)カンビーニ、3つの協奏的弦楽三重奏曲 第1番 ヘ長調
(2)タネーエフ、弦楽三重奏曲 ニ長調、作品21
~休憩~
(3)ドヴォルザーク、弦楽三重奏曲 ハ長調、作品74

となっています。城香菜子さん(Vn)は、サーモンピンクというか肌色というか、ふわりとした半そで姿で、黒瀬美さん(Vn)はダークグレーのワンピース・ドレスで、田中知子さん(Vla)は黒のパンツに上はあざやかな赤色。女性の服装は詳しくありませんので間違えているかもしれませんが、室内楽らしい、くつろいだ親密な雰囲気を意図しているのでしょうか。プログラムの解説は、山形弦楽四重奏団の Lavio さんが書いています。

最初のG.カンビーニ「3つの協奏的弦楽三重奏曲第1番ヘ長調」は、モーツァルトと同時代の古典派の作曲家だそうです。第1楽章、アレグロ・コン・ジュスト。第2楽章、ロンド、アレグレット。城さんが第1ヴァイオリンを担当します。流麗で心地よい音楽に、イタリア出身でパリで活躍したという経歴を納得しました。
次のセルゲイ・イヴァノヴィッチ・タネーエフは、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、第2番を世界初演したピアニスト、作曲家、教育者だそうです。第1ヴァイオリンを黒瀬さんが担当。カンビーニとは異なり、旋律性よりも構築性に重点を置いた音楽のようです。

休憩の後、ドヴォルザークの弦楽三重奏曲。ドヴォルザークらしいリズミカルなメロディが豊富で、低音楽器のない編成なのに、旋律と響きの魅力で、美しいチャーミングな音楽になっています。特に、低音を受け持つヴィオラの役割が大きいと感じます。城さんが第1ヴァイオリンを担当。3人のレディの演奏に対してヘンな連想ですが、ドヴォルザークのこの音楽、ボヘミアの宿屋に町の音楽好きのおっさんたちが集まり、一杯機嫌で演奏を楽しむような、そんな印象を持ちました。

アンコールには、ドヴォルザークの「四つの小品」から第1曲と、日本の唱歌から2曲。「ふるさと」「おぼろ月夜」です。ヴァイオリンのおけいこ中らしい小さなお嬢ちゃんも大喜び。老人ホームなどで演奏したら、泣かれるかもしれません。アットホームな、いい演奏会でした。


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ドヴォルザーク「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ」を聴く

2007年05月05日 18時34分22秒 | -室内楽
五月の晴天に誘われて、一日車で出かけてきました。帰宅してから、ゆっくりと音楽を聴いております。ヨゼフ・スークのヴァイオリン、アルフレッド・ホレチェックのピアノで、ドヴォルザークの「ヴァイオリンとピアノのための作品全集」より、ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ、ト長調、作品100です。

この曲が書かれた1893年というのは、アメリカ滞在期の最後の頃、秋から冬にかけてのニューヨークで、彼の子どもたちのために書かれたとのこと。子煩悩なドヴォルザークらしいエピソードです。

第1楽章、アレグロ・リゾルート。ちょっと聴いた印象ではシンプルな主題と音楽ですが、何度も聴くうちに、いやぁ、素晴らしい音楽です!
第2楽章、ラルゲット。ゆったりしたテンポで、ヴァイオリンとピアノが、ややメランコリックなメロディを歌います。「インディアン・ラメント」として有名なのだそうですが、そういえば、ヨーヨー・マの「愛の喜び」というCDに、同じメロディの曲があったなぁ。クライスラーの曲だとばかり思っていました(^_^;)>poripori
第3楽章、スケルツォ:モルト・ヴィヴァーチェ。ヴァイオリンのリズミカルなメロディ。ギコギコ一生懸命ひくヴァイオリンをピアノが支え、軽やかな旋律を対比するのも、可愛いらしく子どもがヴァイオリンを演奏する様子を想像させ、面白い。
第4楽章、フィナーレ:アレグロ。明快で生き生きしたリズム、魅力的な旋律。子ども向けの音楽とはいえ、見た目はやさしいがレベルは決して落としていない、そういう音楽のように感じます。

スークのヴァイオリンは端整で美しく、くずした感じは皆無です。ホレチェックのピアノもぴったり息があっていて、文句なし。デュオのお手本のような演奏と言ってよいのでしょうか。1971年の6月末~7月初めにかけて、プラハのドモヴィナ・スタジオでアナログ録音された、スプラフォン原盤の2枚組。現在は、DENONのクレスト1000シリーズで、1500円で入手できる(COCO-70545/6)ようになりました。単価がなんと@750円、昔のLPニ枚組5000円やCD一枚3800円時代を知っている者にとっては、なんともありがたいことです。

■スーク(Vn), ホレチェック(Pf)
I=5'55" II=4'35" III=2'49" IV=6'26" total=19'45"

それにしても、ピアノの「惚れチェック」さんという漢字変換には、ひさびさに笑いました。(^_^)/
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シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」を聴く

2007年04月29日 14時42分14秒 | -室内楽
カップリングの妙、というのがあります。片方が聴きたくて購入して、他方の魅力にも気づいてしまう、というケースは、意外と多いものです。私の場合、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」にふれたのは、まさにこれでした。

若い頃、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」を聴きたくて、日本コロムビアの「ヒストリカル・レコーディング1000シリーズ」から、スメタナ四重奏団による演奏、HR-1002-SというLPを購入し、モノラル音源ながら、力強さや深刻さ、とりわけ第2楽章の旋律にまいってしまったのでした。当時購入した音楽之友社のポケットスコアの奥付には昭和45年とありますので、このLPの発売時期も、昭和46年頃か、たぶんそのあたりでしょう。



第1楽章、ニ短調、アレグロ。四部一斉の長い音符と激しい三連音で印象的に始まります。これって、ベートーヴェンの「運命の動機」をひっくり返すか、頭に長い音符を付け加えたような感じです。第2主題は対照的に優美なヘ長調。コーダは第1主題に基づくもので、最後はチェロが低く運命の動機ふうの音型を優しく呟いて終わります。
第2楽章、アンダンテ・コン・モルト。歌曲の「死と乙女」のピアノ伴奏部を中心に作られたものといいますが、はじめの旋律を繰り返した後で、かけあがる旋律の切実な美しさ。これが繰り返されて、やがてチェロの旋律がヴァイオリンに移り、繊細な音楽になり、最後にpppで主題が奏され、dimしcrescしてpで終わります。この終わり方が、なんとも魅力的です。
第3楽章、スケルツォ、アレグロ・モルト。ごく短い楽章です。テーマは第1楽章の第1主題を想起させるもので、トリオ部の優美さは生の美しさでしょうか。
第4楽章、プレスト。譜面を追いかけるのも大変です。死の主題と生の主題が入れ代わり拮抗するように出現し、特にヴァイオリンに現れる旋律の切実な美しさは特筆ものでしょう。Prestissimoと指示された終結部の劇的な激しさは、思わず息を飲むほどです。

シューベルトが若死した理由として、彼の家族全体が慢性の水銀中毒に侵されていたこと、おそらく梅毒の水銀療法が致命的だったこと、などが指摘(*)されます。乙女は生への憧れや渇望と見ることもでき、死を直視する絶望が深いだけに、美しい旋律にはある種のいたましさをさえ覚えます。

スメタナ四重奏団の演奏も、年代によって変わっているようです。1950年代前半と思われるモノラル録音では、どの楽章もじっくりと表現していますが、日本での演奏会をライブ収録したステレオ録音では、全般に速目のテンポで、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。特に、偶数楽章の違いが顕著です。

■スメタナ四重奏団 (モノラル録音)
I=11'20" II=11'25" III=3'25" IV=10'05" total=36'15"
■スメタナ四重奏団 (ステレオ録音)
I=11'06" II=10'19" III=3'14" IV=9'02" total=33'41"

(*):シューベルトの本当の死因は?~シューベルトの死の真相に迫る~
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スークとルージイッチコヴァの演奏でヘンデルのヴァイオリン・ソナタ集を聴く

2007年04月23日 06時45分09秒 | -室内楽
ヨセフ・スーク(Vn)とズザナ・ルージイッチコヴァ(Hrpsc)の演奏で、G.F.ヘンデルのヴァイオリン・ソナタを聴きました。1975年の6月末と7月初に、フランスのトゥール近郊のベルナディエールのグランジェにて、とあります。DENON最初期のPCMデジタル録音です。

ヘンデルのヴァイオリン・ソナタは、いずれも伸びやかで、聴いているとゆったりした気分になります。特に季節の良い時には、気分のいいものです。スークのヴァイオリン「レスリー・テイト」(1710年製ストラディヴァリ)の音は、彼の新しい録音に比べると、ごくわずかですがきつく感じられるところもありますので、音量は抑え目にします。このあたりは、A/Dコンバータも手作りだった初期デジタル録音特有の、機器の技術的な制約によるものかもしれません。

全部で12曲あるというヴァイオリン・ソロのためのソナタが本当に全部がヘンデル作のものかどうか、疑問視されているようですが、このCDではヘンデル作とされている(らしい)次の6曲が収録されています。

ソナタ 第1番 イ長調、作品1の3
ソナタ 第2番 ト短調、作品1の10
ソナタ 第3番 ヘ長調、作品1の12
ソナタ 第4番 ニ長調、作品1の13
ソナタ 第5番 イ長調、作品1の14
ソナタ 第6番 ホ長調、作品1の15

どれもすてきな音楽ですが、特にお気に入りは、いかにもヘンデルらしい伸びやかな出だしの第1番イ長調と、印象的な第1楽章アフェットゥオーソを持つ第4番でしょうか。ルージイッチコヴァのハープシコードはリズムがとても清潔・明快です。時折低音で切り込むような強さを見せると、高音でヴァイオリンが美しく奏され、対照的な効果を示します。実にいいコンビです。

発売当時、3300円の正規版で購入した高価なCD(33CO-1584)でしたが、今ではクレスト1000シリーズに入るなど、手軽に聴けるようになっているようです。耳元でガンガン鳴らすのには向きませんが、部屋で静かにヘンデルのヴァイオリン・ソナタを楽しめる、いい演奏だと思います。

写真は、今が花盛りの、わが家の水仙です。
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山形弦楽四重奏団第23回定期演奏会を聴く

2007年04月19日 20時26分00秒 | -室内楽
昨晩、山形市の文翔館議場ホールで行われた、山弦こと山形弦楽四重奏団(*1)の第23回定期演奏会に行ってきました。これまで何度も機会を逃し、今度こそ!と出かけたものです。18時の開場後、18時15分からアンサンブル・ピノ(*2)のプレコンサートがあり、タネーエフの弦楽三重奏曲ニ長調、作品21の第3楽章と第4楽章を聴きました。アンサンブル・ピノは、山形交響楽団員の黒瀬美さん(Vn)、城香菜子さん(Vn)と田中知子さん(Vla)の3人が結成した珍しい編成の弦楽トリオです。5月20日(日)18時30分から、この曲を含む第1回定期演奏会を、同じ議場ホールで開催するということです。

本番の山弦第23回定期のほうは、中島光之さんのプレトークから。今日のプログラムは、

F.J.ハイドン 弦楽四重奏曲ニ短調、作品103「遺作」
佐藤敏直 弦楽四重奏曲のための「モルト・アダージョ」
L.V.ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第8番ホ短調、作品59-2「ラズモフスキー第2番」

となっています。ハイドンのほうは、このカルテットが68曲全曲演奏を目指しているもので、毎回プログラムに取り上げています。佐藤敏直さん(1936~2002)は、山形県鶴岡市の生まれで、疎開時に鶴岡に過ごし、音楽三昧の生活を送ったもよう。鶴岡三中時代に出会った音楽の三井直先生の影響が大きく、慶応で電気工学を専攻しながら作曲を志したとのこと。日本音楽コンクール作曲部門審査員等を歴任した方だそうで、合唱曲などでお名前を拝見したことはあるような気がしますが、室内楽作品を聴くのはもちろん初めてです。今回は、夫人のご協力で楽譜を入手したとのこと、初演したイソ弦楽四重奏団もそうですが、作曲家の郷里で地道な活動を続けるカルテットが取り上げる、意義ある演奏会と思いました。

さて、ハイドン「遺作」は、駒込綾さんが第1ヴァイオリンをつとめ、第1楽章はゆったりしたアンダンテでいかにもハイドンらしい音楽、しかし第2楽章は悲しげな緊張感もある作品です。ハイドンの弦楽四重奏曲が大好きな私には貴重な実演に接する機会です。嬉しい。

続いて佐藤敏直さんの作品。中島光之さんが第1ヴァイオリンをつとめます。倉田さんのヴィオラが静かに始まり、茂木さんのチェロがバゥンと入ります。民謡の歌いだしのようです。ヴァイオリンが入ってくると、厳しい不協和音やチェロの激しい力強い音なども展開され、訴える力の強い音楽です。内面の激しさが感じられます。
解説によれば、「ニューヨークでピカソの『ゲルニカ』を見たときの驚きが丸木夫妻の原爆の図と重なって、一つのレクイエムとして発想された」曲とのこと。統一地方選挙で選挙カーが走る中、核兵器廃絶を訴えた市長が撃たれ亡くなるという事件に哀悼の意を捧げる音楽のようにさえ感じました。

実は、この演奏会には佐藤敏直さんの奥様が参加されており、演奏のあと中島さんが紹介すると、会場から大きな拍手がおくられました。この曲は、来月の藤島での演奏会でも取り上げる予定とのことです。



写真は休憩時の様子ですが、この後の3曲目はベートーヴェンの「ラズモフスキー第2番」です。
第1楽章、アレグロ。始まりの「ジャッ・ジャッ」というたたきつけるような和音が厳しい緊迫感を感じさせ、続く音楽も、なにか荒々しい印象です。
第2楽章、モルト・アダージョ。バッハのコラールのような息の長い旋律がたっぷりと奏されます。技術的なことはわかりませんが、たんに歌っているだけではなくて、何か作曲上の複雑なことをやっていそうな雰囲気です。
第3楽章、スケルツォ、アレグレット。中間部の主題にロシア民謡が取り上げられているのだそうです。依頼者のラズモフスキー伯へのサービスでしょうか。
第4楽章、プレスト。ギャロップのような速い快活な音楽。とにかくエネルギッシュで、スタミナを要求される音楽のようです。演奏の四人も真剣な表情で、第2ヴァイオリンとヴィオラのかけあいなど、第1ヴァイオリンやチェロなどの「歌う」パートだけでなく、アンサンブルの面白さを満喫できました。

アンコールは、再び駒込さんが第1ヴァイオリンに代わり、ハイドンの作品77の1の弦楽四重奏曲の第1楽章を。次回の予告にもなっているのかなと思ったら、番号が1つ違いました。

実はこの演奏会、聴衆のほうがなんとも国際的で、あちこちで英語がとびかうのが聞こえました。たいへん落ち着いた雰囲気で、年配者も多いのですが、見たところ若い人も少なくないようです。もっとも、若いといっても30代以上ですけれど。
実際、ホールの入口からお手洗いに通じる途中の部屋に託児所が設けられており演奏家の人たちだけでなく、、若いお母さんも室内楽を楽しめるようになっているようでした。このあたりも、スゴイなぁ、と思います。

その次回の予定は、

7月8日(日)、14時開演、文翔館議場ホール、全席自由、1000円。
【曲目】
スメタナ 弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」
モーツァルト 弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80(73f)「ローディー」
ハイドン 弦楽四重奏曲ト長調、作品76-1

となっているそうです。今から楽しみです。

(*1):山形弦楽四重奏団の公式ページ
(*2):アンサンブル・ピノの公式ページ
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フォーレ「ピアノ四重奏曲第1番」を聴く

2007年04月08日 07時18分47秒 | -室内楽
風邪をひいて寝ている間は、深刻な音楽は頭痛にひびきます。とはいうものの、ラジオの、毒にも薬にもならないおしゃべりも、さすがに終日となると飽きてしまいます。

で、昔よく聴いたフォーレの室内楽を、枕元のCDラジカセで繰り返し聴きました。演奏は、ジャン・フィリップ・コラール(Pf)、オーギュスタン・デュメイ(Vn)、ブルーノ・パスキエ(Vla)、フレデリック・ロデオン(Vc)、EMIの廉価2枚組のCDです。

第1楽章、アレグロ・モルト・モデラート。付点リズムの第1主題の魅力的なこと!以後、この主題が何度も姿を変えて出てくるのを探すのが面白く楽しいものです。フォーレの和声の魅力は、初期のころから持っていたもののよう。
第2楽章、スケルツォ。軽やかなピアノに乗って、例の主題が変奏されます。曲は、終わったかな~と思うとまた始まり、トリオ部へ。
第3楽章、ピアノと弦の低~内声部の静かな対話で始まるアダージョ。ヴァイオリンが入ってくると、ピアノを含めた美しい歌謡的な音楽に変わります。
第4楽章、アレグロ・モルト。出だしはやっぱり例の主題のリズムです。第2主題も登場し、活気ある音楽の最後は、力強いピアノがしめくくるように活躍して終わります。

このピアノ四重奏曲第1番は、1876年~79年頃に書かれたらしいとのことですが、作曲者フォーレが30代はじめ頃でしょう。Wikipediaによれば一方的に婚約を破棄された時期の作だとか。ベートーヴェンやシューマンなら、交響曲第1番やピアノ協奏曲第1番、あるいは交響曲第1番「春」など晴れやかな音楽を書いていた頃でしょうから、どこか憂愁を感じさせるのはそのせいでしょうか。この曲を聴くとき、時に軽薄に傾くきらいはあったが軽やかだった、自分の若かった時代をふと思い出してしまう、優れた作品だと思います。

このCDで残念なのは、素晴らしいピアノ五重奏曲第1番が、第1楽章だけCD-1に収録され、以後の楽章がCD-2に泣き別れしていること。若い頃に苦労して買い求めた五枚組LP、ジャン・ユボーらの「フォーレ室内楽全集」では、ちゃんとピアノ四重奏曲が一枚の裏表に収録されています。こんな非音楽的なカップリングを誰が決めたんだ~!といきまいても、裏面を確かめなかったアンタが悪い、と言われるんでしょうなぁ。
でもまぁ、風邪をひいて枕元でLPを聴くことはできませんので、ピアノ五重奏曲第1番はあきらめます(^_^;)>poripori

■ジャン・フィリップ・コラール(Pf)盤
I=9'47" II=5'39" III=8'14" IV=7'54" total=31'25"
■ジャン・ユボー(Pf)、レイモン・ガロワ=モンブラン(Vn)、コレット・ルキアン(Vla)、アンドレ・ナヴァラ(Vc)盤 (Erato ERX-7204~8)
I=9'07" II=5'34" III=7'45" IV=8'09" total=30'35"
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ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」を聴く

2007年03月22日 06時43分23秒 | -室内楽
ときどき雪が降ったりはしますが、日一日と春の気配が濃くなってきています。陽気に誘われて外に出ると、風はまだまだ冷たいけれど、ガラス窓越しの陽光はぽかぽかとあたたかく、まどろみを誘います。こんな日は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを聴きましょう。もちろん、第5番「春」です。

第1楽章、アレグロ。親しみやすい、優雅でのどかなメロディが始まると、思わず気分も明るく晴れやかになるようです。途中、若いベートーヴェンらしいピアノの活躍するところもあり、「春」という愛称がついたのも、もっともな気がします。
第2楽章、アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォ。ヴァイオリンがとぎれとぎれに歌う中を、ピアノが素晴らしい旋律を奏します。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタにおけるピアノの役割の大きさに気づかされます。夢見るような気分に満ちた楽章です。
第3楽章、スケルツォ、アレグロ・マ・ノン・トロッポ。速い動きで上昇し下降する音階風のパッセージが印象的な、とても短い楽章です。
第4楽章、ロンド、アレグロ・マ・ノン・トロッポ。明るいロンド主題と、対比される第2・第3主題の陰影が、単に可愛らしいだけでないこのソナタの、内容的なふくらみになっているようです。

LPの時代に親しんだのは、ジノ・フランチェスカッティ(Vn)とロベール・カザドシュ(Pf)の演奏による、1961年に録音されたLP(CBS-SONY,23AC-522)でした。この華やかで清潔な演奏が、長くこの曲の個人的なスタンダードとなりました。
CDの時代になり、ある郊外型書店が閉店セールを行った際に、初めてナクソスのCDを多数購入しました。この時に入手したのが、今CDで聴いている、西崎崇子(Vn)とイェネ・ヤンドー(Pf)によるナクソス盤です。1989年にブダペストのイタリア協会でデジタル録音されています。演奏は、テンポはややゆっくりと、スケールを感じさせるものです。
いずれも、併録されているのは、同じく第9番「クロイツェル・ソナタ」です。

■ジノ・フランチェスカッティ(Vn)、ロベール・カザドシュ(Pf)盤
I=7'00 II=4'50 III+IV=7'28" total=19'18"
■西崎崇子(Vn)、イェネ・ヤンドー(Pf)盤
I=9'35" II=5'43" III=1'08" IV=6'33" total=22'59"
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ブラームス「クラリネット五重奏曲」を聞く

2007年02月06日 06時31分28秒 | -室内楽
一度は引退を決意した、ブラームス最晩年に作曲された、クラリネット五重奏曲を聴きました。例の、ミュールフェルトという名奏者に出会って一気に創作意欲が高まった、という、モーツァルトと同様のエピソードを持つ音楽です。

演奏は、ウィーン室内合奏団。アルフレート・プリンツ(Cl)、ゲルハルト・ヘッツェル(Vn)、クラウス・メッツェル(Vn)、ルドルフ・シュトレング(Vla)、アーダルベルト・スコチッチ(Vc)というメンバーです。1980年の4月に、ウィーンのポリヒムニア・スタジオで収録された、アリオラ=オイロディスク原盤のアナログ録音。

第1楽章、アレグロ。悲劇的な、しかし激しさと強さを秘めた嘆きの音楽は、クラリネットの調べによりやわらげられているようです。
第2楽章、アダージョ、ピゥ・レント。しみじみと心を打つ、クラリネットの響き。さまざまな民族音楽を研究していたブラームス(*)らしい、どこか民族的なメロディです。
第3楽章、アンダンティーノ、プレスト・ノン・アッサイ、マ・ノン・センティメント。ブラームスは、ミュールフェルトというクラリネット奏者のどこに魅力を感じたのでしょう。どうも、音域により音色が大きく変化する、クラリネットの特徴を存分に生かす演奏技術、というところのように思います。
第4楽章、コン・モト。早朝だと、ちょっともの悲しくなるような旋律。いや、夜ならもっとでしょうか。作曲時のブラームスと年齢的に近くなりましたので、創作力の衰えや意欲の低下などは、他人事ではありません。それだけに、こういうしみじみとした音楽にはほっとするところがあります。

この演奏、実はCDを2枚持っています。1枚はDENONのクレスト1000シリーズのもの。こちらは、ブラームスのクラリネット三重奏曲が併録されています。もう1枚は、同じくDENONのClassic Galleryシリーズの分売品で、ブックオフで入手したもの。モーツァルトのクラリネット五重奏曲に併録されています。組み合わせが異なるため、気分によってどちらかを選び、聴いています。

■ウィーン室内合奏団、プリンツ(Cl)
I=11'55" II=11'35" III=4'44" IV=8'20" total=36'34"

(*):ブラームスが日本の音楽を研究したきっかけ
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シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」を聞く

2007年01月09日 05時42分20秒 | -室内楽
連休最後の午後、シューベルトのチェロ・ソナタ イ短調、D.821、いわゆる「アルペジオーネ・ソナタ」を聞きました。ただし、アルペジオーネという楽器ではなく、現代のチェロによるもので、リン・ハレルのチェロ、ジェームズ・レヴァインのピアノ演奏です。1974年10月に録音されていますが、もちろんアナログ録音。RCA原盤で、レヴァイン指揮ロンドン響とのドヴォルザークのチェロ協奏曲に併録されている、R25C-1012というレギュラープライスのCDです。

第1楽章、アレグロ・モデラート。憂いをおびた第1主題が印象的です。
第2楽章、アダージョ。ゆったりとチェロが奏でる、優しく豊かな音楽。わずかに哀愁を感じさせる抒情的なメロディと、寄り添うようなレヴァインのピアノも美しい。
第3楽章、快活なアレグレットのはずですが、シューベルトの音楽にはデリケートなかげりがあります。

このCD、実はリン・ハレルの演奏に興味があり、求めたものでした。ジュリアード音楽院でレナート・ローズに師事し、チェロを学んでいた青年が、ガンで父を失い、その二年後に自動車事故で母を失います。ロバート・ショウとレナート・ローズの推薦によりクリーヴランド管弦楽団のオーディションを受けた青年は、生活のためにその職についたのでした。若くしてクリーヴランド管の首席奏者となっただけでなく、レナート・ローズの遺産の愛器をゆずられた、というエピソードもまた、彼の実力を示していると思います。このあたりの話は、孫弟子さんの「ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団が好きだ」というHP(*1)で拝見(*2)していました。ジェームズ・レヴァインとともに、いわばジョージ・セルの弟子でもあります。

この対話の中で、リン・ハレルはこんなエピソードを語っています。

オーケストラに職を得ることにより生活の安定を得た青年は、ソリストとしての華やかな生活に少なからず憧れを持ち、オーケストラで演奏することに飽きてしまいます。すると、厳格で知られるセルは若いチェロ奏者を呼び、こんな話をするのです。

"セルは、私がブラームスの第2の第1楽章の第2主題を好きかどうか訊きました。 で、私は好きだと答えました。するとセルはブラームスの3番の第3楽章の最初を好きかどうかと訊きました。 私はまた好きだと答えました。 するとセルはこう言いました。 「まあ、なんだ、わかるだろう、自分一人ではそういうのを弾くことはできんのだよ。 そういうメロディはたくさんの人間で弾くことを想定されて作曲されてるんだ」 その後、オーケストラの曲をどうやって練習したら、チェロのセクション全体のようには弾けないために不満を感じていらいらしたりすることがないようにできるかということを話し合いました。 セルは、こういうものは音楽史上の至宝であるということ、自分が曲全体の中の統合されてかつ重要な一部であると感じることができなければならないこと、そして私がそう感じない限り不満を感じないようにはならないこと、を語りました。 それで私は彼の部屋から晴れやかな顔で出てきました。 なんてすばらしいことだ、オーケストラの中で演奏できてそれを本当に楽しめるなんて! と思ったものです。"

ここには、コンクールを経て有名になり、ソリストとして活躍するのではない、師匠ローズと同様にオーケストラの一員として働きながら経験を積み、音楽を円熟させて行く生き方が示されているように思います。そして、このCDでは、数多のコンクールを勝ち抜いた強者が演奏するのではない、シューベルトの柔軟で優しい音楽を、繊細で透明なチェロの音色で聞くことができます。

ジョージ・セルの没後、翌1971年に彼はクリーヴランドを離れ、ニューヨークでリサイタルを開きますが、お客の入りはさっぱりで、しばらくは鳴かず飛ばずの状態でした。この時に手を差し延べたのが、クリーヴランド管で同僚だった指揮者レヴァインです。ドヴォルザークの協奏曲も立派な演奏であり、このCDは若い彼らの友情の産物でもありましょう。私のお気に入りのCDの一つです。

■リン・ハレル(Vc)、ジェームズ・レヴァイン(Pf)
I=11'06" II=5'14" III=8'28" total=24'48"

(*1):「ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団が好きだ」~孫弟子さんのHP
(*2):リン・ハレルとの対話
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渡辺和『クァルテットの名曲名演奏』をもとに、室内楽を聞く

2006年12月07日 06時53分18秒 | -室内楽
寒い日が続きます。暖かい部屋で、室内楽を楽しむにはかえって良い季節かもしれません。私のブログは、室内楽の記事の比率が比較的多いほうかもしれませんが、それでもまだまだ耳にしたことのない曲が多いものです。先年、田舎の小さな書店で、渡辺和著『クァルテットの名曲名演奏』という本を見つけました。現在も出ているのかどうかわかりませんが、音楽之友社のオン・ブックスという新書判の本です。

著者の渡辺和さんは、ブログ「やくぺん先生うわの空」(*)も主宰する音楽ジャーナリストで、軽妙な筆致で室内楽を主なジャンルとして活動されている方のようです。本書の構成もおもしろいもので、

第1章 これがスタンダードだ
第2章 ここまでは押さえたい
第3章 まだ聴きたいとおっしゃるなら

という章立てになっています。そして、示されている内容も、たとえば第1章なら

ハイドン「ひばり」「五度」「皇帝」、モーツァルト「ハイドン・セット」全6曲、ベートーヴェン「ラズモフスキー・セット」「第13~15番」、シューベルト「死と乙女」、スメタナ「わが生涯より」、ボロディン「夜想曲」、ドヴォルザーク「アメリカ」、ヴォルフ「イタリア・セレナード」、ドビュッシー、ラヴェル、バルトーク「第3~5番」、ヴェーベルン「五つの楽章」、ベルク「叙情組曲」、ショスタコーヴィチ「第8番」、バーバー

という具合です。第2章には、ベートーヴェンなら作品18、シューベルトなら「ロザムンデ」、メンデルスゾーンの第2番と第3番、シューマンの作品41(前3曲)、ブラームスの3曲、ヤナーチェク「ないしょの手紙」といった具合に、定番とは言いがたいが次に親しまれているものが解説されています。

こういう本は、CDを集めたり次に聞く曲を選んだりするときの手がかりになるという意味で、コンパクトでたいへん便利なものです。今朝は静かにハイドンを聞いておりますが、「まだ聴きたいとおっしゃるなら」という挑戦的な(?!)フレーズにつられて、エルガーやディーリアスやマックス・レーガーなどの渋いところや、クルタークやシュニトケなどの音楽に興味を持ったりすることが、今後あるかもしれませんし。

(*):「やくぺん先生うわの空」
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エルガー「愛の挨拶」を聞く

2006年12月05日 19時10分35秒 | -室内楽
年末は何かと気ぜわしくあわただしいのですが、こういうときに室内楽の小品を聞くとほっとします。たとえばエルガーの「愛の挨拶」など。

1888年に作曲されたこの曲は、もともとピアノ曲だったそうですが、ピアノ伴奏つきのものや、オーケストラにも編曲されているとのこと。私がよく聞くのは、「ヴォカリーズ~ヴァイオリン名曲集」(*)というタイトルのチー・ユン(Vn)と江口玲(Pf)の演奏(DENON COCO-70458)と、最近入手したグラモフォンのパノラマシリーズから、エルガー作品集です。こちらはギル・シャハム(Vn)とオルフェウス室内管弦楽団の演奏(UCCG-3807/8)。

解説によれば、なんともチャーミングなこの曲、結婚を前にアリス・ロバーツ嬢に捧げるために書かれたのだとか。ところが献呈はキャリス嬢になっているそうで、実はキャロライン・アリス・ロバーツ嬢の愛称が「キャリス」だった、というおちがついていました。

音楽は、若者らしい愛と善意にあふれたもので、聞いているあいだはしばしの幸福な時間となります。チー・ユンが速めのテンポで演奏する「キャリス嬢」は、さしずめ美しいが気も強く、喧嘩するとこわそうなお嬢さんでしょうか。室内オーケストラをバックにしたギル・シャハムの演奏を「キャリス嬢」にたとえれば、相対的には遅いテンポで、育ちがよく気分の安定したお嬢さん、といった感じです。

田舎の貧乏なヴァイオリン教師だったエルガーは、この作品をわずかな金額でショット社に売ってしまいましたが、同年に出版されたこの小品は実によく売れたのだそうです。チャップリンの映画みたいですが、世の中はえてしてそんなものですね。でも、大金持ちになるだけが幸せではないと思いますです、ハイ(^_^;)>poripori

■チー・ユン盤 2'23"
■ギル・シャハム盤 3'03"

そういえば、チー・ユン盤については、以前に取り上げたことがあります。演奏している曲目などは、こちらのとおり。
(*):チー・ユンの「ヴォカリーズ」を聞く
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山形弦楽四重奏団演奏会が近づく

2006年11月29日 06時30分58秒 | -室内楽
実はまだチケットを入手していないのですが、来る11月30日(金)18時45分から、山形市の文翔館議場ホールにて、山形弦楽四重奏団(*)の第21回定期演奏会が開かれます。曲目は、

W.A.モーツァルト、弦楽四重奏曲第17番、変ロ長調、「狩り」K.458
L.V.ベートーヴェン、弦楽四重奏曲第16番、ヘ長調、Op.135
F.J.ハイドン、弦楽四重奏曲、変ホ長調、Op.17-3

となっています。当日は、野暮用で遅くなる可能性大ですので、間に合うかどうか不明ですが、後半だけでも聞きたいところです。遅刻しても、会場で当日券チケットを入手できるかなぁ?

(*):山形弦楽四重奏団ホームページ
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ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」他を聞く~安部敦子ヴァイオリン・リサイタル

2006年11月19日 16時54分44秒 | -室内楽
昨晩は、山形市にある旧県庁・文翔館に隣接の旧県会議事堂を利用した議場ホールで、安部敦子(Vn)+ヤン・ホラーク(Pf)によるヴァイオリン・リサイタルを聴きました。安部敦子さん(*)は、ヴァイオリンと弓を持ち、サーモンピンクのドレスで登場。ヤン・ホラークさんはメガネをかけたジェントルマンです。

最初に、ヴィターリの「シャコンヌ」から。会場の雰囲気とよくマッチして、一瞬、大正時代に迷い込んだような気分になります。演奏後の安部さんのトークが楽しくわかりやすい。一箇所音を外しちゃって、と聴衆に謝りながら、バロック時代の曲ですが現代ヴァイオリンの技巧をふんだんに盛り込んだ編曲がなされています、との解説に、なるほどと頷けます。
続いてモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ変ロ長調KV.378。作曲者23歳の時の作品だそうで、恋人に裏切られ、大司教と仲違いし、就職運動のためパリに赴きますが果たせず、失意のうちに帰郷した時期の音楽だとのこと。美しさの中に悲しみや失意を忍ばせた音楽です、という解説がとてもわかりやすく、安部さんのヴァイオリン演奏もしだいに調子が上がってくるのがわかります。第2楽章の冒頭でピアノと対話するヴァイオリンが、ため息のように聞こえます。ヴィターリの「シャコンヌ」ではヴァイオリンの技巧的な側面に注目していて気づきませんでしたが、モーツァルトのソナタでヤン・ホラークさんのピアノの素晴らしさに気づきました。素晴らしいモーツァルトです!

15分の休憩のあと、後半のプログラムはモーツァルトのホ短調のヴァイオリン・ソナタ(KV.304)から。こちらの解説は、モーツァルトが思わず本音をもらしてしまった曲ではないか、とのこと。二つの楽章しかありませんが、ヤン・ホラークさんのピアノの深い呼吸とヴァイオリンの嘆きが呼応しあい、素晴らしい演奏。
そしてプログラム最後のブラームス。今年で四回目を迎えるこのリサイタル、最初の年はフランク、次の年からブラームスのソナタを3番、2番、ときて今年は第1番。安部さんのトークは、ウィーン留学時代に老婦人にブラームスの思い出を聞いた話。湖を通り過ぎる驟雨を、湖畔のブラームスがじっと受けていた様子を語ります。そうですね、ブラームスは明治の日本の外交官と接触(*2)しているのですから、高齢の方なら生前のブラームスを見て知っていることもありうるのでしょう。
第2楽章の深々としたピアノの響きに、ああブラームスの音だな、と感じます。古典に明け暮れていた留学時代の四年目、初めて好きな曲をひいていいよ、と許された安部敦子さんが、取り上げたのがこのブラームスの「雨の歌」だったそうな。卒業試験もこの曲で受けたそうで、たいへん熱気ある演奏でした。

アンコールは、ブラームスのハンガリー舞曲から第5番とクライスラーの「愛の喜び」。「ゲミュートリッヒにトーク&クラシック」という副題のとおり、すてきな素敵な演奏会でした。次回もぜひ参加したいと思いました。

(*):安部敦子さんのプロフィール紹介記事
(*2):ブラームスが日本の音楽を研究したきっかけ
(*3):ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」を聞く~過日の私の記事

写真は、議場ホールの入口と開演前のステージのようすです。

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ボロディン「弦楽四重奏曲第1番」を聞く

2006年10月24日 06時32分48秒 | -室内楽
ボロディンについては、これまでも何度か取り上げています。「化学者としてのボロディン(*1)」「音楽以外のボロディンの業績(*2)」などです。弦楽四重奏曲としては「夜想曲」の楽章を持つ第2番が有名なのでしょうが、第1番もなかなかの曲です。

ボロディンの弦楽四重奏曲、睡眠の音楽にしたり目ざめの音楽にしたり、作曲者が知ったらさぞや嘆くのではないかと思いますが、いろいろ試した結果、秋から冬にかけてのまだ薄暗い季節の目覚まし用にはベストの選曲だと思っています(^_^)/

第1楽章、モデラート~アレグロ。そっと優しく静かに始まります。中間の各パートの緊密でポリフォニックな対話の部分は、充実した音楽になっています。
第2楽章、アンダンテ・コン・モト。開始がやや悲しげですが、まどろみの中でうつらうつら聞いていると実に気持ちのいい美しさです。途中にロシアの大空のような劇的な下降音形もあり、ちょっとドキッとします。
第3楽章、スケルツォ、プレスティッシモ。活動的な楽章。このあたりになると、仕方がないなぁ、そろそろ起き出さないとなぁ、と思います。途中でヴァイオリンがハーモニクスで幻想的な雰囲気をかもし出しますが、思わず聞きほれてしまいます。
第4楽章、アレグロ・リソルート(決然と)という指示のとおり、ヴァイオリンからヴィオラ、そしてチェロへと、先行する楽章の主題を振り返りながら、やがて四つのパートが緊密・活発に対話する充実した音楽になっていきます。

全体を通じて、実によく歌うチェロの役割がとてもいい味を出しています。どうも私は、チェロが活躍するカルテットを好む傾向があるようです。

演奏はハイドン四重奏団、1993年10月、ブダペストのユニタリアン教会におけるデジタル録音、ナクソスの 8.550850 という型番のCDです。弦楽四重奏曲第2番が併録されていますが、両曲とも演奏・録音ともに優れたものだと思います。
■演奏データ
I=13'13" II=7'48" III=5'58" IV=10'38" total=37'37"

(*1)化学者としてのボロディン
(*2)音楽以外のボロディンの業績
(*3):ボロディン年譜
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ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」を聞く

2006年10月12日 19時49分40秒 | -室内楽
東京に唯一持参したCDです。大雨のため待たされた電車の中で「雨の歌のソナタ」のCDを聞いていました、というのは実にシャレにならない状況です(^_^;)>poripori

さて、1878年から79年にかけて、スイスのペルチャッハで作曲されたというこの曲は、ヴァイオリン協奏曲で採用しなかった素材を生かして書かれたのだとか。廃物利用というにはあまりにも素敵な音楽です。そういえばブラームスは、ドヴォルザークが捨てた屑かごから素材を拾って交響曲が何曲も書けるくらいだ、と彼の旋律の才能をうらやましがっていたといいますから、案外屑かごあさりは得意だったのかもしれません(^_^;)>poripori

それは冗談として、新潮文庫の三宅幸夫『ブラームス』(カラー版大作曲家の生涯)によれば、ブラームスの友人ビルロートが「あまりにも繊細で、あまりにも真実で、あまりにも暖かく、一般の聴衆にとってはあまりにも心がこもり過ぎている」と評したというこの曲。東洋の島国の、一般の聴衆に過ぎない私には実際「ネコに小判、豚に真珠」なのかもしれませんが、そんな了見のせまいことを言わないで「この曲、いいなぁ~!」と言わせてほしいものです。それにしても、内省的なブラームスの室内楽の特徴をよく表している曲だと思います。

第1楽章、ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ。ヴァイオリンが優しく繊細な旋律を奏で、ピアノがおおらかにこたえるうちに、しだいに活気を増してきます。
第2楽章、アダージョ。ピアノが深々とした旋律を奏でた後、静かにヴァイオリンが入り、ときおり重音を響かせながら哀感に満ちた音楽を聞かせます。
第3楽章、アレグロ・モルト・モデラート。歌曲「雨の歌」Op.59の旋律を主要主題として、ヴァイオリンがこれを歌うのだそうです。残念ながら一度も聞いたことがありませんが、きっと味わい深い歌曲なのでしょう。この楽章も、「晦渋な髭のブラームス」という印象を裏切る、ほんとに素敵な音楽です。

演奏は、イツァーク・パールマン(Vn)とアシュケナージ(Pf)によるEMIのレギュラープライス盤(CC33-3517)。1983年にロンドンのアビーロード・スタジオでデジタル録音されたものです。

ちなみに、演奏データは次のとおりです。
■パールマン(Vn)、アシュケナージ(Pf)盤
I=10'42" II=8'03" III=8'16" total=27'11"

この11月には、安部敦子(Vn)+ヤン・ホラーク(Pf)のコンビでこの曲の演奏が聴ける予定。11月18日(土)19時、文翔館ゲミュートリッヒにトーク&クラシック Vol.4。楽しみです。
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