くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「月のうた」穂高明

2013-03-15 20:33:03 | 文芸・エンターテイメント
 見上げれば満天の星。オリオン座がはっきり見えます。この夜空を、民子や陽一も見上げたのかも、なんて考えると愛おしいですね。
 穂高明「月のうた」(ポプラ文庫)。穂高さんの本が読みたくて探したんですけど近場には「かなりや」しかなかったため、部活帰りに古川まで行きました。トンボ帰りだけどいいんだっ。とてもよかったので、行ったかいがあるというものです。
 穂高さんのデビュー作であるこの作品は、小学生のときに母親を癌で亡くした少女が主人公です。国原民子。名前通り古風な子で、合唱部所属。アルトのパートリーダーです。自分がされて嫌なことは他の人にもしたくない。そういうところがすごくいい。
 父の再婚相手のことでからかってくる同級生や、先輩を笠に着る友達。一般的なことしか目に留めずに作文の書き直しをさせる国語の教師。そんな人たちの中でも流されずおもねらず、かといって何かあったときに復讐めいた行動をする人たちに迎合もしない。一足早く大人になったような女の子なんです。
 彼女を支えるのは、やはり亡くなったおばあちゃんと、母親の親友、そしてその息子の陽一です。そのじんわりとしたやさしさが沁みる。継母である宏子との関係も、お互いを認めている感じです。表紙の絵はこの二人なんですよね。この場面を選んで表紙にするスカイエマさんが、やっぱりいい。
 宏子は、「生きていくことは自分で決めることを繰り返していくことなのだ」と不意に思います。このあたりが好き。
 岩出山の「凍み豆腐」(本文では「いみどうふ」と書いてあるけど、わたしには「しみどうふ」ですね)とかアーケードの様子とか、ふと身近に感じる描写も地元ならでは。先日岩出山に出張にいって、道を間違って帰るのに多少迷ったのはわたしです。その帰りにこの本を見つけたんですよね。(そのときは「かなりや」を買いました)
 穂高さんの本、どれもすごくいいですね。来年度は図書室に入れてみんなに読んでほしいな。
 移り変わっていく家族の、それでも変わらない何か。友情とか信頼とか、まっすぐ通った柱のようなものを、強く感じました。温かいポッカレモン、自販機でみつけたら、今度買ってしまいそうです。