くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「終わらない歌」宮下奈都

2013-03-08 20:43:18 | 文芸・エンターテイメント
 不思議です。本文にもあるように、もう二十五年も前。最後に聞いてからも十年以上経っているはず。それなのに、歌詞を見ると湧き上がってくる歌がある。「未来は僕らの手の中」「ラブレター」「英雄に憧れて」(敢えて本文に登場しない歌をあげてみました)……。
 大体この表紙を見るだけで自動的に頭に流れてくるじゃないですか。わたし、そんなに聞き込んでいたかな?
 宮下奈都「終わらない歌」(実業之日本社)です。「よろこびの歌」の続編。多感な高校時代を送った玲、千夏、ひかり、早希(たち)が二十歳を迎えて、それぞれの生活の中で悩み、希望を見いだし、まっすぐに生きていく。とてもしっくりくる物語でした。
 玲は音大に進んで、声楽を学んでいます。でも、クラスの中では七番めくらいの位置だと感じている。「シオンの娘」は、賛美歌ではかなり有名な歌なのですが、知らない人は知らないですよね。等賞歌と同じ音律です。わたしも学生の頃に頻繁に耳にしました。
 玲は大学の中で、才能の序列を感じています。「評価から離れて歌うのは勇気のいることだ」と語る姿を見て、同じように音楽を求めて大学に入ったのに、周囲はライバルなのかなと複雑な気持ちになります。
 わたし自身は日本文学科ですから、特に競争のようなものを感じたことはないと思います。(断言できないのは何しろ遠い昔だから……) 人数も多かったし専攻したいジャンルも違ったからですかね。文芸部だったのでそれなりに出来不出来もあったとは思うんですが。
 で、日本文学を学んでいるのが佳子です。古典をやっているらしい。
 ところが、わたし、佳子とあやちゃんのことをちっとも覚えてないんですよ! なぜだろう。ボーズは覚えてましたよ。
 なんていうか、読み進んでいくうちに登場人物たちが自分の高校時代の友達みたいな感覚になってくるんです。そういう群像劇的なものがある。誰かの話に、また違う誰かが重なっていて、気になったその後がわかることもありました。宮下さんは新聞小説が合いそうな気がします。
 様々な曲がモチーフとして描かれていますが、この中でいちばん好きなのは「コスモス」ですね。合唱曲に後押しされるあやちゃんのその後が気になって仕方ない。自分もその合唱を一緒に歌いたいように思ってしまいます。
 ラストでは玲の悩みも、やはり歌うことによって解消されていきます。母のことに絡めて年齢的なことも書かれていますが、ぜひ円熟味を感じさせる曲を聞いてみたいですね。
 明日は卒業式。ともに過ごした仲間たちと別れて、自分の道を歩き出す中学三年生の未来に、花 開け。