くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「文人悪食」嵐山光三郎

2013-04-05 05:06:56 | 書評・ブックガイド
 今回も古いものから。……「ソロモン」長くてなかなか終わりません。

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 嵐山光三郎、もっと読まなくては! 『文人悪食』、ひじょーーーーにおもしろかったよ。国文学出身には、たまらない一冊だった。
 漱石から三島まで三十七人の「文人」の好んだ「食」についてまとめた本。文体にも軽やかなリズムがあり、うまい。読んだあと、その作家の作品をひとつでも読んでみようかという気にさせられる。
 彼が担当編集者だったという壇一雄と深沢七郎の回は特におもしろかった。昔の本棚から『壇流クッキング』を取ってきてみたよ。
 直哉の章には座談会の内容が箇条書きされているけど、実際に喋っている文を読みたい。こんな冗談まで紹介されている。
  
 �南方に行って二人でワニを撃った。一人は本物のワニを撃ったが、もう一人は海亀を撃った。これはアリゲーターではなくてマチゲーターというワニである。

 私にとって文人たちの新しい「素顔」を見せてくれたのも感嘆の一つ。特に石川啄木。「わがままで自分本位の性格」で、「函館へ逃げてからは妻の義弟である宮崎郁雨にたかり、東京へ出てからは金田一京助にたかった」。金田一の記録によれば、二人でそば、天ぷら屋に行き、さらに洋食を食べてビールを飲んだとあるが、「京助はおごってやったとは書いていないが、京助が払ったのに決まっている」!
 さらにうけたのは谷崎。『美食倶楽部』を構成する五人のメンバーについて、「大きな太鼓腹を抱えていて、脂肪過多のためでぶでぶに肥え太り頬や腿のあたりは豚坡肉(トンポウロウ)の豚肉のようにぶくぶくして脂ぎっている。つまり、晩年の谷崎潤一郎が五人いると想像すればよろしい」だって!
 こういうオトシのきいた文章を読むのは楽しい。梶井については、
「この世に写真がなければ、梶井基次郎は、九歳上の芥川龍之介に負けない世俗的人気を得ていたはずである」と書いている。
 そうそう、写真といえば、中也の「黒帽子の美少年像」は大岡昇平によると複写されつづけて「まるで別人」になっているという話。聞いたことある。嵐山氏はグラビアでその変遷史を作ったこともあるそうだ。見たいよ! 三十歳の中也は、「どこにでもいるオトッツァン顔」なんだって。
 中也は酒癖が悪くて太宰にしょっちゅうからんでいたとか。あの写真のイメージだと中也ってすごく若いような感じがするから、よく年齢関係が判らないので生年を確認してみた。中也の方が二つ年長だった。
 文壇一の大男は高村光太郎(推定一七七センチ)、次いで太宰の一七五センチ。対して小男は三島で、一五八センチくらいだという。
 三島のペンネームは「三島へ行く男」をもじってつけられたそうだ。三島! もう随分前に旅行して市内をうろつき回る楽しさを味わった場所なのでなつかしい。でも、彼の本名って何だっけ? 啄木とか鴎外なら知っているんだけど……。