また古い日記から。
気仙沼在住、二十四歳(二〇〇四年)。東北学院大在学時に日本ファンタジーノベル対象に応募した作品のようだ。結果は優秀賞。彼女は現在地元の市役所につとめている。去年は採用されたばかりで仕事を覚えるのに夢中だったとのこと。そういう内容のインタビュー記事を新聞で目にしたのは、少し、前。そのときから読んでみようかなと思っていた。 ひじょうに屈折した主人公・戒の人生を丁寧に描いている。登場人物やエピソードも魅力的。自分が大学生だった頃のことを考えると、この筆力はすごい。濃密で収斂性がある。後半で話が見事にまとまっていく。そのうえでプロローグを読み返してみて欲しい。うそ、これってそういうことなの? 計算され尽くした技巧に、驚嘆すること必至。私も、実は図書館に返す直前に何気なく目を通してびっくりしたのだった。え、こんな当たり前のことに気づいていなかったのは私だけだって?
母の亡霊に縛られている戒の卑屈さと矛盾に、初めはなじめなかったけど、これもきちんと決着がつけられている。この人の頭の中には相当に長い間、この世界が存在していたのではないだろうか。世界観のリアルさもそうだし、こういうタイプのキャラクターって中学生くらいの時期に生まれ出るような気がする。創作に目覚めた、葛藤と自己顕示の時代に。
学院では民俗学を専攻していたというのが肯ける構成。現代には負のイメージとして伝えられる「伝説の舞舞い」の理解されなかった実状を描く、という手法。道化者になるしかない苦悩、理解されない卓抜した能力と天才故の孤独。三人の女(母、湖妃、夏雨)への思慕、出生の秘密……これでもかこれでもかともりこまれた内容は、読み応えあり、です。私は湖妃の聡明さが美しいと思った。時間をおいて、またいつか読み返したいと、久しぶりに思った本。
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筆者の小山さんはその後作品を発表しておらず、「戒」も文庫化していません。
宮城県図書館の館報「ことばのうみ」によれば、ご結婚されて子育て中とか。(ちなみに今回の館報では荒木飛呂彦さんがコメントしてます)
いい本なので、また図書館で借りたいと思っています。
気仙沼在住、二十四歳(二〇〇四年)。東北学院大在学時に日本ファンタジーノベル対象に応募した作品のようだ。結果は優秀賞。彼女は現在地元の市役所につとめている。去年は採用されたばかりで仕事を覚えるのに夢中だったとのこと。そういう内容のインタビュー記事を新聞で目にしたのは、少し、前。そのときから読んでみようかなと思っていた。 ひじょうに屈折した主人公・戒の人生を丁寧に描いている。登場人物やエピソードも魅力的。自分が大学生だった頃のことを考えると、この筆力はすごい。濃密で収斂性がある。後半で話が見事にまとまっていく。そのうえでプロローグを読み返してみて欲しい。うそ、これってそういうことなの? 計算され尽くした技巧に、驚嘆すること必至。私も、実は図書館に返す直前に何気なく目を通してびっくりしたのだった。え、こんな当たり前のことに気づいていなかったのは私だけだって?
母の亡霊に縛られている戒の卑屈さと矛盾に、初めはなじめなかったけど、これもきちんと決着がつけられている。この人の頭の中には相当に長い間、この世界が存在していたのではないだろうか。世界観のリアルさもそうだし、こういうタイプのキャラクターって中学生くらいの時期に生まれ出るような気がする。創作に目覚めた、葛藤と自己顕示の時代に。
学院では民俗学を専攻していたというのが肯ける構成。現代には負のイメージとして伝えられる「伝説の舞舞い」の理解されなかった実状を描く、という手法。道化者になるしかない苦悩、理解されない卓抜した能力と天才故の孤独。三人の女(母、湖妃、夏雨)への思慕、出生の秘密……これでもかこれでもかともりこまれた内容は、読み応えあり、です。私は湖妃の聡明さが美しいと思った。時間をおいて、またいつか読み返したいと、久しぶりに思った本。
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筆者の小山さんはその後作品を発表しておらず、「戒」も文庫化していません。
宮城県図書館の館報「ことばのうみ」によれば、ご結婚されて子育て中とか。(ちなみに今回の館報では荒木飛呂彦さんがコメントしてます)
いい本なので、また図書館で借りたいと思っています。