goo blog サービス終了のお知らせ 

北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

「資本主義の終焉と歴史の危機」を読む ~ 投資をするのが怖くなる

2017-12-01 23:32:56 | Weblog

 

 最近読んで面白かった本が、「資本主義の終焉と歴史の危機」(水野和夫著 集英社新書)でした。

 今日ある会合で、冒頭に挨拶された方が『最近読んで面白かった本』として挙げられたので思い出した次第。

 『資本主義の終焉』という表現で著者が言いたいことは、文字通り「もう資本主義で経済がいつまでも伸びると思わない方が良い」ということです。

 著者は、資本主義とは、"中心"と"周辺"から構成され、周辺を広げることで中心が利潤率を高め、資本が自己増殖をするシステムなのだ、と考えます。

 この"周辺"というのが、例えばローマ時代であれば蛮族のいる"征服すべき辺境"であり、中世の大航海時代にあっては"海の向こうの未知の世界"であり、アメリカにおいては"西部開拓"という、いわゆるフロンティアと呼ばれる地域のことです。

 この新たなフロンティアを次々に開拓し、そこにある安い原料や産物を取り込んで、資本の力で付加価値をつけてそれを再びフロンティアに売り込むというのが資本主義の利潤の基本的なスタイル。

 ところがもはや現代において、この地球上には中心を稼がせるフロンティアが無くなってしまったのです。

 「アフリカのグローバリゼーション」が叫ばれるに至って、ついに地理的な辺境はもはやなくなってしまい、地理的な市場拡大は最終局面に入りました。

 発展途上だった地域が本格的に発展し始めたことで賃金水準が上昇すると、もはや先進国に対して安く原材料を供給してくれていた辺境のフロンティアはもはやなくなってしまおうとしています。


             ◆ 


 ところがここにいたって、アメリカの巨大資本はさらなるフロンティアを『電子・金融空間』に求めました。

 そして世界中を資本が自由に動き回るグローバリゼーションに取り込んだことで、一応息継ぎをしました。

 そして膨大な貨幣量を市場に投入することで現物の価値を上げてそこから薄い利潤を搾り取ろうとしました。
 しかしながらこの素晴らしい思いつきで得た安らぎも限界が近づいています。


 その証左が世界的な超低金利という現実です。いまや日本を筆頭に、アメリカやユーロ圏でも、政策金利はおおむねゼロ。十年国債の利回りも超低金利が続いていて、いよいよ資本の自己増殖が不可能になってきているということなのではないでしょうか。

 かつて資本主義は民主主義と相性が良く、確固たる中間層を形成し民主主義的な政治が安定した、というのが近代の歴史ですが、これすらも中間層が資本主義を支持しなくなることで、民主主義にも危機が訪れるのではないか。著者はそれを危惧しています。

 資本が国境をやすやすと超えて、グローバルに移動する時代は、「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」の時代になる。そしてそれに対して、国境内で需要増を狙うケインズ的政策は全く効果がなくなるでしょう。

 そもそも今なお、経済成長を求めようという考え自身が間違っていると思わないのか、と著者は警告します。

 そして著者が懸念するこれからの経済の動きは、「バブル清算型資本主義」へとの変貌です。

 バブルが発生して、一見して経済は拡大しているように見えるけれど、そのバブルは崩壊して巨大な資本収縮を生む。そしてそれを補うために、今や国家は資本に隷属してしまい、資本を救済するために国民から原資を搾り取る機関に成り下がるのではないか、と。

 
 著者は、こうした味方に対する処方箋を示してはいません。そもそも未来を正確に読み解くことは難しいことです。

 しかし、こうした成長志向型資本主義をいち早く反省し、それに対処する必要を一番身近に感じるのは、旧来の成長型資本主義の限界が近づいている「わが日本」なのではないか、と淡い期待を寄せています。

 そのうえで、「より速く、より遠くへ、より合理的に」という近代資本主義を動かして来た理念を逆回転させて、「よりゆっくり、より近くへ、より曖昧に」と転じるべきではないか、と提案します。

 なんとこれって、掛川が唱えていた「ゆっくり、ゆったり、心豊かに」という「スローライフの理念」に近いではありませんか。

 もしかしたら、現代資本主義からの脱却の答えはスローライフにあるのかもしれません。

 経済の現実を虚心坦懐にみると、著者である水野さんの論にはつよい説得力があって、投資などをしているとちょっと恐ろしくなるかもしれません。

 しかし敢えて、「資本主義の終焉と歴史の危機」のご一読をお勧めします。

 現代社会を生きるものとしての教養の一冊になることでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする