宝塚大劇場、2024年8月24日11時、9月15日11時。
東京宝塚劇場、10月20日15時半、31日18時半(新公)、11月10日11時、13日18時。
内閣総理大臣、黒田啓介(礼真琴)。史上最悪のダメ総理と揶揄される彼は、ある日選挙の応援演説中に投げられた石が頭に当たり、一命は取り留めたものの記憶を失ってしまう。政治家になってからの記憶がそっくり抜け落ち、妻・聡子(舞空瞳)をはじめ家族や自身を取り巻く人々すべてがわからず、困惑どころか恐怖を覚える黒田。彼の不安をよそに、首席秘書官の井坂(暁千星)らはこの状況をトップ・シークレットとして扱い、黒田に無理矢理政務を続行させるが…
映画脚本・監督/三谷幸喜、潤色・上演台本・演出/石田昌也、作曲・編曲/手島恭子。2019年の同名映画を原作にした政界コメディ。
マイ初日雑感はこちら。
このときはそれなりに楽しく観たんですけれど、その後は観れば観るほどダーイシの政治性のしょうもなさと作家性のしょうもなさが見えてきたのと、あまりにも世界が急激に悪いほうに転落しているので、とても笑っていられなくなり、観るのがかなり苦痛になりました。これはフィクションだから、ファンタジーだから、と割り切るのはかなり苦しい現実を、今、私たちは生きているのではないでしょうか。そのことは実際には作品のせいではないのかもしれないけれど…つまり企画している段階では、上演時に世界がどうなっているかなんてわからないわけですからね。でも、持ってなさすぎですよね…てかそもそも発表時にだって「何故この作品を?」だったわけですしね…はー、ショーはよかったのになー! これはアレですよ、同じダーイシの『カンパニー』が嫌すぎて『BADDY』がチケット追加できなかったのと同じ現象ですよ…(当時はチケットが売るほど余っていた…)大楽配信もひっとんのサヨナラショーが見たいので見るつもりですか、ショーからにしようかな、と思っているくらいです。映像になっても台詞の雑さは変わらないんだから、マシに感じられるとは思えません…ああ、つらい。
「♪選挙に行こう、あなたの一票が日本の未来を変える」という田原坂46の歌詞は素晴らしい。公式イメージソング(?)にしてもらいたいくらいです。でも、「♪こんな国に誰がした」からの一連は、ダメなんですよね。こっちゃんが後ろ姿でせり上がってきて、庶民役の組子が一斉に「アンタだよ!」と指を指し、こっちゃんが振り返って「え、俺?」とボケて、ライト、拍手、からの赤絨毯の大階段に組閣時の写真もかくやと議員役の組子たちがざかざか下りてきて、「献金マンボ」…ホント素晴らしいんですよ、思いついちゃったらキタコレ!ってやりたくなっちゃうものだと思うんですよ。でも、国が悪くなっている、政治が悪くなっているのって選挙で議員を選んでいる(あるいは、その選挙にすら行っていない)国民のせいなんですよ。そりゃ一般人には与党総裁の選挙権はないんだけれど、総理がどんなに凡庸だったり愚鈍だったり劣悪だったりしてもひとりで国を傾けられるものでもないはずなのです。この作品では十年もの間、政権交代が行われていないようなので、そんなダメ政党を与党にし続けている選挙をしている国民がそもそも悪いのです。その視点がこの作品にはまったくない。今の時代に、それはかなりの政治感覚のなさを覗わせます。金で転んだブン屋は描いているけれど、そもそも政治に無関心で選挙にすら行っていないしょうもない国民、といったキャラクターは出せていません。たとえば古郡(極美慎)に田原坂の誰かに「選挙行けよ」って言わせる、とかでもあればなあ…(中の人はチャラオジとしてやっているそうですが、残念ながらそこまでおじさんにはどうしても見えませんね…でもおじさんが若い娘に説教する構図、おじさん作家は大好きじゃん。入れとけよ!)どこかに少しでもそうした批評性が入れられていたら、見え方はまた違っていたと思います。そうしたことは宝塚歌劇の役目ではない、という考え方もありますが、でも愛や夢やロマンだけ描いていればいいというものでもないし(それすら十全に描けていない作品も多いというのに…)、愛も夢もロマンもすべて、政治と無縁のものなどこの世にはないのです。人が群れて暮らし始め社会を作り出して以後、政治は生活とは切り離せないものになりました。その意識が残念ながら未だあまりない国民に対して、こんなにも脳天気すぎる作品を提示することは害悪ですらある…と考えることはできてしまうでしょう。
しかも作家の政治性は、無関心や脳天気というよりむしろ、あまり感心しない方向へ偏向していると思われる事例がのちにざかざか出てきます。主に柳先生(美稀千種)が啓介にレクチャーする台詞において、それは如実です。ここの台詞が原作映画とは全然違うことからも、これが作家の指向であることは明白です。そして偏向しているだけでなく論理がフツーに破綻していて、それだけでもう私はイライラするので、このくだりの数分間が本当に本当に苦痛なのでした…
啓介は民主主義とか議会政治とか、そうしたもののイロハから学び直したいとして彼を招聘しているわけですが(ところでこのとき啓介は柳先生に関する記憶があるようにも見えますが、ってことは同級生だった聡子のことも覚えていてもいいのでは…)、まず彼が言うのは、政治家には人気よりも人望や人徳が必要だ、というようなことです。そうか? 政治家なんだからまず政策とか、法案作成力みたいなものありき、なんじゃないの? そりゃ人として人望、人徳はあったほうがいいに決まっていますが、無能ないい人より有能なワルい人の方がマシであり、またこの二択には罠があって本当は有能でいい人がいいに決まっているのですが、それでも大事なのはいい人かどうかより有能かどうか、いい政治をする手腕があるかどうか、なんじゃないの?
そのあと、法案の運用法みたいなことに話が飛びますが、それってどこから来ているの?ワルい人が悪用することもあるから良くない、って話なの? 意味不明。さらに死刑制度と暗殺云々を持ち出すのが本当に心底意味不明なんですけど…例えば安倍総理の死は暗殺ではないのか? てか暗殺の定義って何? てか死刑制度の有無と暗殺の頻度の相関性ってあります? てか今、日本に死刑制度があることが国際社会からどう見られているのかとか、新聞で読んだりしたことないの? こんなデリケートな問題をこんなに雑に口にしていいと思ってるの?
そのあとの「負けて得取れ」とかもホント全然わからない…政治は勝ち負けとか損得じゃないんですけど、主語デカで語りますけど男の人ってホントこういう考え方をしますよねー。そりゃ選挙は議席を対立候補と争うものだから勝ち負けとか言いがちだけれど、本当は政策の良さを競うはずのものなのですよ。そういうの、わかってます? あと、勝ちすぎが独裁に通じて云々…ってナニ? 先日の衆院選でやっと自民党が議席を減らして強行採決がしづらくなって通常の審議を尽くす国会が運営されるようになるはずなんですけれど…でもぶっちゃけ自民党側は面倒くさくなったと感じているはずだし、それはこの世界の与党の鶴丸(輝月ゆうま)だって井坂だって同じはずで、こんなにあっさり「独裁、ダメ絶対」みたいなこと、言いますかね? むしろこっそり独裁するのが彼らの希望に決まっているわけで(決めつけすんません)、だから台詞としてはむしろみんなで審議を尽くして云々…みたいなほうに流すべきなんじゃないのかなあ? てか100ゼロとか49対51とか心底どうでもいい、というかマジで意味不明なんですけど…
この「負けて得取れ」は、のちに啓介が謝罪会見を開くことにまでつながり続けるので、ホント始末に悪いんですよね。女性蔑視に関する謝罪は、まあ当人がいいと言っているのなら一応それでいい(しかしすぎたことだからいい、というのはおかしいと思う。さらには、言われた当人が許容しても他にも傷つけられた人はいるわけで、そもそも謝罪のネタとしてこれはあまり選んでいいものではないように思う…なんせこれは宝塚歌劇なので)。でもガールズバー問題は、行きたいのなら成人なんだし勝手に好きなだけ行けばいいのだが、公用車を使ったことには問題があり、それは明らかに悪いことで、謝罪し今後根絶すべきことです。でもそれを謝罪することは「負けてみせること」なのか? 先に謝ることでかえって好感度が上がる、という「得」を得ることは確かにできているのかもしれませんが、しかし悪いことをしたら謝って改めるのは人としてあたりまえのことで、何かに負けるものではないのでは? 謝罪を要求する圧力に負けたから謝罪する、という考え方をしているから、こういう言い回しを選んでしまうのでは? 作家のこの人間性に、絶望しかないんですけど…
あと、この首相官邸?の執務室?のセットって、別に質素でも華美でもどっちでもなくない? なんであんまり質素だと子供から憧れられない云々とかって話が出るの?(南条さん(輝咲玲央)も安普請みたいなことをあとで言うけれど、だったらそういう描写をするか台詞を事前入れておいてほしい…)てか「♪世界に誇れる国に」はいいとしても「♪世界が憧れる国に」は心底どーでもよくない? なんで男って(主語デカすんません)他者からどう思われるかばかり気にするんだろう、それこそ裸の王様ですよ…?
とにかくこんな感じで露呈する作家の政治観、人間性にいちいちこめかみがピキキッとなるのと、とにかく世の中が悪いほうへ転がり落ちているので、笑えない、笑っている場合ではないのでは…と思ってしまうことが、本当に痛恨の作品だったと思います。繰り返しますが、それはたまたまかもしれず、多くは作品の責任ではないかもしれませんが、しかし持っていなさすぎる…ここに来て某政党党首の不倫騒ぎですからね、ホント笑えません、笑っている場合ではありません。
あとさー、大臣の謝罪ネタ、失言ネタでも、放射能云々と実際の都市の名前をあげる必要、あります…? 実際に緊迫しているんだから、ギャグになってないじゃん。というか原発に何かあったら我が国は本当に放射能を撒き散らすことになるんですよ、笑えませんよ…
とかとか、思い出そうとしたらまだまだ出てきそうでもうホント嫌です…
しかし、でっかく一万歩くらい譲って、そうしたところに目をつぶれば、コメディとして世話物として、ある意味でよくできている作品だとも思えますし、なんせ本気で一生懸命にこの作品に取り組んで、役に全力でなりきってこの世界観を成り立たせている組子のがんばりには、心底胸打たれるのでした。
あとは、初日雑感でも触れましたが、けっこうざらりとくるギリギリのラインでもある気がする、ヒロインの不倫ネタ、の特異性ですよね…イヤ宝塚歌劇において不倫の恋なんてものはさんざっぱら扱われてきているわけですが、多くはそれこそが真実の恋であるとか、情熱ゆえに流されたものであるとかの巧みなフォローがなされているものです。今回の不倫は、そもそもダブル不倫であることもそうだけれど、そうしたものとは違っていて、けっこうきわどいところにある気がしました。それが、ひっとん聡子の絶妙なライトさっつーかのほほんとしたところのあるお嬢様っぷりというかでギリ成立している感じが、けっこう新しいのではないかと感じたんですよね…眼鏡でスーツでクールなありちゃん井坂さんが素敵で、でもこっちも別に本気じゃなかったっぽい感じとかが、また絶妙だったのでした。
なので萌えとしては、「聡子ナンバーワン」のタンゴの相手役としての接近から、具体的にいつどんな感じでどうふたりの関係が始まったのか(というか始まって続いている、というほどの回数(オイ)や期間があるのかどうか、とかも含めて)を知りたい!みたいなのがポイントですよね…
てか高校時代の回想シーンが挿入されたこともあって、啓介と聡子は当時から純朴かつラブラブなおつきあいを経ての結婚だったはずですが、ふたりの結婚と、啓介が政治家になるのと、聡子の父の派閥に入るのと、死に際に後継者に指名されて派閥を継ぐのと、鶴丸にすり寄って総理の座につけてもらうのとはどんな順番で進み、どこでどんなふうに啓介が嫌な男になっていき、聡子も息子まで産んでおきながら夫を見限るようになったのか…は、ホントはもっとくわしく知りたいところです。イヤ本編には関係ないんでいいっちゃいいんですけどね。でもこの物語をラブストーリーとして考えるなら、本当は外せない大事なポイントなはずです。
啓介の浮気だって山西議員(小桜ほのか)相手だけじゃないに決まっているわけですが(決めつけ)、そうしたことを聡子はどこまで知っていたのか、とかね。だってガールズバー通いを浮気にカウントするかどうかは、本当はけっこうセンシティブな問題なんですよ? 男性側は軽視しがちですが…貞操という概念はそれほど重いものなのです。夫の浮気を知ったととき、聡子は傷ついたのか、それとも鼻も引っかけないくらいにすでに心が離れていたのか…井坂さんに愚痴を言うくらいだからまだ未練があったのか、それで異種返しに自分も浮気することにしたのか? それとも、井坂さんってクールに見えるけどホントは優しいところもあるわよね…みたいに、ホントに好もしく思い心が揺れた、みたいな流れだったのか?
井坂さんのほうも、啓介を軽蔑しつつ仕えていたのでしょうが、それは何故なんでしょうね? 公設秘書って仕える相手を軽々には変えられないものなのかな? 男が、嫌う、憎む…という形である種執着している男の女を奪うことで溜飲を下げる、というのは実によくあるケースだけれど(当人は無自覚でも)、つまるところその執着って要するに愛着であって、本当は自分がその男を抱きたいないしその男に抱かれたいだけなんですけどね、ってのまでセットであるあるなんですが、井坂さんもソレなんでしょうか? でも啓介に対してそこまで深い感情も見えない気もするので、ホントちょっと仕事に疲れてて誘惑に抗うのにも疲れちゃったから、うるせーなじゃあやってやんよやりゃーいいんだろ!みたいな感じでのしかかっちゃったのかしらん…ヤダ萌える…!とか、まあそんなことばっか考えているわけですよ私はね、ホントすんません。
でも、本当は、「男同士の話をしている」なんて、本当は女性である男役同士で言っているからこそギリ許される場面ですよ。だって啓介と聡子の婚姻関係にも井坂と聡子の関係にも関わる問題なのに、当の聡子抜きで啓介と井坂とだけで話がつくなんてちゃんちゃらおかしいからです。啓介は井坂を一発殴って気が済んだのかもしれないけれど、ところで自分は山西議員ほか様々な浮気について聡子に謝ったのか? 聡子は啓介の記憶を確認して抱きついてくるんと回って元サヤっぽくなっていたけれど、それはそれとしてあとでふたりきりになったときにちゃんと井坂とのことを謝ったりしたのか? そして聡子は井坂と別れ話をふたりでちゃんとしたのか? それともフェイドアウトなのか? 本当は、恋愛ものとしては押さえるべきたくさんのポイントがすっ飛ばされたままに大団円になだれ込んでおり、まあ大人なんだしお互いさまで当人たちがそれでいいならいいんですけどね…と思いつつ、ついほじくりたくなっちゃうのは、やはりトップトリオが作ったキャラクター像がとてもチャーミングで魅力的だからです(小桜ほのかのちょうど良さも素晴らしい)。だからホントなら、政治云々なんかすっ飛ばしたラブストーリーが観たかったし、それこそが宝塚歌劇の本領発揮なんでしょうけれどね…
まあでも、チャレンジ精神は買いたいので、今後も良きコラボ企画はあっていいかと思いますが、しかし真にがんばるべきはあてがきオリジナル新作を作っていくことなので、そこは本当にがんばってくださいよ劇団!と念じるばかりです…
では以下、生徒の感想を簡単に。
我らがこっちゃん、映画では中井貴一。中井貴一は情けな可愛い感じでしたが、こっちゃんは可愛いじらしい感じ? でも「献金マンボ」までの、悪ダメ総理のころのノリノリさ加減も最高でした。「♪政治は数字で動いている」というのは駄洒落ですが、その数字とはつまるところ金額のことであり、政治はお金次第だと歌っているサイテーの歌詞なのですが(しかしここは皮肉、洒落としてまだ批評が効いている…と信じたい)、そのお金を表す人差し指と親指の形、アレをあんなに嫌ったらしくかつ色っぽくできる人はそうはいませんよね…! 顔芸もすごいんだけど、ホントここでのダンサーとしての切れ味に心底感動しました。からの「…ヤダ怖い」とかの絶妙さね…! ホント抜群の愛嬌とチャーミングさで、とたととたした走りもいじらしくて、でもこれって男役がもう完全にできあがっている人だからこそできる立派な芸なんですよね。本当に上手い、なんでも上手い。ついに次の本公演での退団が発表されてしまいましたが、こっちゃんが世に放たれる…!と思うと、期待しかないのでした。
ひっとんもまた、石田ゆり子のカマトト感とは違う、絶妙な天然感が、まさしくフェアリーたるタカラジェンヌにしかできないヒロイン演技、役作りだと感心しました。男役が存在しない理想の男性を演じているように、娘役もまた存在しない理想の女性を演じていて、一般の女優とは違うのです。政治家一家に育ち、しかし自分では政治家にならず、政治家の妻になったお嬢様…といった役どころをある種すっとんきょうに、かつのほほんと、そして品良く、しかしおもろく、抜群に表現していたと思いました。宝塚歌劇の日本を舞台とした現代劇にありがちな謎衣装も、スーパースタイルで着こなしていましたしね…! 高校時代の回想場面の全力コントっぷりも、とてもよかったです。アレは全力のコントだってことがちゃんと伝わらないと、意味ないからさ…! いろいろな塩梅がちょうど良くて変な湿り気がないから、私の井坂と聡子の薄い本作りたい病もなかなか発動しきらないんですけど(笑)、そこが正解だし素晴らしいんだと思いました。世に放たれても、ご活躍をお祈りしています! 次の『1789』オランプにはまどかが発表され、私はひっとん出演がアリならアントワネットが観たいななどと思っていましたが、そこはカチャでしたね。でもアントワネットはもう数年後でもできるしな…何がデビューになるのかな、今から楽しみです! 大楽も配信で観るつもりなので、サヨナラショーを楽しみにしています!!
ありちゃんはおディーンさまより…とは言わないまでも、また違った色気を発散していて良きでしたよね。基本的には無口で無表情なお役なので、ただじっとしているだけのはけっこう大変なことなんでしょうけれど、その中でちゃんと人となりを示す演技をしていて、とてもよかったと思います。あとは、イメージシーンとはいえ、ひっとん聡子とキスするときにわざわざメガネ外すヤツね…! 片手で外すのはメガネを傷めるんですけど、許すよありちゃんなら…!と思いました(笑)。
そしていつも贔屓目で実像が私にはよく見えない(笑)かりんさんの古郡さんも、お友達たちから褒めていただくことが多いので(みんなファンに優しいよね…)、上々の出来なのではないかと判断するのですけれど、そりゃ佐藤浩市みたいな渋さは出なくても、この作品におけるスパイスというか、他の場面とは違う緊張感とかがちゃんと作れていて、そういうところは本当に上手くなったよなあぁ、成熟してきたなあぁ…と思うのでした。あとは、着た切り雀で群衆の端にいることが多くても、そのスタイルの良さで目を引くし存在感が出せていて、それが物語に有効なのもとてもいい。田原坂の娘たちとやたらぺたぺたきゃいきゃいしてますけど、ちゃんとした交友をするように!と念じながら上手花道を覗き見するのがやめられませんでした…
天飛くんは秘書官補の野々宮くん(天飛華音)で、映画の迫田孝也とはまた違った、ちょっとお調子者なヤング…といった感じの芝居をしているように見えましたが、役としてはちょっとしどころがない印象もしたので、なかなかに難しかったのかも。秘書は井坂さんと番場さん(詩ちづる)がいればいいように見えなくもなかったのでね…
そのうたち、これまた小池栄子とはまたちょっと違ったかな。映画では彼女が視点人物に見えないこともないくらいな気がしたので…そして私はうたちのこの役は作品における立ち位置がちょっと意味不明に感じられました。うたちはもっとできるだろうから、主に演出意図がよくわからなかったというか…うぅーむ。
娘役にも役が多かったのは映画原作の功名で、まずは山西議員の小桜ほのかが、本当にいつでもなんでも上手いんだけど今回も絶妙でした。吉田羊よりキュートで良き。これでご卒業の水乃ゆりちゃんはキャスターの近藤ボニータ役で、有働由美子がどんなだったかもうちょっと記憶にないのですが(すみません)、話の筋には絡まないものの目立つ役ではあり、良き餞だったかと思います。アメリカ大統領スーザン・セントジェームズ・ナリカワ(瑠璃花夏)のルリハナもホントちょうどいい塩梅で、芝居の戦力になってきたなーと思います。
その秘書のジェット・和田(しかしなんなんだこのネーミングは…)の都優奈もとてもよかったです。
男役陣は、やはり小野田っち(ひろ香祐)のこりんさんですかね…なんでも上手いし今回もホント振りきっていて、あっぱれでした。まあ原作映画準拠なんだけど、禿げネタはいかがなものかとは思うわけですけどね…あとはオレキザキ、天希ほまれの振りきりっぷりも素晴らしすぎました。
つんつんの篤彦(稀惺かずと)もさすが上手い! そしてもちろんまゆぽんが素晴らしかったです。あの憎々しさ、ただものではなさ過ぎました…!
新公は東京で観られたので、以下感想を。というか星組さんの新公は久々の東西上演になった…のかな? やはり若手の経験のためには大事な機会だと思いますので、これからもお稽古時間には注意して、上手くやっていってほしいものです。公演期間が長くなり、新公が終わってからも本公演がまだたっぷりある感じなのは、そこでまた学べることもあっていいのかな、という印象です。本公演こそが本当のお仕事でもありますしね…
さてしかし、全体としては、新公らしい新公だなと感じたというか、コメディってやはり下級生には難しいのかもしれないな、と私は感じました。みんなものすごく一生懸命にやっていたと思うけれど、緊張もあってか若干の空回り感を感じなくもなかったので…
その最たるのが初主演となった御剣くんかなと思っていて、最初っから最後までわりとずーっと緊張してガチガチに見えました。あと、この役にはカッコよすぎたかもしれないね…というかここからの抜け感を出すなんて、それこそ上級生の技なのでしょう。フツーに考えたらこのタッパ、スタイルの良さは武器なので、これからも研鑽を重ねて大きく育っていってほしいと思います。前回の『RRR』新公でラーマをやるまでは、それほど起用されていた印象もないので、ここからですよ!って感じでしたね。
こちらも初ヒロインの綾音美蘭ちゃんは、おちついていて御剣くんをよく支えていたと思いました。本役の田原坂でももちろんカワイイ。歌はこれまたアガっていたように聞こえましたが、これは場数でしょう。がんばれー! ひっとんの新公をやった娘役はルリハナ、うたち、ななごんにひよりんと揃っているのも、組の未来のためにはいいことですよね…!
井坂さんは樹澄せいやくん。これまた長身でクールそうで素敵でしたが、この喉はなんなんだ…傷めていた、ということでなくこういう発声しかできないのであれば、舞台人としては致命的だと思うので、早急になんとかしていただきたいものです…
茉莉那ふみの番場さんがさすがに手堅く、ハセルキはただカワイイだけになってしまっていた気がしました。
かりんさんのところをやらされがちな大希くんも、ちょっとフツーというか、やさぐれ感が足りなかったかな…
最近スカステなんかでも妙に出ている気がする碧羽陽ちゃんの山西議員は、めっちゃよかったと思いました。本役をよく研究している感じがしました。あとは寿賀さん(白妙なつ)役に徹していたうたちもすっごくよかった!
いつでも上手い世晴くんの鶴丸は今回も手堅い。
MVP!と思ったのはふたり、柳先生のつんつんと鰐淵議員(碧海さりお)の碧音くんです。いつも上手いふたりだけれど本当によかった、特に碧音くんは場をさらってました!! つんつんのところをやった早瀬まほろくんも上手くてよかったなあ…
よりキラキラメイクになっていた鳳花るりなたんのボニータもよかったし、ジェット・和田のひよりんも、こういう役もそつなくこなすなー!と感心しました。アルゼンチン大使夫人役の咲園りさちゃんも圧があってよかったなー。圧といえばスーザンの瞳きらりちゃんもよかったです。レストランの女性支配人になった愛花いとちゃん、ソムリエ(星咲希)の絢咲羽蘭ちゃんも圧のある美人でよかった。星娘ってなんでこう…(笑)
あとは猪熊虎象(御剣海)の彩香涼くんも華があってよかったです。ここは名前に似合わぬ美貌枠、ということなのか…
我らが乙華菜乃たん、ななごんは代役にも入った足摺国土交通大臣(紫りら)。代役のときには確かかけていなかったように思う赤縁メガネをかけて、よりざーますな感じの女性議員になっていて良きでした。これまた玉突き代役に入っていた田原坂の美玲ひなちゃんも可愛かったです。
新公担当は雑賀ヒカル先生。変更は特になく、映像なども一部は新公仕様になっていました。
カルナバル・ファンタジアは作・演出/竹田悠一郎。竹田先生の大劇場デビュー作でした。若手はバウで数作やって大劇場ではショーでデビュー、というのが続いていますが、いいと思います! なんてったってショー作家の枯渇がひどいので、お若い方には是非両方作れる人になっていってほしいのです。というか脚本家と演出家を分けることもぼちぼち視野に入れようね劇団…!
青い、女性用の王冠。かつ、運命の。タイトルからしてひっとんの卒業を寿ぐような美しいものでしたが、近年の星組のショーでは、というか他組含めても『ジャガビ』に並び、かなり好きでした! ショーだけ何度でもおかわりしたかったーーーー!! 中詰めの盛り盛り感がサイコーでした。
というかとっぱし、暗い中を上手はかりんさん、下手はひっとん先頭で男役たちが袖から銀橋にざかざか出てきて、ずらりと並んで立ち位置について、音楽に合わせてうつむいて、がっと足開いて、ばっと顔上げてライトついて拍手、歌、次のフレーズから手拍子!という幕開けがもうゾクゾクものでした。まあひっとんのソロからはホントは手拍子をいったんやめてもいいんだけど…そのあともここは抜いてもいいと思うけど、と思うところがあっても突っ走り続けるのが星組ファンなのでしょう(笑)。プロローグもまあまあてんこ盛りで熱く、ラストにばさっと降りる金の帯カーテンみたいなのも良き効果を上げていて、テンションが高まるのでした。
続く12時、男子グループと女子グループの求愛ダンス場面…みたいなのはまあよくあるんですけれど、全カップル観たくて目が足りませんでした。ゆりちゃんルリハナななごんひよりん、そしてひっとんとは並び過ぎよ…! ありちゃんイグナシオがひっとんエリアナにフラれておしまい。まあまあ楽しく踊っていたように見えたのに、エリアナはツボらなかったのですね…(^^;)
そこからの16時、これまた誰かにフラれてしょぼくれているこっちゃんルカ登場。カンタンテはこりん、りら様、優奈ちゃんに鳳真くん。ルカが水たまりを跳ね飛ばして、居合わせたエリアナを濡らしてしまい…謎のブティックでお着替え。謎のファッション・ショーでお衣装チェンジとか、宝塚のショーあるある場面ですけど、どういう伝統なんでしょうね…? しかしこういう場面で着せられがちな謎トンチキ衣装を着こなしてこそのスター、だと私は思っているので、大歓迎です。デザイナーのガスパールはかりんさん、助手はリンダ小桜ちゃん、エルモーサうたち。ここのうたちのドレスがかーわいーい! そしてここのマネキンたちも全員観たくて目が足りない!!
ドレスアップした…のか?な衣装になって(笑)ルカとエリアナが街に出て行き、楽しいダンス。マイ楽はありがたくもSS席だったのですが、紅咲ちゃんと組んで踊るこっちゃんがともにコケたのがほぼ正面に見えるアクシデントがあった日でした。紅咲ちゃんが足を滑らせたかバランスを崩したかに見えて、こっちゃんも支えきれず抱え込みきれず、さりとて踏んづけたり乗っかかったりもしないように、と妙にかばった体勢になったりで、すぐライトが落ちたようにも見えましたが、リカバリーまでかなり尺を取ったように感じられました。が、ふたりとも怪我なく立ち上がり、こっちゃんが振りのようにごめんと手で謝ってみせてからひっとんと組み始めて、同じ回を後方で観ていた知人はそういう振付かと思った、というくらいのナチュラルさだったようです。よかった!
21時、祭りの始まりは赤いギラギラ衣装のありちゃんイグナシオと、タケルや御剣くんからハセルキまでの男役8人のダルマから! そこからはもう怒濤です。てかそのあと山車?に板付いたままズズズンと前に出てくるルカと、その下でおすましポーズのエリアナってのがもう良すぎておもしろすぎて、私は毎回ここで完全にハイになっちゃうのでした。そこからまずほぼ全員が出ての、客席下りでのお練り。マイ楽は先頭がかりんさん、ラストがありちゃんという列の通路席で、もうホントいい匂いしました! 真横でゆりちゃんに踊られた日には、その高い位置の腰をガン見ですよ…!!
で、怒濤の色攻撃(笑)です。先頭で駆け抜けたかりんさんセンターのアマリージョ・レランバゴ、金色の男役たちがずらり! 続いて緑色チーム、トゥルケッサ・テンタシオン。男役1に娘役2の5組でセンターはさりお、小桜ちゃん、ルリハナ。続くオレンジと紫の色使いが派手ですっごく好きだったナランド・マヒーア、センターは天飛くんとうたち。もうこのうたちのダルマがサイコーでしたよ、ちっさいのにデーハーでどかんとした華と圧がありました! そして赤いロホ・アパショナードのゆりちゃんが出てくると、色とりどりの男役たちが囲むのです! わかってる!! ここのゆりちゃんの踊りは『ノバ・ボサ・ノバ』のビーナスを彷彿とさせて良きでした。そういえばことなこで『ノバ・ボサ』、というまことしやかな噂がかつてありましたが、結局なんだったんだ…ラストは赤いロホ・アパショナード軍団でセンターはイグナシオ、濃い! 濃いよ…!!
これでおなかいっぱいな気がしたところに、ひっとんエリアナセンターの娘役総踊りがあって、これがまた華と圧しかなくて素晴らしい! なのにさらにトリデンテ場面が続くんですよ、満腹サイコー! でもまだ食べる、食べたい! みたいなハレーションなのエスカレーションです。クライマックスの総踊り、そしてななごんが長のディアマンテ・ブルートによるロケット…! もう疲れた、観てるだけで疲れた、イヤ手拍子で参加してるんだけどでも座ってるだけなのに疲れた、でもサイコー…!!
祭りの後、午前2時。ルカとエリアナがしっとり歌って銀橋を渡り、それを見たイグナシオはショックでひとりタンゴを踊り出す…このありちゃんはホント圧巻でした(振付/西川卓)。マイ楽でやっと、ありちゃんをかわしたうたちがゆりちゃんにチューするのを目撃できて幸せでした…! ありちゃんにかまうかりんさんも素敵でした。はー、ずっと観ていたい…!!(ありちゃんが死んじゃいます)
4時半、夜明け。ルカとエリアナの裸足のダンス(これも振付は西川卓)。言葉は要らない、とはまさにこのこと…常にひっとんに先を行かせるようなこっちゃんの振りが優しくてたまりませんでした。最後はバックハグで、ひっとんの方に顔を埋めるこっちゃん…
6時。よくある白いお衣装の(ありちゃんとひっとんはいつかの月組の、私が脳内でパジャマかなと思っていた黄色とオレンジのだんだらお衣装でしたが)総踊り場面でしたが、これもとても美しかったです。退団者への餞別のくだりには迷わず拍手。そしてかりんさんひとりが残ってボサノバふうにリプライズ。新進スターが銀橋ひとり渡りを任されて…というのをハラハラ見守ってきてもう3回目?4回目??くらい? でもこんなにゆったりした曲を、なんの小細工もせず、ただぷらぷら渡って保たせられるスターになりましたよかりんさんが…!と胸アツ。
これがフィナーレのとっぱしで、ついでこっちゃんを囲む娘役場面。コーラスは中堅男役で、これも良きでした。そして男役群舞2階建て、これがホントめっちゃよかった! めっちゃ星組!って感じでした。特にこっちゃんが抜けてありちゃんセンターになってからのギアの入り方、エレキギターぎゃんぎゃん!みたいなのがホントよかったです。
そこへするすると、滑るように大階段を降りてくるプリンセスのシルエット…銀と、スカートは淡いピンクのドレスのひっとんが、こっちゃんがせり上がってくるまでのまあまあ長い尺をひとりゆったり夢見るように踊り、これもなかなかないことなのでもうここから号泣です。ロマンチックな、スタンダードな、逆にこのふたりにはなかなかなかったデュエットダンス、曲は「星に願いを」…ふたりが銀橋に出てくると、いつの間にか置かれていたティアラにスポットライトが当たり、こっちゃんがひっとんに戴冠させて、抱きついて…もう、もう、泣くしかないのでした。
エトワールは詩花すずちゃん。これまた顔立ち体つきから子役専科な娘役さんですが、歌えるんですよねー、良き。パレード、トップスターのソロがアダージョにならないのもなかなかいいですね。ダブルトリオはやはりひよりん、茉莉那ふみちゃんに目が行く私なのでした。かりんさんが肩モフ、ありちゃんとひっとんの真っ白の大羽根、こっちゃんの紺の雉羽根わっさーの大羽根…豪勢で良きでした。ひっとんのドレスはもちろん膝丈で、ごっつぁんでございました。
はー、久々にショーのCDを買いたいな、と思いました。裸足のデュエダンの曲が変奏されて白い場面で歌われるのとか、ベタだけどいいですよね…
三谷さんは東京初日にいらしたようですが、ショーも楽しんでくれたのではないかしらん。
次は武道館コンサートとかりんうたちの和物バウ、そしてその次の本公演は『阿修羅城の瞳』…! 次々来ますよねえぇ…チケットのご縁がありますよう、身を慎んで祈ります…!!
東京宝塚劇場、10月20日15時半、31日18時半(新公)、11月10日11時、13日18時。
内閣総理大臣、黒田啓介(礼真琴)。史上最悪のダメ総理と揶揄される彼は、ある日選挙の応援演説中に投げられた石が頭に当たり、一命は取り留めたものの記憶を失ってしまう。政治家になってからの記憶がそっくり抜け落ち、妻・聡子(舞空瞳)をはじめ家族や自身を取り巻く人々すべてがわからず、困惑どころか恐怖を覚える黒田。彼の不安をよそに、首席秘書官の井坂(暁千星)らはこの状況をトップ・シークレットとして扱い、黒田に無理矢理政務を続行させるが…
映画脚本・監督/三谷幸喜、潤色・上演台本・演出/石田昌也、作曲・編曲/手島恭子。2019年の同名映画を原作にした政界コメディ。
マイ初日雑感はこちら。
このときはそれなりに楽しく観たんですけれど、その後は観れば観るほどダーイシの政治性のしょうもなさと作家性のしょうもなさが見えてきたのと、あまりにも世界が急激に悪いほうに転落しているので、とても笑っていられなくなり、観るのがかなり苦痛になりました。これはフィクションだから、ファンタジーだから、と割り切るのはかなり苦しい現実を、今、私たちは生きているのではないでしょうか。そのことは実際には作品のせいではないのかもしれないけれど…つまり企画している段階では、上演時に世界がどうなっているかなんてわからないわけですからね。でも、持ってなさすぎですよね…てかそもそも発表時にだって「何故この作品を?」だったわけですしね…はー、ショーはよかったのになー! これはアレですよ、同じダーイシの『カンパニー』が嫌すぎて『BADDY』がチケット追加できなかったのと同じ現象ですよ…(当時はチケットが売るほど余っていた…)大楽配信もひっとんのサヨナラショーが見たいので見るつもりですか、ショーからにしようかな、と思っているくらいです。映像になっても台詞の雑さは変わらないんだから、マシに感じられるとは思えません…ああ、つらい。
「♪選挙に行こう、あなたの一票が日本の未来を変える」という田原坂46の歌詞は素晴らしい。公式イメージソング(?)にしてもらいたいくらいです。でも、「♪こんな国に誰がした」からの一連は、ダメなんですよね。こっちゃんが後ろ姿でせり上がってきて、庶民役の組子が一斉に「アンタだよ!」と指を指し、こっちゃんが振り返って「え、俺?」とボケて、ライト、拍手、からの赤絨毯の大階段に組閣時の写真もかくやと議員役の組子たちがざかざか下りてきて、「献金マンボ」…ホント素晴らしいんですよ、思いついちゃったらキタコレ!ってやりたくなっちゃうものだと思うんですよ。でも、国が悪くなっている、政治が悪くなっているのって選挙で議員を選んでいる(あるいは、その選挙にすら行っていない)国民のせいなんですよ。そりゃ一般人には与党総裁の選挙権はないんだけれど、総理がどんなに凡庸だったり愚鈍だったり劣悪だったりしてもひとりで国を傾けられるものでもないはずなのです。この作品では十年もの間、政権交代が行われていないようなので、そんなダメ政党を与党にし続けている選挙をしている国民がそもそも悪いのです。その視点がこの作品にはまったくない。今の時代に、それはかなりの政治感覚のなさを覗わせます。金で転んだブン屋は描いているけれど、そもそも政治に無関心で選挙にすら行っていないしょうもない国民、といったキャラクターは出せていません。たとえば古郡(極美慎)に田原坂の誰かに「選挙行けよ」って言わせる、とかでもあればなあ…(中の人はチャラオジとしてやっているそうですが、残念ながらそこまでおじさんにはどうしても見えませんね…でもおじさんが若い娘に説教する構図、おじさん作家は大好きじゃん。入れとけよ!)どこかに少しでもそうした批評性が入れられていたら、見え方はまた違っていたと思います。そうしたことは宝塚歌劇の役目ではない、という考え方もありますが、でも愛や夢やロマンだけ描いていればいいというものでもないし(それすら十全に描けていない作品も多いというのに…)、愛も夢もロマンもすべて、政治と無縁のものなどこの世にはないのです。人が群れて暮らし始め社会を作り出して以後、政治は生活とは切り離せないものになりました。その意識が残念ながら未だあまりない国民に対して、こんなにも脳天気すぎる作品を提示することは害悪ですらある…と考えることはできてしまうでしょう。
しかも作家の政治性は、無関心や脳天気というよりむしろ、あまり感心しない方向へ偏向していると思われる事例がのちにざかざか出てきます。主に柳先生(美稀千種)が啓介にレクチャーする台詞において、それは如実です。ここの台詞が原作映画とは全然違うことからも、これが作家の指向であることは明白です。そして偏向しているだけでなく論理がフツーに破綻していて、それだけでもう私はイライラするので、このくだりの数分間が本当に本当に苦痛なのでした…
啓介は民主主義とか議会政治とか、そうしたもののイロハから学び直したいとして彼を招聘しているわけですが(ところでこのとき啓介は柳先生に関する記憶があるようにも見えますが、ってことは同級生だった聡子のことも覚えていてもいいのでは…)、まず彼が言うのは、政治家には人気よりも人望や人徳が必要だ、というようなことです。そうか? 政治家なんだからまず政策とか、法案作成力みたいなものありき、なんじゃないの? そりゃ人として人望、人徳はあったほうがいいに決まっていますが、無能ないい人より有能なワルい人の方がマシであり、またこの二択には罠があって本当は有能でいい人がいいに決まっているのですが、それでも大事なのはいい人かどうかより有能かどうか、いい政治をする手腕があるかどうか、なんじゃないの?
そのあと、法案の運用法みたいなことに話が飛びますが、それってどこから来ているの?ワルい人が悪用することもあるから良くない、って話なの? 意味不明。さらに死刑制度と暗殺云々を持ち出すのが本当に心底意味不明なんですけど…例えば安倍総理の死は暗殺ではないのか? てか暗殺の定義って何? てか死刑制度の有無と暗殺の頻度の相関性ってあります? てか今、日本に死刑制度があることが国際社会からどう見られているのかとか、新聞で読んだりしたことないの? こんなデリケートな問題をこんなに雑に口にしていいと思ってるの?
そのあとの「負けて得取れ」とかもホント全然わからない…政治は勝ち負けとか損得じゃないんですけど、主語デカで語りますけど男の人ってホントこういう考え方をしますよねー。そりゃ選挙は議席を対立候補と争うものだから勝ち負けとか言いがちだけれど、本当は政策の良さを競うはずのものなのですよ。そういうの、わかってます? あと、勝ちすぎが独裁に通じて云々…ってナニ? 先日の衆院選でやっと自民党が議席を減らして強行採決がしづらくなって通常の審議を尽くす国会が運営されるようになるはずなんですけれど…でもぶっちゃけ自民党側は面倒くさくなったと感じているはずだし、それはこの世界の与党の鶴丸(輝月ゆうま)だって井坂だって同じはずで、こんなにあっさり「独裁、ダメ絶対」みたいなこと、言いますかね? むしろこっそり独裁するのが彼らの希望に決まっているわけで(決めつけすんません)、だから台詞としてはむしろみんなで審議を尽くして云々…みたいなほうに流すべきなんじゃないのかなあ? てか100ゼロとか49対51とか心底どうでもいい、というかマジで意味不明なんですけど…
この「負けて得取れ」は、のちに啓介が謝罪会見を開くことにまでつながり続けるので、ホント始末に悪いんですよね。女性蔑視に関する謝罪は、まあ当人がいいと言っているのなら一応それでいい(しかしすぎたことだからいい、というのはおかしいと思う。さらには、言われた当人が許容しても他にも傷つけられた人はいるわけで、そもそも謝罪のネタとしてこれはあまり選んでいいものではないように思う…なんせこれは宝塚歌劇なので)。でもガールズバー問題は、行きたいのなら成人なんだし勝手に好きなだけ行けばいいのだが、公用車を使ったことには問題があり、それは明らかに悪いことで、謝罪し今後根絶すべきことです。でもそれを謝罪することは「負けてみせること」なのか? 先に謝ることでかえって好感度が上がる、という「得」を得ることは確かにできているのかもしれませんが、しかし悪いことをしたら謝って改めるのは人としてあたりまえのことで、何かに負けるものではないのでは? 謝罪を要求する圧力に負けたから謝罪する、という考え方をしているから、こういう言い回しを選んでしまうのでは? 作家のこの人間性に、絶望しかないんですけど…
あと、この首相官邸?の執務室?のセットって、別に質素でも華美でもどっちでもなくない? なんであんまり質素だと子供から憧れられない云々とかって話が出るの?(南条さん(輝咲玲央)も安普請みたいなことをあとで言うけれど、だったらそういう描写をするか台詞を事前入れておいてほしい…)てか「♪世界に誇れる国に」はいいとしても「♪世界が憧れる国に」は心底どーでもよくない? なんで男って(主語デカすんません)他者からどう思われるかばかり気にするんだろう、それこそ裸の王様ですよ…?
とにかくこんな感じで露呈する作家の政治観、人間性にいちいちこめかみがピキキッとなるのと、とにかく世の中が悪いほうへ転がり落ちているので、笑えない、笑っている場合ではないのでは…と思ってしまうことが、本当に痛恨の作品だったと思います。繰り返しますが、それはたまたまかもしれず、多くは作品の責任ではないかもしれませんが、しかし持っていなさすぎる…ここに来て某政党党首の不倫騒ぎですからね、ホント笑えません、笑っている場合ではありません。
あとさー、大臣の謝罪ネタ、失言ネタでも、放射能云々と実際の都市の名前をあげる必要、あります…? 実際に緊迫しているんだから、ギャグになってないじゃん。というか原発に何かあったら我が国は本当に放射能を撒き散らすことになるんですよ、笑えませんよ…
とかとか、思い出そうとしたらまだまだ出てきそうでもうホント嫌です…
しかし、でっかく一万歩くらい譲って、そうしたところに目をつぶれば、コメディとして世話物として、ある意味でよくできている作品だとも思えますし、なんせ本気で一生懸命にこの作品に取り組んで、役に全力でなりきってこの世界観を成り立たせている組子のがんばりには、心底胸打たれるのでした。
あとは、初日雑感でも触れましたが、けっこうざらりとくるギリギリのラインでもある気がする、ヒロインの不倫ネタ、の特異性ですよね…イヤ宝塚歌劇において不倫の恋なんてものはさんざっぱら扱われてきているわけですが、多くはそれこそが真実の恋であるとか、情熱ゆえに流されたものであるとかの巧みなフォローがなされているものです。今回の不倫は、そもそもダブル不倫であることもそうだけれど、そうしたものとは違っていて、けっこうきわどいところにある気がしました。それが、ひっとん聡子の絶妙なライトさっつーかのほほんとしたところのあるお嬢様っぷりというかでギリ成立している感じが、けっこう新しいのではないかと感じたんですよね…眼鏡でスーツでクールなありちゃん井坂さんが素敵で、でもこっちも別に本気じゃなかったっぽい感じとかが、また絶妙だったのでした。
なので萌えとしては、「聡子ナンバーワン」のタンゴの相手役としての接近から、具体的にいつどんな感じでどうふたりの関係が始まったのか(というか始まって続いている、というほどの回数(オイ)や期間があるのかどうか、とかも含めて)を知りたい!みたいなのがポイントですよね…
てか高校時代の回想シーンが挿入されたこともあって、啓介と聡子は当時から純朴かつラブラブなおつきあいを経ての結婚だったはずですが、ふたりの結婚と、啓介が政治家になるのと、聡子の父の派閥に入るのと、死に際に後継者に指名されて派閥を継ぐのと、鶴丸にすり寄って総理の座につけてもらうのとはどんな順番で進み、どこでどんなふうに啓介が嫌な男になっていき、聡子も息子まで産んでおきながら夫を見限るようになったのか…は、ホントはもっとくわしく知りたいところです。イヤ本編には関係ないんでいいっちゃいいんですけどね。でもこの物語をラブストーリーとして考えるなら、本当は外せない大事なポイントなはずです。
啓介の浮気だって山西議員(小桜ほのか)相手だけじゃないに決まっているわけですが(決めつけ)、そうしたことを聡子はどこまで知っていたのか、とかね。だってガールズバー通いを浮気にカウントするかどうかは、本当はけっこうセンシティブな問題なんですよ? 男性側は軽視しがちですが…貞操という概念はそれほど重いものなのです。夫の浮気を知ったととき、聡子は傷ついたのか、それとも鼻も引っかけないくらいにすでに心が離れていたのか…井坂さんに愚痴を言うくらいだからまだ未練があったのか、それで異種返しに自分も浮気することにしたのか? それとも、井坂さんってクールに見えるけどホントは優しいところもあるわよね…みたいに、ホントに好もしく思い心が揺れた、みたいな流れだったのか?
井坂さんのほうも、啓介を軽蔑しつつ仕えていたのでしょうが、それは何故なんでしょうね? 公設秘書って仕える相手を軽々には変えられないものなのかな? 男が、嫌う、憎む…という形である種執着している男の女を奪うことで溜飲を下げる、というのは実によくあるケースだけれど(当人は無自覚でも)、つまるところその執着って要するに愛着であって、本当は自分がその男を抱きたいないしその男に抱かれたいだけなんですけどね、ってのまでセットであるあるなんですが、井坂さんもソレなんでしょうか? でも啓介に対してそこまで深い感情も見えない気もするので、ホントちょっと仕事に疲れてて誘惑に抗うのにも疲れちゃったから、うるせーなじゃあやってやんよやりゃーいいんだろ!みたいな感じでのしかかっちゃったのかしらん…ヤダ萌える…!とか、まあそんなことばっか考えているわけですよ私はね、ホントすんません。
でも、本当は、「男同士の話をしている」なんて、本当は女性である男役同士で言っているからこそギリ許される場面ですよ。だって啓介と聡子の婚姻関係にも井坂と聡子の関係にも関わる問題なのに、当の聡子抜きで啓介と井坂とだけで話がつくなんてちゃんちゃらおかしいからです。啓介は井坂を一発殴って気が済んだのかもしれないけれど、ところで自分は山西議員ほか様々な浮気について聡子に謝ったのか? 聡子は啓介の記憶を確認して抱きついてくるんと回って元サヤっぽくなっていたけれど、それはそれとしてあとでふたりきりになったときにちゃんと井坂とのことを謝ったりしたのか? そして聡子は井坂と別れ話をふたりでちゃんとしたのか? それともフェイドアウトなのか? 本当は、恋愛ものとしては押さえるべきたくさんのポイントがすっ飛ばされたままに大団円になだれ込んでおり、まあ大人なんだしお互いさまで当人たちがそれでいいならいいんですけどね…と思いつつ、ついほじくりたくなっちゃうのは、やはりトップトリオが作ったキャラクター像がとてもチャーミングで魅力的だからです(小桜ほのかのちょうど良さも素晴らしい)。だからホントなら、政治云々なんかすっ飛ばしたラブストーリーが観たかったし、それこそが宝塚歌劇の本領発揮なんでしょうけれどね…
まあでも、チャレンジ精神は買いたいので、今後も良きコラボ企画はあっていいかと思いますが、しかし真にがんばるべきはあてがきオリジナル新作を作っていくことなので、そこは本当にがんばってくださいよ劇団!と念じるばかりです…
では以下、生徒の感想を簡単に。
我らがこっちゃん、映画では中井貴一。中井貴一は情けな可愛い感じでしたが、こっちゃんは可愛いじらしい感じ? でも「献金マンボ」までの、悪ダメ総理のころのノリノリさ加減も最高でした。「♪政治は数字で動いている」というのは駄洒落ですが、その数字とはつまるところ金額のことであり、政治はお金次第だと歌っているサイテーの歌詞なのですが(しかしここは皮肉、洒落としてまだ批評が効いている…と信じたい)、そのお金を表す人差し指と親指の形、アレをあんなに嫌ったらしくかつ色っぽくできる人はそうはいませんよね…! 顔芸もすごいんだけど、ホントここでのダンサーとしての切れ味に心底感動しました。からの「…ヤダ怖い」とかの絶妙さね…! ホント抜群の愛嬌とチャーミングさで、とたととたした走りもいじらしくて、でもこれって男役がもう完全にできあがっている人だからこそできる立派な芸なんですよね。本当に上手い、なんでも上手い。ついに次の本公演での退団が発表されてしまいましたが、こっちゃんが世に放たれる…!と思うと、期待しかないのでした。
ひっとんもまた、石田ゆり子のカマトト感とは違う、絶妙な天然感が、まさしくフェアリーたるタカラジェンヌにしかできないヒロイン演技、役作りだと感心しました。男役が存在しない理想の男性を演じているように、娘役もまた存在しない理想の女性を演じていて、一般の女優とは違うのです。政治家一家に育ち、しかし自分では政治家にならず、政治家の妻になったお嬢様…といった役どころをある種すっとんきょうに、かつのほほんと、そして品良く、しかしおもろく、抜群に表現していたと思いました。宝塚歌劇の日本を舞台とした現代劇にありがちな謎衣装も、スーパースタイルで着こなしていましたしね…! 高校時代の回想場面の全力コントっぷりも、とてもよかったです。アレは全力のコントだってことがちゃんと伝わらないと、意味ないからさ…! いろいろな塩梅がちょうど良くて変な湿り気がないから、私の井坂と聡子の薄い本作りたい病もなかなか発動しきらないんですけど(笑)、そこが正解だし素晴らしいんだと思いました。世に放たれても、ご活躍をお祈りしています! 次の『1789』オランプにはまどかが発表され、私はひっとん出演がアリならアントワネットが観たいななどと思っていましたが、そこはカチャでしたね。でもアントワネットはもう数年後でもできるしな…何がデビューになるのかな、今から楽しみです! 大楽も配信で観るつもりなので、サヨナラショーを楽しみにしています!!
ありちゃんはおディーンさまより…とは言わないまでも、また違った色気を発散していて良きでしたよね。基本的には無口で無表情なお役なので、ただじっとしているだけのはけっこう大変なことなんでしょうけれど、その中でちゃんと人となりを示す演技をしていて、とてもよかったと思います。あとは、イメージシーンとはいえ、ひっとん聡子とキスするときにわざわざメガネ外すヤツね…! 片手で外すのはメガネを傷めるんですけど、許すよありちゃんなら…!と思いました(笑)。
そしていつも贔屓目で実像が私にはよく見えない(笑)かりんさんの古郡さんも、お友達たちから褒めていただくことが多いので(みんなファンに優しいよね…)、上々の出来なのではないかと判断するのですけれど、そりゃ佐藤浩市みたいな渋さは出なくても、この作品におけるスパイスというか、他の場面とは違う緊張感とかがちゃんと作れていて、そういうところは本当に上手くなったよなあぁ、成熟してきたなあぁ…と思うのでした。あとは、着た切り雀で群衆の端にいることが多くても、そのスタイルの良さで目を引くし存在感が出せていて、それが物語に有効なのもとてもいい。田原坂の娘たちとやたらぺたぺたきゃいきゃいしてますけど、ちゃんとした交友をするように!と念じながら上手花道を覗き見するのがやめられませんでした…
天飛くんは秘書官補の野々宮くん(天飛華音)で、映画の迫田孝也とはまた違った、ちょっとお調子者なヤング…といった感じの芝居をしているように見えましたが、役としてはちょっとしどころがない印象もしたので、なかなかに難しかったのかも。秘書は井坂さんと番場さん(詩ちづる)がいればいいように見えなくもなかったのでね…
そのうたち、これまた小池栄子とはまたちょっと違ったかな。映画では彼女が視点人物に見えないこともないくらいな気がしたので…そして私はうたちのこの役は作品における立ち位置がちょっと意味不明に感じられました。うたちはもっとできるだろうから、主に演出意図がよくわからなかったというか…うぅーむ。
娘役にも役が多かったのは映画原作の功名で、まずは山西議員の小桜ほのかが、本当にいつでもなんでも上手いんだけど今回も絶妙でした。吉田羊よりキュートで良き。これでご卒業の水乃ゆりちゃんはキャスターの近藤ボニータ役で、有働由美子がどんなだったかもうちょっと記憶にないのですが(すみません)、話の筋には絡まないものの目立つ役ではあり、良き餞だったかと思います。アメリカ大統領スーザン・セントジェームズ・ナリカワ(瑠璃花夏)のルリハナもホントちょうどいい塩梅で、芝居の戦力になってきたなーと思います。
その秘書のジェット・和田(しかしなんなんだこのネーミングは…)の都優奈もとてもよかったです。
男役陣は、やはり小野田っち(ひろ香祐)のこりんさんですかね…なんでも上手いし今回もホント振りきっていて、あっぱれでした。まあ原作映画準拠なんだけど、禿げネタはいかがなものかとは思うわけですけどね…あとはオレキザキ、天希ほまれの振りきりっぷりも素晴らしすぎました。
つんつんの篤彦(稀惺かずと)もさすが上手い! そしてもちろんまゆぽんが素晴らしかったです。あの憎々しさ、ただものではなさ過ぎました…!
新公は東京で観られたので、以下感想を。というか星組さんの新公は久々の東西上演になった…のかな? やはり若手の経験のためには大事な機会だと思いますので、これからもお稽古時間には注意して、上手くやっていってほしいものです。公演期間が長くなり、新公が終わってからも本公演がまだたっぷりある感じなのは、そこでまた学べることもあっていいのかな、という印象です。本公演こそが本当のお仕事でもありますしね…
さてしかし、全体としては、新公らしい新公だなと感じたというか、コメディってやはり下級生には難しいのかもしれないな、と私は感じました。みんなものすごく一生懸命にやっていたと思うけれど、緊張もあってか若干の空回り感を感じなくもなかったので…
その最たるのが初主演となった御剣くんかなと思っていて、最初っから最後までわりとずーっと緊張してガチガチに見えました。あと、この役にはカッコよすぎたかもしれないね…というかここからの抜け感を出すなんて、それこそ上級生の技なのでしょう。フツーに考えたらこのタッパ、スタイルの良さは武器なので、これからも研鑽を重ねて大きく育っていってほしいと思います。前回の『RRR』新公でラーマをやるまでは、それほど起用されていた印象もないので、ここからですよ!って感じでしたね。
こちらも初ヒロインの綾音美蘭ちゃんは、おちついていて御剣くんをよく支えていたと思いました。本役の田原坂でももちろんカワイイ。歌はこれまたアガっていたように聞こえましたが、これは場数でしょう。がんばれー! ひっとんの新公をやった娘役はルリハナ、うたち、ななごんにひよりんと揃っているのも、組の未来のためにはいいことですよね…!
井坂さんは樹澄せいやくん。これまた長身でクールそうで素敵でしたが、この喉はなんなんだ…傷めていた、ということでなくこういう発声しかできないのであれば、舞台人としては致命的だと思うので、早急になんとかしていただきたいものです…
茉莉那ふみの番場さんがさすがに手堅く、ハセルキはただカワイイだけになってしまっていた気がしました。
かりんさんのところをやらされがちな大希くんも、ちょっとフツーというか、やさぐれ感が足りなかったかな…
最近スカステなんかでも妙に出ている気がする碧羽陽ちゃんの山西議員は、めっちゃよかったと思いました。本役をよく研究している感じがしました。あとは寿賀さん(白妙なつ)役に徹していたうたちもすっごくよかった!
いつでも上手い世晴くんの鶴丸は今回も手堅い。
MVP!と思ったのはふたり、柳先生のつんつんと鰐淵議員(碧海さりお)の碧音くんです。いつも上手いふたりだけれど本当によかった、特に碧音くんは場をさらってました!! つんつんのところをやった早瀬まほろくんも上手くてよかったなあ…
よりキラキラメイクになっていた鳳花るりなたんのボニータもよかったし、ジェット・和田のひよりんも、こういう役もそつなくこなすなー!と感心しました。アルゼンチン大使夫人役の咲園りさちゃんも圧があってよかったなー。圧といえばスーザンの瞳きらりちゃんもよかったです。レストランの女性支配人になった愛花いとちゃん、ソムリエ(星咲希)の絢咲羽蘭ちゃんも圧のある美人でよかった。星娘ってなんでこう…(笑)
あとは猪熊虎象(御剣海)の彩香涼くんも華があってよかったです。ここは名前に似合わぬ美貌枠、ということなのか…
我らが乙華菜乃たん、ななごんは代役にも入った足摺国土交通大臣(紫りら)。代役のときには確かかけていなかったように思う赤縁メガネをかけて、よりざーますな感じの女性議員になっていて良きでした。これまた玉突き代役に入っていた田原坂の美玲ひなちゃんも可愛かったです。
新公担当は雑賀ヒカル先生。変更は特になく、映像なども一部は新公仕様になっていました。
カルナバル・ファンタジアは作・演出/竹田悠一郎。竹田先生の大劇場デビュー作でした。若手はバウで数作やって大劇場ではショーでデビュー、というのが続いていますが、いいと思います! なんてったってショー作家の枯渇がひどいので、お若い方には是非両方作れる人になっていってほしいのです。というか脚本家と演出家を分けることもぼちぼち視野に入れようね劇団…!
青い、女性用の王冠。かつ、運命の。タイトルからしてひっとんの卒業を寿ぐような美しいものでしたが、近年の星組のショーでは、というか他組含めても『ジャガビ』に並び、かなり好きでした! ショーだけ何度でもおかわりしたかったーーーー!! 中詰めの盛り盛り感がサイコーでした。
というかとっぱし、暗い中を上手はかりんさん、下手はひっとん先頭で男役たちが袖から銀橋にざかざか出てきて、ずらりと並んで立ち位置について、音楽に合わせてうつむいて、がっと足開いて、ばっと顔上げてライトついて拍手、歌、次のフレーズから手拍子!という幕開けがもうゾクゾクものでした。まあひっとんのソロからはホントは手拍子をいったんやめてもいいんだけど…そのあともここは抜いてもいいと思うけど、と思うところがあっても突っ走り続けるのが星組ファンなのでしょう(笑)。プロローグもまあまあてんこ盛りで熱く、ラストにばさっと降りる金の帯カーテンみたいなのも良き効果を上げていて、テンションが高まるのでした。
続く12時、男子グループと女子グループの求愛ダンス場面…みたいなのはまあよくあるんですけれど、全カップル観たくて目が足りませんでした。ゆりちゃんルリハナななごんひよりん、そしてひっとんとは並び過ぎよ…! ありちゃんイグナシオがひっとんエリアナにフラれておしまい。まあまあ楽しく踊っていたように見えたのに、エリアナはツボらなかったのですね…(^^;)
そこからの16時、これまた誰かにフラれてしょぼくれているこっちゃんルカ登場。カンタンテはこりん、りら様、優奈ちゃんに鳳真くん。ルカが水たまりを跳ね飛ばして、居合わせたエリアナを濡らしてしまい…謎のブティックでお着替え。謎のファッション・ショーでお衣装チェンジとか、宝塚のショーあるある場面ですけど、どういう伝統なんでしょうね…? しかしこういう場面で着せられがちな謎トンチキ衣装を着こなしてこそのスター、だと私は思っているので、大歓迎です。デザイナーのガスパールはかりんさん、助手はリンダ小桜ちゃん、エルモーサうたち。ここのうたちのドレスがかーわいーい! そしてここのマネキンたちも全員観たくて目が足りない!!
ドレスアップした…のか?な衣装になって(笑)ルカとエリアナが街に出て行き、楽しいダンス。マイ楽はありがたくもSS席だったのですが、紅咲ちゃんと組んで踊るこっちゃんがともにコケたのがほぼ正面に見えるアクシデントがあった日でした。紅咲ちゃんが足を滑らせたかバランスを崩したかに見えて、こっちゃんも支えきれず抱え込みきれず、さりとて踏んづけたり乗っかかったりもしないように、と妙にかばった体勢になったりで、すぐライトが落ちたようにも見えましたが、リカバリーまでかなり尺を取ったように感じられました。が、ふたりとも怪我なく立ち上がり、こっちゃんが振りのようにごめんと手で謝ってみせてからひっとんと組み始めて、同じ回を後方で観ていた知人はそういう振付かと思った、というくらいのナチュラルさだったようです。よかった!
21時、祭りの始まりは赤いギラギラ衣装のありちゃんイグナシオと、タケルや御剣くんからハセルキまでの男役8人のダルマから! そこからはもう怒濤です。てかそのあと山車?に板付いたままズズズンと前に出てくるルカと、その下でおすましポーズのエリアナってのがもう良すぎておもしろすぎて、私は毎回ここで完全にハイになっちゃうのでした。そこからまずほぼ全員が出ての、客席下りでのお練り。マイ楽は先頭がかりんさん、ラストがありちゃんという列の通路席で、もうホントいい匂いしました! 真横でゆりちゃんに踊られた日には、その高い位置の腰をガン見ですよ…!!
で、怒濤の色攻撃(笑)です。先頭で駆け抜けたかりんさんセンターのアマリージョ・レランバゴ、金色の男役たちがずらり! 続いて緑色チーム、トゥルケッサ・テンタシオン。男役1に娘役2の5組でセンターはさりお、小桜ちゃん、ルリハナ。続くオレンジと紫の色使いが派手ですっごく好きだったナランド・マヒーア、センターは天飛くんとうたち。もうこのうたちのダルマがサイコーでしたよ、ちっさいのにデーハーでどかんとした華と圧がありました! そして赤いロホ・アパショナードのゆりちゃんが出てくると、色とりどりの男役たちが囲むのです! わかってる!! ここのゆりちゃんの踊りは『ノバ・ボサ・ノバ』のビーナスを彷彿とさせて良きでした。そういえばことなこで『ノバ・ボサ』、というまことしやかな噂がかつてありましたが、結局なんだったんだ…ラストは赤いロホ・アパショナード軍団でセンターはイグナシオ、濃い! 濃いよ…!!
これでおなかいっぱいな気がしたところに、ひっとんエリアナセンターの娘役総踊りがあって、これがまた華と圧しかなくて素晴らしい! なのにさらにトリデンテ場面が続くんですよ、満腹サイコー! でもまだ食べる、食べたい! みたいなハレーションなのエスカレーションです。クライマックスの総踊り、そしてななごんが長のディアマンテ・ブルートによるロケット…! もう疲れた、観てるだけで疲れた、イヤ手拍子で参加してるんだけどでも座ってるだけなのに疲れた、でもサイコー…!!
祭りの後、午前2時。ルカとエリアナがしっとり歌って銀橋を渡り、それを見たイグナシオはショックでひとりタンゴを踊り出す…このありちゃんはホント圧巻でした(振付/西川卓)。マイ楽でやっと、ありちゃんをかわしたうたちがゆりちゃんにチューするのを目撃できて幸せでした…! ありちゃんにかまうかりんさんも素敵でした。はー、ずっと観ていたい…!!(ありちゃんが死んじゃいます)
4時半、夜明け。ルカとエリアナの裸足のダンス(これも振付は西川卓)。言葉は要らない、とはまさにこのこと…常にひっとんに先を行かせるようなこっちゃんの振りが優しくてたまりませんでした。最後はバックハグで、ひっとんの方に顔を埋めるこっちゃん…
6時。よくある白いお衣装の(ありちゃんとひっとんはいつかの月組の、私が脳内でパジャマかなと思っていた黄色とオレンジのだんだらお衣装でしたが)総踊り場面でしたが、これもとても美しかったです。退団者への餞別のくだりには迷わず拍手。そしてかりんさんひとりが残ってボサノバふうにリプライズ。新進スターが銀橋ひとり渡りを任されて…というのをハラハラ見守ってきてもう3回目?4回目??くらい? でもこんなにゆったりした曲を、なんの小細工もせず、ただぷらぷら渡って保たせられるスターになりましたよかりんさんが…!と胸アツ。
これがフィナーレのとっぱしで、ついでこっちゃんを囲む娘役場面。コーラスは中堅男役で、これも良きでした。そして男役群舞2階建て、これがホントめっちゃよかった! めっちゃ星組!って感じでした。特にこっちゃんが抜けてありちゃんセンターになってからのギアの入り方、エレキギターぎゃんぎゃん!みたいなのがホントよかったです。
そこへするすると、滑るように大階段を降りてくるプリンセスのシルエット…銀と、スカートは淡いピンクのドレスのひっとんが、こっちゃんがせり上がってくるまでのまあまあ長い尺をひとりゆったり夢見るように踊り、これもなかなかないことなのでもうここから号泣です。ロマンチックな、スタンダードな、逆にこのふたりにはなかなかなかったデュエットダンス、曲は「星に願いを」…ふたりが銀橋に出てくると、いつの間にか置かれていたティアラにスポットライトが当たり、こっちゃんがひっとんに戴冠させて、抱きついて…もう、もう、泣くしかないのでした。
エトワールは詩花すずちゃん。これまた顔立ち体つきから子役専科な娘役さんですが、歌えるんですよねー、良き。パレード、トップスターのソロがアダージョにならないのもなかなかいいですね。ダブルトリオはやはりひよりん、茉莉那ふみちゃんに目が行く私なのでした。かりんさんが肩モフ、ありちゃんとひっとんの真っ白の大羽根、こっちゃんの紺の雉羽根わっさーの大羽根…豪勢で良きでした。ひっとんのドレスはもちろん膝丈で、ごっつぁんでございました。
はー、久々にショーのCDを買いたいな、と思いました。裸足のデュエダンの曲が変奏されて白い場面で歌われるのとか、ベタだけどいいですよね…
三谷さんは東京初日にいらしたようですが、ショーも楽しんでくれたのではないかしらん。
次は武道館コンサートとかりんうたちの和物バウ、そしてその次の本公演は『阿修羅城の瞳』…! 次々来ますよねえぇ…チケットのご縁がありますよう、身を慎んで祈ります…!!
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