数年前、30歳過ぎの男性と。
「ぼく、引きこもりなんです」
(え? いま喫茶店で、ぼくと会ってるよね?)
「そうなんですか・・・・?」
「もう5年も」
「お家にいるんですね」
「いえ、アパートで」
「え? ご両親とお家にいるんじゃないんですか?」
(あれ?あれ?)
「ひとりです。で、もういいかげん、人と会って、社会参加しないと・・・・」
「あの、もう一度伺いますが、あなたはいま、ご両親とは別に、一人暮らしをしてるんですね?」
「はい。で、引きこもってて・・・」
「すると、家賃とか生活費とか、ご両親からもらって・・・」
「いえ、自分で手に入れてます」
「え? どういうことですか?」
「ぼく、オタクで」
「はあ?」
「グッズも集めてるんですが、それをネットで好きなもの同士、交換したり売り買いしていたら、だんだん人が集まってきて、それで面倒見るのが大変になったんで、手数料をもらうようにしたら・・・・」
「生活費が出るようになった」
「そうです」
「どのくらいもうかるんですか?」
「多いとき少ないときの波がありますが、ならせば、月に14、5万くらいかな」
「えっ! だったら、アナタ、自営業者じゃないの!」
「そうですか?」
「だって、稼いで自活してるんでしょ?」
「はあ・・・。でも、もっと人と会って、社会参加して・・・」
「あのね、アナタ、いま人に会いたいの? 参加したいの?」
「いやあ、特に・・・・」
「じゃ、いいじゃん! 問題ないじゃん!!」
「でも、そうしないと、ダメなんじゃ・・・」
「なぜ? 君は一人で暮らせるくらいの収入があって、ネットで稼げる程度に人とつながり、それ以上誰かと付き合いたいと思わないんでしょ?」
「まあ、そうです」
「じゃ、そもそも何が問題なの?」
「いやあ・・・」
「もし『引きこもり』が問題だと言うなら、問題の一つは、生活費を他人に依存していて、将来に大きな不安があるということだろ。次は、孤立しているとか、孤独だとかいうことだろうけど、それは他人とつながりたい、他人に認められたいみたいな欲求あっての話じゃないの。それが無ければ、ただ物理的に一人でいるだけのことで、孤立してもいないし、孤独でもないよ」
「そうなのかなあ・・・」
「だって、夏目漱石の『こころ』という小説に出て来る『先生』は、夫婦二人暮らしとはいえ、ほぼ引きこもり状態の財産持ちで、昔は『高等遊民』と言ったんだよ。アナタも『自営遊民』みたいなもんじゃん」
「ぼく。このままでいいんでしょうか?」
「何がまずいの? 少なくとも『今のところは』結構じゃないの」
「いいんですかねえ・・・」
「アナタが心から人と会いたい、社会に出たいと思わない限り、何の問題もないし、問題にならないよ」
(これで坐禅でもしていたなら、『森の行者』ならぬ、『街場の隠者』で通用するかも)
追記: また大きな地震がありました。被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。
「ぼく、引きこもりなんです」
(え? いま喫茶店で、ぼくと会ってるよね?)
「そうなんですか・・・・?」
「もう5年も」
「お家にいるんですね」
「いえ、アパートで」
「え? ご両親とお家にいるんじゃないんですか?」
(あれ?あれ?)
「ひとりです。で、もういいかげん、人と会って、社会参加しないと・・・・」
「あの、もう一度伺いますが、あなたはいま、ご両親とは別に、一人暮らしをしてるんですね?」
「はい。で、引きこもってて・・・」
「すると、家賃とか生活費とか、ご両親からもらって・・・」
「いえ、自分で手に入れてます」
「え? どういうことですか?」
「ぼく、オタクで」
「はあ?」
「グッズも集めてるんですが、それをネットで好きなもの同士、交換したり売り買いしていたら、だんだん人が集まってきて、それで面倒見るのが大変になったんで、手数料をもらうようにしたら・・・・」
「生活費が出るようになった」
「そうです」
「どのくらいもうかるんですか?」
「多いとき少ないときの波がありますが、ならせば、月に14、5万くらいかな」
「えっ! だったら、アナタ、自営業者じゃないの!」
「そうですか?」
「だって、稼いで自活してるんでしょ?」
「はあ・・・。でも、もっと人と会って、社会参加して・・・」
「あのね、アナタ、いま人に会いたいの? 参加したいの?」
「いやあ、特に・・・・」
「じゃ、いいじゃん! 問題ないじゃん!!」
「でも、そうしないと、ダメなんじゃ・・・」
「なぜ? 君は一人で暮らせるくらいの収入があって、ネットで稼げる程度に人とつながり、それ以上誰かと付き合いたいと思わないんでしょ?」
「まあ、そうです」
「じゃ、そもそも何が問題なの?」
「いやあ・・・」
「もし『引きこもり』が問題だと言うなら、問題の一つは、生活費を他人に依存していて、将来に大きな不安があるということだろ。次は、孤立しているとか、孤独だとかいうことだろうけど、それは他人とつながりたい、他人に認められたいみたいな欲求あっての話じゃないの。それが無ければ、ただ物理的に一人でいるだけのことで、孤立してもいないし、孤独でもないよ」
「そうなのかなあ・・・」
「だって、夏目漱石の『こころ』という小説に出て来る『先生』は、夫婦二人暮らしとはいえ、ほぼ引きこもり状態の財産持ちで、昔は『高等遊民』と言ったんだよ。アナタも『自営遊民』みたいなもんじゃん」
「ぼく。このままでいいんでしょうか?」
「何がまずいの? 少なくとも『今のところは』結構じゃないの」
「いいんですかねえ・・・」
「アナタが心から人と会いたい、社会に出たいと思わない限り、何の問題もないし、問題にならないよ」
(これで坐禅でもしていたなら、『森の行者』ならぬ、『街場の隠者』で通用するかも)
追記: また大きな地震がありました。被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。