2021年6月4日(金) 7時 サントリー
オール・ベートーヴェン プログラム
ピアノ・ソナタ第30番ホ長調op.109 4+4-13
ピアノ・ソナタ第31番変イ長調op.110 8+2+11
Int
ピアノ・ソナタ第32番ハ短調op.111 8+19
バレンボイムピアノ、ダニエル・バレンボイム
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前夜のエポックメイキングな勘違いリサイタルから24時間経ち、結局今日も同じ演目を聴く。
ピアノとチェンバロを足して2掛けたようなバレンボイムピアノの音色は今日も透明できれい。たっぷりと堪能しました。
昨日の粘りっ気をちょっと水洗いした感じで端正と極みが背中合わせになっている。ピアノ1台の音楽の凄さ、ベートーヴェンの偉大さが滲み出る。
昨晩よりやや速度をあげ、30番31番はそれぞれ1分ほど速めのパフォーム。32番は2分ほど速くなった。
昨日と異なり30番終えて袖にいかず歓声に応えてそのまま31番プレイ。
上に収録マイクあり。前日は1階の奥に録画用マシンありました。今日のキャメラは未確認。
第1楽章が無くていきなり第2楽章から宙に放られたように始まる31番。大変に好物です。終楽章の2回目の嘆きの歌の後、コラール風なフレーズが漂う、バレンボイムはそこをマックスでメゾフォルテまでしかもってこない。この、雄弁さ。過去のベトソナ全を一気に思い出す。走馬灯のように全フラッシュバック。抜群の効果ではありますね。
そしてこのあと、ベートーヴェンはどうやってこの曲をフィニッシュさせるのかと思う間もなく下降ライン、すぐに急上昇して鮮やかに放り出される。唖然呆然と聴くしかない。ベートーヴェンとバレンボイムの曲と演奏、惚れ惚れする。言葉もない。
鍵盤に被さることのない正座プレイ。この二晩かぶりつき席で拝聴して、叩きつけることが全く無い、淀みなきピュアで均質な響き、しっかり刻みました。
ここ日本、普段妙なニタニタ笑いのような指揮者・プレイヤーが多くて辟易している中、バレンボイムはそのような態度がまるで無い。それは彼の自然だ。演後、愛器一周しながら聴衆へのあいさつ、いいですね。音楽を愛する姿、思いがストレートにイコール音楽表現となっている。あの、2016年ブルックナー全曲10回公演の記憶が呼び出されました。あの時も思いは同じだったろうと、フツフツと。
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昨年2020年のちょうど今頃にピエールブーレーズザールで収録された6回目のベトソナ全、しっかり聴いていたはずなんだが、この日の演奏で一瞬にしてワイプアウトされてしまった。細くてきれいで美しい響き、指を鍵盤に置けば音楽になる、この静謐な佇まい。ジャングルジム越しにあっちの清らかな世界が、この落とされたテンポであればさらによく透けて見えてくる。嘆きの歌の前、音が止まったように離れていく。
昨晩今日と両日かぶりつき席ということもあって、愛器一周ごあいさつで目が何度も合って、そのうち、アレッ、という感じで小首をかしげたように見えたのは、今から四半世紀前、シカゴ響とブルックナーの8番をやったあとホテルのエレベーターまで追っかけていってサインをねだったあの傍若無人さんだね、と覚えていたからだったかもしれない。
全作品、さえざえとした極みの技、堪能しました。さて、1番2番3番、そして4番、いつ弾きに来るのかな。テンポプリモさんには次回の来日に向けて尽力お願いしますね。
二夜にわたり、ありがとうございました。
おわり