恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

仮想と夢と現実と

2007年04月03日 | インポート

 ある人と話をしていたときのこと。彼、問うていわく、

「バーチャルなものと現実とはどこで区別したらよいと思いますか?」

 私、答えていわく、

「思いどおりにならないものが、現実です。あるいは、本人がそれを望まないのに、彼の考え方や行動パターンを変えてしまうものが、現実です。それ以外は、根本的にバーチャルとリアルを区別できないと思います。ということは、リアルとは本質的に苦しいものです。お釈迦様の説くとおりですね」

「しかし、夢の中でも、思いどおりにならず、苦しいときがありますよ。これもリアルなんですか?」

「夢を見ている最中の当事者にとっては、まちがいなく現実で、リアルでしょう」

「では、夢と現実はどこで区別するのですか?」

「覚めるかどうか、ただそれだけです。夢に夢の根拠を求め、現実に現実である理由を求めても、それは無駄というものです。両者を区別するのは、目覚めという出来事ないし行為だけです。ならば、夢とは覚めてしまった『現実』であり、現実とは覚めない『夢』だと言えるでしょう」

「しかし、目覚め自体が夢だいうこともあるでしょう」

「そのとおり。だから何度も目覚めなければなりません。道元禅師が『夢の中で夢を説く』と教えるのは、まさにそこのところです。仏教はそこを修行するのです」

 時には、世間話からこういう問答になることもあるのです。