(四)川をこえる仲間
ウサギたちは食欲旺盛です。草が生えるよりも食べる量が多かったので、ウサギ丘はあっという間にすっかり茶色になってしまいました。丘の向こうは湖です。岸辺には草が生えていましたが、そこはヤギのなわばりでした。反対側には丘を囲むように川が流れています。川向こうは緑豊かな草原が広がっています。
「明日、みんなであの川をこえよう」
チャメの父さんがいいました。
「こえるって、どうやって?」
チャメは不安です。川幅はいちばん狭いところでも自分の体長の三倍もあるからです。
「とびこえていくに決まってるだろ」
父さんの代わりにブチが答えました。
「まさか、とべないはずないわよね」
姉さんのミミが横目でチャメをにらみました。
「……」
その晩、チャメはなかなか眠れませんでした。みんなが川をとびこえていき、チャメは川に落ちて流されてしまう夢をみました。
明け方、父さんウサギがみんなを起こしました。
「さあ、出発だ」
父さんウサギを先頭に、ウサギたちは一列に並んで丘を下っていきました。ザアザアと水音が聞こえてくると、チャメの足はすくみました。前みたときより、水が多くなっている気がします。
「さあ、あとに続いて」
母さんウサギには6羽の生まれたばかりの赤ん坊がいたので、父さんと1羽ずつ赤ちゃんを口にくわえて川をとびこえ、岸辺に赤ん坊を置いてからまたもどって運びます。
父さんと母さんウサギは3往復して、ようやく赤ん坊を運び終えました。
その間にほかのウサギたちは次々に川をとびこえていきます。
チャメの番がきました。チャメはおそろしくてじっと流れを見つめるばかりです。
「早くとんでよ」
ミミがおしりをつつきます。
「先とんで。わたしいちばん最後でいい」
チャメは岸辺にうずくまりました。
仲間たちはみんな川をとびこえていってしまいました。チャメは自分もとびこえようとしました。けれども、恐ろしくて足がすくんでしまいます。
父さん、母さんは、赤ちゃんウサギを岸辺から連れていくのに何度もいったりきたりして大忙しで、チャメがまだ渡らずにいるのに気づきません。
そのうちみんなの姿が小さくなり、やがてみえなくなってしまいました。
(5)もどってきたグレイ
チャメはとぼとぼとパサパサに乾いた茶色の丘をのぼっていきました。どこかに草が残っていないかさがしましたが見当たりません。チャメのおなかがキューッと鳴りました。
そのときチャメの耳にタタタッ、タタタッとウサギのはねる足音が聞こえてきました。足音はどんどん近づいてきます。丘のてっぺんからみると、川をこえて丘をかけのぼってくる1羽のウサギがみえました。グレイです。
グレイは口いっぱいにくわえていた草をチャメのあしもとにパサリと落としました。
「グレイ、どうしてここに?」
「きみがひとりで丘をのぼっていくのが川向こうからみえたんだ。それで、草をくわえてもどってきたんだ」
「えっ、わたしのために?」
グレイはこくりとうなずきました。
「食べろよ」
「ありがとう」
チャメは一気に口に入れ、むちゅうで食べました。
「元気が出たろ。これで川がこえられるな」
「無理よ。わたしにはこえられないの。みてよ」
チャメは思い切り走ってジャンプしました、数センチしかとび上がれません。
「これじゃ川に落ちちゃうでしょ。……もういいの」
チャメはすねたようにグレイにおしりを向けました。
「あたしのことなんかほおっておいて、さっさと川向こうで暮らしたらいいのに」
「そんなことできない。きみが川をこえられないんだったら、ぼくもここにいる」
「そんなことしたら、飢えて2羽とも死んでしまうじゃない」
「だいじょうぶ。きっときみは川をこえられるようになるから。それまで、ぼくは毎日何度でも草を運ぶよ」
グレイは、丘をかけおりていきました。
(そんな大変なことできるわけない。グレイは、きっとそのうちいやになって川向こうで暮らすようになるにちがいないわ)
チャメはグレイのことが信用できませんでした。
つづく
続きがさらに楽しみです。
小野路の礼拝堂、いつか文香さんも小野路にいらしてください。
ルンルンとの御対面がかなうといいな~
明日か明後日、続きを更新しますね。いよよ最終回です。お楽しみに。