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電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ブラームス「ピアノ四重奏曲第3番」を聴く

2008年03月02日 07時44分23秒 | -室内楽
先ごろ入手したばかりの、ブラームスのピアノ四重奏曲第3番、ハ短調Op.60を聴いております。ヤン・パネンカ(Pf)、コチアン四重奏団の演奏で、作品34のピアノ五重奏曲に併録されているものです。CDの型番はDENON COCO-70923というもので、1988年の10月にプラハの芸術家の家でのデジタル録音、スプラフォンの共同制作と記載されていますが、制作・録音ともに、実際はチェコ側の主導によるもののようです。

第1楽章、アレグロ・ノン・トロッポ。ピアノの打鍵が開始する、暗く重々しく劇的な音楽世界。なにか悲劇的な事件を思わせる、かなり規模の大きなソナタ形式の楽章です。
第2楽章、スケルツォ:アレグロ。焦燥感と悲劇性を感じさせる速い楽章です。シューベルトの「魔王」のように、とぎれとぎれにうわごとを言う病人を運ぶような音楽。
第3楽章、アンダンテ。なんとも心にしみる音楽です。出だしのチェロの旋律に魅了されます。それに、ピアノの音が無類に美しい。これは、クララ・シューマンを想定したものでしょう。
第4楽章、フィナーレ:アレグロ・コモド。シューマンが好んだ、崩れ落ちるようなピアノの下降音型が特徴的な、劇的な音楽です。

この曲の成立には、かなりの時間がかかっているようで、CDに添付された門馬直美氏の解説によれば、1855年に最初の楽章が書き始められ、1873年から74年にかけて改訂を行い、1875年に出版されたとのこと。この1855年と言う年を、三宅幸夫著『ブラームス』で調べてみると、ちょうど恩人シューマンが精神を病み、デュッセルドルフの精神病院に入院した翌年、そしてシューマンが没する前年にあたります。であるならば、この音楽の悲劇性は、まさにシューマン家を襲った悲劇を、まず考えるべきなのでしょう。ブラームスが語ったという、「ピストルを頭に向けた人の姿」とは、恩師の妻クララに対する報われない愛に絶望したブラームス自身ではなく、若き日に目にした恩人シューマンその人の、絶望の姿なのではないか。「ウェルテル四重奏曲」というよりは、むしろ「ローベルト四重奏曲」と呼びたいくらいです。シューマン家の悲劇の、音楽によるレポートであったために、共通の友人達の助言を受け入れ、後年まで何度も改訂を必要としたのかもしれません。

参考までに、演奏データを示します。
■パネンカ(Pf), コチアン四重奏団
I=10'19" II=4'19" III=9'05" IV=11'03" total=34'46"

再び入院した老父は、イレウス・チューブも取れて、点滴のみになりました。今回はかなり弱気になっておりますが、もうじき本が読める状態になるのが楽しみのようです。司馬遼太郎と新田次郎を所望、何冊か運びました。

【追記】
第3楽章、アンダンテは、NHK-FMの「大作曲家の時間」の「ブラームス」のテーマとして取り上げられていました。ああ、あれか、と、どこかで耳にした方も多いことでしょう。
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R.シューマン「おとぎの絵本」を聴く

2008年02月16日 07時04分13秒 | -室内楽
FM放送は、ときどき思いがけないタイミングで、嬉しい曲目を放送してくれることがあります。たとえば、先月末のN響アワーは、ヴィオラ特集でしたが、翌日の29日(月)夜、19時半から、NHK-FMで、馬渕昌子(まぶち・しょうこ)さんのヴィオラ演奏による、R.シューマンの「おとぎの絵本」Op.113を放送していました。連日のようにヴィオラを取り上げた放送があるなど、願ってもなかなかありません。ピアノは小坂圭太さん。昨年の3月11日、ハクジュ・ホールでの録音だそうです。番組のアナウンスを聞くうちに、急に思い立って、ちょうど手元にあったカセットテープに録音しました。FM放送のエアチェックなど、本当に久しぶりです。



写真の青いカセットテープがそれです。

この演奏会のことについて、馬渕昌子さんへのインタビューなんかが、このサイト(*)に出ていました。

(*):インタビュー:馬渕昌子リサイタルに向けて

実は、以前にもこの曲をエアチェックしており、このときはミルトン・トーマス(Vla)、神野明(Pf)という組合せ(*2)でした。このテープは、曲目の組み合わせも良く、だいぶ聴きました。

(*2):昔のエアチェックテープでシューマンを聞く

シューマンの「おとぎの絵本」という曲は、Op.113という作品番号からもわかるように、亡くなる5年前、シューマンとしては晩年になる1851年の作品です。
第1曲、速くなく。
第2曲、いきいきと。
第3曲、急速に。
第4曲、ゆっくりと、メランコリックな表情で。
という4曲からなり、クラリネットやチェロなどでもしばしば演奏されます。地味ですが、何度も聴いて親しむうちに、その良さがじわっとわかってくる、といった種類の、たいへん魅力的な作品です。

写真は、ワゴン車の中から撮影した、先日の出先での雪道の様子。旅先でCDショップをのぞくことがありますが、偶然に良い演奏・録音のCDを見つけたときの嬉しさは格別です。今井信子+アルゲリッチのCDのような、オリジナルなヴィオラとピアノの演奏による、良いCDを見つけたいものです。
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ウェーバーのクラリネット五重奏曲など~山形弦楽四重奏団第26回定期演奏会を聴く

2008年01月31日 05時52分55秒 | -室内楽
昨晩は、山形市の文翔館議場ホールにて、山形弦楽四重奏団の第26回定期演奏会を聴きました。昨年同時期は、残業で涙を飲んだのでしたが、今回はなんとか開演に間に合いました。(^_^)/yattane!

例によって、山形交響楽団に所属するヴァイオリン2名とヴィオラによる3人のレディが組んだ「アンサンブル・ピノ」によるプレ・コンサート。ヘルマン・シュレーダーの三重奏曲Op.114-2だそうです。前半は、20世紀の音楽だとすぐわかる、活発な曲ですが、響きはそれほど不協和音がきついものではありません。後半は、ゆっくりした静かな音楽。むしろ、響きの不思議な美しさを感じます。珍しい曲目だと思います。ヘルマン・シュレーダー(1904-1984)は、20世紀カトリック教会音楽の改革を行った作曲家だそうで、室内楽作品も多いのだとか。貴重な経験をしました。

さて、山形弦楽四重奏団の定期演奏会の始まりは、駒込綾さんのトークから。はじめは挨拶で、これまでの活動を簡潔に紹介し、来月は新庄で演奏するとか、その翌月は福島で演奏会などと、今後の予定をさりげなく紹介します。それから曲目の解説をします。本日の曲目は次のとおり。

1. ハイドン 弦楽四重奏曲 ハ短調、Op.17-4
2. シューベルト 弦楽四重奏曲第10番、変ホ長調、D.87
3. ウェーバー クラリネット五重奏曲、

まずハイドンですが、こちらはエステルハージ侯の館で、弦楽四重奏曲の作曲は求められなかったらしく、カルテットを書きたくてしょうがない若いハイドンの、もんもんとした欲求がストレートにあらわれた曲だそうです。若いハイドンの、とても素敵な旋律が次々に出てくるところなど、彼の思いを受け止めたい、と話します。シューベルトの方は、これも彼が若い(16歳)頃の作品で、ヴァイオリンを兄が、ヴィオラをシューベルトが、そしてチェロを父親が演奏して、1813年の暮に自宅で初演されたものだとか。そしてウェーバー。オペラ作曲家らしく、クラリネットが歌劇の主人公のように用いられ、クラリネットの良さがふんだんに味わえる作品、とのことです。

ハイドンの方は、駒込さんが第1ヴァイオリンで、第2ヴァイオリンは中島光之さん。駒込さんの衣装は、ピンク色の美しいドレスです。さて、演奏が始まります。全体に、まだ4人が対等に演奏するところまではまだいかず、第1ヴァイオリンの見せ場が多い曲のようです。それでも、第2楽章の優雅なメヌエットで第2ヴァイオリンが見せ場を作ったり、第3楽章のアダージョ・カンタービレでチェロの見せ場を作ったり、ちょっとずつ「頑張る」ところを用意しているみたい。フィナーレは再び短調で、第1ヴァイオリンが重音奏法などを聴かせ、激しさのある高揚のうちに終わります。初めて聴きましたが、いい曲です。

続いてシューベルト。今度は第1ヴァイオリンが中島さんに交替。家庭での演奏を想定しているため、特にチェロが易しめに書かれているとのこと。それでも、第2楽章スケルツォは、シャックリのような面白い響きで、ちょっとユーモアを感じる音楽です。第3楽章、アダージョも、素朴な響きで落ち着きます。穏やかな音楽です。第4楽章、チェロの茂木明人さん、ピツィカートで実に楽しそうな表情。シューベルトは、第1ヴァイオリンだけでなく、しっかりと自分(ヴィオラ)にも出番を作っています。倉田譲さんのヴィオラが内声部を支えます。アットホームな佳曲ですね。

15分の休憩の後、山形交響楽団のクラリネット奏者の郷津隆幸さんを迎えて、ウェーバーのクラリネット五重奏曲です。左から第1ヴァイオリンが中島さん、第2ヴァイオリンが駒込さん、中央にクラリネットの郷津さん、チェロの茂木さん、ヴィオラの倉田さんが、譜面台を中央に、半円形に並びます。
第1楽章、アレグロ。クラリネットの音色がきれいです。高音域と中低音域の音色の対比が魅力的で、変な言い方ですが、クラリネットが主役を張る器楽のオペラか室内協奏曲みたいです。茂木さんがようやく本領を発揮し、チェロが活躍、さらにヴィオラが入ると響きがぐっと充実するのがわかります。
第2楽章、アダージョ・マ・ノン・トロッポ。チェロに続いてヴィオラ、そして2つのヴァイオリンの低い音域の暗い音色の上に、クラリネットの音が響きます。オペラで言えば、低い音から高い音まで広い音域を駆使する若い男女の嘆きの歌のようです。
第3楽章、プレスト。クラリネットが、密林の鳥の鳴声のような面白い音。
第4楽章、ロンド:アレグロ・ジョイジョーソ、と読むのでしょうか。クラリネットが楽しげに縦横に活躍します。それにしても、郷津さんのクラリネット、どの音域でも優しくいい音ですね!カルテットはもっぱら引立役にまわりますが、これはもともとがそういう曲なのでしょう。ウェーバーは、クラリネットが好きなのですね。

とりあえず、本日はここまで。帰路は小雪がちらつきましたが、いい演奏会でした。満足です。
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シマノフスキの弦楽四重奏曲第1番を聴く

2008年01月20日 06時41分27秒 | -室内楽
先日、某所の新年会がありました。泊まった先で相部屋になった某氏は、豪快なイビキで有名です。事前に情報を察知し、当方は携帯CDプレイヤーと耳栓型イヤホンを持参しました。温泉に入り、ほろ酔い機嫌で聴いたのが、シマノフスキの弦楽四重奏曲第1番でありました。
静かで集中力に富む音楽は、実にアルコールの酔いがまわります。奈落に吸い込まれるように眠りに落ちました。おかげで、翌朝「某氏のイビキ、すごかったろう?」と聞かれても、「いや~、音楽を聴いてて、ちっとも気づかなかったヨ」と答え、音楽好きと鈍感力と、両方の評判が著しく上昇した模様です(^_^;)>poripori

さすがに酔っぱらって睡眠導入剤として聴いたままではシマノフスキに失礼。ここしばらく、ポーランドの作曲家カロル・シマノフスキ(*)の弦楽四重奏曲を聴いております。第1番ハ長調Op.37は、1917年に作曲され、1919年のポーランド独立後の1922年に初演されたものだそうです。すでに後期ロマン派ではなく、でも無調とまではいかない、不思議な美しさを持った音楽です。

第1楽章、静かで集中力に富むレント・アッサイの序奏に続き、アレグロ・モデラートの主部。密度の濃い、きわめて集中力に富む音楽。最後はバン、と切断するような音で終わります。
第2楽章、アンダンティーノ・センプリーチェ。解説書によれば、全体が3部構成なのだそうで、第1部は「カンツォーネ風に」とされているとのこと。どこがカンツォーネ風なんじゃ!と思いますが、まあいいか。第2部はアダージョ・ドルチッシモ。繊細な転調は当方にも聴き取ることができます。第3部はレント・アッサイ・モルト・エスプレッシーヴォ。アタッカで第3楽章へ。
第3楽章、ヴィヴァーチェ。激しい序奏に、スケルツァンド・アラ・ブルレスカ、ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポの主部が続きます。不思議な響きは、各楽器の調性が異なる、多調で書かれているのだそうです。

演奏はカルミナ四重奏団で、DENON の COCO-70439 というCD。クレスト1000シリーズの1枚。1991年5月にスイスのセオンでデジタル録音されたもので、録音もたいへん優秀です。女性2人、男性2人のメンバーが思い思いに集まったようなCDジャケットが自然な雰囲気で、こちらもたいへん魅力的です。こういうデザイン的な愉しみは、CDやLPならではのものかも(^_^)/
併録されている弦楽四重奏曲第2番や、ウェーベルンの「弦楽四重奏のためのラングザマー・ザッツ」も、何度も聴いているうちにじわっと良さがわかってくる、たいへんすてきな音楽です。

■カルミナ四重奏団
I=7'28" II=5'34" III=4'24" total=17'26"

(*):カロル・シマノフスキ~Wikipediaの解説
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クラリネットのための、シューマン「幻想小曲集」Op.73を聴く

2008年01月12日 12時09分52秒 | -室内楽
昨夜は、老父が腹痛をうったえたので、急いで病院の救急外来へ。レントゲンとCTを撮ったら、腸閉塞とのこと。小腸まで届くイレウス管でたまったガスを抜くことを試みております。リンパ節転移もなく90%以上安心していた大腸ガンの再発で、秋に人工肛門形成の手術をしたばかり。これまで何度も腸閉塞を起しており、84歳の年齢を考えると、再々度の手術は避けたいところです。広島での被爆の影響で、普通の人よりも免疫力が低いのは確かです。イレウス管が効力を示してくれるとよいのですが。

そんなわけで、夜が遅かったので、今朝はすっかり朝寝坊をしてしまいました。妻も病院に行っていますので、一人で留守番をしております。先ほど、遅い朝食をとったばかりで、シューマンの「幻想小曲集」作品73を聴いています。

この曲は、ピアノのための同名の曲とは異なり、クラリネットとピアノのための作品です。
第1曲、やさしく、表情をもって、と指示された、ゆるやかなテンポの音楽。クラリネットが低音を生かした響きで、やさしい旋律を奏でます。
第2曲、いきいきと、軽く。やや速めのテンポで、ピアノが活躍します。クラリネットが、低音から上昇する速いスケールを何度か吹きますが、ちょいとしゃれています。
第3曲、せいて、情熱をもって。クラリネットのソロとピアノが、それぞれ主張しあいながら、活発な音楽をつくります。

演奏はポール・メイエ(Cl)、エリック・ル・サージュ(Pf)の2人で、1993年4月に、スイスのラ・ショー・ド・フォンにてデジタル録音された、DENON COCO-70861という型番のCDです。以前はレギュラープライス盤で販売されていましたが、クレスト1000シリーズに入ったために、たいへん求めやすくなりました。一緒に収録されている、「おとぎの絵本」や「民謡風の5つの小品」「3つのロマンス」「アダージョとアレグロ」なども、シューマンの素晴らしい室内楽作品であり、立派な演奏だと感じます。

■ポール・メイエ盤
I=3'39" II=3'05" III=3'46" total=10'30"

写真は、朝のコーヒーと、山形名物・山田家の「ふうき豆」です。
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プロコフィエフ「チェロソナタ」の魅力

2007年12月02日 07時05分38秒 | -室内楽
ここしばらく、通勤の音楽としてプロコフィエフの「チェロ・ソナタ」ハ長調、作品119 を聴いておりました。リューバ・エドリナ(Luba Edlina)のピアノ、ユーリ・トゥロフスキー(Yulo Turovsky)のチェロ、1982年のCHANDOS盤(CHAN8340)(*)です。当初は、併録されているショスタコーヴィチのチェロソナタ目当てで購入し聴いておりましたが、LPで言えばB面にあたるOp.119の魅力に目覚めてしまいました(^o^)/
好きですねぇ、こういう音楽!

第1楽章、アンダンテ・グラーヴェ。チェロの低音が、大柄な老人の昔語りのように始まります。やがて、チェロが高音域で美しい旋律を歌い始めると、ピアノもまた、ともに歌います。広い音域にわたる暖かいチェロとピアノの対話が、なんとも言えず素晴らしい!途中でやや活気づきますが、全体におだやかで表情豊かな音楽です。
第2楽章、モデラート。「ジングルベル」の音楽みたいな、童話的な軽さを持った、ユーモアがあり軽快なスケルツォです。ゆるやかな部分の叙情性も、すてきです。
第3楽章、叙情的な旋律線と、劇的な要素も併せ持った、なんという素晴らしい結尾!

1949年、病のため、作曲の時間が1日に1時間くらいしか許されない条件の中で、ロストロポーヴィチの協力を得ながら進められてようやく完成、1950年3月1日にモスクワで初演されたそうです。初演者は、チェロがロストロポーヴィチ、ピアノはリヒテルという豪華さです。
リリシズムと優しいユーモアに、チェロのカンティレーナが結び付いた、プロコフィエフの晩年の作品は、くり返し聴き込むほどに味わいのある音楽と感じます。

ピアノのリューバ・エドリナさんは、ボロディン・トリオのピアニストとして有名なのだそうで、私としては初めて。チェロのトゥロフスキーさんは同じくボロディン・トリオのメンバーで、指揮をしたCDなどもあるようです。シャンドス・レーベルのCDはナクソスのミュージック・ライブラリで試聴できるようですので、会員の方はたっぷり聴けるかもしれません。

(*):Chandos CHAN8340~ 現在、ナクソス・ミュージック・ライブラリで試聴できる?
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「白鳥ーチェロ名曲集」を聴く

2007年10月20日 05時50分09秒 | -室内楽
チェロの音色がお気に入りなもので、「チェロ名曲集」などという題名を見ると、ついつい手が伸びます。これまでも、チェロソナタやチェロ名曲集といった室内楽や独奏曲のCDを記事にしてきました(*1~*7)が、本日の、DENON の My Classic Gallery シリーズ中の1枚(GES-9260)は、ヤーノシュ・シュタルケルのチェロ独奏によるものが多く収録されています。

(1) サン=サーンス、「白鳥」
(2) シューベルト、「楽興の時」第3番 作品94-3
(3) ブロッホ、「祈り」
(4) ポッパー、「タランテラ」
(5) ウェーバー、「アダージェットとロンド」
(6) シューマン、「トロイメライ」
(7) カザルス、「鳥の歌」
(8) フォーレ、「シシリエンヌ」 作品78
(9) フォーレ、「夢のあとに」 作品3-3
(10)ポッパー、「ハンガリー狂詩曲」 作品68
(11)ファリャ、「火祭りの踊り」
(12)パガニーニ、「モーゼ幻想曲」
(13)カステルヌオーヴォ=テデスコ、ロッシーニ「セヴィリャの理髪師」より「フィガロ」
(14)グラナドス、「ゴイェスカス」間奏曲

特におもしろく感じたのは、シューベルトの「楽興の時」第3番や、ファリャの「火祭りの踊り」、パガニーニの「モーゼ幻想曲」、カステルヌオーヴォ=テデスコの「フィガロ」など。「楽興の時」第3番は、NHKラジオで日曜朝の「名曲の泉」とかいう超・長寿番組のテーマ曲に使われていたかと思います。これがチェロで演奏されると、なんとなく、しみじみと哀愁を感じさせる音楽になります。

ツルゲーネフに『父と子』という作品があります。田舎で父親が素人チェロを愛好しながら、自足した生活を送っている。息子はそれに満足せず、父と対立し、都会に飛び出そうとする。若い頃に読んだこの場面が、なんとも印象的でした。今、中年の息子として老父の検査結果を待ちながら、同時に若い息子を持つ父親の立場にもありますので、両方の「父と子」を重ね合わせ、歴史は繰り返されるのだな、という感慨を持ちます。

一方で、カステルヌオーヴォ=テデスコの「フィガロ」。ロッシーニの『セヴィリャの理髪師』中に出てくる例の「フィガロ、フィガロ、フィガロ」というアリアを、思わず唖然とするテクニックで演奏します。これなんぞ、ツルゲーネフの感傷をぽいっと吹きとばす勢いです。しばし唖然、呆然。なんともすごい演奏です。

全14曲のうち、(7)~(9)までの三曲だけが藤原真理(Vc)、岡本美智子(Pf)による演奏で、あとは全部ヤーノシュ・シュタルケル(Vc)の演奏です。ただし、(1)~(6)は岩崎淑(Pf)、(10)~(14)は練木繁夫(Pf)と記載されています。

■これまで記事にしたチェロ独奏曲やチェロ主体の室内楽作品
(*1): J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」を聴く
(*2): ヨー・ヨー・マ「愛の喜び」を聴く
(*3): シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」を聴く
(*4): ベートーヴェン「チェロソナタ第3番」を聴く
(*5): フランクのチェロソナタを聞く
(*6): 「風のかたみ~宮澤賢治へのオマージュ」を聞く
(*7): J.S.バッハ/チェロとチェンバロのためのソナタ

ヨー・ヨー・マ、リン・ハレル、ロストロポーヴィチ、フルニエ、藤原真理、シュタルケルと、演奏家も多彩。そういえば、マイスキーのCDは持ってないかもしれない。

写真は、路傍のタンポポの綿毛。クローズアップにすると、風情があります。
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ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調」を聴く

2007年10月15日 06時00分40秒 | -室内楽
ここしばらく、携帯CDプレイヤーに、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番と第8番を収録したCDを入れ、ずっと聴いておりました。とりわけ、ハ短調Op.30-2を、何度も何度も聴きました。いいですね~、この音楽 (^_^)9

第1楽章、アレグロ・コン・ブリオ。ピアノで示される第1主題は、いかにもベートーヴェン的。続くヴァイオリンのほうも、気合いが入ってないと奏することができません。ベートーヴェン特有の、大編成の音楽での押しつけがましい(?!)印象は後退し、二重奏による充実した音楽の、おもしろさのほうを強く感じます。
第2楽章、アダージョ・カンタービレ。静かに歌うようなピアノの後を、ヴァイオリンが心を込めて同じ歌を歌います。なんともすてきな音楽!ピアノのスタッカートの上をヴァイオリンもそれにならい、ヴァイオリンのピツィカートの後に、静かに終わります。
第3楽章、スケルツォ:アレグロ。小鳥が歌い交わすような、軽やかで楽しい、短い楽章です。でも、ところどころに、ヴァイオリンが同じ耳障りな音を執拗に反復するフレーズもあり、ヴァイオリンの音の特性がうまく使われています。
第4楽章、アレグロ。2分の2拍子のロンドです。スタッカートで歯切れ良く演奏される旋律に、散歩の時には思わず歩を速めてしまいそう。最後のプレストのコーダでは、思わず力が入ります。

1802年に作曲された本作品は、聴覚異常が顕著となり、ハイリゲンシュタットの遺書を書く直前の時期のものです。ベートーヴェン32歳、交響曲第2番や「テンペスト」ソナタと同時期の作品。ハ短調と言う調性からも予想できることですが、悲壮感や緊迫感といったものを併せ持つ、気分的にはかなり気宇の大きな二重奏ソナタです。

ヨセフ・スーク(Vn)とヤン・パネンカ(Pf)の演奏はここでも素晴らしい。スークはもちろんですが、特にパネンカのピアノは、素晴らしいの一語に尽きます。

下の写真は、ウォーキングの途中でたまたま見つけたオオマツヨイグサ。まだ咲き残っていました。夏の名残り、でしょうか。


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J.S.バッハのカンタータ第156番から「アリオーソ」を聴く

2007年09月29日 07時08分56秒 | -室内楽
ここ数日、通勤の音楽として、バッハの「トッカータとフーガ」等を収録した、「バロック名曲集2」というCDを聴いておりました。これは、DENONのMyClassicGalleryというシリーズの某中古書店分売もの(GES-9207)で、様々な演奏を集めた、いわば寄せ集め盤です。ただし、こうした企画ものは、選曲によって、今まで知らなかった音楽に触れる、導入の役割を果たすこともあります。

実際、このCDで、J.S.バッハのカンタータ第156番より「アリオーソ」という曲を、小品の形で知りました。ヤーノシュ・シュタルケルのチェロ、岩崎淑のピアノによる二重奏で流れ出した音楽を聴いて、思わず聴き惚れました。ああ、バッハの音楽!そして、シュタルケルの演奏!シュタルケルのバッハは、「チェロとチェンバロのためのソナタ全集(全3曲)BWV1027-9」(*)等を聴いておりますが、このオリジナルのCDはどんな曲を集めたものなのでしょう。大いに興味があります。

本CDの曲目は、
(1) J.S.バッハ トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
(2) J.S.バッハ 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ BWV645
(3) エイク 涙のパヴァーヌ
(4) ヘンデル 「セルセ」よりラルゴ「オンブラ・マイフ」
(5) ヘンデル 調子のよい鍛冶屋
(6) ラモー タンブーラン
(7) ダカン かっこう
(8) ヴィヴァルディ ピッコロ協奏曲ハ長調 F.VI-4 ラルゴ
(9) J.S.バッハ フルートソナタ変ホ長調BWV1031 シチリアーノ
(10) J.S.バッハ イタリア協奏曲ヘ長調BWV971 アンダンテ
(11) ヘンデル ヴァイオリン・ソナタ第1番イ長調 Op.1-3
(12) J.S.バッハ カンタータ第156番 アリオーソ
(13) テレマン 「忠実な音楽の師」より冬/パストラール/ポロネーズ
(14) J.S.バッハ 小フーガ ト短調BWV578
(15) J.S.バッハ 主よ、人の望みの喜びよ BWV147

その他にも、スークの演奏したヘンデルのヴァイオリン・ソナタ(*2)はいいなぁと思いますし、ヴィヴァルディのピッコロ協奏曲などというのも面白いと思いました。オムニバス盤を聴くと、収録されたもとの演奏全体を聴きたくなってしまいます。とりあえず、シュタルケルのチェロをもう一度聴きましょう。

(*) : J.S.バッハ「チェロとチェンバロのためのソナタ」~電網郊外散歩道
(*2):スークとルージイッチコヴァの演奏でヘンデルのヴァイオリン・ソナタ集を聴く~電網郊外散歩道
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バラ園と弦楽四重奏

2007年09月17日 07時44分29秒 | -室内楽
16日の日曜日、村山市の東沢公園内にあるバラ公園に行きました。少しだけ、パラパラと小雨が降りましたが、すぐやんで、たいへん良いお天気に。入園料を払ってバラ園に入ると、写真のようにたくさんの花が咲き、バラの香りが快い。





写真奥のログハウスで、山形弦楽四重奏団の演奏会が開かれました。



曲目は、前半がモーツァルトのディヴェルティメントなどクラシックの音楽を、後半は宮崎駿監督のアニメ・メドレーとジャズ等のスタンダード・ナンバーという、お洒落なプログラムです。
モーツァルトでは中島さんが第1ヴァイオリンをつとめましたが、その他は駒込綾さんが第1ヴァイオリンをつとめ、中島さんは第2ヴァイオリンに。いい席を確保したので、駒込さんのトークもよく聞こえます。宮崎アニメの音楽を書いている久石讓さんは、クインシー・ジョーンズを尊敬し、こういう筆名を使っているのだとか。思わず「へぇ~」です。
「天空の城ラピュタ」から「君を乗せて」、「となりのトトロ」から「風の通り道」と無事に進んできましたが、「魔女の宅急便」だったか「ハウルの動く城」だったかで、ヴィオラの倉田さんの楽譜が譜面立てからぽとり。文字通り「風の通り道」だったのでしょう(^_^)/
でも、なんとか曲を終えて、中島さんに手で合図。「やー、ごめん、ごめん」といった感じかな。

スタンダード・ナンバーでは、"Fly me to the moon" でチェロをベースに見立て、弓のかわりに終始指で弦をはじいた茂木さん、指が痛くなったのでは。そして大好きな "Over the Rainbow" では、思わずマイクを持って歌い出したくなりましたし、ボサノバの "イパネマの娘" も大いに楽しみました。

「バラが咲いた」は、こんなシンプルな曲が、カルテットで演奏すると、いいものですね。「百万本のバラ」は、スケール感と迫力を感じました。これは、ぜひもう一度聴いてみたいものです。



アンコールの「小さい秋見つけた」までおよそ一時間。小さい子どもがむずがって、途中退席せざるを得なかった若いお母さん、だいじょうぶ。せいぜい数年の辛抱ですよ。子どもはすぐに大きくなり、一緒にコンサートを楽しめるようになります。そのときに、また同じ弦楽四重奏団の演奏を聴くことができたら、幸せですね。

演奏が終わって、ログハウスでバラのソフトクリームを食べました。写真を撮るのを忘れて、一口食べてしまってからになってしまいました。



こちらは、つるバラの門に咲いた、小さなバラの花。



そして、この見事な色!プリンセス・ミチコというのだそうです。1966年の作出とのことですので、なるほど、というネーミング。



東沢バラ公園は、JR村山駅から東に車で5分か10分ほど行ったところにあります。明治初期、喜早伊右衛門という人が、東沢に灌漑用の大規模なため池を作ったことが始まりで、現在は一帯が公園になっており、その中に大きなバラ園があります。春の桜のシーズンや、初夏のバラのシーズンには、私の格好の散歩コースになっています。



こちらは、東沢公園の無料駐車場。小トトロみたいです(^o^)/



お昼には、そば街道でそばを食べ、夜は「風林火山」と「N響アワー」を見て、「余は満足じゃ~」ほとんどバカ殿状態の一日でした(^o^)/
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山形弦楽四重奏団第24回定期演奏会を聴き、文翔館を満喫

2007年07月10日 06時01分53秒 | -室内楽
日曜日の午後、山形弦楽四重奏団の第24回定期演奏会に行きました。その続きです。
こちらは休憩の際の文翔館議場ホールの内部。二階から撮影しました。お客さんは80名くらいでしょうか。



演奏会の後半のプログラム、スメタナの弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」。第1ヴァイオリンを駒込綾さん、第2ヴァイオリンを中島さんに交代し、演奏が始まります。

第1楽章、アレグロ・ヴィヴォ・アパッショナート。ヴィオラが雄弁に語ります。続いてヴァイオリンへ。テンポはやや遅めに、集中してじっくりと取り組んでいることが伝わります。
第2楽章、アレグロ・モデラート・ア・ラ・ポルカ。ポルカのような楽しさ、明るさ、輝かしさ。回顧的ですが、思い出は素晴らしくなるものです。
第3楽章、ラルゴ・ソステヌート。茂木さんのチェロが歌いだすと、他のメンバーはじっと聞き入ります。素晴らしい始まりです。息の長いチェロの音をベースに、ヴァイオリンとヴィオラが感情を込めて歌います。若かった日々のいとおしさでしょうか。でも、懐かしさの感情に浸ってばかりはいられません。やがて厳しい音楽も入ってきます。
第4楽章、晴れやかで活発な音楽が奏されます。しかし、途中の暗転。キーンというノコギリ波のような音。オシロスコープではっきり見えそう。これがスメタナの難聴を表すものでしょうか。少し希望を持たせたピツィカートで曲を閉じます。

聴衆から大きな拍手。プロデュースした駒込綾さん、嬉しそうです。メンバーの皆さんの表情もニコニコ、「やったね!」という感じです。

アンコールは、第1ヴァイオリンを再び中島さんに交代して、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」から第4楽章。ドヴォルザークは、伸びやかな音楽ですね。

次回の定期演奏会は、9月30日(日)、18時から、文翔館議場ホールにて。ハイドンのOp.17-2とベートーヴェンの「セリオーソ」、それにモーツァルトのト短調の弦楽五重奏曲だそうです。これもたいへん魅力的なプログラムです。



演奏会終了後、まだ時間があったので、文翔館内の喫茶店「カフェ・ド・シベール」で一休みしました。アップルパイと美味しいコーヒーで610円。幸いお客さんもほとんどいなかったので、店内を撮影していいかとたずねたらOKとのこと。ちょいと店内を撮影しました。



これが陳列ケース。いろいろなお菓子が並びます。軽食もできます。いい音楽を聴いた後、すぐに雑然とした日常へ戻りたくないとき、ちょうどいい場所です。演奏会が午後の場合は、たいへんありがたいお店です。



シベールといえばラスクでしょう。ラスクにもいろいろな種類があります。こちらはラズベリー風味のラスクなど。



ついでに、文翔館内部を見学しました。こちらはメインホールの内部。



天井のシャンデリアと、職人芸で花びらの一枚一枚が完全に復元された飾り漆喰です。





最後に、メインホールの椅子です。自宅にもこんな椅子が一つほしい(^_^;)>poripori



ちなみに、この文翔館、入場は無料です。山形市へおいでの際には、山形交響楽団と山形弦楽四重奏団、それにアンサンブル・ピノの演奏会などをぜひチェックして、ついでに文翔館をご覧下さい!
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山形弦楽四重奏団第24回定期演奏会を聴く(1)

2007年07月09日 06時19分03秒 | -室内楽
昨日は、当地の室内楽好きとしては欠かせない、山形弦楽四重奏団の第24回定期演奏会に行きました。例によって「アンサンブル・ピノ」によるプレ・コンサートから。J.S.バッハを2曲、管弦楽組曲第3番から「エア」、ブランデンブルグ協奏曲第5番から第1楽章。そしてクライスラーの「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」でしょうか。

少しして駒込綾さんが登場、曲目の解説をします。そうか、今日の演目は駒込さんのプロデュースなのですね。少しずつ、このカルテットのやり方がわかってきました。
プログラムは、
(1) W.A.モーツァルト、弦楽四重奏曲第1番ト長調「ローディ」
(2) ハイドン、弦楽四重奏曲ト長調、Op.76-1
(3) スメタナ、弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯から」
となっています。

正直にいいます(^_^;)>poripori
夏の議場ホールは初めて。たぶんエアコンもきいてないんじゃないかとタカをくくって、半そでで行きましたら、寒いくらいエアコンがきいている!モーツァルトでは、軽やかで楽しい曲想もあって、気持ちよくうつらうつらしてしまいました!で、残念ながらコメントできません(^_^;)>poripori

おかげで次のハイドンはバッチリ目ざめて、聴きました。ハイドンでは、左から中島さんが第1ヴァイオリン、駒込さんが第2ヴァイオリン、茂木さんのチェロ、倉田さんのヴィオラ、という順序。
第1楽章、アレグロ・コン・スピリト。ジャン・ジャン・ジャン!と斉奏で入って、チェロ→ヴィオラ→第2ヴァイオリンと来て、4人で。面白い始まりです。私は全くの素人ですけれど、この曲が、いろいろと精緻に創意工夫をこらした、充実した音楽であることは充分に感じ取れます。
第2楽章、アダージョ・ソステヌート。これがハ長調とは思えない(^_^;)、ゆったりと深い美しさ。AとBの主題が、交互に変奏されていくのでしょうか。チェロの音色が、時折はっとするほど素晴らしい。
第3楽章、メヌエット、プレスト、トリオ。緊密な音楽です。中間の、第1ヴァイオリンがソロで他がピツィカートのところは、闊達で印象的。はじめに戻り、終わります。
第4楽章、フィナーレ、アレグロ・マ・ノン・トロッポ。ヘンなたとえですが、ドロボウが広大なお屋敷を探索するような、少しコミカルで少しミステリアスな始まり。
やっぱりハイドンの弦楽四重奏曲はいいですねぇ。

15分の休憩の後、スメタナの「わが生涯から」ですが、これはまた明日の題材といたします。
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ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第4番」を聴く

2007年06月19日 06時40分29秒 | -室内楽
先日購入したヨゼフ・スークとヤン・パネンカによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集(DENON COCQ-83953-6)の中から、一枚ずつ取り出しては、少しずつ聴いています。全部を一気には聴けませんが、なかなかおもしろいものです。昨晩は、ヴァイオリン・ソナタの第4番、「スプリング・ソナタ」の1つ前の作品番号23を持つ、イ短調の魅力的な作品を聴きました。今朝も早起きして、同じCDを聴いております。

第1楽章、プレスト。古いピアノのような音で始まります。でも、低音部はしっかりしている。楽器が古いのではなくて、意図的にそういう音で表現しているのでしょう。ヴァイオリンとピアノが、けっこう激しい曲想でぶつかりあうような音楽です。
第2楽章、アンダンテ・スケルツォーソ・ピウ・アレグレット。ヴァイオリンの愛らしさが印象的です。この楽章はあたたかい雰囲気の音楽で、いかにも室内楽らしいです。
第3楽章、アレグロ・モルト。再び速いテンポで、ヴァイオリンとピアノがときに激しくぶつかりあうような、互いに主張のある対話でしょうか。ピアノが終始リードするようであるばかりか、ヴァイオリンの表現自体が、モーツァルトの歌うような優美さではなくて、時に切れ切れに、鍵盤楽器のような表現を見せるのが面白いです。30歳を過ぎた頃の、颯爽としたピアニストとしてのベートーヴェンの面目躍如たるヴァイオリン・ソナタ、と言ってよいのでしょう。

当方、「スプリング/クロイツェル」以外のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを体系的に聴こうとするのは初めての経験です。イ短調という調性のこの作品、若い時代の可愛らしい作品では決してありません。作品24の「春」のソナタと対にして聴くとき、スプリング・ソナタの旋律の魅力をあらためて感じるとともに、力の入ったイ短調の本作品の魅力を理解できるような気がします。

演奏は、ヨゼフ・スークのヴァイオリン、ヤン・パネンカのピアノ。1966年10月に、プラハのドモヴィナ・スタジオで録音されています。立派な日本語リーフレットが添付されており、解説は渡辺和彦氏です。この解説がたいへん丁寧で緻密なものです。労作と言ってよいと思います。このパンフレットだけでも、輸入盤でなく国内盤を購入した意味がありました。

しかし、スークのヴァイオリンはもちろんだけれど、ヤン・パネンカさんのピアノはほんとにいいですね。大げさな音はないのだけれど、素晴らしいピアニストだと思います。
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シューベルト「弦楽五重奏曲ハ長調」を聴く

2007年06月09日 16時21分23秒 | -室内楽
ここしばらく、通勤の時間にカーステレオで何度も繰り返して聴いたシューベルトの弦楽五重奏曲、聴きなれてくると、ハ長調交響曲と同時期のシューベルトらしい、実に充実した魅力的な音楽です。

第1楽章、アレグロ・マ・ノン・トロッポ。華やかな高音ではなく、暗めの中低音域で静かに始まる長大な楽章です。暗い情熱、と言ったら良いのでしょうか。強化したチェロの音色が、よけいその印象を強めています。ヴァイオリンが明るく活躍する場面もありますが、ハ長調という印象からは遠い音楽です。
第2楽章、アダージョ。静かな美しい音楽ですが、途中には噴出するような激しさがあります。静かな外面の中に、激しい情熱がこめられている音楽のようです。
第3楽章、スケルツォ:プレスト、トリオ:アンダンテ・ソステヌート。トリオ部にも、ソステヌートと指示された、静かで叙情的な美しい音楽ですが激しさを秘めたところがあり、第2楽章と共通の気分を感じさせます。
第4楽章、アレグレット。軽快さのあるロンド風の音楽です。八重奏曲に聞かれるようなシューベルトらしい響きが随所にありますが、でもあの屈託のなさはありません。私たちが、作曲者の死の少し前の音楽だと知っているから、そんなふうに聞こえてしまうのでしょうか。

録音に関しては、次のように記載されています。

Producer: James Mallinson
Engineer: Tony Salvatore, Michael Mailes, Hank Altman
Digitally Recorded at RCA Studio, N.Y., on Nov. 7 & 8 '83

1983年のスタジオ・デジタル録音。音量を上げたり、ヘッドホンで聴いたりすると、奏者の息づかいがけっこう聞こえてしまいます。こういうのを生々しい音と感じるか、それとも余計だと感じるかで、印象はだいぶ違って来るかもしれません。個人的には、スタジオ録音による息づかいの生々しさよりも、ホールの豊かな響きのほうが好ましく思います。

■ヨーヨーマ(Vc)、クリーヴランド・カルテット(CBS-SONY 32DC-479)
I=20'42" II=13'44" III=10'41" IV=9'08" total=54'15"
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ヨー・ヨー・マ「愛の喜び」を聴く

2007年05月31日 05時30分26秒 | -室内楽
チェロは、自分の声の声域と重なるところが多いためでしょうか、好んで聴くことが多い楽器です。その音色は魅力的で、表現力も多彩に感じます。クライスラーとパガニーニによるヴァイオリンのための音楽を、ヨー・ヨー・マのチェロ、パトリシア・ザンダーのピアノで聴きました。CBS-SONYの30DC-718という型番のCDです。

(1)中国の太鼓、クライスラー
(2)スペインのセレナード、シャミナード~クライスラー
(3)ロンディーノ~ベートーヴェンの主題による、、クライスラー
(4)インディアン・ラメント、ドヴォルザーク~クライスラー
(5)わが母の教え給いし歌、ドヴォルザーク~クライスラー
(6)美しきロスマリン、クライスラー
(7)愛の喜び、クライスラー
(8)愛の悲しみ、クライスラー
(9)カプリース第9番、パガニーニ
(10)カプリース第13番、パガニーニ
(11)カプリース第14番、パガニーニ
(12)カプリース第17番、パガニーニ
(13)カプリース第24番、パガニーニ
(14)ロッシーニの「モーゼ」の主題による変奏曲、パガニーニ~シルヴァ

ベートーヴェンの主題による楽しいロンディーノや、郷愁を誘うようなドヴォルザークの「インディアン・ラメント」「わが母の教え給いし歌」、あるいは「美しきロスマリン」「愛の喜び」「愛の悲しみ」などのクライスラーの十八番を、伸びやかに朗々と、時にはしゃれてリズミカルに、歌います。なんとも魅力的です。
一方パガニーニの曲のほうは、曲の性格もあるのでしょうが、難曲をなんとまあ苦もなく奏しているなぁ、という感じを強く持ちます。

1981年8月に、ロンドンのCBSレコーディング・スタジオでデジタル録音されたものです。解説書には、吉田秀和、藤原真理、黒田恭一、福本健一の四氏がそれぞれの立場からヨー・ヨー・マへの賛辞を書いており、チェロ用への編曲はヨー・ヨー・マ自身が行っていることも紹介されています。

ただ、解説書のどこを見ても、ピアノ伴奏のパトリシア・ザンダーへの言及がないのは不思議です。若いチェリストのヨー・ヨー・マをサポートする立派な伴奏に対し、それはあまりにも不公平なのではないかい。たぶん、1982年当時には、日本ではこのピアニストに関する情報がほとんどなかったのかも。「Patricia Zander? Who?」というわけです。

インターネットの時代、素人でも情報を検索することが可能です。試しに、Google で「Patricia Zander -$」(-$ は $20 のような語を含むCD販売ページを除くため) で検索してみました。その結果がこのページ(*)で、パトリシア・ザンダーさんの写真もありました。

Patricia Zander
Piano; Chamber Music

Pianist Patricia Zander has presented recitals of chamber music and lieder in the U.S., Europe, Japan, and Korea and has recorded with cellist Yo-Yo Ma.

A.R.C.M., L.R.A.M., Royal College of Music, London. French government scholarship for study with Vlado Perlemuter and Nadia Boulanger. Former faculty of Harvard University.

なるほど、ボストンのニューイングランド音楽院で室内楽担当の先生なのですね。写真を見ると、けっこうな年配の方のようで、もしかすると若いヨーヨーマを指導する立場にあったのかもしれない、などと思います。

(*):New England Conservatory, Patricia Zander


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