恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

開山しました

2017年05月10日 | 日記
  5月1日、今年も恐山は無事開山しました。ゴールデンウィーク中は連日晴天に恵まれ、ご参拝の方々にも喜んでいただきました。写真はスタッフの石原さんが撮ってくれたものです。凪の宇曾利(山)湖に映える大尽山と、恐山周囲に自生する水芭蕉の群落です。以下、今年の開山日に私がした挨拶です。

 皆さま、開山初日から恐山にお参りいただき、感謝申し上げます。お蔭さまにて、今年も無事開山することができました。今日からまた、恐山は多くの参拝者をお迎えすることになると思います。

 今年もまた、ご旅行で立ち寄られる方が大勢いらっしゃるでしょうし、胸中に様々な想いを抱えられてお参りなさる方もおられることでしょう。今年は東日本大震災から丸6年、仏教では7回忌、熊本地震で犠牲になられた方は一周忌に当たります。ご遺族の心中はお察しするばかりです。

 もちろんそればかりではなく、大切な人と引き裂かれるようにお別れになった方々は他にも大勢いらして、数えるべくもないでしょう。

 去年、ある手紙をいただきました。

 手紙の主は中年らしきご婦人で、最近にお母様を亡くされたということでした。その母上は、ご婦人の娘さん、すなわちお孫さんを大変可愛がってくれました。その娘さんが、お婆さんの死を尋常でなく悲しむのだそうです。

 文中から察するに、娘さんには軽度の知的障害があるようでしたが、優しく素直なその娘さんは、お婆さんを恋しがって日に何度となく仏壇にあるお婆さんの写真の前で、激しく嗚咽し続けるのです。おそらく、お婆さんを思い出すたびに、いまだ記憶になりきらない生々しい悲しみが噴き出してくるのでしょう。

 次第に食まで細くなり、成り行きを心配したお母さんは、しまいには思い余って、こう考えたそうです。「恐山にでも連れていって、イタコさんにお婆さんを呼び出してもらって声を利かせれば、娘の気持ちも落ち着くのではないか?」

 はるばるやって来た恐山には、その日イタコさんはいませんでした。ああ、せっかく来たのに・・・・。そう思ったのだそうですが、とにかくあちこちのお堂や仏様にお参りしながら、境内を娘さんと二人ゆっくり巡って、最後にお守りを買って帰ったと手紙にはありました。

 不思議だったのは、行きの道中、気持ちが高ぶるのか、泣いたり大きな声を出したりしていた娘さんが、境内を歩くうちに急に静かになり、悲しげながら穏やかに仏様に手を合わせていたことだそうです。

 帰ってからも、仏壇の前でしみじみ写真を見て涙を流すことはるものの、激しく泣くこともなく、ずいぶん落ち着いたようで、

「恐山にお参りして、娘も娘なりに何かを感じ、母の死を納得したのかもしれません。そうだとすれば、本当にありがたく思っております」

 私どもも、恐山が娘さんの深い思いの幾分かをお預かりできたなら、院代として嬉しくありがたく思います。

 そして、今更ながら、恐山という場所の持つ力に感じ入った次第です。