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国は今こそ貨物列車迂回対策を!

【書評】「野党」論~何のためにあるのか(吉田徹・著、ちくま新書)

2016-09-02 22:22:55 | 書評・本の紹介
さて、入院中、さすがに手術直後の2~3日間は身体が苦しく、何もする気が起きなかったが、4日目くらいからは次第に身体も楽になり、日頃なかなかできない読書をするのに十分な時間を確保できた。これから数日間の記事で、入院中、読んだ本の書評を書くことにしたい。なお、読んだ順に取り上げることにする。まず最初は「「野党」論~何のためにあるのか(吉田徹・著、ちくま新書)」から。

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55年体制当時の「政権を目指さない、反対だけの野党」の時代が終わり、ポスト55年体制期における「政権交代可能な保守2大政党」に向けた試みも民主党政権の失敗で潰えた後、未来の野党がどのようにあるべきかを論じた好著。

そもそも、日本では野党について真面目に論じた書物自体が極端に少なく、日本共産党以外の野党は論壇からまともな議論対象として認識されたことさえない。「対案を示さず反対ばかり」「外交・安保を理解できない反日売国集団」という自民党・ネトウヨの宣伝が行き届きすぎて、野党が国民に相手にされていない現実がまずある。そうした中で、あえて誰もやろうとしない仕事にチャレンジした吉田の心意気は評価できる。

吉田は、55年体制期の「抵抗反対野党」、ポスト55年体制期の「政権交代型野党」の後に来るべき未来の野党像として「対決型」野党を提示している。「争点対立的」で「動員の範囲」「野党性」がいずれも「高」い野党、つまり自民党とは異なる社会像(オルタナティブ)を提示でき、無党派層を含む国民多数を動員できる政党、というのがその具体的内容である。

私は、民主党政権崩壊の原因は「公約に書いていることはまともにやらず、公約に書いていない消費増税に踏み込んだこと」「第2自民党化したこと」に原因があると考えている(民主党が第2自民党に過ぎないならば、国民は政権担当実績の長い自民党でいいと考えるだろう)ので、吉田が提示したこの未来の野党像には大いに共感できる。

ただ、ここまで理想的な野党は政権交代の本場、欧米諸国でもそうそう実現していない(フランス社会党やドイツ社会民主党、スペイン社会労働党あたりが吉田の考える理想の野党像だろう)。歴史的に「野党不毛地帯」の日本で、こうした野党の生まれる余地があるのだろうか。考えれば考えるほど、暗澹とした気持ちになる。

著者の吉田は政治学者であり、現実政治を担わなければならない「当事者」としての野党とは立場が違う。学者の使命は「あるべき理想」を提示することであり、その意味で吉田は学者としてきちんと仕事を果たしたと言えよう。

自民党政権はすでに60年近くに及び、保守合同による自民党成立以前を知っている人は若くても70~80歳代という状況の下で、多くの日本人は、「野党を育てるといってもどうやって育てていいかわからないし、そもそも野党に何を期待していいのかもわからない」というのが実情だろう。このような有権者しかいない国で、まともな野党が育つわけがない。まともな野党は、それを育てたいという国民が存在して初めて育つものである。

そのように考えると、本書には「どうすれば野党が育つか」の処方箋が欲しかった。著者の吉田は、諸外国の政治事情にはそれなりに知見があり、諸外国の例も豊富に紹介されているが、政治的諸条件の違う諸外国の例は日本の参考にはなり得ない。日本の政治事情に即した野党の育て方についてのヒントが欲しかったが、それが提示されていないのは、吉田もその方法論を持ち合わせていないからだろう。

しかし、野党とは何か、それが政治においてどのような役割を果たすべきかについては示されている。日本の政治状況を考えると、今はそれで十分ではないだろうか。野党がこんな体たらくの日本で、あまり高望みをしても仕方がないと思う。

自分たちの子どもたち、孫たちの世代になっても、まだこの本が「有り難がられて読まれ続けている」状況にならないよう、今の世代の私たちが、吉田の提示する理想の野党に少しでも近いものを生み出せるよう、できることから取り組む以外にないのではないだろうか。

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