くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「私にふさわしいホテル」柚木麻子

2013-04-29 05:18:48 | 文芸・エンターテイメント
 た、確かに「木」が四つも入っています。柚木麻子「私にふさわしいホテル」(扶桑社)。
 仙台の書店で見て気になっていたのですが、このたび地元図書館で見つけました。
 デビュー作を同時受賞したのが、元アイドル島田かれんだったために全くスポットが当たらず、単行本すら出してもらえない中島加代子。年に一度、文豪が愛したという「山の上ホテル」に宿泊して原稿を書いています。もちろん自腹。
 そこに大学の先輩遠藤(大手出版社の編集)が現れ、加代子の作品にあれこれ言ったあげく、ちょうどこの上の階に売れっ子の東十条宗典が缶詰めになっていると話します。
 東十条の原稿が落ちれば、遠藤に預けている自分の作品が文芸誌に載るはず!
 そう考えた加代子は、メイドに変装して彼の部屋に出向いていきます。
 とにかく破天荒な加代子と、振り回される周囲の人々がおもしろくてたまらない。筆頭は東十条ですが、文壇のドンファンとまで呼ばれる彼がどんどん加代子にしてやられ、サンタの格好をさせられるわ文学賞の審査員を欠席するはめになるわ。でも、冷え切った家庭は加代子によって回復し、作品も若い頃のみずみずしさを取り戻すんです。
 この様子を見ていると、ラストで自分が完全に引き立て役だった島田かれんを映画の「ヒロイン」に抜擢するのは、実はいい話なのかと思ったりもしたんですが。
 やられた。
 こいつは一筋縄ではいきませんね。読解力のない人間には「ヒロイン」だと思われてしまうという登場人物についての話が印象的です。「『吸血鬼カーミラ』の姫川亜弓級の演技力がない限り、美弥子を主役にするのは難しい」は的確すぎる!
 かつてわたしも、遠藤周作の「最後のキリシタン」を読んだときに、主人公は信仰を貫いた男の方ではないのではないかと指摘されたことがあります。(高校生の頃なので細部は忘れていますが……)
 ここでかれんと比べられるのは、冴木裕美子。加代子の親友で、劇団員として活動してきたのだそうです。
 ここにはほんの数行しか登場しませんが、読み終わったらぜひ第一話を読み返してくださいね。遠藤先輩が忘れられないといった、シャンパンのコルクで割れてしまった壺事件、割ったのは裕美子です。で、加代子の小説に出てくるサークルの広告塔、ミス・キャンパスも彼女ではないかとわたしは思うんです。(劇団「てんや☆わんや」の稽古場にもいますよ)
 作中には宮木あや子とか島本理生も出てきますが、いちばんいい役なのは朝井リョウでしょう。この日、新聞広告に柚木さんの新刊が紹介されていて、朝井リョウがコメントしていたんですが、仲良しなんでしょうかね。
 加代子のペンネームを、わたしはなかなか覚えられなかったんですが、作家としてよりはその人間性に惹かれるものがあるのかも。