魚のぶろぐ

2006/5/28~。現在復旧作業中で見苦しいところもありますが、ご容赦願います。

テンジクダイ科の分類

2016年04月03日 09時19分42秒 | 魚の分類

近いうちにテンジクダイ科について書こうと思っている。テンジクダイ科の分類は2013年に出た「日本産魚類検索第三版」(以下「魚類検索」と省略)からはだいぶ変わってしまっているところがあるので、ここでちょっとまとめてみたい。

●魚類検索でのテンジクダイ科の分類

テンジクダイ亜科とクダリボウズギス亜科の2亜科に分けられている。後者にはクダリボウズギス属、クダリボウズギスモドキ属、ヌメリテンジクダイ属の3属が含まれ、前者にはそのほかの属(日本産ではサクラテンジクダイ属、ヒカリイシモチ属、マンジュウイシモチ属、オニイシモチ属、ヤライイシモチ属、シボリ属、タイワンマトイシモチ属、ナンヨウマトイシモチ属、ヤツトゲテンジクダイ属、スカシテンジクダイ属、アトヒキテンジクダイ属、テンジクダイ属、イトヒキテンジクダイ属、カクレテンジクダイ属、およびナミダテンジクダイ属が含まれる。

 

●馬淵ほか(2015)の分類体系(亜科)

オニイシモチ亜科

テンジクダイ科は4つの亜科に分けられた。魚類検索ではテンジクダイ亜科のメンバーだったオニイシモチが独立した亜科であるオニイシモチ亜科を形成することになった。それぞれ1種のみを含むオニイシモチ属と、Holapogon属の2属からなる。なおオニイシモチ属に従来使用されていた属学名Coranthusは、Amioidesの新参異名となってしまっているようだ。この種は底釣りでたまに釣れるようであるが、まれな種である。奄美大島や慶良間諸島などで採集されているほか、この文献が収録されている魚類学雑誌の表紙には鹿児島県硫黄島でダイバーによって撮影された写真が掲載されている。

 

Paxton亜科

2つめの亜科はPaxton亜科である。Paxton属の1属1種のみからなる。細身の体で、背鰭は1基しかないように見える。ヌメリテンジクダイの背鰭をひとつにしたような感じの種で、従来はクダリボウズギス亜科に含まれてきたもの。オーストラリア産で日本には産しない。

 

ヌメリテンジクダイ亜科

3つ目の亜科はヌメリテンジクダイ亜科である。従来のクダリボウズギス亜科のヌメリテンジクダイ属のみが含まれる亜科で、クダリボウズギス属の魚や、クダリボウズギスモドキ属の魚は含まれないようである。

 

コミナトテンジクダイ亜科

4つめの亜科はコミナトテンジクダイ亜科で、上記のものをのぞいたすべての族・属・種が含まれる。普通であればこれをテンジクダイ亜科とするところであろうが、単なる「テンジクダイ」や「イシモチ」の語幹はオニイシモチ亜科やヌメリテンジクダイ亜科でも見られるということで、亜科の標準和名には使用されないようだ。この文献ではいくつもの分類階級に新しい標準和名が提唱されている。その標準和名提唱にはいくつかのルールを策定しているが、それに合致しなかったということだ。

 

●馬淵ほか(2015)の分類体系(族)

ナンヨウマトイシモチ族

6属が含まれる。日本産のものはナンヨウマトイシモチ属・タイワンマトイシモチ属・シボリ属・ヤツトゲテンジクダイ属の計14種が含まれる。ややごつい体をして、保護色や保護模様を持っているものが多いように思われる。

 

コミナトテンジクダイ族

5属からなり、日本産ではApogon属、Zapogon属の2属。魚類検索でテンジクダイ属とされていた、アカネテンジクダイ、ハナイシモチ、ヤミテンジクダイ、トゲナガイシモチ、ヤリイシモチ、アカフジテンジクダイ、リュウキュウイシモチ、トウマルテンジクダイ、コミナトテンジクダイ、オグロテンジクダイの10種はApogon属に、トマリヒイロテンジクダイはZapogon属に含まれている。Apogon属についてはこれまでテンジクダイ属の標準和名がつけられていたが、ここで新たに「コミナトテンジクダイ属」という標準和名が提唱された。Zapogon属の標準和名はトマリヒイロテンジクダイ属で、こちらも新しく属標準和名が提唱された。この族のものは赤みを帯びた体のものが多いように思う。

 

アトヒキテンジクダイ族

Archamia属、Taeniamia属の2属。Archamia属にはアトヒキテンジクダイ属という標準和名がつけられていたが、従来Archamia属とされていたものは1種(Archamia bleekeri)をのぞきすべてTaeniamia属とされた。Taeniamia属の標準和名は「アトヒキテンジクダイ属」とされた。一方Archamia属については標準和名はなし。日本からは現状見つかっていないものの、Archamia属の唯一の種はインドー西太平洋域に産し、近いところでは台湾にも分布することが分かっている。おそらく日本でも見つかり標準和名がつくだろう。

 

ヤライイシモチ族

ヤライイシモチ属のみ。日本産は4種。多くの種で体側に縦帯があり、同定が難しいものが含まれる。大型種で魚を捕食するハンターであるが、飼育すると意外にも繊細な面を見せる。

 

カガミテンジクダイ族

Yarica属と、Glossamia属の2属からなる。魚類検索でテンジクダイ属とされたカガミテンジクダイはYarica属とされた。Yarica属の標準和名として「カガミテンジクダイ属」が新しく提唱されている。もう1属Glossamia属のほうは11種が知られているが日本には産しない。一番よく知られているのはGlossamia aprionという種で、この種はニューギニアからオーストラリアにかけて分布し、日本にも輸入されているのである。この種を飼育したことはないが、いつか飼育したいと思っている魚である。

 

クダリボウズギス族

4属からなる。日本に分布するのはサクラテンジクダイ属と、魚類検索ではクダリボウズギス亜科にされていたクダリボウズギス属およびクダリボウズギスモドキ属の3属が含まれている。サクラテンジクダイ属も、クダリボウズギス属などのものも頭部に孔器列があるのが特徴のようだ。観賞魚の世界ではまず見ないものであろう。

 

スジイシモチ族

Ostorinchus属のみ。魚類検索でテンジクダイ属とされていたもののうち、ネオンテンジクダイ、カブラヤテンジクダイ、テッポウイシモチ、ナガレボシ、ヒラテンジクダイ、フウライイシモチ、セホシテンジクダイ、ネンブツダイ、ムナホシイシモチ、フタスジイシモチ、ニセフタスジイシモチ、タスジイシモチ、ミナミフトスジイシモチ、アカホシキンセンイシモチ、ミスジテンジクダイ、ミスジテンジクダイL型、キンセンイシモチ、スジオテンジクダイ、オオスジイシモチ、ウスジマイシモチ、スジイシモチ、コスジイシモチ、アオハナテンジクダイ、アオスジテンジクダイ、クロホシイシモチ、およびミヤコイシモチの計26種が含まれ、このほか最近日本から記録されたコンゴウテンジクダイを合わせて27種が日本から知られている。

この族・属には本州から九州の夜釣りでお馴染みのネンブツダイやクロホシイシモチ、オオスジイシモチなどが含まれており、アクアリストにもおなじみのキンセンイシモチやネオンテンジクダイも含まれている。すらっとした体形で縦帯が入るものが多いが、ミヤコイシモチのように体が丸みをおびているものもいる。なお、Ostorhinchus属には新しく「スジイシモチ属」という標準和名がついた。

 

ヒトスジイシモチ族

Pristiapogon属と、Pristicon属の2属からなる。魚類検索ではテンジクダイ属のなかに含められてきたユカタイシモチ、ヒトスジイシモチ、カスリイシモチの3種はPristiapogon、アカヒレイシモチ、フタスジアカヒレイシモチ、そしてミスジアカヒレイシモチの3種はPristicon属、それぞれヒトスジイシモチ属、アカヒレイシモチ属という標準和名が提唱されている。テンジクダイ属のなかでもやや大型になる種が含まれている。

 

スカシテンジクダイ族

スカシテンジクダイ属のみ。日本産はスカシテンジクダイのみで、クロスジスカシテンジクダイは別の族・属とされている。透明感のある体がとても美しい種で、水中映像や水中写真では同じように大きな群れを形成するハタンポ科のキンメモドキと同様にお馴染みの種である。なお、ハタンポ科とテンジクダイ科魚類は系統的に近い位置にあるのではないか、とよく思わせる。キンメモドキとスカシテンジクダイは結構間違えられることもあるし、よく群れて夜間に釣れるのも共通している。ただしハタンポ科は背鰭が1基で基底も短い。アオバダイ科と近い関係にあるという。

 

ヒカリイシモチ族

ヒカリイシモチ属のみで、日本には4種が知られている。ヒカリイシモチなど一部の種は観賞魚として輸入されてくるが、ポピュラーとはいえない。

 

マンジュウイシモチ族

日本産の魚としてはカクレテンジクダイ属、Jaydia属、ナミダテンジクダイ属、マンジュウイシモチ属の4属が含まれる。魚類検索でテンジクダイ属に含められたものでは、テンジクダイ、マトイシモチ、ツマグロイシモチ、シロヘリテンジクダイがJaydia属に、クロイシモチ、ヨコスジイシモチ、モンツキイシモチがカクレテンジクダイ属に含められている。Jaydia属の標準和名として「ツマグロイシモチ属」という標準和名が提唱された。

この族のものはほかのテンジクダイ科の魚と比べて体が高く丸っこいような気がする。観賞魚として飼育されているものも多く、タンガニイカ湖のシクリッドのように、親が口腔内で子育てをするPterapogon属もこの族のメンバーである。

 

クロスジスカシテンジクダイ族

クロスジスカシテンジクダイのみからなるクロスジスカシテンジクダイ属のみからなる。

 

イトヒキテンジクダイ族

イトヒキテンジクダイ属とFibramia属の2属からなる。Fibramia属には、魚類検索ではテンジクダイ属のなかに含まれていたアマミイシモチ、サンギルイシモチ、ワキイシモチが含まれている。たしかにこの3種の透明感があるからだはイトヒキテンジクダイ属に近いとも思わせる。なおFibramia属の標準和名はサンギルイシモチ属。

 

Lepidamia族

Lepidamia属のみ。インドネシアから南アフリカまでのインド洋と、西太平洋に分布する4種を含む。いずれの種も全長10cmを超える大型種。台湾や中国などにも生息するとされているが、日本には分布していないようである。

 

テンジクダイ科は近年の研究により大きく分類体系が変わっている。魚類検索の「テンジクダイ属」が細分化されたと思いきや、ほかにもあちらこちら変わっているところがある。一番の驚きはクロスジスカシテンジクダイがスカシテンジクダイ属からわかれ独自の属・族に含まれるようになったことである。これらの分類については分子分類学に基いているものの、形態的にも沿っている部分が大きい。

●文献

馬渕浩司・林 公義・Thomas H. Fraser. 2015.  テンジクダイ科の新分類体系にもとづく亜科・族・属の標準和名の提唱.魚類学雑誌.62(1):29-49

魚類学雑誌は日本魚類学会の会員向けの雑誌ではあるが、発行から2年すぎたものは無料で閲覧・ダウンロードできる。

 

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