恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

私の「被害者意識」

2013年04月10日 | インポート

 4月6日。この日から数日は、いわゆる「爆弾低気圧」が日本を席巻しました。被害や影響にあった方々には、お見舞いを申し上げます。

 私は、福井の住職寺にいて、午後から大阪のある団体に依頼されて、講話をする予定になっていました。

 前日の5日は、もう朝からテレビが6日以降の荒天を予報していて、交通機関の乱れも警告していたので、私は、主催者にお詫びと共にお願いの電話をして、講話とディスカッションで1時から4時半までであった日程を、1時間ほど短縮していただきました。

 それというのも、翌7日は日曜日で、午前に法事が2件、午後に檀家のあつまる花まつり(お釈迦様の誕生日)の法要があり、その上、もう一件、どうしても外せない用事が重なって、是が非でもその日の内に福井まで帰らなければならなかったからです。

 ところが、駅まで行ってみると、改札口に大きな掲示板が出ていて、大阪から福井方面の特急は、午後2時42分を最後に、最終便まで運休するというのです(湖西線は風に弱い)。仰天しました。これでは、大阪駅から講話会場までの移動時間を考えれば、私がそこにいられる時間は、40分ほどしかありません。

 駅員に、午後3時以降に米原廻りで福井に戻ることは可能かと尋ねてみましたが、何とも言えないというばかりでした。

 翌日のことを考えると、冒険する余裕はありません。私は覚悟を決め、40分のお話で勘弁してくださいと、主催者にお願いしました。

「お天気のことでは仕方がありませんよ」

 主催者の方々は、笑って了解してくださいましたが、私は昼食が喉を通りませんでした。

 とにかく、3時間半で引き受けた仕事を、40分しかつとめないのですから、まったく問題外です。私は会場入りするとそのまま演壇につき、参加者の到着を待ち構え、開始の1時ジャストに、いきなり、台に両手をついて頭をさげ、

「お集まりの皆さん、今日はまことに相すみません! 実は・・・・」

 と始めました。第一声がこれですから、聴いていた方々はさぞ面食らったことだろうと思います。

 本当に冷や汗ものでした。私は不十分極まりない話を終え、もう一度お詫びをし、謝礼をご遠慮して、ほとんど逃げるような感じで、会場を後にしました(辞退申し上げたのですが、交通費だけは是非と係りの方に言われ、賜ってきました)。

 本当に申し訳ないことでした。そして、まさに「被害にあった」、そう思いました。

 私は今まで、原因が自然だろうと人間だろうと、自分ひとりに生じた不都合や障害については、「まいったなあ」とか「運が悪いなあ」とは思いましたが、「被害にあった」と感じたことはありませんでした。

 この日、よくわかりました。私は、不都合な出来事が、自分のみならず自分とかかわりのある他人を巻き込んだとき、「被害にあった」と実感するタチのようです。

 自分に対する悪口は耐えられても、家族や友人への悪口は我慢できないという人がいますが、これもわかる話です。他者との関係における存在として自己を考えれば、我々には自分以上に他人に起こった出来事を懸念する場合が、往々にしてあるわけです。

 このたびの主催者、および参加者の皆さん! 過日はまことに申し訳ありませんでした。もし、もう一度お声をかけていただければ、そのときは翌日のスケジュールを空白にして、参上させていただきます。どうかご勘弁を!!