東京都知事選については、当ブログで論評するのはやめようと思っていた。北海道民の自分には無関係な話だし、今回も「投票権がなくて良かった」と思わざるを得ないほど見るも無惨な選挙だったからだ。誹謗、中傷、ネガティブキャンペーンに終始、政策論争以前に政策を提示できない候補者が「主要3候補」の一角として扱われるという状況は、2020年五輪をめぐるゴタゴタと併せ、東京の落日を思わせるには充分だった。
福島第1原発事故により東京が「放射能汚染首都」となってはや5年、東京の劣化ぶりは今や誰の目にも覆い隠せないところまで来ている。本当にこのまま東京が首都であり続けることが日本にとって利益になるかどうか、そろそろ考える時期だろう。
もっとも、世界人類の運命を握っているはずの米大統領選でさえ、サンフランシスコ在住の和美さんのレポート(レイバーネット日本)にあるようにまともな政策論争など皆無に等しく、共和党の予備選に至っては「トランプは世界一流の詐欺師だ」「トランプの手は小さいが手の小さいやつは信じる事が出来ない」(マルコ・ルビオ候補)、「小さいマルコは討論の前、のどがひからびていて、付き添いに水、水とどなっていた」(ドナルド・トランプ候補)など、子どものケンカレベルの誹謗中傷合戦で終わってしまった。その意味では、日本の選挙も「世界標準になってきた」と言えるのかもしれない。
●「演説上手な候補」を侮るなかれ
それにしても、当選した小池百合子氏の勝負勘の良さ、「機を見るに敏」な嗅覚には驚かされる。新進党、自由党などを渡り歩き、「権力と添い寝」を続ける女性、というかなり悪意に満ちた報道攻勢にもさらされてきた。それは裏返せば世論の風が吹いている方向を読むのに長けているということができる。そうした独特の鋭い嗅覚を持った小池氏が、自民党東京都連を「抵抗勢力」に仕立て上げ、それと対決する自分を戦略的に演出する道を選ぶのを見ていると、安倍政権成立以降、国政選挙で自公与党が4連勝してきた政界の潮目の変化を感じる。
米国大統領選にも共通して言えることだが、トランプ氏があれだけ荒唐無稽な主張を繰り返しているにもかかわらず、共和党の予備選を勝ち抜き候補者指名を手にすることができた理由は、(内容の善し悪しは別として)わかりやすい言葉、自分の言葉で有権者に語りかけたからだ。たとえそれがどんなに荒唐無稽な内容であったとしても、「語りたいこと」が明確にあり、それを平易な言葉で聴衆に伝えられる演説技術を持った候補が選挙戦を制する傾向が、近年はますますはっきりしてきたと思う。逆に、ヒラリー・クリントン氏が民主党予備選でバーニー・サンダース上院議員に予想外の苦戦を強いられたのも、「米国をどうしたいのか」に関するビジョンがクリントン氏から明確な言葉で語られなかったからだろう。貧困層にターゲットを絞り、明確に格差是正を訴えるサンダース上院議員のほうが、その意味でははるかに上手だった。
そうした傾向はインターネットにより拡大している。在特会の桜井誠元会長が11万票も獲得したり、「NHKをぶっ壊せ」という政見放送で話題をさらった立花孝志氏が泡沫候補の中では健闘したのも、(内容の善し悪しは別にして)尖った主張、明確な主張があり、(上品、下品は別にして)それを平易な言葉に乗せて有権者の前で表現する技術を持っているからだと思う。
当ブログ管理人が、ネット小説を執筆する上で参考にするため、子どもたちの学校における学級委員や生徒会役員などの実態を調べていると、最近は子どもたちの間でも、以前のような「みんなをうまくまとめる調整型リーダー」に代わり、「やりたいこと」を的確に表現できる演説技術を持った児童生徒が有利になっている様子が垣間見えた。
大人社会でも子ども社会でも、「上手いこと言ったもん勝ち」へ時代は確実にシフトしている。当ブログ管理人のような口下手な人間にとっては受難の時代であり、どうすればいいのか。しばらくの間、リーダーはあきらめ、表に立たなくていい参謀・女房役などのポストで実力を発揮するか、専門性を磨き、特定分野のスペシャリストになるかのどちらかだろう。
●鳥越氏は初めから無理筋だった
野党統一候補として担ぎ出された鳥越俊太郎氏は、「巨悪の巣窟」自民党東京都連が擁立した増田寛也氏にさえ敗れ3位に沈んだ。2014年都知事選での宇都宮健児氏の得票(98万票)からは大幅に上回っているが、この票の上積みはほとんど投票率の上昇だけで説明できる。
2年前の宇都宮氏は、有権者からは事実上「共産党系候補」と見られていた。今回、野党統一候補になったにもかかわらず、鳥越氏に票の上積みがほぼなかったことから、共産党以外の野党は、事実上、政党として機能していないとの厳しい評価を下してもいいだろう。
小池氏やトランプ氏に見られるような、「主張を的確に表現し、有権者に伝えられる」候補者が優位に立つ時代への変化を踏まえると、鳥越氏を擁立したのは決定的な失敗だったと思う。インターネット討論会にたびたび欠席するなど、鳥越氏には「主張を的確に表現し、伝える」以前にその機会さえ自分から放棄してしまった。確かに、ジャーナリストとしては優れた業績を残したかもしれないが、やはり鳥越氏はそうした時代の変化を読み誤った「過去の人」に過ぎなかったということになる。
鳥越氏の敗因を週刊誌のネガティブキャンペーンに求める声もある。だがネガティブキャンペーンは今回、3候補すべてに行われた。小池氏は「右翼、タカ派」「日本会議と懇意」「権力と添い寝を続けた女」と言われたし、増田氏も、岩手県知事時代に県の借金を1.5倍に増やした「行政手腕」や、東電の社外取締役であった経歴が問われた。鳥越氏の敗因をネガティブキャンペーンに求めるのは無理がある。
候補者の擁立過程もひどいものだった。宇都宮氏の事務所には、「降りろ、立候補を辞めろ」との電話がひっきりなしにかかったという。宇都宮氏は、立候補を強行した場合、自分の陣営の若手運動員が「野党共闘の破壊者」と罵られることになるのを恐れ、苦渋の決断として立候補を取りやめた。民主的に、政策論議をしてどちらが統一候補にふさわしいか決めるのではなく、より勝てる可能性が少ない候補者に圧力をかけて立候補をやめさせる--せっかくの「野党統一」陣営がこれでは、「一族郎党、非推薦議員を応援した者は除名する」との恫喝文書を送りつけた「不自由非民主党」の東京都連と変わらない。
相手陣営が非民主的、強権的な締め付けをしているときだからこそ、野党統一陣営は開かれた民主的な候補者選定過程を経なければならなかった。猪瀬直樹・元都知事から「北朝鮮ばり」と言われるような独裁与党と同じことをしていて、野党統一候補が勝てるはずがない。しかも、芸能界から干されるのも覚悟の上で、勇気を奮って立候補表明をした石田純一氏を守り抜くこともせず、「立候補会見」後、石田氏が実際に干されているのに見殺しにした。これでは、野党統一陣営から立候補の声がかかっても、誰も怖くて立候補できなくなる。
あらゆる意味で、今回、野党は自分の首を絞める結果になった。安倍政権打倒のための野党共闘の大義は認めるが、その大義のためなら「何でもあり」でいいのか。民主的で開かれた候補者選定をしてほしいという市民の願いを無視してもいいのか。石田氏のような無責任な「ポイ捨て」にも大義の前には耐え忍ぶべきなのか。そうではないだろう。そもそも何のため、誰のための野党共闘なのか、もう一度原点に立ち戻って考えるときだ。
福島第1原発事故により東京が「放射能汚染首都」となってはや5年、東京の劣化ぶりは今や誰の目にも覆い隠せないところまで来ている。本当にこのまま東京が首都であり続けることが日本にとって利益になるかどうか、そろそろ考える時期だろう。
もっとも、世界人類の運命を握っているはずの米大統領選でさえ、サンフランシスコ在住の和美さんのレポート(レイバーネット日本)にあるようにまともな政策論争など皆無に等しく、共和党の予備選に至っては「トランプは世界一流の詐欺師だ」「トランプの手は小さいが手の小さいやつは信じる事が出来ない」(マルコ・ルビオ候補)、「小さいマルコは討論の前、のどがひからびていて、付き添いに水、水とどなっていた」(ドナルド・トランプ候補)など、子どものケンカレベルの誹謗中傷合戦で終わってしまった。その意味では、日本の選挙も「世界標準になってきた」と言えるのかもしれない。
●「演説上手な候補」を侮るなかれ
それにしても、当選した小池百合子氏の勝負勘の良さ、「機を見るに敏」な嗅覚には驚かされる。新進党、自由党などを渡り歩き、「権力と添い寝」を続ける女性、というかなり悪意に満ちた報道攻勢にもさらされてきた。それは裏返せば世論の風が吹いている方向を読むのに長けているということができる。そうした独特の鋭い嗅覚を持った小池氏が、自民党東京都連を「抵抗勢力」に仕立て上げ、それと対決する自分を戦略的に演出する道を選ぶのを見ていると、安倍政権成立以降、国政選挙で自公与党が4連勝してきた政界の潮目の変化を感じる。
米国大統領選にも共通して言えることだが、トランプ氏があれだけ荒唐無稽な主張を繰り返しているにもかかわらず、共和党の予備選を勝ち抜き候補者指名を手にすることができた理由は、(内容の善し悪しは別として)わかりやすい言葉、自分の言葉で有権者に語りかけたからだ。たとえそれがどんなに荒唐無稽な内容であったとしても、「語りたいこと」が明確にあり、それを平易な言葉で聴衆に伝えられる演説技術を持った候補が選挙戦を制する傾向が、近年はますますはっきりしてきたと思う。逆に、ヒラリー・クリントン氏が民主党予備選でバーニー・サンダース上院議員に予想外の苦戦を強いられたのも、「米国をどうしたいのか」に関するビジョンがクリントン氏から明確な言葉で語られなかったからだろう。貧困層にターゲットを絞り、明確に格差是正を訴えるサンダース上院議員のほうが、その意味でははるかに上手だった。
そうした傾向はインターネットにより拡大している。在特会の桜井誠元会長が11万票も獲得したり、「NHKをぶっ壊せ」という政見放送で話題をさらった立花孝志氏が泡沫候補の中では健闘したのも、(内容の善し悪しは別にして)尖った主張、明確な主張があり、(上品、下品は別にして)それを平易な言葉に乗せて有権者の前で表現する技術を持っているからだと思う。
当ブログ管理人が、ネット小説を執筆する上で参考にするため、子どもたちの学校における学級委員や生徒会役員などの実態を調べていると、最近は子どもたちの間でも、以前のような「みんなをうまくまとめる調整型リーダー」に代わり、「やりたいこと」を的確に表現できる演説技術を持った児童生徒が有利になっている様子が垣間見えた。
大人社会でも子ども社会でも、「上手いこと言ったもん勝ち」へ時代は確実にシフトしている。当ブログ管理人のような口下手な人間にとっては受難の時代であり、どうすればいいのか。しばらくの間、リーダーはあきらめ、表に立たなくていい参謀・女房役などのポストで実力を発揮するか、専門性を磨き、特定分野のスペシャリストになるかのどちらかだろう。
●鳥越氏は初めから無理筋だった
野党統一候補として担ぎ出された鳥越俊太郎氏は、「巨悪の巣窟」自民党東京都連が擁立した増田寛也氏にさえ敗れ3位に沈んだ。2014年都知事選での宇都宮健児氏の得票(98万票)からは大幅に上回っているが、この票の上積みはほとんど投票率の上昇だけで説明できる。
2年前の宇都宮氏は、有権者からは事実上「共産党系候補」と見られていた。今回、野党統一候補になったにもかかわらず、鳥越氏に票の上積みがほぼなかったことから、共産党以外の野党は、事実上、政党として機能していないとの厳しい評価を下してもいいだろう。
小池氏やトランプ氏に見られるような、「主張を的確に表現し、有権者に伝えられる」候補者が優位に立つ時代への変化を踏まえると、鳥越氏を擁立したのは決定的な失敗だったと思う。インターネット討論会にたびたび欠席するなど、鳥越氏には「主張を的確に表現し、伝える」以前にその機会さえ自分から放棄してしまった。確かに、ジャーナリストとしては優れた業績を残したかもしれないが、やはり鳥越氏はそうした時代の変化を読み誤った「過去の人」に過ぎなかったということになる。
鳥越氏の敗因を週刊誌のネガティブキャンペーンに求める声もある。だがネガティブキャンペーンは今回、3候補すべてに行われた。小池氏は「右翼、タカ派」「日本会議と懇意」「権力と添い寝を続けた女」と言われたし、増田氏も、岩手県知事時代に県の借金を1.5倍に増やした「行政手腕」や、東電の社外取締役であった経歴が問われた。鳥越氏の敗因をネガティブキャンペーンに求めるのは無理がある。
候補者の擁立過程もひどいものだった。宇都宮氏の事務所には、「降りろ、立候補を辞めろ」との電話がひっきりなしにかかったという。宇都宮氏は、立候補を強行した場合、自分の陣営の若手運動員が「野党共闘の破壊者」と罵られることになるのを恐れ、苦渋の決断として立候補を取りやめた。民主的に、政策論議をしてどちらが統一候補にふさわしいか決めるのではなく、より勝てる可能性が少ない候補者に圧力をかけて立候補をやめさせる--せっかくの「野党統一」陣営がこれでは、「一族郎党、非推薦議員を応援した者は除名する」との恫喝文書を送りつけた「不自由非民主党」の東京都連と変わらない。
相手陣営が非民主的、強権的な締め付けをしているときだからこそ、野党統一陣営は開かれた民主的な候補者選定過程を経なければならなかった。猪瀬直樹・元都知事から「北朝鮮ばり」と言われるような独裁与党と同じことをしていて、野党統一候補が勝てるはずがない。しかも、芸能界から干されるのも覚悟の上で、勇気を奮って立候補表明をした石田純一氏を守り抜くこともせず、「立候補会見」後、石田氏が実際に干されているのに見殺しにした。これでは、野党統一陣営から立候補の声がかかっても、誰も怖くて立候補できなくなる。
あらゆる意味で、今回、野党は自分の首を絞める結果になった。安倍政権打倒のための野党共闘の大義は認めるが、その大義のためなら「何でもあり」でいいのか。民主的で開かれた候補者選定をしてほしいという市民の願いを無視してもいいのか。石田氏のような無責任な「ポイ捨て」にも大義の前には耐え忍ぶべきなのか。そうではないだろう。そもそも何のため、誰のための野党共闘なのか、もう一度原点に立ち戻って考えるときだ。