北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

岩下先生の「日ロ関係を動かす四つの提案」~サハリンで国境を考える

2016-04-09 22:50:09 | Weblog

 

 北海道大学スラブ研究センター教授の岩下明裕(いわした・あきひろ)さんが、ネットサイト『現代ビジネス』に「なぜ北方領土問題はいまだ解決しないのか~日露関係を動かす「4つの提案」をここに示そう」というタイトルで、日露国境問題の解決に関する提案をされています。

【現代ismedia 日ロ関係を動かす「4つの提案」】
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48359 

 岩下先生は国境学(ボーダースタディーズ)と、その延長線上で「国境観光(ボーダーツーリズム)」による国家間の関係性の向上や地域の観光振興をを提唱されています。

 ボーダーツーリズムとは、国境に接した境界地域を“砦”ではなく“交流拠点”と考え、境界地域ならではの体験を楽しもうという旅行スタイルのこと。

 国同士が陸続きに繋がっている大陸での国家間では一般的な旅行スタイルなのかもしれませんが、四方を海に囲まれたわが国では、これまではあまり関心をもたれず、旅行商品化されることもほとんどありませんでした。

 岩下先生は、「境界地域であるということを観光魅力の一つと捉え、境界地域を『見る』『渡る』『比較する』ことで新たな魅力を生み出し、観光客の増加に結びつけることで、境界地域の地域振興を図りたい」とおっしゃいます。

【樺太の北緯50度線】
 日本ではあまり例が無い、陸地での国境だった部分がはっきりわかるのが樺太をほぼ南北に二分する北緯50度線ですが、実は北樺太と南樺太を分ける線の国境解釈には微妙なものがあります。

 第二次大戦末期に北緯50度線以北を領土としていたソ連は南樺太に侵攻し、サンフランシスコ講和条約で日本が南樺太を放棄したことで北緯50度線は日露両国間の国境としては消滅をしました。

 その結果、現在南樺太はロシアが実効支配をしていますが、日本政府は北緯50度線をロシア領(北緯50度以北)と帰属未定地(北緯50度以南)の境界とみなしています。

 しかし日本はサハリン南部の領有権を主張しているわけではなく、ロシアの施政に異議を唱える立場にもない、という説明をしています。

 やや宙ぶらりんな感じですが、サハリンへ渡るのにロシアのビザが必要ということにも異議は唱えていないのが現状で、北方四島ほどのシビアな返還問題や国境問題を抱えているわけではありません。

 そんな微妙な関係ですが、サハリンにおいては日ロ間の国境問題は事実上存在せず、北緯50度の国境標石などは歴史を物語るモニュメントとして観光素材になりうる存在になっています。

   
【岩下先生の四つの提案】
 岩下先生は中公新書『北方領土問題―4でも0でも、2でもなく』を著されて、三島返還論などで物議をかもされましたが、国境問題を解決するために、ということでこの記事で四つの提案をされています。 


 第一は、「日露間でビザ免除協定を導入すること。前述のビザなしがあくまで特殊なケースであり、対象者も限られ、パスポート不要とされるのに対し、こちらは国民すべてに適用されるだけでなく、正規の国家関係における措置である」というもの。

 現在はサハリンを旅行する際に日本人は、観光目的で72時間(最大三泊四日)以内の往復旅行であればビザ免除の措置がありますが、ロシアの人が日本に入国する際にその措置はありません。岩下先生は、「『観光立国日本』という政策のなかでもそろそろ重い腰をあげるときだろう」と提案されています。

 そして第二に、「一挙の免除が無理だとしても、試行的に地域など限定で緩和をしたらいい。例えば、北海道で稚内とロシア・サハリンのフェリー利用者にこれを導入する」という提案をされます。

「この日本で数少ない外国との直行の貨客航路は昨年をもって休止となり、稚内はいま50キロ先のサハリンと結ぶ道を失い、再び日本の最果てとして行き止まりになってしまっている。この航路を支援することは、日露関係のともしびとなるばかりか、行き止まりの国境地域に対する振興にもなる。
 昨年、国境越えのツーリズム・ブームにのり、稚内からサハリンへ向かう日本人の数は、向こうから来るロシア人の数を久々に上回った。現在、稚内市と地元産業界でチャーター便による航路復活を模索している。このような地域の動きを日本全体で後押しする視座が重要だ」という視点はサハリンとの交流を考える上で示唆に飛んでいるものだと思います。

      ◆ 

 第三は、「ビザ相互免除と同時に、北海道のみならず、九州や西日本のロシアとの関係づくりを戦略的に行うこと」で、第四の提案は、「日露のシンボルとしての歴史の活用」です。

 日本とロシアとの関係は、国家間としては双方の歩み寄りがなかなか目に見える形にはなりませんが、こういうときこそ、地域間レベルでの交流で実績を作っておくことが大切です。

 稚内~コルサコフ間の定期航路の再会を願いつつ、観光や交易、物流などの多角的なアプローチによる持続的な交流の継続を道民を上げて応援したいものです。

 サハリン交流は諦めずに、粘り強くいきましょう。

 

コメント (2)
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