安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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正月の「福島民友」記事から福島県内メディア問題を考える

2014-01-06 22:54:48 | 原発問題/一般
福島県に2紙ある地元紙のうちの1紙「福島民友」が、1月3日付の紙面の1面トップに「「自主避難して正解」原発災害「復興」の影 肯定求める親の判断 古里を離れて心に負担」という記事を掲載し、新年早々話題になっている(サムネイル写真)。すでに他サイトで書き起こしがされているが、当ブログでも記事を掲載する。

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「自主避難して正解」原発災害「復興」の影 肯定求める親の判断 古里を離れて心に負担

 福島民友 2014年1月3日

 「周りからは『大変ね』って、数え切れないぐらい言われる。母子避難という“ブランド”を背負っているような感じ」

 長女(9)と長男(7)を連れて福島市から兵庫県西宮市に避難する赤間美沙子(35)は、自らに向けられる、周囲の同情的な目に戸惑いを感じている。

「こっちは前向きなつもりなのに」

●期限ぎりぎりに転居

 2012(平成24)年秋、12月で県外避難者のための住宅借り上げの新規受け付けが終わると聞いて、急に不安になった。18歳以下の県民を対象とした甲状腺検査で、子どもらの甲状腺に「嚢胞」などのしこりが見つかったと話題になったのもこのころだ。検査した機関は原発事故との関連を否定したが「うちの子は何もないとは言い切れない。後悔したくなかった」

 期限ギリギリに、神戸市の知人に紹介してもらった西宮市のアパートの借り上げ手続きを済ませ、暮らし始めた。

 避難してから、放射線について調べ「やはり福島は危険だった」と思った。今は子どもらが砂遊びをしていても安心していられる。福島市に残る夫(37)には負担を掛けているが、やはり避難して良かったと思っている。

 昨年年の瀬に、福島市に一時帰宅。正月は夫と過ごした。福島の母親仲間とは、放射線に関する話題はあえて避けて、子どもの話に終始した。「サッカーやってるけど元気すぎて困ってる」

 相馬市から滋賀県栗東市に避難する元設備業佐藤勝十志(52)は11年11月に相馬の知人らと京都で再会した。

 長女が卒業した中学校の吹奏楽部が音楽祭に特別出演した。子どもらの前では「いつ帰ってくるの」などと当たり障りのないやりとりだったが、トイレや廊下で保護者と二人きりになった時、何人かから言われた。

 「今度、何かあったら子どもを避難させたい。預かってくれないか」

 ●もう仕事ないよ

 佐藤は「人前では言えなかったんだな」と思った。「相馬は市民が一丸となって復興に進んでいるというのが建前。避難したいと言えない雰囲気があるのでは」と推測した。

 「裏切り者」「もう仕事はないよ」

 相馬に一時的に戻ると、同業者からは厳しい言葉を投げ付けられる。しかし、佐藤は意に介さない。「仕事もいいが、家族に健康被害が出たらどうするんだ」

 国による避難指示のなかった地域から、他県や会津地域に避難したのは3万人程度とみられている。賠償などがある避難指示区域からの避難者と比べ、経営苦などが目立つとされるが、当人たちは「避難して良かった」「(地元に)残っていたら大変だった」と肯定的だ。

 福島大行政政策学類准教授の丹波史紀(40)(社会福祉論)は「自主避難者は職場や古里を捨てたのではという後ろめたさを感じている人が多く、避難が正しかったと思いたい気持ちが強い。地元で健康被害などがあれば、避難が正当化されるという考えもみられる」と指摘し、「自主避難者に『避難は悪いことではない』『間違ってない』と言ってあげるなどの支えが必要だ」と話す。

 自主避難者は、避難による人間関係の変化や、支援制度の変遷などを経て、事故後3度目の正月を迎えている。避難者の現在の思い、境遇を追う。
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正月(特に元日)の紙面は、新聞にとって特別の意味を持つ。「1年の計は元旦にあり」は新聞も例外ではなく、各紙が今年1年間、重点的に取り組みたいこと、報道したいことを内外に向け宣言するのが元日をはじめ正月の紙面だとされる。例えば東京新聞は、元日の紙面で「東電、海外に210億円蓄財 公的支援1兆円 裏で税逃れ」「浜岡増設同意 地元に53億円 中部電ひそかに寄付」のスクープ記事を掲載したが、これは同紙として、今年も福島原発事故問題に果敢に取り組むという「決意表明」だ。同様に、北海道新聞は元日の紙面に「JR北海道子会社、保線費用から裏金か 発注水増し、返納指示」の記事を掲載したが、こちらも今年、同紙がJR北海道の安全問題を最重点課題にするという決意と見て間違いない。東京、北海道両紙には今年も期待できそうだ。

とはいえ、1月3日の紙面、しかも1面トップにこの記事を持ってきた福島民友の真意を当ブログは計りかねている。この記事に関しては、「よくぞここまで来た」と福島民友の「英断」を讃える声がある一方、丹波史紀・福島大准教授の「地元で健康被害などがあれば、避難が正当化されるという考えもみられる」というコメントを捉え、自主避難者を貶める悪意に満ちた記事だと批判する動きもあり、評価は真っ二つに割れているからだ。

事故発生後も2年間福島に住み、その後の未曾有の事態を見てきた当ブログ管理人の目には、この記事は「英断」と映る。なにしろ、事故以降の福島県内での「放射能タブー」ぶりはすさまじく、ファシズムとしか形容できないものだった。県・自治体行政、議会、メディア、住民一体となった「復興・除染・帰還」「風評撲滅」キャンペーンが繰り広げられ、この風潮に少しでも異を唱えるものには容赦なく「裏切り者」の烙印が押された。旧警戒区域・計画的避難区域から強制避難となった住民でさえ、福島を愛しているなら帰りたいと言わなければならないムードが、つい最近まで支配的だった。そうした排他的で異論を許さない福島の空気のほうが「放射能より怖い」という悲痛なメールが当ブログ管理人の元に回ってきたことさえある。

戦前、昭和恐慌に陥り、政治的・経済的・社会的に余裕を失った日本や、第1次世界大戦の巨額の賠償金に苦しみ、自信と余裕を失ったドイツが偏狭な「愛国心」やナチズムを持ち出し破滅の歴史に入っていったように、人も社会も、余裕を失い苦しくなると「国家」「郷土」など強大で偏狭かつ観念的な「共同体幻想」にすがろうとする。福島県で排他的な愛郷心キャンペーンが「帰還」「自主避難阻止」の形で猛威をふるっていることは、すなわち福島県が陥っている危機の最も象徴的な現れと捉える必要がある。

この間、特に福島県内メディアは積極的にこの風潮を作り上げ加担してきた。特に悪辣で許し難いのは県内で最大部数を誇る「福島民報」だ。古い話になるが、2011年12月6日、原発周辺地域(50km圏内)の住民に1人あたり妊婦・子ども(18歳未満)は40万円、その他は8万円の賠償を行うべきだとする原子力損害賠償紛争審査会(原陪審)の中間指針が示された。この翌日の「福島民報」紙面で大誤報が起きた。


2011.12.7付け「福島民報」紙面から

上の画像の記事をご覧いただきたい。「自主避難の賠償例」として母親が子どもを連れて東京に自主避難した場合の賠償について、母親への賠償は「なし(子どもに支払い)」と記載されている(表の上から2段目)。どう見ても、母親+子ども1人で40万円の支給、としか読めない内容になっている。

しかし、これは結果として「誤報」だった。実際には、このケースの場合、母親に8万円、子どもに40万円が支給され、母親+子ども1人なら賠償は48万円となる。事故当時、原発から半径50km圏内に住んでいた人であれば、その後福島に残っても避難しても一律にこの金額が支給されるはずなのに、おかしいと不審に思った読者が文部科学省に問い合わせをした結果「誤報」が発覚。後日、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」(サフラン)も文科省に確認し、同様の回答を得たのである。「福島にとどまり仕事を継続」の父親には8万円が支給される一方、「東京に自主避難」した母親には「支給なし」と報道する。「福島から逃げたら賠償を受けられなくても知らないぞ」と、事実をねじ曲げてまで県民を恫喝する、極めて悪質な「誤報」だった。

この誤報には続きがある。記事が出てから約1週間後の2011年12月15日、東京在住のフリージャーナリスト・上田眞実さんが福島民報に誤報発生の原因などについて問い合わせたところ、福島民報側の回答が極めて不誠実だったのだ。このいきさつを示した上田さん執筆の記事は、今なおレイバーネット日本サイトに残る。少し長くなるが引用する。

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(福島民報社に)に問い合わせしたところ、編集局の佐久間順さんという方が対応した。仔細を聞くと『共同通信配信の記事を載せたところ、その中の賠償金額が間違っていたので、誤報になった』との事。 『たとえ共同通信と言えど、内容をチェックしないのですか? 裏付け取りはしないのですか?』と聞いたところ、佐久間『普段はしない物なんです』とのこと、共同通信社配信の記事をノーチェックで掲載した所の誤報事件だった。

『自主避難を考えている親御さんにとって母子にとっての、心理的、社会的影響を考えなかったのか』との問いには答えなかった。経緯については 佐久間『朝の早刷り、6版で指摘があり気がつき、8版の遅刷りで訂正し、翌日訂正記事を出した』という経緯の説明を受けた。『6日の経産省で行なわれた原子力賠償紛争審査会には東京に取材に行ったのか』佐久間『行ってません』

そこで共同通信社に改めて誤報が流れた経緯を聞いた。同社のニュースセンター整理部・新堀浩朗部長が『大変申し訳ない事で、申し開きが出来ない事』と全面的に共同の記事が間違いであったと話し、『取材をした記者の聞き取り間違いです』と取材ミスからの誤報であった事を認めた。

『当事者にとっては非常に重要な問題、これは情報の隠蔽なのか、何かの意図があるのか』新堀『全くありません、最初、母子の賠償は賠償金額にまた新たな金額を上乗せするか、との審査会でのやり取りで『上乗せはしません』という返答をしていたのを聞いていた記者が『母子自主避難賠償金額は0円』と聞き間違え、そのまま記事になってしまったのです、ニュースリリースも無く、その場のやり取りを聞いていくという取材でした』『取材ミス、という事ですか』新堀『その通りです、6日に審査会があり、7日に記事が各報道機関に配信され、翌日8日に訂正されました、配信した報道機関には、間違いであった事は通達しました』『他の新聞社も、掲載されましたか』新堀『詳しくは解りませんが、掲載された』

二人の記者に話を聞いて、感じたのは『事件への問題意識が希薄』という事だった。 沢山配信される記事、膨大な情報、日々の更新・・・ の、その中の誤報のひとつでしかないのだろう、しかし、ガラスバッチを持たされ、それを計測されて報告される毎日よりも、放射能のない地域で暮らしたい、と思ってる親子には実にショックな内容の記事だ。怒っている人達が沢山いるのも当然と思う。

特に福島民報は地元の読者が当事者である(原陪審)に取材にいかず、中央の報道機関の記事をノーチェックで掲載する、という脇の甘さ。報道関係者としての矜持を疑う物である。二度目に『福島民報』を取材した時は終始『訂正したんで』と面倒そうに答えていた。(その時の対応者は風間記者)

読者はお灸の据え方をよーく、考えた方が良いと思う。

上田眞実 2011 12 15
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このとき、当ブログ管理人は、「福島民報」が事実を報道するよりも県民の自主避難を阻止することに重点を置くメディアだということ、県民の自主避難を阻止するためなら誤報さえ平気で流し、訂正もおざなりにしか行わないメディアであるということを知った。

福島民報に関しては、もうひとつ、重要な事実を指摘しておく。メディアに限らず、株式会社では通常、経営陣が自社の株式を保有しているのが通例だが、地元誌「政経東北」によれば、福島民報社は経営陣で誰も自社の株式を持っていない。代わりに福島民報社の株式の10%を持つのが福島テレビであり、その福島テレビの大株主はなんと県だ(県が50%保有)。このため福島テレビは「県営テレビ」と揶揄されており、福島民報も県から見て孫会社ということになる。

権力批判が仕事であるメディア企業にとって、公権力に経営を押さえられることは屈辱以外の何ものでもないはずだが、それを屈辱はおろか、不正常な状態と認識するだけの知性も胆力もないのだからお話にもならない。こうした「土着御用メディア」こそが、県民の自主避難を妨げる要因になってきたのである。

今回、冒頭の記事を掲載した「福島民友」は、福島県内では一応、読売系列ということになっている。福島県内で福島民友を置いているコンビニには読売が置いていないこともある。中央レベルでは読売は原発推進の論調を続けており、それどころか読売新聞元オーナーの正力松太郎こそ日本への原発導入の旗を振った人物であるという事実も、3.11以降は広く知られるようになった。

ただ、未曾有の原発事故を経験した福島県内の状況は中央とは異なっており、読売系列だからといって福島民友が再稼働を含めた原発推進路線を支持しているというわけではない。2011年秋、二本松市のゴルフ場が東京電力に除染費用を求めて提訴した訴訟で、東電が「ゴルフ場に降り積もった放射性物質は“無主物”(所有者のいない物体)」であるとの珍妙な主張を展開したが、この出来事があった直後の東京電力の記者会見では、福島民友の記者が「福島県内を汚染している放射性物質はどこから来たもので、所有者は誰か」と東電を追及。東電社長が「私たちが原因です」と陳謝する場面もあった。福島原発告訴団による告訴・告発の記事も、県内では概して福島民友のほうが福島民報より扱いが良いことが多かった。当ブログ管理人は、福島民報を厳しく批判する一方、福島民友に対しては、この記者のような良心的で正義感の強い人物もいること、また徐々にではあるが、私たちの望んでいる方向に論調が変化する兆しも見えたことから、これまで表立った批判を手控えてきた。

福島民友が今回、初めて、自主避難者を多少なりとも肯定的に評価できるようになった背景に、3.11以降のこのような苦闘の積み重ねがあることは指摘しておいて損はないと思う。最後の段落で取り上げられた福島大准教授のコメントだけを捉えて「悪意に満ちた記事」と論難する動きもあるが、自主避難者に対し、福島県内に残った人々から「今度、何かあったら子どもを避難させたい。預かってくれないか」という声がかけられた、という事実を表に出しただけでもいいではないか。放射能タブーが日常化してしまった福島で、ここまで来るだけでも、さぞ大変であったことは想像に難くない。

この記事は、福島県内に静かに、しかし確実に大きなハレーションを呼ぶだろう。今後の展開に注目したいと思っている。

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2014年 新年目標

2014-01-04 23:02:29 | 日記
例年通り、昨年(2013年)の目標達成度の点検と2014年の新年目標を発表します。まずは昨年の総括から。

1.鉄道
12月27日付記事のとおり、未達成に終わりました。

2.その他
2010年に閉鎖に追い込まれた「汽車旅と温泉を愛する会」サイトの復活ができたのは成果でした。

続いて2014年目標です。

1.鉄道
全線完乗は、JR5線・その他5線、計10線区を目標とします。北海道に転勤となり、日帰り圏内の路線の完乗はすでに達成してしまったため、今年は昨年のようなペースでは行かないと考えます。

2.その他
今年は、新しい取り組みとして、ネット小説の執筆に取り組もうと思っています。構想は以前からあり、一部、執筆は始めていますが…。いずれ、公開できるようになったら、「汽車旅と温泉を愛する会」に順次、掲載していく予定です。

今後ともよろしくお願いします。

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JR北海道直系の保線子会社、下請けに裏金要求 事実上のリベート制度か/安全問題研究会

2014-01-03 12:47:26 | 鉄道・公共交通/安全問題
JR北海道子会社、保線費用から裏金か 発注水増し、返納指示(北海道新聞)

裏金でJR北海道にビール券? 子会社、花見など年に数回(北海道新聞)

JR北海道の安全問題を巡って、新年早々、地元、北海道メディアによるスクープ報道が飛び出した。北海道新聞など複数メディアが伝えるところによれば、JR北海道の保線下請け会社が、孫請け会社に支払った保線費の中から現金をキックバックさせ裏金としてプール。その裏金を、保線関係部署での飲食費、花見などに充てていたというのだ。

今回、事態が明るみに出たのはJR北海道直系の下請け保線会社「北海道軌道施設工業」札幌支店管内の複数の営業所。幹部らが、下請け(JR北海道から見れば、孫請け)の保線会社に支払った保線費用の一部を「返納」させ、現場での飲食や花見などの「遊興」に充てていた。

この問題を報道するのは、実は元日の北海道新聞が初めてではない。すでに、地元誌「財界さっぽろ」が年末にこの問題をキャッチし報じている。「財界さっぽろ」によれば、「苫小牧市内のある保線下請け会社」が北海道軌道施設工業の幹部2人とOBに総額で約5000万円を支払わされた挙げ句に、3年前、破産申し立てをして経営破綻に追い込まれたという。この会社は建設会社「優進」で、元社長は同誌の取材にこう告白している。「会社設立以来、JR北海道の子会社の関係者にリベートを払っていました。彼らに会社をつぶされたと思っています。許せません」。

国鉄分割民営化により、JRを規制する法律として成立したJR会社法(正式名称は「旅客鉄道株式会社および日本貨物鉄道株式会社に関する法律」)には、このような罰則規定がある――「会社の取締役、執行役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)、監査役又は職員が、その職務に関して、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、三年以下の懲役に処する。これによつて不正の行為をし、又は相当の行為をしなかつたときは、五年以下の懲役に処する」(同法第16条)。JR職員を公務員に準じたものとして、職務に関連した賄賂の収受を禁ずる規定である。職務権限を持つJR社員が、例えば、下請け保線会社の選定に当たって子会社からこのような不正な金銭を収受すれば、公務員に準じて贈収賄罪が適用される。

JR北海道が、キックバックによる事実上の「リベート」をJR本体ではなく、北海道軌道施設工業を通じて行わせていたのは、JR会社法による罰則を逃れるために違いない。JR会社法はJR旅客会社とJR貨物にしか適用されないからだ(JR旅客会社にしても、法成立当時は6社すべてが対象だったが、本州3社は完全民営化による法改正で対象外となったため、現在、この罰則規定が適用となるのも北海道、四国、九州の3島会社のみである)。

JR北海道としては、保線担当会社からのリベートの還流を子会社にとどめることで、うまくJR会社法の罰則適用を逃れたと思っているかもしれない。しかし、当研究会の見るところ、この行為は少なくとも2つの法令に違反する可能性がある。

1つ目は、背任罪(刑法247条)だ。会社員など組織の構成員が、自己の利益を計る目的で任務に背いた場合に適用される。「優進」側から見れば、北海道軌道施設工業から受領した請負代金の返金要求に応じることは、会社に損害を与える背任行為となりうる。実行したのが取締役などの経営陣であれば、会社法960条の「特別背任罪」となる可能性がある。

2つ目は、正当な商慣習を脅かす「不公正な取引方法」を禁じた独占禁止法(私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律)違反である。不公正な取引方法を例示した同法2条9項5号には「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること」として、「ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」とある。独占禁止法のこの条項は「優越的地位の濫用」と呼ばれるもので、流通業界などでは、こうしたリベート(大手量販店によるメーカー等へのリベート要求)が、いわば「公然の秘密」としてまかり通ってきた。

今回「優越的地位」にあるのは発注者であり「顧客」でもある北海道軌道施設工業の側だから、独禁法違反となる場合は、背任罪と異なり、問われるのは北海道軌道施設工業になる。独禁法を所管する公正取引委員会がまともな感覚を持つ組織であれば、重大な関心を抱くだろう。

それにしても、「優進」の元社長は、自分が背任罪に問われる危険性を知りながらなぜ「財界さっぽろ」「北海道新聞」の取材に応じたのだろうか。やはり、巨額のリベートで会社を経営破綻に追いやられた恨みが大きいだろう。いずれ自分たちに捜査機関の手が入るのなら北海道軌道施設工業も道連れにしてやれという、いわば「自爆テロ」かもしれない。

最後に、労働問題との関係で指摘しておかなければならないことがある。今回の事態は保線業務下請けに伴ういわば「闇」であり、保線の外注~下請け化がなければ、この裏金は賃金として労働者に支払われたはずである。労働者の賃金が下請け化で切り下げられ、士気が低下した現場を鼓舞するために行われていたのが「裏金による宴会」ではお門違いもいいところだ。なぜ労働者を正規化し、その労働にきちんと賃金で報いようとしないのか。外注・下請け化、賃金切り下げ、現場の士気の低下、そして「裏金による宴会」というまやかしの注射で現場を鼓舞する会社幹部――JR北海道の安全崩壊は、起こるべくして起きたといえよう。

2014年も安全問題研究会は忙しくなりそうだ。

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【訃報】山下徳夫・元運輸相死去 御巣鷹事故との関わりは・・・

2014-01-02 23:52:33 | 鉄道・公共交通/安全問題
山下徳夫氏が死去 元厚相(日経)

中曽根内閣で運輸相などを務めた山下徳夫氏が死去した。謹んで哀悼の意を表する。すでに94歳とのことであり、死去に驚きはないが、安全問題研究会としては、この人に関し、ぜひとも書き残しておかなければならないことがある。

山下氏は、地元が佐賀県であり、旧佐賀全県区からの選出だった。地元に帰る際は、羽田~福岡線をよく利用していたようだが、「あの日」1985年8月12日、地元での用務を終えて東京に戻る際もJALの福岡~羽田線を利用した。この際に、山下運輸相(当時)が搭乗していた機体こそ、その数時間後、羽田~大阪線として折り返す途中、御巣鷹に墜落することになる機体番号JA8119号機だったのである。

墜落事故発生後、山下運輸相が中曽根首相にこのいきさつを報告すると、首相から「大臣の乗っていたときに何か異常がなかったか」聞かれたという。これに対し、山下運輸相は「私が乗ったときは何も異常がなかった」と答えている。

あと数時間の差で、山下運輸相みずからが墜落事故の犠牲者になっていたかもしれない、薄氷の歴史の1ページだった。歴史に「もし」は許されないが、もし、航空行政を担当する現職の運輸大臣が日航機事故で死亡していたら、その衝撃はさらに大きなものとなっていただろう。中曽根政権への大きな政治的打撃になった可能性もあった。

事故後に発表された航空機事故調査委員会(現・運輸安全委員会)報告書の「圧力隔壁崩壊~急減圧発生」説を当ブログと安全問題研究会は全く信じていない。墜落原因をミサイル撃墜や「無人標的機の衝突」などの外部要因に求めようとする声は今もある。その是非はさておき、当ブログと安全問題研究会は、今なお、この事故の原因は再調査されるべきだと考えている。

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管理人より新年のご挨拶を申し上げます

2014-01-01 17:09:44 | 日記
2014年を迎えるに当たり、管理人より新年のご挨拶を申し上げます。

昨年、当ブログは目標としていた福島脱出が成り、北海道へ本拠地を移しました。新たな生活を迎えた中での新年となりますが、依然として福島関係者とつながりも維持しています。その福島を中心に、東北では今なお14万人が避難生活のまま新年を迎えました。避難者の数は昨年の新年より2万人減りましたが、今なおこれだけの人々が避難先で新年を迎えています。「復興」とは名ばかりで、実際には被災者の切り捨てがいっそう進む厳しい現実があることを、改めて強調しておきたいと思います。

昨年、参院選での与党「勝利」により衆参ねじれは解消しましたが、国民と政府・国会とのねじれは拡大の一途をたどっています。議会制民主主義体制のままで本当に国民の望む政治が行われ得るのか、国会のあり方自体が問われるほどの深刻な事態といえます。

衆参ねじれ時代、「決められない政治からの脱却」をさんざん煽りながら、特定秘密保護法案の強行採決が行われると、今度は「数の横暴」「独裁」などと批判する無定見なメディアのあり方も、今年は厳しく問わなければならないと思います。当ブログの役割は今年、ますます大きくなることはあれ、小さくなることはありません。特定秘密保護法は成立しましたが、当ブログが萎縮することはありません。萎縮すれば権力の思うつぼであり、声を上げることが暴走権力の空洞化につながる力になります。昨年以上に、今年は「闘うブログ」を目指したいと思います。

ここ数年は毎年、同じことを繰り返しているような気がしますが「今年も昨年より厳しい年」になります。当ブログのキャッチフレーズにもあるように、2014年も昨年までと同様、「1%のための世界から99%のための世界へ」を目指していきたいと思っています。引き続きご支援をよろしくお願いいたします。

なお、新年目標は、後日、改めて発表します。

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