くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「スティグマータ」近藤史恵

2016-09-06 04:44:13 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「サクリファイス」シリーズ新刊「スティグマータ」(新潮社)です。
 白石誓と伊庭がツール・ド・フランスを走ります!
 チカも三十になって、次々に現れる若手選手たちに焦りを感じますが、自分らしく道を駆け抜けていく、その姿がかっこいい。
 そして、自転車レースの描写が丁寧だということが、作品の大きな魅力になっていると思います。
 スポーツ観戦を続けていると、アスリートたちの経歴とか人間関係が気になってくるものです。選手たちにしかわからないこともあるだろうし、画面を通すと見えないものもある。そして、メディアが作るイメージもあります。
 今回は、伊庭が所属するチームに元チャンピオンが復帰するという噂が流れます。世界的な英雄だったメネンコ。しかし、ドーピング問題で一線を退いていたはず……。
 メネンコを敵視しているらしい選手や、注目を浴びる新人、それにミッコやニコラといったおなじみの面々も登場します。
 なぜ彼はわざと挑発的な態度をとるのか。その答えは、「ヒストリー」にあるようです。
 読み終わって、メネンコはなぜわざわざ誓にチームメイトを見晴らせたのか、少し考えてしまいました。誓を「目撃者」にしようと思ったのでしょうか。
 退院後も走り続けてほしい。
 誓にはそういう気持ちにさせられる空気がありますね。

「田嶋春にはなりたくない」白河三兎

2016-09-05 04:55:48 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 とある有名私立大学の、なんでもありサークル「N・A・O」に入会してきたとんでもない新入生田嶋春。法学部で学ぶ彼女は、出席者の学生証から未成年かどうかを判断し、居酒屋でのビールを断らせます。
 がちがちの正義感。話の腰を折るような蘊蓄。空気は読めないし、相手がいらいらしてもお構いなしの春は、周囲から浮いています。
 しかし、春を毛嫌いする高橋奏ですらも、やがては彼女の魅力に気づいていくのです。
 
 「田嶋春にはなりたくない」(新潮社)。
 先日、とある本屋でなんと白河三兎特集が組まれていました。
 わたしは「ふたえ」という作品が気になっていたのですが、本を買いすぎたので図書館で借りました。そのとき隣にあったのがこれ。
 春は常に自分のペースで行動します。でも、抜群の記憶力と洞察力がある。
 同級生の菅野くんは、地下鉄に傘を置き忘れたばかりに、彼女と相合い傘をするはめになる。
 しかも、春は帰りも待ち構えているんです。
 軟派な菅野くんが、そのあとボランティアを始めてしまうあたりも気になるのですが、さらには先輩もつられてしまうらしい。
 もう返してしまったので確認できないんですが、なんか伏線ありましたっけ?
 野球の試合では自ら塁審を引き受けたり、観覧車での一件があったり、悩み事を相談されたら修羅場でも駆け付けたり。
 なんだかシリーズ化してもおかしくないような気がします。上級生になった春とサークルメンバーたちの姿が見たい!

「六枚のとんかつ」蘇部健一

2016-09-04 14:52:09 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 探してみました。「六枚のとんかつ」(講談社ノベルズ)。改訂新版、98年発行。検索したら閉架図書だったので出してきてもらいました。図書データから推察するに、いわゆる「バカミス」ジャンルの一種らしい。「六とん」と省略され、続刊が三まであるそうです。
 保険会社調査員「私」(小野由一)が遭遇した事件が15紹介されています。なにしろ、詐欺にでもあったら大損なので、友人の推理作家古藤の力を借りたり、部下の早乙女からヒントを得たりして解決していくのですが、それがなんか、ギャグまんがか漫才みたいな勢いなのです。
 例えば、「音の気がかり」では誘拐犯からの電話の背後の音だけを抽出すると、「ガッツ石松、ガッツ石松、ガッツ石松」と連呼している。
 ガッツ石松のスケジュールを調べて、その近くの駐車場に犯人がいると通報。
 もちろんそんなことはなく、「バックします」の音声を聞き間違えたのでした、というネタ割りです。
 ただ、後半になるとケガの功名とでもいいましょうか、結構推理が的中してくるのですよ。表題作の「六枚のとんかつ」もそうですし、「解けないパズル」や「見えない証拠」がいい例です。
 「丸ノ内線七十秒の壁」のがおもしろかった。わたしは時刻表トリック好きではないのですが、「しおかぜ⑰号四十九分の壁」は笑ってしまいました。
 「『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』を読んだ男」はこれに収録されていたのですね。(あとがきによれば別作品もあるらしいですが)
 「ビブリオバトル部」では寿美歌さんが彼氏とこの作品を認めるかどうかで揉めたようですが、わたしはまあおもしろくは読みました。
 でも、続編は借りなくともいいかな……。

「先生と親のためのLGBAガイド」遠藤まめた

2016-09-03 09:09:59 | 社会科学・教育
 「先生と親のためのLGBAガイド」(合同出版)。図書館で目についたので借りてみました。
 LGBAというのがセクシャルマイノリティに関する方々の総称という意識はありましたが、横文字に弱いわたしにはうまくつかめない。アルファベットの順番も曖昧でした。
 この本の副題は「もしあなたがカミングアウトされたなら」。
 これから、性のバイアスはさらに多様化していくのかな、と考えさせられました。

 わたしは二十年余り学校に勤めていますが、あきらかにLGBAだと感じさせる生徒は思い出せません。(職員にはいましたが……)
 でも、人口の三から五パーセントくらいの人が属するといわれているのだそう。(クラスに一人くらいの割合とのことです)
 性はグラデーションの側面があり、手芸が好きだったり宝塚の男役ファンの男子、ボーイッシュな女子なども結構多いですよね。
 これまでも「きのう何食べた?」や「桜姫」「IS」「喪失グラデーション」などそれなりに読んできたと思うのです。「世界が終わる前に」も使われていましたね。
 で、この本を読んでみて、生徒の目に触れるところにそういうテーマの本やポスターを提示することが必要なのだと感じました。
 思春期はそういうことをどうしていけばいいのか、悩む時期ですものね。
 また、授業中にトイレに行ったり、不登校の傾向のある子にもLGBAとしての理由がある場合もあるという指摘も納得しました。
 自分の性がはっきり見られるのは、学校の場合トイレと制服なんですね。
 諸外国には同性を愛したら死刑という戒律の国もあるのだとか……。
 資料もいろいろついていて、相談機関やリーフレット、教材DVDなど紹介されています。「境界を生きる 性と生のはざまで」(毎日新聞社)と「にじ色の本棚 LGBAブックガイド」(三一書房)を読んでみたいと思いました。
 筆者の遠藤まめたさんはトランスジェンダーとして若者支援をされているそうです。学校ももっとLGBAを理解しあえるように活動してほしいというメッセージを感じました。
 確かに授業中にそういうチャンスはあまりないですね……。
 デリケートな問題なので、教師のからかいに傷つく生徒の悲しみはよくわかります。自分ならどう応えるだろうかと考えてしまいます。