最近関東で磯採集している方が、ヒメジの仲間の幼魚を採集した、という話をよく聞く。下顎に1対、2本の髭をはやしたユニークな魚である。関東沿岸では夏~秋に死滅回遊魚として採集されることが多く、ヨメヒメジ、ホウライヒメジ、コバンヒメジ、まれにオジサンといった種が千葉県の房総半島以南のタイドプールで見られる。変わった特徴をもち、採集したヒメジの仲間を飼育したくなるが、この仲間の幼魚の飼育は難しい。
コバンヒメジ。できれば網を使わないほうがよいかもしれない
まずヒメジの仲間はスレ傷などに弱いようである。鱗もはがれやすく、網を使った採集では魚を水から出さないことが望ましい。網の中に入ったヒメジを容器などに移してから水からあげるとよいだろう。
オオスジヒメジの幼魚
飼育下ではまず、水槽の底には粒の細かい、できればパウダー状のサンゴ砂を敷いてあげるとよい。白点病に罹りやすいという特徴もあるので、温度を一定に保ち、殺菌灯を取り付けるなどの病気対策もしたほうがよい(ただし殺菌灯は水温の上昇を招くことがあるため注意したい)。またヒメジの仲間は釣りではハタの仲間やフエダイの仲間などを釣るための「泳がせ釣り」の生き餌にも使用されることがあり、大型魚の餌になっていることがある。釣り餌としてだけでなく、マダラハタなど大きいハタがインドヒメジやオジサンなどを捕食しているシーンを見ることがある。ハタやバスレット、フエダイ、大きめのハゼなど口に入る魚を食べてしまう可能性がある魚はもちろん、意外な魚がヒメジの仲間を捕食してしまうことがある。なんと一緒に水槽で飼育していたブダイ科のミゾレブダイがヒメジの仲間を次々に捕食してしまったことがあった。意外と肉食性の面を持ち合わせるようだ。また、ヒメジの仲間自体の餌の確保も必要になる。ヒメジの仲間を飼育するのであれば、ある程度ゴカイ類が湧いている水槽で飼うとよいかもしれない。配合飼料は個体によりなかなか食わないことがある。
オジサン(15cmほど)
ある程度育った個体であれば、飼育は特に難しくない。ウミヒゴイ属の魚であれば、餌もキビナゴやエビといった生の餌から配合飼料までよく食べる。小さい個体より大きい個体のほうが配合餌に餌付きやすいというのは、ヤッコの仲間やチョウチョウウオの仲間とは真逆といえるかもしれない。写真のオジサンは釣りで獲れたものでやや大きめの個体ではあるが、これほど大きくなくても飼育しやすいだろう。ただオジサンはまだそうでもないのだが、ウミヒゴイ属の魚はオオスジヒメジ(50cm)や、マルクチヒメジ(40cm)などかなり大きくなるものが含まれている。飼育下ではそこまでは大きくはならないと思うが、最後まで飼育できるか持ち帰る前に考えるようにしよう。