くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「夜の光」坂木司

2009-03-01 06:17:06 | ミステリ・サスペンス・ホラー
高校の天文部が舞台です。というと、なんとなく爽やか青春部活小説という感じがしますが、いえいえ、そんな話じゃございません。あ、爽やかさは保証しますが。
彼らの部活のメインは、天体観測とスパイ活動。昼は他人で夜は仲間という関係が気に入り、コードネームで呼び合う。清楚で愛想のない美少女「ジョー」、ギャルファッションの「ギィ」、ナンパ系男子「ゲージ」、そして体格のいい部長「ブッチ」。
坂木 司「夜の光」(新潮社)は、四人の高三の一年を、それぞれの語りでゆっくりたどっていく構成になっています。
坂木作品ときいて、どんなイメージがありますか? わたしは、なんとなくいつも違和感が残るのです。ざらりとしたものに触れた後のような。
とはいえ、ほとんどの作品は読んでいるのです。好きなのは「切れない糸」「シンデレラ・ティース」ですね。
この作品は、珍しいことに高校生が主役です。坂木さんの作品て、大学生くらいの年齢の人物が多いように思うのですが。
高校生。しかし、彼らは自分を取り巻く環境に満足していません。
ゲージを除く三人は、家庭内に問題があり、そのことについてつねに悩んでいます。
酒で変わってしまった父親、悪意はないけど娘の人生について画一的な両親、気難しい祖父に押さえつけられている家庭、心の奥にはつねに屈託があり、卒業を期に家から離れる決意をしているのです。
彼らの遭遇する事件は、一見「日常の謎」なのですが、その背後には、悪意が潜んでいるような気がします。
例えば「セット」について。また「蛍」の事件も、女子高生の思いを踏みにじる男の姿が描かれているのですが、そこに性が介在して、まだ異性と交渉のない彼らには嫌悪感を与えます。
この四人、恋愛感情よりも友情(仲間意識という方が適切でしょうか)を優先できる人々です。とくに女子二名は、恋愛なんかよりとにかく家から離れたいという感情の方が強い。外見は反対でも、中身は似ています。男子連も自分の気持ちを押し付けるタイプじゃないし。
また、天文部顧問の田代先生もいい味出していますよ。卒業生に挨拶されてリアクションがないのはどうかと思うけど。
高校生というのが、一種の戦場にいる存在だというのは、わかります。その中で彼らは戦っている。自分の身分を隠しながら。
けれど、自分と同じように本当の考えを隠している人々の前では、自分を繕う必要はないのです。「スパイ」たちはそう思っているのではないでしょうか。
一年が過ぎて、新しい生活が動きはじめたことを、再びジョーが語ります。
まだ戦場はなくなっていないこと、戦い続けていくことを彼女は自覚していますが、会えばすぐにでも以前と同じ状況に戻れることにうれしい驚きを感じるのです。
夜に浮かぶ微かな光。本当にささやかな絆かもしれません。けれど四人の気持ちをつなぐには充分なのです。

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1 コメント

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Unknown (ミリオン)
2024-06-08 11:32:10
おはようございます。
嬉しいです。頑張って下さい。今日の朝は、「虎に翼」の第10週を見ました。
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