ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

バスクのワイン「チャコリ」ブームが来る!?

2014-11-19 12:14:38 | ワイン&酒
先週、都内で開催されたスペインワイン&フード商談会で、バスク州のワイン 「チャコリ」 のセミナーが同時開催されました。

チャコリ(Chacoli / Txakolina) は、白ワイン好きの私が以前からずっと注目しているワインで、すでにここでも何回か紹介してきました。



チャコリはスペインのバスク地方のワインで、“チャコリ” Chacoliはスペイン語 の呼び方、
“チャコリナ” Txakolina がバスク語 での呼び方です。
どちらも響きがかわいいですね。

バスク州の位置は、スペイン北部の中央付近、スペインとフランスの国境に横たわるピレネー山脈の西側で、カンタブリア海のビスケー湾沿いから内陸にあります。

ブドウ畑も海岸沿いから内陸まで点在し、海岸に近い地域は海風の影響が大きいけれど気温差の少ない海洋性気候、内陸部は乾いた風が南から吹き込みます。
降雨もスペインの中では多く、年間900-1500mmで、湿度が高い地域です。
特に沿岸部では湿度が高くなるため、日本で見られるような棚仕立て(エンパラードと呼ばれます)にして、風通しをよくするのが伝統的でした。
が、近年は内陸部を中心に、垣根仕立てが増えています。その方が機械化しやすいからです。



チャコリに使われるブドウ品種は独特なものがあり、推奨品種としては、

白ブドウ:オンダラビ・スリ
黒ブドウ:オンダラビ・ベルツァ

スリの方が多く、ベルツァは少ないです。
しかし、このブドウの名前は覚えにくいですね…

他には、各DOにより認定ブドウ品種が定められています。


チャコリのDOは3つ

  DO チャコリ・デ・ゲタリア (Chacoli di Getaria) キブスコア県

  DO チャコリ・デ・ビスカイア (Chacoli di Bizkaia) ビスカイア県

  DO チャコリ・デ・アラバ (Chacoli di Alava) アラバ県

※以前の紹介記事は → コチラ


3つのDOの合計栽培面積は875ha、総生産量42,917hlで、スペインのDO最小のワイン産地です。
*数字は2013年の実績(以下同様)


ボトルの首にあるDOの認証シール

この3つのDOの違いを覚えておくと、チャコリ選びもグンと面白くなります。

チャコリ・デ・ゲタリア のあるギプスコア県は海に面した東側に位置しています。
ゲタリアは3つの中で最も早い1990年にDOに認定され、ブドウ栽培面積(402ha)、チャコリの生産量(22,665hl)ともに3つの中で最大。生産者数も29と、やはり最多。
白ブドウのオンダラビ・スリが98%、オンダラビ・ベルツァが2%。

ゲタリアのチャコリは、軽快で爽やかな、若くして楽しむスタイルのものが多く、微発泡もよく見られます。

発泡 については、チャコリには必ず見られるとか必須のものではなく、若飲みタイプや、生産されて日が浅いものに見られるものだそうです。
となると、ゲタリアのチャコリに発泡がよく見られるのは、納得ですね。


ゲタリアの西に位置するのが、ビスカイア県の チャコリ・デ・ビスカイア
DO認定は1994年で、畑面積は373ha、生産量は16,395hlと、ゲタリアに次ぐ大きな産地です。
ビスケー湾に面した海岸部に畑が多く、標高50~200mの斜面に多く見られますが、内陸部にも畑があります。秋に南部から暑く乾いた風が吹き、ブドウの成熟度を上げます。ただし、標高400m以上の畑はDOの認定ができないそうです。

バスク州の州都はビスカイア県のビルバオですが(造船業で栄えた工業地帯が中心)、ビルバオから南に30kmに入った山間部にアラバ県があります。
ゲタリアとビスカイアは沿岸部ですが、アラバ県は海に面していません。
チャコリ・デ・アラバ はDOの認定も2002年と最も若く、畑面積は100ha、生産量は3,857hlと、3つの中で最小です。
降水量が沿岸部より少ないこと、南からの乾いた風が年間170日吹くことから、これからの産地として期待できそうです。

ビスカイアとアラバのチャコリは、ゲタリアよりもコクを重視したものが多く生産されています。
もちろん、チャコリならではの酸とミネラルがしっかり感じられます。
若飲みよりも、熟成を視野に入れたタイプが多いので、微発泡タイプは少なくなります。


セミナー後に試飲した9種のチャコリで比較すると、ゲタリア(トップの写真のNo.1-5)はタッチが繊細で、非常に軽やか、ビスカイア(No.6-7)はまろやかでほどよいコクがあり、アラバ(No.8-9)は酸の骨格に厚みがあり、白ワイン的な飲みごたえを感じました。

ビスカイアは海の影響を受け、湿度もあるので、しっとりとした質感、塩味系のミネラルを感じ、
アラバは山間部で、湿度も他より低いことから、少々ゴツいニュアンスのある骨格を感じました。



以前にも紹介しましたが、チャコリを注ぐ時に、高い位置から注ぐ エスカンシア(エスカンシアール)というパフォーマンスがあります。



エスカンシアは単なるパフォーマンス、といわれたりもしますが、
高い位置から注ぐことで、泡立ちをよくし、香りを開かせる、という目的があります。

泡立ちがあるのは、主にゲタリアのチャコリですから、エスカンシアするのはゲタリアが主です。
ビスカイアやアルバの生産者たちは、エスカンシアは観光客向けパフォーマンスと言って、やらないそうです。


エスカンシアには この形のカップが定番

では、実際の効果は?
エスカンシアしてもらったチャコリ(No.1)を、そのまま普通のワイングラスに注いでもらったチャコリと飲み比べてみると、エスカンシアしてもらった方がふわ~っとやさしい口当たりで、キメ細かい泡が立ち、香りもより感じられ、味わいがまろやかでした。
ゲタリアのチャコリがエスカンシアされることがよくあるというのは、飲んで納得です。




チャコリには ロザート(ロゼワイン) もあります。
※ロゼには黒ブドウのオンダラビ・ベルツァを50%以上使用する義務があります

上記はゲタリアのロゼチャコリです。これをエスカンシアしてもらったところ、タンニンの雑味が目立ちました。銘柄にもよると思いますが、ごくごく軽いタイプ以外は、ロゼはエスカンシアしない方がいいかもしれません。


チャコリは白ワインだけでなく、上のようなロゼワインもあり、赤ワインもあります。
また、樽発酵させたチャコリもあります。
※チャコリのバラエティについては以前の記事を参照ください → コチラ



エスカンシアするなら、若飲みタイプで微発泡の、ゲタリアの白のチャコリがよく、バルでピンチョスやタパスをつまみながら軽く飲むのにピッタリでは?

コクのあるしっかりしたタイプのチャコリなら、白やロゼ、赤は、普通のスティルワインと同様の扱いで、メイン料理と合わせて。
かつてチャコリはアルコール度数が低かったのですが(9%くらい)、現在は一般のワイン並みの度数になってきています。

日本の食卓で考えると、チャコリは和食にも合い、生牡蠣、刺身、天ぷらなどにもオススメとか。
たしかに合いそう!



かつて、チャコリは 自宅で楽しむ自家製ホームメイドワインがルーツ でした。

その後、ゲタリアのDO認定、その後の産地拡大に伴って、醸造も近代的になり、生産量も増え、チャコリは、自宅消費、地元消費だけでなく、世界市場にまで広がってきました。

海外でのピンチョスやバル人気もあり、また、数多くの星付きレストランを有するバスク州の豊かな食文化、グルメ都市サン・セバスチャンやビルバオが美味しい観光地として名を馳せていることなどから、チャコリもグングン注目を浴びています。中でもアメリカではブームになりつつあり、ニューヨークではチャコリフェスティバルなるものも開催されたとか。

日本でも、「ロイヤルホスト」が現在展開中の“バスクフェア”で“チャコリ”をフィーチャーしています(No.2のワインです)(12月上旬まで開催)

スペイン人気はすでに定着しましたが、その中でも“チャコリ”のブームが、もう間もなく日本でも起こるかもしれませんね。




余談ですが、チャコリの栓は“コルク”がほとんどです。
スクリューキャップの方がチャコリのようなワインには適していると思っていましたが、今回の9種のうちスクリューキャップは1種のみ(No.2)。

聞けば、“スペインはコルクの産地だから、コルクに敬意を表して、では?”と。
これには大いに納得しました(笑)

コメント
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