くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「読まずにはいられない」北村薫

2013-04-15 19:20:21 | エッセイ・ルポルタージュ
 そうですよねぇ、読まずにはいられないんです。わかります。
 わたしは北村さんの小説よりも、多分エッセイの方が好きなんでしょう。おもしろかった作品をあげていくと、「ミステリ12ヶ月」とか「自分だけの一冊」とか乱歩の肉声が入ったCDつきの本とかいろいろ思い出すんです。「謎物語」も「謎のギャラリー 本館」も幾度となく読み、もともとは高校の国語教師だったバックボーンをかみしめてしまいます。「スキップ」とか「ターン」とか「六の宮の姫君」といったところも好きですね。
 だからこの本も、発売当初から気になって気になって。でも、千七百円もするんですよ。痛い。見つけるたびに逡巡していましたが、やはり図書館には入れてもらえました。北村薫「読まずにはいられない」(新潮社)。
 北村さんが書いてきた文章を丁寧に集めています。前半は国内外のミステリに関わる文章。解説とか。
 びっくりしたのは、北村さん、創元推理新人賞の下読み選考をしていたのですね。しかも、自ら志願して。さらに、その担当作品には、近藤史恵さんと貫井篤郎さんのデビュー作が入っていたというものすごい偶然。わたし、「慟哭」の文庫を持っていたんですっ、だから、この文章も読んだはず。(「凍れる島」は今も持っています。読み終わってないけど)
 それだけでなく、ブランドの「招かれざる客たちのビュッフェ」も澤木喬「いざ言問はむ都鳥」も持っていました。南伸坊「仙人の壺」も読んだ。ただ、冷静に考えると角川文庫の「本格ミステリライブラリー」で北村さんが「ジェレミー・クリケット事件」を取り上げていて、一般的に文庫化されているものよりもこちらの方が好みだとおっしゃっていたので読み比べるために買ったんでした。(しかも、その作品しか読んでいない気がする「招かれざる客たち」)
 懐かしい文章も入っているので、「円紫さん」時代は覆面作家だったこととか、旧知の折原一さんの前である作家さんが「北村薫」を見たと言い張る場面とかおもしろかった。
 いろんな本に関わる話があるんですが、わたし、「おどるばか」の話は読んだことがあるように思うんですよね。初出は文藝春秋らしいですが……。
 冒頭の「高校生の文章表現」に書いたコラムがとてもいい。「海はまっさお」「最初の一行」、コピーしておきたいくらいです。
 え? それなら思い切って本を買えっていうことでしょうか。文庫化希望。

「前世探偵カフェ・フロリアンの華麗な推理」大村友貴美

2013-04-15 08:47:57 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 朝六時の開場とともにグラウンドに入り、シートを引いて場所取りする顧問のわたし。生徒は八時集合なのでこれでいいのかは疑問ですが、時間があるのでこの本を読んでいました。大村友貴美「前世探偵カフェ・フロリアンの華麗な推理」(角川書店)。この方の本は初めて読むんですが、岩手県出身とか。この本も岩手の図書館で借り、この日いたのも岩手県の競技場です。うーん、環境が近いなぁ、と思っていたら「虐げられた男は逆襲する」の主人公寺見鈴太の前世は和賀の残党でありながら伊達政宗に仕えたサカタトウゴだというではないですか。
 佐沼城に籠城した兵を千五百人撫で斬りとか、葛西大崎一揆とか、まさにわたしの地元です。なんだか不思議な感じがしました。
 カフェ・フロリアンは、三十歳くらいのショウという男性がママをやっています。
 えっ、この文が変ですって? ショウは茶色の縦ロール巻き髪でロングドレスを着ているんです。夜はゲイバーになるし、シェフのマナも乙女っぽい男性。大理石のテーブルに革張りのソファ。なぜかケチャの曲が流れるこの店には、自分の前世が見えるらしいショウに相談をしにやってくる客がたくさんいるのです。
 サカタトウゴの生まれ変わりである鈴太もその一人。勇ましい武将だったはずなのに、現在は妻の尻にしかれ、仕事はクレーム処理専任。他の人は誰も変わってはくれない。
 そんな彼に、前世はあなたの人生に直接関係があるものではないのだとショウは言います。前世からのメッセージではあるけれど、その人物はあなたとは違う人なのだと。
 なにやら困ったことがあると前世のことを思い出したり、死期が近づいてそういう話をしだしたりする人も出てきます。鈴太のように、夢でその人物の行動をなぞる人も少なくない。いや、もちろん前世のことを全く覚えていない人もいるんですが。
 小料理屋の女将と駆け落ちしたと噂された祖父。五年経ってやってきた男の子が、祖父とすっかり同じ行動をする。
 同級生の女の子が、前世は殺人事件の被害者だったと訴え、自分もそれに共振するような夢を見るようになる。
 誤解を受けて殺される人生を繰り返し、今生での人間関係がうまくいかない。
 そんな相談に、常連客のオヤジとともに乗ってくれるショウ。第一話の主人公だった南美ちゃんがその後も協力してくれるのが楽しい。
 わたしは生まれ変わりにはちっとも興味ないんですが、自分の前世が見えるのにそれに振り回されないショウには好感をもちます。前世を知ったからといって、何かが変わるわけではないですよね。
 それにしても、現地踏査に行くこともあるようですが、ショウはどんな格好をしているのでしょう。山奥の村を訪ねるときでもロングドレスなのか、な?