とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「中世温暖期と源平の争乱・宗教の変革」安田喜憲さん

2012-08-24 18:53:35 | 社会人大学
8月最後の社会人大学に行ってきた。今回の講師は、環境考古学者の安田喜憲さんである。安田さんのプロフィールを下記に揚げておく。

1946年、三重県に生まれる。72年東北大学大学院理学研究科修士課程修了。広島大学総合科学科助手をへて、94年より国立日本文化研究センター教授に。専攻は地理学・環境考古学。環境考古学という新たな分野を、日本で最初に確立。主な著書に、「環境考古学事始」「森のこころと文明」「森林の荒廃と文明の盛衰」など多数。

今回の講義は、題名からしてなんだか難しそうだったので、日本史にうとい私としては、あまり興味が持てないかもしれないと思っていた。講義が始まって、最初の10分ほどは、題名どおり源氏と平家の争乱期の話だった。それによると、安田さんの先祖が安田義定という名の遠江国守だったという。遠州地方への功績を残した武将という事で、今日の参加者には、何らかの縁があるという前置きで始まった。ただ、ほかにもいろんな武将の名前が出てきたが、知らない名前ばかりで今一つ話についていけなかった。

しかし、源平の争乱の話は少なく、それから後の話が大変興味深く楽しく聞くことができた。それは、世界には山を神のごとく崇拝する民族と、山や森を悪魔の住む場所として嫌う民族に分かれるという話だった。なかでも日本を含んだ太平洋を取り囲む環太平洋造山地帯に属する国の人たちは山を崇拝する共通の文化があるという。これらの地域は、火山帯に属し地震が多く必ず大きな山があるという。こういった地形的な要因が人間の文化に大きな影響を与えていると言うのである。

それでは、どんな特徴があるかというと次の6つの共通項があるという。

1.山を崇拝する。
 日本の場合で言えば、富士山は日本人の魂のシンボルである。そして、今まさに世界文化遺産として登録申請が行なわれようとしている。古くから日本人は、山を神として崇め神聖なものとする文化が根付いている。また、マヤ文明のピラミッドは山として作られたものだとも言う。クメール文明では搭のように成長したシロアリの巣を神聖なものとして大事にしているようだ。

2.水の循環利用
 山には豊かな森林があり、山に降った雨が森林にたくわえられ、徐々に下に流れ落ち沢や川となって平野を潤していく。やがて海に流れ出した水は、充分な栄養分を含み海のプランクトンを繁殖させる。そのプランクトンを食べる為に、豊富な魚介類が育ち、平野に住む人間の食料になっていく。このように山→平野→海と水が循環して人が生きていける社会が形成されているのである。それに引き換え、エーゲ海の青く透き通った海は、美しく一見は素晴らしい。しかし、この海はプランクトンも住まない栄養分の乏しい死んだ海であるというのだ。これらの地域では、山には森林がまったくなく荒廃しきっている。つまり、森里海の連環がなく、水による繋がりがない地域なのだ。その点、富士山の雪解水が流れ込む駿河湾は、豊富な水産資源に恵まれた漁場であり、水の循環利用がしっかり出来ているというわけである。

3.柱と鳥を崇拝する。
 柱や鳥は、天地をつなぐものとして崇拝され、遺跡や発掘物にはそれらの絵が多く残されていると言う。

4.翠の玉を崇拝する。
 翡翠は、深緑の半透明な宝石のひとつ。東洋(中国)、中南米(インカ文明)では古くから人気が高い宝石であり、金以上に珍重された。

5.太陽と蛇を崇拝する。
 太陽は、生命のシンボルであり、太陽を表す絵がいろんなものに描かれている。また、蛇は脱皮を繰り返すことから、生命力の強さを表す象徴とされていたようだ。注連縄の原型が二匹のオスとメスの蛇がしっかりと絡み合った様子だと言うのは驚きだった。

6.女性中心の社会
 環太平洋造山帯の人々は、農耕民族であり女性中心の社会を形成していたと言う。古代日本の女王は卑弥呼だったというのは良く知られている。マヤ、クメール文明でも女性中心の社会であったとも言う。近代では、軍隊というものが出来て男中心の社会になっているようにも見えるが、実際の所実権を握っているのは昔も今も女性なのかもしれない。

以上6つの環太平洋造山帯に住む民族の特徴を、大変面白く聞くことができた。日本はまさに、その中でも典型的な民族であるともいっていい。日本は、山、森、川、平野、海と水と緑に囲まれた自然豊かな国である。これは、世界に誇れる貴重な財産であり、我々日本人はその豊かな自然を未来永劫守っていかなければならないのである。原発事故で放射性物質で汚染された福島の森や平野はもう二度と住む事はできないかもしれない。今回の話から、日本の山や海、自然を大事にしていかなければならないことを強く感じた。

最後に教えてもらった最澄の残した言葉「山川草木国土悉皆成仏」の意味が、少しわかったような気がした。