生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

つばさをなくした天使(その9)

2008-08-25 11:00:25 | 童話

エルが、イエスさまの横顔をじっと見つめていると、イエスさまの目から一粒の涙がぽとりと落ちました。
(ぼくのせいだ。ぼくのことを悲しんで泣いているんだ)

エルは、今まで自分のしてきたことを思い出しました。人間をばかにして、からかったこと。数え切れないほどのいたずらをしたこと。そしてシャミルのことを思うと……胸がはりさけそうになりました。

(スティックをかくされて、ぼくはシャミルのことをずっとうらんでいた。でも、あれは本当にシャミルが悪かったんだろうか……。
シャミルは、自分の足よりナタブさんの病気を治したかった。ナタブブさんを助けるためにしたことだったんだ。ぼくは、自分のことしか考えていなかった。つばさを下さいなんていえないよ。天に帰る資格なんてぼくにはない……)

エルの目からも涙がこぼれ落ちました。エルは坂を降りてふもとの草の上に倒れこみ、そのまま眠ってしまいました。

11ゴルゴダの丘

次の日、さわがしい人々の声でエルは目をさましました。
「十字架につけろ!」
「十字架だ!」
声は、エルサレムの町から聞こえてきます。エルは、胸さわぎがして町へ急ぎました。

「とうとうイエスは、十字架刑か。」
「当たり前よ。自分のことを、神の子なんていうからさ」
「もし、本当に神の子なら、おもしろいことが起こるかもしれないぜ」
「そうだな、見にいくか」
街角で、男達が話しています。

(イエスさまが、十字架につけられるって? うそだ、そんなことがあるはずない)

エルは、男たちの後についていきました。ゴルゴダの丘を息をきらしながら上っていくと、突然後ろから声をかけられました。

「エルじゃないか! 元気だったかい?」
ふり帰ると、シャミルが足を引きずって上ってきています。
「シャミル、あの時はごめん。絶交だなんていったけど、ぼく……」
エルは、言葉につまってうつむきました。

「ぼくの方こそごめんよ。ぼくのせいで君は、つばさをなくしてしまったんだもの」
「シャミル、どうして足を引きずっているの? スティックは?」
「スティックは、ベテスダにいる足の悪いおばあさんにあげてきた。あんなに悪いことをしてしまったぼくに、使うことはできないよ。ぼくは、一生足を引きずって生きる。ぼくが、君にしたことを忘れないために……」
シャミルは、つらそうに言いました。エルはたまらなくなって、シャミルの手をしっかりにぎりました。

「ところで、シャミル。イエスさまが十字架につけられたっていう人がいるけれど、うそだろう?」
「悲しいけれど本当のことだよ、エル。」
「本当のこと? イエスさまが十字架に!」

エルは、丘を一気にかけ上がりました。見上げると、丘の上に三本の十字架が立っていて、その真ん中にイエスさまがつけられていました。

つづく

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2 コメント

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Unknown (N.K)
2008-08-27 10:56:26
おはようございます。今回は、とても臨場感があり、私もその場にいるようなきがしました。「一生、自分がエルにしたことを忘れず、引きずっていく!」自分の罪と向き合いはじめ、エルに謝り、シャミルにひどいことを言ったことを謝り、仲直りをした二人、ただ、シャミルは、一生引きずることなくそのまま十字架の主イエス様のもとに行き癒され、救われることになることと察する事ができました。
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N.Kさんへ (文香)
2008-08-27 13:54:43
感想ありがとうございました。
『自分の罪と向き合うこと』がこの作品のテーマです。テーマに触れて下さったこと、うれしく思います。

自分の罪を認めることはなかなかできませんが、大切なことですね。
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