くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ソロモンの偽証」2 宮部みゆき

2013-04-02 22:03:07 | ミステリ・サスペンス・ホラー
「今のおまえ、カッコいいよ。それが本来の野田健一なんだろ。ずっと隠してたんだな」
 北尾先生のこの言葉に、涙が出ました。
「おまえ、デキる奴なんだよな」 
 と語りかける先生と、弁護人助手として動きはじめた健一の輝きが、涼子のピンチを救おうとしたあの図書館の場面と重なって、ぐっときたのです。
 柏木と仲が良かったのだという他校生神原和彦。恐ろしいほどに頭の切れる彼といるうちに、本来の自分を見つけていく健一。しかし、彼にはわかるのです。和彦が何かを隠していることを。 
 なんといいますか、この巻を読んでいると「ソロモン」とは誰のことなのかを探りながら物語を咀嚼しているような気持ちになります。冒頭の少年は柏木のように描かれているけど、和彦のことだよね? 公衆電話から連絡して、自分の揺れ動く気持ちを語った少年を「本人」といったのはそういうことだよね? どうして大出の弁護人になったのかも、それでわかるように思うんですが。
 いやいやいや、宮部みゆきのミスリードを誘う手法かもしれませんね。そんな状況なので、非常にわくわくします。
 学校内裁判の準備をしていたところ、にわかに怪しくなる大出の近辺。瞬間的に爆発するような男ですから、自分のことを考えるのに慣れていません。でも、和彦のペースに巻き込まれていく。
 二十年以上前、バブルの時期を舞台にしているのは、暴力的な大出の父の仕事に翳りが見えてくることを意図しているのでしょう。金をつぎ込み、悪事を肯定し、暴力で家族を支配する男。学校に乗り込んで文句をつけ、テレビ記者を殴り、そして、ある事件がおきることになります。
 時代は過去でも、登場人物たちは現代を映しているように思いました。それは学校の体制が変わらないからかも知れませんが、やはり書き手にしろ読み手にしろ、今の立脚地から物語を見るからでしょう。
 森内先生を語る生徒や教師が、結構ちぐはぐなのがおもしろい。取り巻きや目立つ生徒だけをひいきすると語る健一は、自分は相手にされない生徒だったと感じています。でも、北尾先生は、彼ができないふりをしている、仮面をかぶっているように感じる、と森内先生が話していたことを語ります。
 告発状を破って捨てるような人ではなかったと向坂は言いますが、柏木への対応はよくなかったと涼子は感じています。
 多様な視点があり、それぞれの考えが見渡せる。
 あとは山崎晋吾が颯爽としていて恰好いい。佐々木吾郎もいいですね。こんなに登場人物が多いのに、しっかり書き分けられているのはすごい、としか言いようがありません。