安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

第4回「全国未成線・廃線サミット」参加(1日目)~タレント六角精児さんのトークを聞く

2023-11-25 22:33:34 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
第4回全国未成線・廃線サミットin高千穂 鉄道遺産からの挑戦」に参加するため、宮崎県高千穂町に来ている。高千穂町を走っていた高千穂鉄道は2005年の水害からの復旧を断念し廃止となったが、そのせいでただでさえ遠かった高千穂町はさらに遠くなった。北海道から宮崎空港への直行便などあろうはずがなく、羽田や成田からの乗り継ぎ便でも高い航空賃を払った上に前泊しなければならない。それなら、陸上を安く移動できる九州内の方がましなので、千歳~福岡便に乗ることにし、昨日から福岡市内の旅館に泊まることにした。

せっかくなので、今年3月に延伸した福岡市営地下鉄七隈線博多~天神南の区間に乗車することにする。天神南から終点・橋本までの区間は、開業初年、2005年の年末に乗車している(参考記事:当ブログ2006年1月21日付記事「福岡市営地下鉄七隈線、苦戦す。」)。天神南~橋本の開業から実に18年かかったわけだ。

〔完乗達成〕福岡市営地下鉄七隈線(奪還)

延伸区間を全区間乗車したため、七隈線を「奪還」した。博多~天神南は2023年3月に延長開業しており、1年以内の乗車だが、当ブログの全線乗車ルールでは「独立した名称を持つ線路の全区間に、その開業から1年以内に乗車した場合」のみを新規開業線の完乗として扱うことにしている。今回のように延長開業区間に1年以内に乗車して「奪還」をしても、新規開業線の完全乗車には含めないことになる。

2023年の完乗達成路線は、8社14線(参考記録を含めると9社15線)。7月に上方修正した今年の目標、15線にあと1線と迫った。参考記録を含めると15線に到達したが、これを目標達成に含めるかどうかは、初のケースなので年末に最終的に決めたい。

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博多駅バスターミナルを朝8:25に発車する高速バス「ごかせ号」で高千穂へ。熊本県内の一般道路が水害で崩壊しているため30分遅延と宮崎交通ホームページには書かれていたが、実際は高千穂バスターミナルに11:50着。40分も早着だ。予定通りの到着時間であれば到着後に昼食を取る時間はないと思い、博多発車前に買っておいたパンを食べながら、これならもっと町内の飲食店を回れたな、と思う。

ただ、最近はコロナで飲食業界を離れた人手が戻ってこず、飲食店はどこも人手不足。かき入れ時なのに人手不足で休業や時間短縮していたり、営業していてもなかなか注文すら取りに来ないことも経験している。次のスケジュールありきで動いている旅先で、そんな状態の飲食店に多くをゆだねるわけに行かず、コロナ明け後はパンや弁当を事前調達することが増えた。この傾向はしばらく続きそうな気がする。サミット会場の国民宿舎「ホテル高千穂」には正午すぎ到着。受付を済ませる。

午後1時。サミットが始まる。冒頭、高千穂の魅力を発信する地元ケーブルテレビ局「ケーブルメディアワイワイ」制作のオープニング映像が流れる。20分ほどの映像だが、地元の魅力を良くまとめており、この会場参加者限りで終わってしまうのは惜しい(1日目終了後、会場に来ていた「ケーブルメディアワイワイ」関係者に、DVD発売や配信の予定はないのか聞いたが、現時点では未定とのこと。ただし、全国のケーブルテレビ網で後日放送の可能性はあるという)。

開会式では、主催者を代表して甲斐宗之・高千穂町長が挨拶。参加者へのお礼やサミットの意義などが述べられたが、なんと言っても特徴的だったのは甲斐町長がこのように述べたことだ。「私は、高千穂鉄道の廃線は天災ではなく人災だと思っている。過疎化が進み、中山間地域に住んで山の手入れをする人がいなくなった。ローカル線ばかりが災害に襲われるようになった」。

地方に長く住んでいると、櫛の歯が抜けるように、1人、また1人と中山間地域から人が出ていく様子がわかるのだろう。北海道でもエゾシカが札幌の市街地に出没するようになって久しいが、最近はこれに加え、ヒグマまでが市街地に出てくるようになった。人獣の境界線であり、土砂崩れをせき止めていた防災の要衝でもある中山間地域を人が住めないようにし、崩壊させた。それがローカル線の相次ぐ被災や人間生活圏への野生動物出没などいろいろな弊害を生んでいる。ひとつひとつは別々に見える問題は水面下でつながっているのだ。

甲斐町長には行政トップとしてのお立場もあり、国に不満があっても言えないことも当然ある。これくらいの発言でも「行政トップとしては思い切った発言だな」と実感する。これ以上は町長の立場上、難しいだろうから、ここはそのぶん私がそうした地方の声をここに伝えておきたい。地方を衰退させた政府の責任を問わなければならない局面だ。

未成線・廃線を抱える地域の「活動事例発表」では、島根大学大学院自然科学研究科環境システム科学専攻の平川真衣さんが「鉄道遺産『未成線』における活用実態とその課題」として全国の鉄道遺産の活用の実態やその課題等を報告した。私は、平川さんに直接お願いして報告スライド資料を入手したが、大変よくまとまっている。未成線跡・廃線跡の活用とはいえ、やはりそこで何かをやるには行政の資金面での支援が重要であることなどが明らかにされた。「どのようにすれば鉄道遺産の活用が軌道に乗るか」を明らかにしたという意味で大変有意義な発表だと思う。

この他、岩日線(未成線)を抱える山口県岩国市、南阿蘇鉄道(旧国鉄高森線)と高千穂鉄道(旧国鉄高千穂線)を結ぶ予定だった未成線トンネル工事が異常湧水で中止となった熊本県高森町、宮崎県日之影町、高千穂鉄道が2005年の大雨災害から復旧しないまま廃線の憂き目に遭った地元高千穂町からの報告が続いた。

高千穂鉄道に関しては、再開発された延岡市内の一部区間及び被災した区間を除き、線路や駅はほぼ完全に残されている。現役当時のレールバスも動態保存されており、いつでも動かすことができる。廃線跡の一部区間(高千穂駅~高千穂鉄橋)でトロッコ列車を運行するため、廃線後「高千穂あまてらす鉄道」が設立されたが、同社副社長の齊藤拓由さんは「いつの日か、高千穂鉄道を復活させるため、当時使われていたものはすべて残している」のだと、大まじめに話していた。私は、高千穂鉄道沿線が割と本気で復活を目指していることを伝え聞いてはいたが、ここまで本気とは思っていなかった。

ただ、終了後の質疑応答で、参加者から「復活までの具体的なプランはあるのか」と尋ねられた齊藤さんは「ありません」と答えていた。今のところは熱意だけのようだが、高千穂鉄道が廃線となった2005年当時、地域公共交通活性化再生法はまだなかった(制定は2007年)。今は法制度が変わっているため、当時はできなかった新たな枠組みがあり得るかもしれない。

延岡市内の線路は再開発でなくなっているが、7月に訪れた富山ライトレールのように、市街地区間のみLRTにする手もある(直通運転でなくても良い)。富山市や宇都宮ライトレールが画期的なのは、「在来線鉄道は廃止されるためにある」と思っていた日本人の後ろ向きなマインドを、いくばくかでも転換させるとともに、行政が本気になればいろいろなことができると市民に理解させたことにあると思っている。

休憩を挟んだ後半はいよいよ今日のメインであるトークイベントだ。NHK「呑み鉄本線・日本旅」でおなじみのタレント六角精児さんと、地元で活躍するフリーアナウンサー(鉄アナ)の田代剛さんが約1時間にわたって軽妙なトークを繰り広げる。

意外だったのは、六角精児さんが子どもの頃から鉄だったわけではないとわかったことだ。「元々はギャンブルにのめり込んでいて、このままでは身を持ち崩すと思った。ギャンブルからフェードアウトするために、他に熱中できる何かが必要だった。タレントとして、ロケなどで鉄道で移動しているうちに、あ、鉄道っていいなと思ったのがこの道に進むきっかけだった」(本人談)。

「未成線・廃線サミット」参加自治体が西日本に偏っており、東日本への展開を考える必要があることなど、お二人の指摘はきわめて適切だった。「今後、廃線が増えることが見込まれる中で、未成線・廃線跡を抱える地域が全国的に連携し、盛り上げていく上でどんなことができるか」との田代アナの質問に対し、六角精児さんは「交通機関として現役で走っている鉄道と違い、廃線跡活用は観光客だけに頼らなければならないため独特の難しさがある」とした上で、「いろいろ難しいとは思うけど、全国の未成線・廃線を抱える地域がスタンプラリーなどで盛り上げていってはどうか」と提案した。これなら大きな予算も必要ないし、今すぐ全国化は無理でも、参加できる地域から順に広げていく方法もある。現状ではベストでなくとも、ベターなアイデアだと私には思えた。

トークイベント後、売れっ子の六角さんが退場。第5回サミットの開催地である岩国市副市長に、甲斐町長から引き継ぎを行い、サミットは無事終了した。

<参考>国鉄時代の高森線(現・南阿蘇鉄道)の日常を記録した貴重な映画「鉄路の昭和史ー朝日ニュース「ある生活.赤字路線の駅を守って」」

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