青山劇場、2004年6月11日ソワレ。
時は文久三年二月。江戸下町のとある神社の境内で、お新(松たか子)が巾着切りだと徳川家直参旗本とその郎党に囲まれた。お新が働く居酒屋「いろは」の常連・母衣権兵衛(伊原剛志)の助けもあって、なんとか自由の身になるお新。権兵衛はお新を想っていたが、お新には腐れ縁の愛人・荒牧源内(唐沢寿明)がいた…原作/山上伊太郎、脚本/マキノノゾミ、演出/山田和也、主題曲/坂本龍一、衣装/ワダエミ。昭和3年、マキノ雅博監督による無声映画『浪人街』のために書かれたシナリオを原作に、過去何度も映画・テレビドラマでリメイクされてきた作品の舞台版。
他のキャストは、いろはの常連で酒と喧嘩が大好きな暴れん坊の浪人・赤牛弥五右衛門に中村獅童、旗本兄弟に升毅と鈴木一真、源内を夫の敵と狙う武家の妻・千鶴に田中美里、その義弟に成宮寛貴、いろはの主人に田山涼成と豪華絢爛。
要するに、オールスター痛快娯楽時代活劇なんでした。
いや、不勉強なもので、予備知識をまったく持たずにただ「おもしろそう」と取ったチケットだったんですよ。宣伝の仕方もわりと渋かったと思うし、こんなふうな「笑える」舞台だと知らなかったもんで、ちょっと損した気分になりました。もっと真面目で渋くしっとりした物語なのかと思っていたので、笑うタイミングを外したというか、乗り遅れ気味になったというか。
客席のムードもそんな感じだったと思います。若い観客が多かったから、みんな昔の映画版なんて知らないんじゃないでしょうか。客席が温かくなってきた一幕後半から、俄然役者も乗ってきたと思うし(中村獅童のアドリブ?が炸裂!)、楽しい舞台になりました。
コメディだと宣伝したものに、「笑うぞ、笑ってやるぞ」とばかりに臨み、まだおもしろくもないくすぐり程度に早くも爆笑するような客席も品がない感じで嫌いなんですが…ワガママですね、私も。
とにかく、わかってしまえば乗れたのに、最初の数場面は
「で、誰が主人公なの? なんの話なの?」
とずっと思っていたんだもんなあ。ああ、損した。
というわけで、幕末の風雲急を告げる時代に、ちょっとだけ外れた、居酒屋に集う食い詰め浪人たちの群像活劇なんでした。
しかし「浪人」という言葉にもそろそろ説明がいるのではないでしょうか…
それはともかく、まず衣装がよかった。遠目にも凝ったいい生地だってのがわかるんですよねー。いかにも舞台衣装、みたいなつるつるてらてらしたのじゃなくてさ。それをまあ惜しげもなく汗かき水に濡らし血しぶきにさらしておりました。
主題曲の他に音楽は沢田完とのことでしたがこれもよかった。立派な映画音楽みたいでした。
舞台装置は花道作って池作ってとこだわり放題で効果満点。でも暗転が多いのは映画ならともかく舞台としてはもう一工夫ほしかったかもしれません。
普通、二幕ものの舞台は一幕目の方が時間が長いものですが、この舞台は逆でした。なるほど、あの大立ち回り、大チャンバラシーンがやりたかったんですね。と言うかそれゆえの企画だったんでしょうね。大迫力で圧巻でした。郎党ズのみなさんに大拍手です。影の主役です。
そしてまあこのシーンでの
「義によって助太刀いたす!」
と水しぶき蹴立てて走り込んできたホロゴンのかっこいいことったら! 惚れますよ!!
「忘れてしまった俺の純情を」捜してやった役だそうですが、いやいやどうして、ぴったりでした。真面目で誠実で純情で女には押しが弱い正義感。素敵!
なんか最終場を見ていると、
「ちょっと『ルパン三世』みたい」
とか思ってしまいました。誰が誰、とかいうんじゃないんだけれど。源内とお新の腐れ縁っぷりはルパンと不二子とはまたちがうものだけれど。軽妙さ加減が通じるものがあるな、と思いました。銭形警部が不二子に惚れているとすればそれが母衣って感じ?
そんなわけですっかりホロゴンファンの私ですが、それも主役ふたりあってこそ。なのですが。
伊原剛志も中村獅童も
「やってみたい」
と口をそろえるお新はたしかにカッコいい役なんだけれど、松たか子は力不足とは言わないけれど、役の大きさにややアップアップしているように見えてしまって残念。声がもっと低くやれるとよりいっそういいんでしょうけれどねえ。
そして逆に唐沢寿明の方は、もっといろいろやりたいのに・できるのにシーンがない・台詞がない・演出がない、みたいでやや窮屈そうでした。源内のもっとすごいところってもっと描く必要はあって、だから非道でもぐうたらでも許せる、ってならなきゃいけないんですよね。ものすごいスーパーヒーローである必要はないけれど、ただのだめんずでは駄目だと思うので。ばかでしょうもないけど、でもやっぱすっごいばかで、だからカッコいい、許す、ってさ。そこまでいけたら
「しかたねぇなぁ、もう…一緒に死んでやらぁ」
が殺し文句になるのに~!!
場所があれば、「そこはそれ?」なんて、脚本家が「僕が今まで書いたセリフの中で、いちばんひどいセリフ」と言うだけのものをああも演じきって見せられるんですからねえ。もったいなや。
他は、色気たっぷりの田中美里(もともと声が好き。特徴あるし、声優やるのもむべなるかな)、楽しそうに悪人をやっている(酔っぱらいシーンが最高!)升毅、鈴木一真が印象的でした。あと、手提袋は余計だったけどパンフレットがよくできていたと思います。
連日大入り満員で当日券も即完売、キャンセル待ちも長蛇の列という、久々に暑苦しい劇場を見ました。
時は文久三年二月。江戸下町のとある神社の境内で、お新(松たか子)が巾着切りだと徳川家直参旗本とその郎党に囲まれた。お新が働く居酒屋「いろは」の常連・母衣権兵衛(伊原剛志)の助けもあって、なんとか自由の身になるお新。権兵衛はお新を想っていたが、お新には腐れ縁の愛人・荒牧源内(唐沢寿明)がいた…原作/山上伊太郎、脚本/マキノノゾミ、演出/山田和也、主題曲/坂本龍一、衣装/ワダエミ。昭和3年、マキノ雅博監督による無声映画『浪人街』のために書かれたシナリオを原作に、過去何度も映画・テレビドラマでリメイクされてきた作品の舞台版。
他のキャストは、いろはの常連で酒と喧嘩が大好きな暴れん坊の浪人・赤牛弥五右衛門に中村獅童、旗本兄弟に升毅と鈴木一真、源内を夫の敵と狙う武家の妻・千鶴に田中美里、その義弟に成宮寛貴、いろはの主人に田山涼成と豪華絢爛。
要するに、オールスター痛快娯楽時代活劇なんでした。
いや、不勉強なもので、予備知識をまったく持たずにただ「おもしろそう」と取ったチケットだったんですよ。宣伝の仕方もわりと渋かったと思うし、こんなふうな「笑える」舞台だと知らなかったもんで、ちょっと損した気分になりました。もっと真面目で渋くしっとりした物語なのかと思っていたので、笑うタイミングを外したというか、乗り遅れ気味になったというか。
客席のムードもそんな感じだったと思います。若い観客が多かったから、みんな昔の映画版なんて知らないんじゃないでしょうか。客席が温かくなってきた一幕後半から、俄然役者も乗ってきたと思うし(中村獅童のアドリブ?が炸裂!)、楽しい舞台になりました。
コメディだと宣伝したものに、「笑うぞ、笑ってやるぞ」とばかりに臨み、まだおもしろくもないくすぐり程度に早くも爆笑するような客席も品がない感じで嫌いなんですが…ワガママですね、私も。
とにかく、わかってしまえば乗れたのに、最初の数場面は
「で、誰が主人公なの? なんの話なの?」
とずっと思っていたんだもんなあ。ああ、損した。
というわけで、幕末の風雲急を告げる時代に、ちょっとだけ外れた、居酒屋に集う食い詰め浪人たちの群像活劇なんでした。
しかし「浪人」という言葉にもそろそろ説明がいるのではないでしょうか…
それはともかく、まず衣装がよかった。遠目にも凝ったいい生地だってのがわかるんですよねー。いかにも舞台衣装、みたいなつるつるてらてらしたのじゃなくてさ。それをまあ惜しげもなく汗かき水に濡らし血しぶきにさらしておりました。
主題曲の他に音楽は沢田完とのことでしたがこれもよかった。立派な映画音楽みたいでした。
舞台装置は花道作って池作ってとこだわり放題で効果満点。でも暗転が多いのは映画ならともかく舞台としてはもう一工夫ほしかったかもしれません。
普通、二幕ものの舞台は一幕目の方が時間が長いものですが、この舞台は逆でした。なるほど、あの大立ち回り、大チャンバラシーンがやりたかったんですね。と言うかそれゆえの企画だったんでしょうね。大迫力で圧巻でした。郎党ズのみなさんに大拍手です。影の主役です。
そしてまあこのシーンでの
「義によって助太刀いたす!」
と水しぶき蹴立てて走り込んできたホロゴンのかっこいいことったら! 惚れますよ!!
「忘れてしまった俺の純情を」捜してやった役だそうですが、いやいやどうして、ぴったりでした。真面目で誠実で純情で女には押しが弱い正義感。素敵!
なんか最終場を見ていると、
「ちょっと『ルパン三世』みたい」
とか思ってしまいました。誰が誰、とかいうんじゃないんだけれど。源内とお新の腐れ縁っぷりはルパンと不二子とはまたちがうものだけれど。軽妙さ加減が通じるものがあるな、と思いました。銭形警部が不二子に惚れているとすればそれが母衣って感じ?
そんなわけですっかりホロゴンファンの私ですが、それも主役ふたりあってこそ。なのですが。
伊原剛志も中村獅童も
「やってみたい」
と口をそろえるお新はたしかにカッコいい役なんだけれど、松たか子は力不足とは言わないけれど、役の大きさにややアップアップしているように見えてしまって残念。声がもっと低くやれるとよりいっそういいんでしょうけれどねえ。
そして逆に唐沢寿明の方は、もっといろいろやりたいのに・できるのにシーンがない・台詞がない・演出がない、みたいでやや窮屈そうでした。源内のもっとすごいところってもっと描く必要はあって、だから非道でもぐうたらでも許せる、ってならなきゃいけないんですよね。ものすごいスーパーヒーローである必要はないけれど、ただのだめんずでは駄目だと思うので。ばかでしょうもないけど、でもやっぱすっごいばかで、だからカッコいい、許す、ってさ。そこまでいけたら
「しかたねぇなぁ、もう…一緒に死んでやらぁ」
が殺し文句になるのに~!!
場所があれば、「そこはそれ?」なんて、脚本家が「僕が今まで書いたセリフの中で、いちばんひどいセリフ」と言うだけのものをああも演じきって見せられるんですからねえ。もったいなや。
他は、色気たっぷりの田中美里(もともと声が好き。特徴あるし、声優やるのもむべなるかな)、楽しそうに悪人をやっている(酔っぱらいシーンが最高!)升毅、鈴木一真が印象的でした。あと、手提袋は余計だったけどパンフレットがよくできていたと思います。
連日大入り満員で当日券も即完売、キャンセル待ちも長蛇の列という、久々に暑苦しい劇場を見ました。