とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

『鹿男あをによし』万城目学/著

2011-09-01 22:21:29 | 読書
鹿男あをによし
クリエーター情報なし
幻冬舎


『プリンセス・トヨトミ』で万城目学に嵌ったので、別の作品を読んでみたくなった。『鴨川ホルモー』は映画を見ていたので、まだ内容を知らない『鹿男あをによし』をまず借りてみた。題名からして、何だか可笑しそうだ。しかも、『あをによし』とはどんな意味なんだろうと気になった。調べてみると『あをによし』とは、奈良にかかる枕詞で漢字では『青丹よし』と書く。『青』と言うのは寺院や講堂などの建物の窓のようになっている部分の青い色のこと。『丹』というのは建物の柱などの朱色のことで当時は『丹(に)』と言った。つまり、『奈良の都は青と赤で彩られたたくさんの建物があってうつくしくよい』というのが『青丹よし』の由来なのだそうだ。

この作者は、関西出身ということで、京都、奈良、大阪をテーマに三作品を書いている。『鴨川ホルモー』が京都、『プリンセス・トヨトミ』が大阪、そして、この『鹿男あをによし』が奈良を舞台にしているわけだ。それぞれ、古の歴史があり小説の題材にするには最適の場所なのかもしれない。

さて、内容といえばズバリ、凄く面白かった。他の小説同様、突拍子もない話であるが続きが気になって、一気に読んでしまった。登場人物や話の構成は、夏目漱石『坊ちゃん』のパロディだと言われている。文体もわざと似せてあるそうだ。最初は、気付かなかったが主人公が学校の教師に赴任して成長していくうえで、同僚の設定や他校の教師にマドンナと呼ばれる女性が出てきたりして何か覚えがあるような話だと思っていたが、『坊ちゃん』がモデルだったとは思ってもいなかった。

そして、物語の骨格は古代史に素材を取ったファンタジーである。日本列島の底には巨大なまずが生息していて、頭を東の鹿島大明神が、尻尾を京都の狐、奈良の鹿、大阪の鼠がそれぞれの場所で押えているという。神の使徒が、京都では狐、奈良では鹿、大阪では鼠というのも何となく納得する設定だ。このどれかの押さえが緩んでくると、巨大地震や富士山の噴火が起きてしまうという。特に尻尾に当る京都、奈良、大阪の三箇所は60年に一度押さえが緩んでくるので締め増しを行なわなければならないのだ。その締め増しを行なう鍵の受け渡しを巡って、神の使徒で霊力がある鹿、狐、鼠が人間を使って一騒動起こすという筋書きだ。

主人公の「おれ」は鹿の「使い番」に指名される。しかし、最初のミッションに失敗し、鹿に「印」をつけられ次第に鹿に変貌してしまう。ただ、他の人間には鹿になっていることはわからず、自分だけが鹿男に変貌していくのを自覚していく。といった話に、古代史や邪馬台国の卑弥呼の話が絡み、ありえないようでいて本当だったら面白いなと思える話が展開していく。

また、「おれ」の生徒で当小説のヒロインでもある堀田イト(16歳)の存在は重要である。「おれ」の授業一日目から遅刻をしたり、クラスメートを扇動して「おれ」を攻撃するなど、「おれ」を悩ませる生徒だったが、奈良、京都、大阪の女学館三校にて行われるスポーツイベント「大和杯」では、急遽「おれ」が率いる奈良女学館の剣道部に入部して獅子奮迅の活躍で、奈良女学館を優勝に導いてしまう。この剣道の試合の描写は、血湧き踊りワクワクするほど楽しい。「野性的魚顔」と表される堀田イトの顔はどんなのかなと気になってしまう。そして、この堀田イトにも大きな悩みと重要な役割があったのだ。

そして、最後の結末はどうなるのであろうか?鍵の受け渡しが上手く済んで、大なまずの押さえは利いたのであろうか?「おれ」はいつまでも鹿男でいたのだろうか?これらも最後まで読めば、納得できる結末が待っている。とにかく、最後まで読まずにいられない面白さで一気に読んでしまった小説である。また、スーパー銭湯の「奈良健康ランド」が出てきたり、鹿の好物がポッキーだというのは笑える。